Fate/Zero【人間賛歌の魔王】 作:Red_stone
セイバーを置いて切嗣の元へと向かった綺礼。人間とは思えない速度で道を駆け抜けて、木造の屋敷を視認する。
その屋敷は日本式で、アインツベルンの重厚な石造りの城とは似ても似つかない。
「──ッ!」
黒鍵を展開、だしぬけに撃たれた銃弾を弾いた。思った通りの不意打ちだが、それでもかわせなかった。
人の心理の裏を突いた攻撃は、例え読み通りであろうが脅威である。やはり、衛宮切嗣──強い。
「これはまた、ずいぶんな歓待だ。まだ屋敷に足を踏み入れてはいないのだがね」
腕には酷い鈍痛が走っている。それだけではない。体全身が鈍い痛みを訴えていて、ありていに言って戦えるコンディションではない。
これまでに戦ってきたダメージが響いている。それでも、回復するまで待とうという気は起きなかった。
「代行者なんて化け物を歓待する趣味は僕にはないね」
一方で切嗣にはコンディションに問題はない。魔力とて十分あるし、サーヴァント用に用意したサブの魔力源もある。だが──
果たして僕で勝てるか? キャスターがセイバーを下すまで時間を稼ぎ、コイツを始末させる。できるならば、それが最善か。
しかし、そこまで僕が持つだろうか? 僕の戦い方は暗殺に特化している。守りなど、専門外とすら言っていい。そうそう防ぎきれるとは思えない。それくらいなら。
「もう聖杯戦争は決着だ。君と僕、勝った方が聖杯を手にする。だから、加減なし……全力で殺しに行かせてもらうよ、代行者。君はいつ死んだかもわからずに殺される」
いつも通りにやればいい。代行者であろうと人間──頭に銃弾を叩き込めばいくらなんでも殺せるはず。
ただし、キャリコでは肉の壁を突破できない可能性もアリ。さらに言えば至近距離からでも銃弾をかわしかねない奴らだ。だが、切り札を切れば!
「なるほど。だが、その前に質問させてもらおうか衛宮切嗣、私はそのためにここに来た。聖杯などよりもそれこそが重要なのだ。私の生は問いそのものだ。答えを得る──その時まで歩みは止まらない」
警戒する切嗣をよそに綺礼は熱狂的にまくしたてた。
「…………敵の質問に答えると思うか?」
意図を測りかねる。代行者というのは心理戦を使うのか。化け物相手に? 彼らの専門はそれだろう。だが、それ以外の可能性など──
「信用できないのも当然だ。ならばこうしよう──令呪をもって命ずる」
腕の令呪を見せる。その3画のうちの1画が消える。
「──ッ!?」
何をする気だ? 現在セイバーはキャスターと交戦中。僕の残り令呪は2画。しかし、令呪による宝具開放ならば──これは、こちらも令呪で対抗せねばならないか。
「衛宮切嗣が私の全ての疑問に答えることを条件とし、自害せよ」
……馬鹿な! 令呪をそんなことのために使うだと。いや、待てよ──奴は監督役の息子だ。以前の聖杯戦争で余った令呪を持っていても、おかしくは……つまり、いくら使おうと後で補給できる。だが、やはり意図はわからない。“ここ”では残り令呪が2画になるというのは変わらない。そこまでして何が目的だ……?
「さあ、質問に答えてもらおうか」
そもそも何の思惑があって令呪を僕に見せる? 彼の令呪の状況など僕は把握していなかった。公開してもデメリットになるだけだというのに。──考える時間が欲しい。あるいはこれが狙いか。
「アインツベルンについてだったら僕は詳しいことを知らないよ。ただの傭兵なんでね」
ただのジャブ。あるいは時間稼ぎ。
「そんなものはどうでもいい。第3魔法も、魂の具現化も私にとっては関係のないことだ」
は、どうやら許してくれないらしい。これでは時間稼ぎにもならない。
「では──」
「私の聞きたいことは一つだ。なぜお前は闘争に身を投じる? あれほどの無軌道が! あれほどの暴力が! 理由なくして振るわれることなどありえない。お前は何のために人を殺す? その答えの果てに私の疑問が解き明かされると感じるのだ」
「それはつまり──僕の戦う理由を聞きたいということか? 他人の戦う理由を知りたいとでも。なんだそれは? 何の意味がある」
それを聞いたところでどうということもないだろう。もしかしたら同類と見られているのか。戦火から戦火を渡り歩くのは、言峰綺礼だって同じだろう。僕の歩いた戦場は地獄で、彼の歩いた戦場は魔境だ。
「いいや。戦う理由ではない……殺す理由だ。例えばイレギュラーの雨生龍之介は快楽を得るために殺した。一方で、お前は何だ? 何のために殺す。答えろよ、衛宮切嗣」
「殺す理由? 依頼だからにきまっているだろう」
正しくはない。どちらかというとこれは言峰綺礼の理由だ。異端審問などと言っても代行者は上司の命令で動いているはずだ。
だが、傭兵は仕事を選べるし──実際に僕は選んで仕事を請け負っている。
「違うな。そもそも依頼を受けるなどというからには金が要るのだろうが、金を稼ぎたければ他にいくらでも手段がある。第一、金が欲しいにしては戦場に身を投じる間隔が短すぎる。戦場に身を置き、殺すために動きながらその次の殺しの準備をする。そんなものは金が欲しいからと言ってできることではない」
「そこまで僕のことを調べていたのか」
とはいえ、僕にどんな選択肢があったかなんて考えたこともないが、考えても愉快なことにはならないだろう。どうせ野垂れ死にでもしていたに違いない。
だが、それは言峰綺礼が僕の経歴を詳しく洗っていたということでもある。
「なんとしても聞かせてもらう。で、なければ──貴様の後ろにある聖杯を破壊する」
「貴様、本気か? 令呪を持ち、聖杯戦争に参加したのなら願いを叶えるために勝ち進んできたはずだ。それを壊すなどできるはずが……」
いや、まずいか? ブラフだったのだとしたら、後ろにアイリがいることがばれてしまった。もともと聖杯を用意するのはアインツベルンの役割だったから僕が持っていることはすでにばれていてもおかしくはないのだが、詳細な位置を知られてしまった。
「壊す。それが必要だというのなら」
眼に迷いは見受けられない。何があろうと実行するという硬質な意思が見える──が、別に僕は人の心を読めなどしない。これが演技だとしても僕は驚かない。
「……こうなれば、答えない理由がないか。僕の願いは世界平和だ。そのために人を殺し、この冬木で聖杯を掴もうとしている」
こいつが何を考えているかわからない。本当に聖杯を破壊する気があるのかさえ分からない。
だが、代行者としての立場ならば聖杯の破壊はなんら不思議なことではなかった。それに僕のやることは変わらない。彼の真意が何であろうと──殺せばいい。
知りたいなら教えてやるさ、理由など。そして殺す。
「……せ──せかい……へい……わ…………だと?」
だが、この代行者は驚いたのだ。目を見開いて──呆然と。