Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第54話 魔王討伐

 

 甘粕が笑う。

 

「強い。──強いな! セイバー。ならば俺も心してお前と相対することにしよう。出し惜しみはなしだ!」

 

 セイバーは悪い予感を感じて。

 

「こ……っのおおおおお!」

 

 甘粕めがけて銃弾のように飛び出した。

 

「それでは不足だ」

 

 セイバーの剣が甘粕を通り抜ける。まるで煙のように。

 

「……ッ空間転移、そして幻。狙いは誘導か!」

 

 甘粕の宝具は知っている。最初から“ここ”に撃つつもりだったのだと悟って。

 

「マスター、令呪を!」

 

 ならば目にモノ見せてくれる。ここに追い詰めたと思ったのだろうが、窮鼠の例もある。倒されることを望んでいるのだろう? ならば望みどおりにしてやろう。

 

「さて、間に合うかな? 神なる裁きよ、降れよ雷。ロッズ・フロォム……ゴォォォッド!」

 

 空が割れる。雲が蒸発する。それは天よりの裁き。ただ正確無比に棒が空から降ってくるというだけ──単純な原理ゆえに防御不可能。超絶威力の質量爆弾から逃れる術はありえない。

 

「──約束された勝利の剣(エクスカリバー)!」

 

 着弾する。その瞬間にセイバーの宝具が解放される。間に合った。二つの宝具の威力はせめぎ合い、そして──

 

「……おお!? なんという美しさか。これこそまさに人類の光! この輝きこそが、まさに俺の見たかったものだ」

 

 黄金の光は神の怒りを駆逐し天空へと翼を伸ばす。神の裁きは叩き返されて神自身を焼き尽くす。

 

「……届けェェェ!」

 

 かくて聖なる光は神の杖を殲滅する。

 

「素晴らしい! ああ、言葉に尽くせぬ感動とはこのことを言うに違いない。さすが英雄──魅せてくれる。もっと……もっとお前の勇気を俺に魅せろォ!」

 

 至近距離でロッズ・フロム・ゴッドを撃ち返したセイバーはダメージを負っている。一方で甘粕はこの撃ち合いにおけるダメージはない。魔力もまだ十分。

 

「そこまで言うのなら──我が聖剣の輝きを見て死んで行け!」

 

 鎧を修復する余裕はない。魔力が足りない。よって、役立たずになった鎧は魔力に還元。魔力ブーストも控える。来るなら来いと喝破する。

 

「来ないなら、こちらから行かせてもらう!」

 

 甘粕は光弾を放った。馬鹿でかい──路地を塞いでしまう程度には。木っ端のサーヴァントならまとめて吹き飛ばせるほどの威力はあるだろう。

 

「……っちィ」

 

 見れば、この威力くらいわかる。自分の対魔力では打ち消しきれない──が、致命傷を負うほどでもない。ならば迷う余地はない。

 

「さあ、セイバーよ。どうする?」

 

 すう、と息を吸い込み──駆ける。

 

「―っだ!」

 

 殴り飛ばした。拳が痛む……が、剣を握れないほどではな──

 

「それで防いだつもりか!」

 

 その声は至近距離で聞こえた。

 

「……ぬ──」

 

 影に隠れて!

 

「これで終わりではないだろう!?」

 

 お前のセリフじゃないだろうが! などと胸中で吐き捨てて、力任せに刀を振り下ろす甘粕を見る。

 なにかよくわからない魔術が乗っている。少しばかり急所から避けたところでそのまま潰されるのは明白。ならば──

 

「力比べか!」

 

 頭上から押しつぶすように迫る圧力を、エクスカリバーで下方から叩きつけるように押し返す。

 

「素晴らしい判断の速さだ──が、このままでは勝つのは俺だぞ?」

 

 鍔迫り合いの形、だがぎりぎりと押し込まれる。このままでは魔力ブーストを用いて対抗しているセイバーの方が不利だ。ならば。

 

「ふぅ──」

 

 力を抜いた。当然このまま押し込まれる。この絶大な圧力がセイバーを顔と言わず腕と言わず、全身を押しつぶ──

 

「なに?」

 

 ぐるんと横にかまえた剣を縦に、そのまま横に押し出して。ベクトルの方向を変えて斜め下に圧力を受け流すと地面が爆裂する。

 衝撃とともにものすごい音がして──

 

「隙ができたぞ、キャスター!」

 

 爆発に乗る。ボールみたいに跳んだセイバーは壁を蹴り、反転して突進の勢いを乗せた前転回し斬りを放つ。

 

「ぐ──おッ!」

 

 刀を盾にした。受け止めきれずに後退する。後退する足が滅茶苦茶になった地面を掴み損ねて。

 

「このまま押し切る」

 

 セイバーは低空を駆け抜けて足へ向けて斬撃を繰り出す。

 

「──っが!」

 

 かろうじて避けたために丸ごとは行かなかった。だが、足の半ばほどまでは傷が入って、血がとめどなく出る。

 

「っらあ!」

 

 セイバーの攻撃は止まらない。大振りの一撃が来る。刀を盾にして防いだ。

 だが、甘粕の傷ついた足では踏ん張り切れずによろよろと後退して。

 

「本来ならば、この程度でどうにかできるような生易しい奴ではないだろう? 魔王」

「ふ──お前が強いのだよ。誇れよ。だが、これで終わりだとは思わんことだ」

 

「英霊エミヤがつけた傷は痛かったか? アーチャーの奴も、ただでやられるほど潔くはない。私の付けた傷だけではここまでにはならん」

「──そうだな。確かに傷は残っている。ああ、跡形もなく消すなどできるものかよ。これは名誉の負傷だ」

 

「だから治さんと? 馬鹿だな」

「俺は馬鹿だが──俺に立ち向かった英雄達を忘れるほど恥知らずではない」

 

「ならば、私が彼らの跡を継ごう。お前を倒し、皆の想いを果たしてやる」

「良かろう。……来いよ、英雄(セイバー)!」

 

「終わらせてやる──魔王(キャスター)!」

 

 首を撥ね飛ばす一撃を放つ。

 

「ふ──」

 

 かわせない。空間転移は使うのに一瞬の集中がいる。水晶の盾? まさかセイバーが止めを見誤るはずがない。

 なにを出したとしてもそれごと斬る。聖剣を完全に受け止めるには宝具でなければいけない。ゆえ──ここに甘粕は死ぬ。

 

 死ぬ? そう、死ぬだろう。ただの化け物であるならば。

 魔王などは化け物に過ぎない。世界に絶望した化け物だから、簡単に絶望に殺される。絶望を跳ね返せるのは勇者のみと決まっている。化け物は死を撒くがゆえに死に魅入られやすい。不死身の英雄とは違うのだ。

 

 負傷を無視して、など──化け物にはできないことだ。

 化け物には己しかないから、他者に支えられることを拒む彼らは、足が崩れれば当たり前に沈む。体の芯に残ったダメージはどうしようもなく動きを鈍らせる。

 

 だが、ここで──英雄の資質を持つ化け物が居たとしたらどうだろう。もし“それ”が存在したとするならば、己が死を撒いても死に魅入られることはない。

 それが実在するとすれば、絶望すら跳ね返す最悪の魔王である。

 

「人間は誰だって、絶望を跳ね返せる。危機に陥った時、大切なものを守るために勇気を出せる。俺は──そう信じている!」

 

 言葉とは裏腹に、甘粕の首が飛んだ。

 

「いくらあなたでも、しょせんはサーヴァント。そう縛られている以上、もはや脱落を避けることはできません」

 

 悼むように目を伏せて、言峰を追おうとして……

 

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