Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第51話 親子喧嘩

 

 そして、綺礼が辿りついたのは教会である。

 時臣を取り逃がした……ならば、次に行く先は決まっている。機会を逃せば、二度はない。

 

「──父上」

 

 聖堂の真ん中で一人たたずむ初老の男に声をかける。

 

「綺礼、か。何用だ?」

 

 丁度、人は出払っている。もっとも聖杯戦争が始まっている今では、誰もがおちおちここに戻ってこられないほどに忙しくて大抵は瑠生がここから一人で携帯から指示を出している。

 だから、これは運が悪くなかったと評するべきだろう。

 

「相談がありまして」

 

 今まで走ってきたことなどおくびにも出さない。化け物じみた体力だが、それもまた代行者であることの証。化け物相手に培ってきた業。

 

「言ってみなさい。思えば、お前は私に何かを相談してくれたことはなかった。……私にできる事ならば何でもしようじゃないか」

 

 その顔に綺礼への不信はない。信じ切っている。

 親は子が疑わないのは当然だとばかり──ああ、そういう正しさが今では憎い。人の不幸に悦びを見出すような自分には眩しすぎて。だから私は何者にもなれなかったのだ!

 

「では、死んでください」

 

 やはり、ここでも黒鍵を心臓狙いに突き刺す。

 心が震える。死ねよ、父上。お前は自分が産んだ怪物に殺されるのだ。と、常ならず手に余計な力が入った。だが──

 

「時臣君の言った通りか」

 

 手に軽い衝撃が走り、黒鍵を見ると突き刺したはずの刀身がない。これは……

 

「砕かれた……だと?」

 

 驚愕した。なぜ──いや、取り逃がした時臣が連絡を入れていたか。普段と違って行動が早いと歯噛みする。裏切りがばれていた!

 

「歯を食い縛れ──綺礼!」

 

 瑠生の表情は静かなままだ。動揺もなく怒りもなく──綺麗な動きで拳を繰り出す。なんて綺麗な動き……対化け物にアレンジした自分の八極拳とは大違いだと自嘲して。

 

「──っちィ」

 

 頬にかすった。おちおち何かを考えている暇もない。余計なことを考えていなければ完全にかわせていたはずだ。

 いや、これも余計な思考だ。次の攻撃が──

 

「どうやらお前の根性は曲がってしまったようだな」

 

 先の拳は囮。本命は隠された肘での一撃。かわせない!

 

「っぐ」

 

 避けきれずに喰らう──が、腹に力を込めて耐える。綺礼の八極拳は代行者流の殺人的アレンジを加えているが元は瑠生から教わった物。動きは読める。

 

「痛い……な」

 

 おもわず眉を顰める程度には痛い。これくらいで動きに支障などきたさないが、よもや老体でこれほどの威力を堅持しうるとは。

 

「痛みがなくては覚えんだろう。そういえば、お前を叱るということもしなかったのだな、私は。ちょうどいい──ここで父親らしいことをやらせてもらおうか」

 

 瑠生が構える。アレンジなど加えない純正のそれは、ひどく綺礼の心をざわつかせる。あなたは、どこまでも──ッ!

 

「殴るのが父親らしいとは──なんとも」

 

 軽口をたたいた。そういえば、父に対して軽口など初めてだな。と思って。

 

「これも愛だ。受け取れ」

 

 穏やかな顔。邪気など欠片すら感じられない。あなたはどこまで私を馬鹿にすれば気が済むのか。

 

「ええ……そういえば、叱られることもありませんでしたね。私もあなたに反抗したことなどありませんでした。遅れた反抗期──とくと味わってもらいましょうか」

 

 この邪気を生み出したのは貴方だ。いくらあなたの言う通りにしても私の性は矯正されず、結局はこの有様。ならば、存分に味わっていただこう。

 

「よい。存分に来い、綺礼。もとより子の我が儘を全霊でうけとめられずして何が父親か」

 

 同時に踏み込んだ。

 

「「──は!」」

 

 掛け声も同じなら、選択した技……いや、動作ですら同じだ。同じく八極拳を使う師弟対決。両者の肘がかちあう。

 

「──が!」

 

 押し負けたのは綺礼。いや、威力では上回っていたはず。しかし、瑠生の方が上手だ──威力を逸らされた。

 

「どうした!? 動きに迷いが見えるぞ」

 

 追撃の発勁。触れるか触れないかの位置に拳を添えて全身の筋肉を駆動してダイレクトに衝撃を伝える、意識を刈り取るに足る一撃。

 

「ッ!? 迷いなど──」

 

 頭めがけて放たれたそれをかわしきれない。常の彼なら難なくよけきれたはずなのに。視界がぶれる。頭にダメージが入った。

 

「……ない!」

 

 目と鼻の先ほどに密着した状態から黒鍵を4本投げる。あくまで牽制──これで倒せるとは思っていないが、距離は取れ……

 

「甘い!」

 

 ──この距離で全て叩き落とされた。

 

「……馬鹿な!」

 

 速度では勝っていたはず。なのに、なぜこうまで抑え込まれる!?

 

「親を──舐めるでないわ!」

 

 思い切り掌を突きこまれた。心臓のすぐ横──手加減されたとの思いが脳裏によぎるが、そもそも彼の方は綺礼を殺すつもりなどないのだ。

 

「これも教育の一環とおっしゃるのですか? 確かに犬畜生をしつけるには殴る蹴るが最適でしょうね」

 

 吹き飛ばされ、床に転がった先で皮肉を口にする。

 こんなことも以前は言えなかった。この世に生を受けてからずっと父の言葉に従って生きてきた。だが、もしかしたら間違ったのはそこなのかもしれないと思い始めて。

 

「お前のことを犬畜生などと思ったことはない。大切な息子だと思っている。──だからこそ殴るのだ。決して殴るのが好きなわけではない。お前ならばわかってくれると、正しい道に戻ってくれると信ずるからこそ殴るのだ」

 

 その言葉を聞いて……目に血など入っていないはずなのに視界が赤く染まって。

 今も変わらず尊敬されるべき父の顔を蹴りつけた。思わずやってしまった──当たったのはいいが流れがよくない。そもそも八極拳は基本的に蹴り技など出さない。

 蹴ったのはただ、汚してやりたいと思ったからだ。そして、そんな感情的な一撃は体の芯にまでダメージが通らない。制御できぬ思いが口を勝手に動かす。

 

「そんな──そんなことでどうにかなどなるものか! ああ、犬畜生ならば殴れば反省もできるのだろうさ。だがな、それ以下の存在はどうしようもない。ああ、それでどうにかなれたのならどんなに楽だったか!」

 

 心の奥底で思っていたこと。なぜ救ってくれないのか。辛くもないし、楽しくもない。自分には何もない。

 そんなのは嫌だと叫んでいた。声に出せなかったけど、すっと苦しんでいた、……気付いてほしかった。

 

「……何?」

 

 瑠生が面食らった隙に拳による突きを繰り出す。正真正銘一撃必殺、心臓狙いのハートブレイクショット。

 

「……ぬぅ!」

 

 横に飛んでかわした。──だが、それは踏み込みを回避に使うということであり、隙に他ならない。この隙に綺礼は追撃の体勢を整えてしまう。牽制の寸勁のために力を込めようとして……

 

「どこに!?」

 

 消えている。なんという機動力かと驚くが、そもそもその息子は代行者。身体能力に開きがあることは火を見ずとも明らかである。綺礼が動揺していたため、先制して動きを抑えていたが──この段に至っては抑えきれない。

 

「──ここだ!」

 

 声の先、後方……遠すぎないか! などと思う暇もない。

 黒鍵が高速で飛んできた。瑠生に黒鍵の素養などない。己が四肢をもって叩き落とすよりほかに術はない。

 

「──ぐぅ!」

 

 高速で射出された8本の黒鍵は叩き落とした。これまで合計12本……一体何本持っているのか。考える余裕もなく綺礼は次の攻撃に移っている。

 

「あなたは導くばかりだ──私はそんなものに何ら共感はできなかった! 信仰? そんなものに身を捧げても何も感じなかった。……何もだ! 色のない世界など貴方はわかるまい!? 貴方を殺し、私は私の世界に色を付ける……お覚悟!」

 

 黒鍵を撃ち落とす際に生じざるを得なかった隙。技術に優位があろうと速度に劣る以上そうそう何度も凌げるものではない。ゆえに窮地。だが、迷う息子を放っていくなどできようはずがない。

 

「……ぬ──」

 

 彼は一本の黒鍵を向けている。狙いはやはり心臓。たとえ心臓を回避したとしても胴体に喰らえばもう動けない。代行者などという死なない限り動き続ける化け物とは違うのだ。普通に疲れもするし、傷ついたら動きも止まる。

 

「……っ!」

 

 濃厚な死の気配を感じる。しかし、ここまで来ても綺礼の動きには迷いが見えて──

 




瑠生が原作ブレイクしてしまいました。戦神館時空が流れ出した?
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