Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第58話 敗北者、二人

 

「どれ、起きたか」

 

いささか几帳面気味な男の声が響いた。かけられた主はゆらりと流し目で見やる。

身体が痛くて、どこか突っ張った感じがする。魔術による治療を施してくれたのだろう。無理をすれば体を起こせる程度まで回復している。

 

「――遠坂、時臣」

 

質素な椅子に座っている彼は、ぱりっとしたスーツ姿でいる。まるで新調したかのように――いや、予備だろうなとベッドで寝ている彼は考える。

そういえば、遠坂時臣の姿はいつも“これ”だった。隙のないスーツ姿……それ以外の服は持っていないのだろうか。

 

「おや、綺礼君。以前のように師とは呼んでくれないのかね?」

「もう、魔術を教わる必要がないので。――で、どうしてあなたがここにいるのです」

 

負けた、と素直に納得できた。この気持ちは……ああ、そうだ。“次は負けない”と気持ちだ。衛宮切嗣は二度もお前のような化け物と戦えるか、とうんざりした顔をするのだろうけど。

 

「君をここに連れて来たのは僕だよ」

「……ここは、教会ですか」

 

「そう、君は脱落した。……僕もね。まったく、アーチャーの奴――しくじってくれたものだ。まさかライダーを倒した直後に暗殺されるとは。自分の死に様から何も学ばなかったらしい」

 

やれやれ、と肩をすくめた。口調が少し早い。どうやら、胸の中では怒りが燃え滾っているが、それを表には出さないようにしている。どうせ、いつものだろう。結局、綺礼には時臣の言う優雅とやらがわからなかった。

 

「セイバーは、ふむ……一矢報いたようですね。なるほど、彼女は私とは不釣り合いなサーヴァントだった」

 

切嗣と向き合っていた時は、必要最小限しか注意を払わなかった。今にして、少し思い出すと彼女は最期まで魔王の肝を冷やした。……不屈の英雄、か。

 

「そうかね? 私には彼女も君も何かを求めてやまない求道者のように見えたが」

「聖杯戦争に参加する者は皆、何かを求める求道者でしょう」

 

「君の求める物も見つかったのかね?」

「さて、それは“物”であったのでしょうか」

 

「瑠生にそれを教えてもらったのだと、私は思っていたがね」

「我が父とはいえ、私の一生をかけて探したものをポンと出されては殺意もわきます。示してくださったのは手がかりですよ。衛宮切嗣との戦いで見えたかと思いましたが……今は、もう――手の届かないところへ行っている」

 

「諦めたのかい?」

「いえ、探しますよ。聖杯ではない別の手段で」

 

「なるほど。それでは君の新しい門出を祝福しよう」

「――私が襲撃しようとしていることを父に教えたのは貴方ですね? 遠坂」

 

「その通りだが」

「しかも、つい先ほど私に襲われたのを命からがら逃げだしたばかりなのに――よく止めを刺さなかったものです。今の状態では魔術師たるあなたを殺せないと? これだけ近ければ、やりそこねなどしませんよ」

 

ベッドから降りて一歩の距離。それも遠坂は椅子に座っている。俊敏な動きはできない。

綺礼は寝ているが――代行者だ。この体勢からでも心臓に一撃を叩き込むくらいはできる。

 

「………………あ」

 

一瞬だけ白けた空気が流れた。

 

「……」

「いや、身を守る手段くらいは持っているさ。遠坂の家訓は君も知るとおりだ。――余裕をもって優雅たれ。重症の君の攻撃くらい優雅に防いでみせるとも」

 

自信満々な顔だ。もっとも、つい先ほど“やっちまった”という顔をした以上は手遅れだが。

 

「……そういうことにしておきましょうか」

「で、だ――君のお父上だが、まだ目を覚ましそうにはないな。だが、一日もあれば目を覚ますはずだ。治療の魔術くらいは私も使える。本職に比べればまだまだだがね」

 

「父に代わって礼を言っておきましょう。なぜ私を殺そうとは思わなかったのですか?」

「僕が君を――なぜ?」

 

「殺されかけたから殺すと言うのは、自然なことに思えますが」

「報復、か。いや、そんな気は起きなかったよ。これが外様の魔術師であったら別だがね。ああ、いや――君の腕に令呪があったら殺してでも奪っただろうけどね」

 

「あくまでも利益を優先しますか。というより、外様の魔術師を消すのも利益が失われることを防ぐための処置でしかないのでしょう」

「そうだね。いくら考えても――僕には人を殺して楽しむと言う気持ちはわからない。一般人のように殺人を忌避するわけでもない。何とも思わず、利益を得る手段として……ただ実行し、後には何の感慨も残らない」

 

「私にとっては殺人とは楽しいモノ――であったのでしょうね。よくわかってはいなかったが、アレは確かに楽しいものだった。そして、他者を絶望させて殺すとは何とも甘美で――えも言えぬ空想であった。そう、空想だ……“わかって”から殺す機会を狙って、結局果たせなかった」

「まだ殺したいと思うかね?」

 

「わかりませんよ。ただ――」

「ただ?」

 

「当分は貴方も父上も殺そうと言う気は起こらないでしょうね」

「それはよかった」

 

「あなたはどうするおつもりで?」

「凜を鍛えるさ。次の聖杯戦争で彼女が――そうでなければその子供が、でなければ孫が勝てるように」

 

「なるほど。あなたはどこまで行っても遠坂であるようだ。道に迷っている私とは違う」

「君も探し物があるのだろう? 僕にできる事なら力になろう」

 

「ありがとうございます。では、凛には少し拳法を教えて差し上げましょう」

「それはありがたい」

 

二人は4次の聖杯戦争を終わったものとして、次を見る。命を落とさなかった彼らには次があるのだ。60年後の次が。

 

――もっとも、聖杯戦争がそこまで続いていれば……だが。

 




次は雁夜おじさんのお話。優勝まであと一歩。
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