Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第49話 脱落

 

 そして、空中戦に勝利したのは征服王であった。

 

「ふはははははははは!」

 

 いたるところに傷を負ってなお、その威容は揺るがない。雷が蹂躙していった爆炎の中──

 

「我が負けるなどという法則がこの世にあるわけないであろうが!」

 

 幾多の宝具が飛ぶ。空中戦に負けてヴィマーナが爆散し落ちていった中での反撃。

 

「──ぐ!」

 

 ライダーは自身を狙った宝具を叩き落とす。ウェイバーはそもそもしゃがんで戦車の陰に隠れていた。

 しかし、雄牛を狙ったものはどうしようもない。二匹のうち一匹が死に、一匹は重症。もう飛べない。

 

「よく頑張ってくれた。だが、もうひと踏ん張りできるか?」

 

 着地した場所は元の橋の上。残った雄牛は雄々しくいななく。

 

「おい、アーチャーはどこいった?」

 

 上空を見るが姿が見えない。ウェイバーとしてはあそこで脱落してくれたことを切に願うのだが。

 

「なに、生きておるだろうが不意打ちなどする奴ではない。そのうち、そっちに現われるじゃろ」

 

 橋の向こう側をあごで指した。ライダーは敵が生きていることを微塵も疑っていない。雷から生き残っても墜落死などは笑えたような死に方ではない。そんな散り様を晒すはずがない。もししたなら腹を抱えて笑ってやるが。

 

「まあ、あいつが落下で死んでるわけないよな……」

「その通りだ。貴様の尺度で我を測るなよ雑種」

 

 言った通りに橋の向こう側から現れた。当然だ、彼の本領は幾多の宝具による爆撃だが、宝具の効果を十分に生かすことができる能力を持つ。

 使いこなすのとは違うのが難点だが、それこそ地上何百mで落とされた程度なら、数多の宝具の一つを使って浮くなり着地なりすればいい。

 

「ふむ。最後は地上か。これも原点に返ると思えば悪くない」

 

 ふ、とライダーは周りのビルの灯りを目にして笑う。地を制覇してきた自分が空の上で死んだら、そりゃ格好つかんだろうと思って苦笑いして……自分が生きていた時代とは様変わりしたここをとても面白く思えた。

 

「雑種ごときでは地を征するのが限界だ。ここで死んで行け」

 

 そんな侮るようなセリフを、しかし笑みをもって語る。アーチャーもネオンの輝くビル群を見る。

 とても華やかで──しかし、人気がないこの場所は征服王に死をくれてやるのにふさわしい場所だと一人満足げにうなづく。

 アーチャーは鍵剣を、そしてライダーは剣を抜いた。

 

「生きろ、ウェイバー。すべてを見届け、そして生き残り語るのだ。貴様の王の在り方を。このイスカンダルの疾走を」

 

 瀕死に近い雄牛からウェイバーを降ろした。これはついてくるなと言う意思表示。

 

「ライダー。僕は、お前に相応しいマスターであれたかな」

 

 これから先は本当に足手まとい──いや、そんなことはない。でも、僕は彼に従う英雄ではないから。

 

「無論じゃ。お前と過ごした日々は、生前と変わらず輝いておった」

 

 そして、主と決めた男が自分のことを認めてくれてうれしく思った。ああ、これが僕の聖杯戦争。彼に認めてもらうために参加した──今では心からそう信じている。

 

「……ありがとう。お前が居てくれたおかげで、僕は」

 

 だから、従わなくてはならない。一緒について行きたくても──してはならないのだ。

 

「ああ、ウェイバーよ。聞き忘れておった。良ければ、じゃが──臣として余の傘下として加わり、ともに世界を制覇する気はないか?」

 

 手を差し出した。

 

「ライダー……いや、征服王イスカンダル。あなたこそ僕の王だ。どうか、あなたと同じ夢を見させてほしい。僕を地の果てまで連れて行ってほしい」

 

 その手を両手で握り返す。

 

「……うむ。生きろよ、ウェイバー。そして語れ、我が疾走を」

 

 手を離し、雄牛の綱を引いた。

 

「話は終わったか? では、幕を引こうか」

「共に征こうぞ朋友たち──我らの覇道を示してくれようぞ王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)

 

 世界が変わる。荒れ果てた荒野──無限の大地へと。そして。

 

「「「おおおおおお!」」

 

 何重もの雄叫びが木霊する。数えきれぬほど現れた彼らは、現世に呼び出された征服王に従う英雄たちである。覇気に満ち溢れた豪傑である。豪華絢爛な軍団である。

 

「ふ──」

 

 だが、目の前を覆い尽くすほどの英雄たちの軍勢を見ても、アーチャーは余裕の笑みを崩さない。

 

「AAAAAAALALALALALALAY!」

 

 ライダーが吠える。

 そして、つられるように軍勢も叫び、突進する。その様は威容にして壮大。ああ、なんたる絆の美しさよと感嘆し──

 

「来るがいい──覇軍の王者よ。貴様は今こそ真の王たる者が持つにふさわしい秘宝を見る事になるのだ」

 

 その光景を永遠のものとするために英雄王は牙を剥く。まさしく英雄──この者たちを倒すのはこの世でもっとも尊い自分以外にありえないと自負する彼は、今こそ正真正銘の本気を出す。

 

(つわもの)どもよ……夢とは悉く醒めて消えるのが道理である」

 

 宙に紅き線が走る。彼岸と此岸の境──封印されたモノが姿を現す。

 

「この我が手ずから教えてやろう。それだけの器を見せてもらった」

 

 異形の剣が目覚めた。円柱状の刀身を持ち、その形状は突撃槍にも似たナニカ。天地開闢以前、星があらゆる生命の存在を許さなかった原初の姿であり地獄そのもの。

 

「目覚めろ、エアよ! この場こそ──お前が目覚めるにふさわしい」

 

 円柱がおぞましき気配を放ちながら回転する。これは生命である限り畏怖を免れ得ない神造兵器であり、それは武器ですらない超絶たる神秘。

 

「いざ仰げ──天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)

 

 全てが原初に帰る。生命すら許されないカタチナキモノへと帰る。そう、原初の世界は人の心が形創る世界ですらも喰い破る。

 

「馬鹿な、あれは森羅万象……世界すらも破壊する剣だというのか……?」

 

 ウェイバーはその馬鹿げた力に驚く。というか、言ってはみたものの本当に何が起きてるのかは完全に理解不能だ。わかるのは、ライダーの世界が喰い尽くされようとしているということだけ。

 

「A……」

 

 崩壊する世界に巻き込まれて落ちていく足場を次々と乗り移りながらライダーは進む。──叫ぶ。

 

「LALALALLALA!」

 

 飲み込まれる──直前、雄牛を蹴って宙へと。

 

「……ほう」

 

 世界が滅んた。

 

「見果てぬ夢を──ともに見ようぞ、朋友たちよ!」

 

 踏み出した足は地を噛む。召喚したサーヴァントは崩壊する固有結界に巻き込まれて、ただの一人も残っていない。

 だが、そういうことではないのだ。絆がある限り、一人で戦っているのではないのだから。

 

「また幾度なりとも挑むが良いぞ。征服王」

 

 宝具が雨あられと降る。今のライダーでは一つ喰らっただけでも致死に至る。ここに来るまでに傷を負い、魔力を消耗した。

 

「破!」

 

 弾いた。

 

「ぬおお!」

 

 だが、二つ目、三つ目と──防ぎきれない。負傷を無視して前に無理やり進む。

 

「……ぐ」

 

 呻く。もう消えてもおかしくないダメージなのだ。急所には喰らっていない──が、威力が大きすぎる。

 

「おおおおおおお!」

 

 持っているのは根性と意地に過ぎない。気を抜けば今にも散ってしまいそうになる。攻撃など受けずとも。

 

「我らの一撃……届けェ!」

 

 そして、アーチャーの目前に迫って──

 

「時空の果てまで、この世界は余さず我の庭だ。故に我が保証する。世界は決して、そなたを飽きさせることはない」

 

 黄金の鎖に囚われた。

 

「それは──すでに見た!」

 

 ライダーの手元がきらりと光って。

 

「──ッ!?」

 

 アーチャーが顔をのけぞらす。わずかに赤い線が走っている──

 

「……手癖が悪いな」

 

 顔に傷がついた。魔術で飛ばす鉄球、錬金術で作られた投げ武器である。

 

「ち、ウェイバーの奴から黙って借りといたんだがのう──かわされたか」

 

 ライダーはやれやれ、おしかったなどと嘆息する。

 

「最後まで我を楽しませるか。手向けにエアでもって送ってやろう。末代までの栄誉とするがいい」

「はっは。ああ──此度の遠征も、楽しかった」

 

 エアが快活に笑う征服王の心臓を貫いた。

 

「──僕の王よ」

 

 その様を、ウェイバーは涙を流しながらも見送る。最後まで振り返ってくれなかった。

 しかし、それが征服王なのだと──涙がさらにあふれて来て。

 

「そこな雑種。貴様が征服王の臣下ならば、仇を討ち取らなければならないはずだが?」

 

 英雄王に声をかけられた。木っ端であれば無視された。しかし、ウェイバーは征服王の配下なのだ。他の王に情けないところなど見せられない。

 

「あなたに挑めば僕は死ぬ。でも、生きて──命を果たさなければならないから」

 

 ふ、と笑って。真正面から英雄王の目を見つめ返した。もう以前のような震えはない。

 

「忠道、大儀である。ゆめ、その在り方を損なうな」

 

 霊体化して、消えようとして──

 

「ああ、素晴らしい演目だった」

 

 アーチャーの胸から刀が生えた。

 

「──馬鹿な! キャスター、貴様なぜ? 霊体化の気配は感じなかった。いや、例えアサシンであっても霊体化して気配を消し暗殺を狙ったとしても……直前には気づけるはず」

 

 後ろを睨みつける。霊体化は途中で解けてしまった。貫かれた胸からとめどなく血があふれ出る。

 

「霊体化したわけではないが、透過はした──と。それだけのことだよ、英雄王。不意打ちは実に魔術師らしいと思わんかね?」

「──おのれ! 貴様、この我に不意打ちなどと……この世の道理に反することぞ。……がふっ!」

 

「これは異なことを。不意打ち、奇襲は戦の華だ。防げぬ方が悪いのだ。土台、お前がやっているのは決闘ではなかろう? お前の世界ではお前が勝って当然。そこには相手への敬意も畏怖も存在しない。ならば、それは虐殺だ。卑怯うんぬんなど、敗者の戯言でしかない。そして、お前の役目は終わった。これより先は無駄な駒が一つ出る。よって、ここで取らせてもらうことにしたのだよ」

 

 まったく悪びれていない。当然だ、アーチャーなどは勇者の器ではない。そんな彼とは決闘などしてもしょうがない。そもそも英雄王からしてそんなものは望んでいない。

 だから、不意打ちで片付けた。どちらが強いかなんて興味がないのだ──双方ともに。

 

「むだ──無駄だと! この我を前にして何を恥知らずな」

「さて、そろそろお前の仕込みの結果が出る頃か。お前が植え付けた種、果たして芽が出るかな?」

 

「……それはランサーのマスターのことか。貴様が邪魔をしてくれたせいで言峰の答えが出ないままに終わった。……お前、洗脳でもするつもりかよ」

「いいや。答えを出すのは彼自身だ。洗脳など人の尊厳を貶める恥ずべき行為だ。そして、答えが出るからと言って後戻りできぬことをやらせるのは違うだろう? 俺は、あくまで彼自身に答えを出してほしいのだよ。たとえ、どのような結果になろうとも──だ」

 

「──この傷、もはや助からんか。慢心が我を殺すとはな。だがな──慢心せずして誰が王か! 我の財宝を目に焼き付け……貴様も死ねェ!」

「良い気迫だ。──来い! 散り際の輝きを俺に魅せてくれ」

 

 アーチャーは相手をせずともじきに死ぬ。だが、キャスターは彼の挑戦を受けて立つ。魔王たろうとするがゆえ、相手が傲慢の王であろうとも。

 

「王の財宝よ!」

「神の裁きよ!」

 

 ……ここに4騎目のサーヴァントが脱落する。

 




英雄王は強いです。けれど甘粕が愛するのは全く別の種類の強さだったので、こんな形になりました。
甘粕はウェイバーのことが大好きになったでしょう。でも、彼も傷心のウェイバー君に試練をつるべ打ちするほど鬼ではないでしょう。今日のところは、ですが。
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