Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第57話 宿敵

 

 驚い……た……? 世界平和などという夢は自分でも馬鹿げているとわかるから、他人にも言ったことなどない。

 知っているのはアイリくらいのものだ。だが、無理やり言わせておいて──この呆然ぶりは身勝手なこととは思うが。

 

「嗤うか? だが、僕の意思は変わらない。お前を殺し、聖杯に平和を願う」

 

 しかし──勝手に適当なこと言っていると思うならば、それでもいい。何を思われようが、殺すべきは殺す。

 救えるなら……救うのみ。そこに僕の感情は介在しない。

 

「馬鹿な──なんだ、それは? そんなバカげたことがあるものか。お前は私の同類ではないのか? 快楽のために殺す……そんな鬼畜ではなかったのか」

 

 わなわなと震えている。──様子がおかしい。これは、馬鹿にしていると言うよりも。

 

「令呪は発動しないか。まあ、期待してなかったがな。お前の望む答えは血に飢えているから──とでも言ったところか? 今からそう言ったところで令呪が発動するわけもないか」

 

 残念だ。まあ、あのような曖昧な条件では達成など怪しいものだった。おそらく、彼の望む答えが出され、それに彼が納得したらセイバーは死んでいたのだろう。

 まあ、どう見ても納得などしていない。しかし、この態度──まるで恋人にでも裏切られたかのような有様だ、……気色の悪いことこの上ないが。

 

「待て。待てよ、衛宮切嗣。少し待ってくれ。世界平和とは何だ? ありもしない幻想──理解できん。なんなのだ、それは。それは一体どういう世界だ? 何が達成されたら世界は平和だと言えるようになる? 答えろ、衛宮切嗣。貴様は何をもって世界に平和を敷く!?」

 

 慌てている。まるで女に振られておどおどしているガキみたいだ。女々しい、などという表現をまさか代行者に使うことになるとは思わなかった。

 

「誰ひとり犠牲のない世界。血の流れない世界。戦場の根絶こそ我が望み! 人の身では叶えることのできない望みのため、死んでもらうぞ最後のマスターよ!」

 

 呆然としている綺礼に向かってトンプソンの一撃を叩き込んだ。

 

「犠牲のない? 誰であろうと快楽のために人を傷つける。私は人の痛みに愉悦を覚える畜生だがな──どんなに少なかれ、それは誰もが持つ感情だ。それを否定するか? そして……血の流れないなど、それは人間の体でも弄ろうというのか? 理解できん。お前は一体何を言っている!?」

 

 黒鍵で防いだ。だがその銃弾は起源弾、一瞬で綺礼の魔術回路を破壊しつくし──それでもなお動く。

 いや、黒鍵に繋がっていたのはただの宝石だ。それが砕けただけ。元から黒鍵などそんなに魔力を必要としない。

 

 遠坂の宝石魔術をかじっただけでもこれくらいならできる。というか、初歩だから他の流派でもあれくらいはできるだろう。

 なぜ、こんなものを用意できたのか──それは、実物はともかく効果はケイネスの体で見たからだ。彼は空港で直接ケイネスと対峙し、そして逃がれた。

 

 魔術回路は普段は活性化状態にない。あくまで魔術を使うときだけだ……その時に何かされたと考えるのは、魔術をかじった程度の人間でもわかる。

 そして、初心者にでもできる対策をしたというわけだ。起源弾は切り札ではあるが、知ってさえいれば対処は容易い類の必殺技。こうなるのがわかっていたからこそ、使用には細心の注意を払っていたのに──甘粕の奴め、と声に出さずに毒を吐く。

 

「──っな!」

 

 目の前に黒鍵が迫っていた。あの一瞬で放ったか! 聞いてはいたが、いざ実物を目にすると代行者の戦闘能力は馬鹿げているとしか言いようがない。リスクなしでサーヴァントに迫る身体能力など!

 

Time alter(制御固有時)──double accel(二倍速)!」

 

 加速し、頭を傾けてかわした。頬に傷がつく。あと少し遅れれば頭が飛んでいた。

 やはり、質問はブラフか? いや、そんなはずもないか。あれほど怒っているのだから。

 

「世界平和など──ただの妄想に過ぎん! 成すべきプロセスも、掴むべき結果ですらもわからんのだろうが! お前ならば何をすれば、何ができれば“そう”なるか、わかっているとでも!?」

 

 黒鍵をしまい直して接近戦に切り替える。傾いた頭に向けて拳を繰り出そうとして──銃痕がうずいた。一瞬、動きが止まる。

 

「それでも──ここで逃げるわけにはいかないんだ!」

 

 目の前に拳。なりふり構わず後ろに飛び、適当にキャリコで薙ぎ払う。やらないよりかはましだ。

 

「なぜだ!? 逃げたければ、逃げればいいだろう。それを止めるものなどないはずだ。お前には呪いや誓約(ギアス)の類は一切かかっていない。お前を縛るものなど何もない!」

 

 丁寧に向かっている銃弾を全て叩き落とした。常であれば強引に突破してもいいが、今は無理だ。

 

「いいや。僕には逃げることなど許されない。シャーレイが……ナタリアが……今まで僕が殺してきた人間の意味を無くすわけにはいかない。そして、僕はもうあのような惨劇など世界では珍しくないことを知ってしまっている。そんな世界が許されていいわけがあるものか!」

 

 撃ち続ける。接近戦に持ち込まれたら瞬きする間に殺されると自覚している。

 先ほどは運──もしくは敵がなんらかのハンデを抱えている? 言峰綺礼の事情など知るはずもない切嗣は目の前の敵を観察する。

 

「世界をォ! 許す、許さないは人間の領分ではない。お前は神になったつもりか? 衛宮切嗣。世界をありのままに受け入れるのが人間としての在り方だ。それとも、お前は世界に反逆するのか。なあ──衛宮……切嗣ゥ!」

 

 ついに銃弾が切れた。装弾数はそう多くない──そして、リロードを許すほど代行者は甘くない。震脚。一歩で距離を詰められた。

 

「だから──奇跡にすがり付くしかなかったんだ!」

 

 こうなれば! 捨てる気で腕でガード。そのまま逆の手でナイフを振るって牽制する。綺礼の拳が着弾する。

 腕が砲撃で吹き飛ばされたのかと思った──が、想定していたよりも拳の威力が小さい。被害は腕が圧し折られるだけで済んだ。やはり敵は要所要所で動きが鈍る。これは──

 

「理解できん! お前のことが分からない。お前ならば、私のことを理解できると思っていた。そんなお前を私は理解できると思っていた!」

 

 綺礼はそのまま密着し、接近戦を挑む。ナイフと素手の応酬が続く。

 ナイフはかすりもしないが、僕も致命的な打撃をもらっていない。やはり相手はなんらかの致命的な不利を背負ってここに居る。で、なければ──こと接近戦で彼が僕を殺せない理由などない。

 

「──お前のことなど知らん! だが、ここで倒す。Time alter(制御固有時)──triple accel(三倍速)!」

 

 だから、相手がそのハンデに慣れる前に倒す。

 

「っが!」

 

 どす、とナイフを足に刺す。とはいえ、切嗣もまた全身に負荷がかかって全身の筋肉が断裂する寸前。ケイネスのように魔術刻印が自動治癒してくれるわけもない。

 

「これで終わりだ!」

 

 トンプソンを取り出して構えた。装填されているのは起源弾。出し惜しみをする意味はない。

 ここで聖杯を取れば使う機会などなくなる。黒鍵に使っても無駄だし、生身の肉体相手では起源弾もあまり意味もない。それでも、代行者の肉体を貫くだけの威力はある。

 

「──まだだ。まだ私は答えを得ていない! 私は──“何か”をしたかったのだ! 心から望む何かを得たかった。……だから!」

 

 ──黒鍵で弾いた。執念。怨念の域にまで達する妄執が、一瞬だけ完全なる代行者の全力を引き出した。目と目が合う。

 

「「そうか、お前は──」」

 

 唐突にお互いが理解した。

 

「キサマが僕の敵か!」

「貴様が私の敵か!」

 

 生まれてきた意味──そんなものは知らない。けれど、人生の敵──完全なる非対称。望ましくも憎たらしい。殺したいほどに語り合いたい。他人に殺されるなど許さない。

 前を殺すのは私『僕』だ。ああ、唯一無二の好敵手よ! それが言峰綺礼『衛宮切嗣』なのだと今、理解した。

 

「「お前のような奴がいるから」」

 

 理解したからこそ絶対に。

 

「世界に平和は訪れない」

「世界に問がなくならない」

 

 殺さなくてはならぬと直感した。冷たい闘志だけがひたすらに燃えている。そして。

 

「令呪によって命ずる──宝具を解放し敵を、そして地上を焼き払え」

 

 言峰は令呪を使う。

 

「な──」

「これで三つ目。補充したとしても、セイバーとは契約が切れていることには変わりないが、な」

 

「何を馬鹿な──」

「さて、どうする? セイバーは対魔力でこらえているようだが、時はいくらもないぞ」

 

「何故、貴様は──」

「見せろ、お前の答えを」

 

 暗い情熱が目の中にたぎっている。なぜか、切嗣は逃げられないと直感して……

 

「──令呪によって命じる。全魔力をもって解放された宝具の威力ごと敵を殲滅しろ」

 

 受けて立った。

 

「なるほど、それが答えか。──羨ましい」

「……」

 

「お前は普通の人間だ、衛宮切嗣。私のような外道とは違う。真っ当に悪を嫌悪し、真っ当に身近な人間の死に悲しむことのできる人間だ」

「……」

 

「なんて羨ましい。私もそのような感情が欲しかった」

「お前にはなかったのか」

 

「欲しかったよ。今になってようやく気付けたがな」

「そうか」

 

「そうだ」

「お前には同情すべきところもあるのかもしれないな」

 

「別に不幸をひけらかすつもりもない。そもそも、正義の味方など──本気でなろうとなぞ思った時点で不幸だろう? とてもではないが、この程度の不幸で他ならぬ貴様には並べんさ」

「そうか。だが、死ね」

 

 切嗣の手がナイフに伸びた。

 

「だが、殺す」

 

 綺礼の手が拳を握る。二人が交錯する。

 ナイフが喉元に迫り、その前に拳が心臓に突き刺さろうとして。

 

 ナイフが加速した。魔術──4倍速。己が体を完全に破壊する捨て身の一撃。先にナイフが綺礼の喉元を切り裂き、拳が切嗣の心臓を叩いた。

 




テンポが悪くなるので入れていませんが、戦っている間に言峰は第二の令呪を使用していました。ロッズ・フロム・ゴッドを撃ち落とした奴です。
令呪の設定は独自設定です。神の視点では切嗣が嘘を言っていないことはわかるのですが、あの聖杯には真贋を見極める力はないので、真贋判定は令呪を使用した主の判定としました。
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