Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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第6話 戦術

 

「さて、これからの僕たちの取るべき動きについて話そうか」

 

 切嗣がぎりぎりと歯を食い縛りながら、心のうちに燃え上がる憤怒を努めて抑えながら言った。

 もっとも、顔には出ているのだが。

 

「取るべきww動きをww ねえ、ちょっとー。この人僕たちの相談もなしに班の行動決めてマース。仕w切wりwやww。ちょーうぜーんですけどー」

 

 茶化すのは神野。ふざけているのだが、ふざけているわけではない。これこそが彼の常態である。真面目にしろと言われても悪魔としてはこれが真面目なあり方であるわけで。つまるところ──

 

「黙れ。消えろ」

 

 邪魔なだけだった。

 

「まあ、そう言うなよ切嗣。以前はこいつを自由にしていたのだ。理由もなくただ押し込めておくのは心苦しいのだよ」

「放し飼いにされてはたまらん。どうしてもと言うなら令呪を使うが?」

 

「やれやれ。これはとんだ偏狭なマスターに召喚されてしまったようだ。すまんな、引っ込んでいろ」

「はいはーい」

 

 消えた。やけに素直だ──腐臭のする百足や毒々しい蜘蛛を残すといったこすっからい嫌がらせもない。

 

「では、これからのお前の動きを説明する」

「聞かせてもらおう」

 

 切嗣、キャスター、舞弥、アイリスフィールの4人で机の上の冬木氏のマップを囲む。切嗣は舞弥並びにアイリスフィールと事前に相談していたようで、これは確認とサーヴァントへの決定の通告といった意味合いだ。

 

「標的はランサーとそのマスターだ。両方同時に仕留める」

「ランサーを狙う理由を聞いても?」

 

「ランサーは令呪によりライダー以外と戦うときにペナルティがかかる。ライダーが脱落する前に叩いておきたい」

 

 埠頭での【セイバーと協力してライダーを倒せ】という令呪である。期限はライダーを倒すまで。セイバーとは協力しろとの命令なので攻撃に制限がかかる。また、どんな状態であろうともライダーへの攻撃を最優先にする。つまり、攻撃の手は誰が相手だろうとゆるんでしまう。

 

「──ふむ。一つ疑問なのだが、アサシンの所在と他マスターの隠れ家はわかっているのかね?」

 

 クラスの役割は切嗣が教えずとも聖杯が教えてくれる。実は、力の劣るマスターを狙えるという点ではアサシンが最も厄介であるということは甘粕にもわかる。彼はいわゆる頭のいい馬鹿だった。

 さらに言えば、埠頭の戦いに参戦しなかったのはアサシンのみ。警戒しないはずがない。──いや、キャスターにとっては期待か。

 

「お前が知る必要はない。必要なら、都度情報は伝達する」

「了解した。で、ランサーはどこに隠れているのだね?」

 

「ホテルだよ。都心のど真ん中さ──いい御身分なものだ」

「どう攻める?」

 

「奴の住んでいる階は異界化されていて、罠も山ほどある。しかし、そんなものにわざわざ付き合う必要はない。僕は魔術師の流儀など解さない殺し屋でしかないのだから」

「ふむ。彼もそのことは知っているのかね?」

 

「もちろんだ。僕の経歴は調べればわかる。──さすがにアインツベルンでも隠し切れなかったからね。変なことを気にするな、貴様は」

「重要だろう? 殺し屋相手に警戒を怠ったのなら、そいつの責任だ。しかし、魔術士同士の決闘に殺し屋の流儀を持ち込むならば、それはただの恥知らずに過ぎん。そういう奴こそ、いざ自分が寝首をかかれると卑怯者だのなんだと言うものだ。ルール無用と言っておきながら、相手にはルールの遵守を求めるなどと、頭の足りない愚物でしかない」

 

 よくいるものだ、そういう奴は。ルール無用とか言って仲間に頼ったり、人質を取ったりして、負けたら武器がなんだのとケチをつける。だが、確かにボクシングの戦いで蹴り技を出せば、そいつは単なる卑怯者だろう。

 

「…………お前の流儀など知ったことではないな。それに敵マスター……ケイネス・アーチボルトの策謀に付き合ってやる気もない。作戦は単純なものだよ。簡単に言えば、ホテルを丸ごと爆破する。実際、そう大したことではないんだ。一般人は避難させるから無駄な犠牲は出ないし、ホテルだって保険に入っているから損害は出ない。ド派手と言うのを除けば、実に合理的だ」

 

 まあ、ホテルに泊まる宿泊客の思い出は台無しになるだろうが。そこらへんまでは正義の味方も気にしてられない。人の命を守る方がずっと重要だ。

 

「なるほど、確かにすばらしい作戦だ。だが、甘いな」

「──何?」

 

 予想外だった。普通、英雄ならばそんな外道なことはやるべきではないとかそういうことを言ってくると思っていた。よもや、肯定されるどころか甘いとまで言われるとは思わなかった。

 

「それでは、敵に逃げる時間を与えてしまう。一般人に知らせずに爆破しなければ十全とは言い難い。まあ、実戦を知らぬならば受けて立とうと思ってもおかしくないかもしれんがな。だが、どんな敵であれ最大の効果を与えるのは完全に予想外の一撃だ。予想もできない規模での大規模破壊──ああ、それで? タイミングは読めている。防御できないと考える方が不自然ではないかね?」

 

 つまり、客は避難させるなと言っている。そちらの方が確実──というより、そこまでしなければ効果はないだろう? などと言いたげである。

 拠点を潰して相手の道具類の多くも破壊できるだろうが、殺せるとまで思うのは甘い考えだと言い切った。

 

「──僕の方針に疑念を挟む気かい?」

 

 切嗣はぎろりと強く睨む。その視線には殺気がこもっている。今すぐに令呪で死を命じてもおかしくないほどに。

 

「なに。どんな人間だって間違いはする。何を隠そう俺だって赤面モノの失敗をしていたことは数えきれぬほどにある。だがな、失敗を恐れては成功することなどできん。他人の忠告を聞き入れることも人としての器だぞ、切嗣よ」

 

 けれど、キャスターは満足げにうなづいて受け入れるのみだ。

 

「避難勧告を出すなと? それこそ馬鹿げている。数十人の人間の死を隠匿するにはどれだけの手間がかかるかわかっているのか。教会からペナルティを喰らうほどの失策だぞ……!」

 

 実際問題──客が避難した後のホテルを爆破するなら問題にならないが、客ごと爆破するのは大問題だ。今の時代、人死にが出なければ結構何とかなるものであるが、逆に死者を出してしまうと途端に面倒くさいことになる。

 

「ふむ。ならば、逃走中の彼らを狙うと言うのはどうだね? 英雄ならば、ビルの倒壊からでも生き残れるに違いない。マスターの方の力量は知らんから、案外そのまま魔力切れでリタイアしてくれるかもしれんがね」

 

 と、彼はあっさりと自分の間違いを認めた。有言実行はという美徳はまず自分から実践するタイプであるらしい。

 

「──いいだろう。一晩倒壊した現場を見張って、もし奴らが生き残っていたのなら他の隠れ家に着いた瞬間に狙撃を実行する」

「うむ。それでよかろうよ──俺にはその作戦に抜けは見当たらんな」

 

 キャスターが保証した。だが、暴走を抑えられないと自他ともに認める彼を作戦に組み込んで、万全なるものが存在するはずがないのだが。

 

「では、実行に移すぞ。サーヴァント」

「おうとも。俺は別のところから見張っていればよいか? 切嗣よ」

 

「ああ」

 

 切嗣、キャスター、舞弥がそれぞれの受け持つ地点を確認し、散る。隠れ潜んで行動するには一人の方が都合がよい。

 

 

 

「──おのれ!」

 

 ケイネスがどん、と拳を叩きつける。そこは切嗣が言及したホテルの一室。何も気づかずに埠頭の出来事について怒るので忙しくしている。

 

「気をお鎮めください、マスター。今はまだどの陣営が有利かも定まっておりません。顔合わせが済んだのみであります」

 

 ここは工房。絶対の防御を敷いた魔術師の牙城。ロードの一画であればホテルの一室をそのように改造するのも容易いこと。そこで、ランサーと主は言い争う。

 

「ランサー。貴様が一番槍を務め、最初に首を取り聖杯戦争の主導を握ると言うから行かせたのであろうが! それなのに、2対1でライダーを仕留めそこなうとは──申し訳があるなら言ってみるがいい」

 

 激昂する。お前はなんと役立たずなのだと罵倒する。自分の失策を噛み締めろとまでは言わないが、敵戦力の推察くらいはしてもよさそうなのだが、魔術師として優秀な彼は今はただぷりぷりと怒っている。

 

「しかし──」

 

 そして、この従僕だって似た者だ。主の怒りをどうしようかとおろおろしているだけで、敵がどうだのは全く考えられちゃいない。

 

「言い訳など聞いておらん! ランサー、貴様は本当に聖杯をとる気があるのか!? ふざけたことばかり言いおって──どうでもいい騎士の誇りなどでライダーを見逃すなど恥ずかしいとは思わんのか!」

「……マスター、どうかその言葉だけはお取り消しを。私のことを悪く言うのはかまいません。しかし、騎士の誇りを侮辱するのだけは──!」

 

 ランサーにとって、騎士の誇りと主への忠誠は同じものである。ゆえに、誇りを捨てるのなら、主への忠誠など投げ捨てるのと同義であり、聖杯戦争を下りる理由にすらなってしまう。

 

 また、騎士の忠誠には主の間違いを正すといったことも含まれている。これは、明らかに間違ったやり方を否定してくれはするが、気に入らない方針に遠慮なく否を唱えられることでもある。イエスマンとどちらが良いのか。

 

「ええい──黙れ! 黙らんか、ランサー。貴様は本当に私に忠誠を誓っているのか? この裏切りの騎士めが──君主の妻に色目を使わずにはおれんか」

 

 実際のところ、サーヴァントとの不和は衛宮切嗣の陣営と同様である。しかし、違うのは主と従僕としての役割の違いである。ランサー陣営はお互いにんなモノ知るか、と理解を拒否して口げんかしているにすぎない。

 一方で切嗣はサーヴァントのことを曲がりなりにも理解して運用している。下には下が居るものだ。

 

「マスター!」

 

 だからこそ、二人が分かりあうことはない。結局は怒声を張り上げて怒鳴りあっているにすぎないのだ。それは話し合いではない。自分の意見を通そうとしているだけで、相手のことなどどうでもいいと思っている。

 

「──ケイネス。今回はあなたが悪いわ」

 

 ケイネスの婚約者、ソラウが現れた。婚約者たるケイネスに侮蔑の目を、そしてサーヴァントには恋する少女のような熱い目を向ける。

 

「……ソラウ。しかしだね、こいつは──」

 

 それを感じ取ったのか、嫌な顔をする。もっとも、肝心のソラウは気付いてもいないが。それが、さらにランサーの悪感情を燃やさせる結果となる。

 

「言い訳は聞きたくないわ。あの場で無理やりライダーと戦わせたからこそ、ランサーが有利に立ち回れなかったという自覚がないの? 貴重な令呪を一角消費するなら、必殺の一撃に使うべきだったわ。──ああ、ごめんなさい。あなたは、あの場でセイバーとともにライダーを攻めれば落ちると思っていたのよね。結果はあの通り、ライダーは傷一つ負わず、ランサーに手ごわい一撃を喰らわされただけだったけれど」

 

 ふん、と鼻を鳴らしそうなほどの勢いだ。この馬鹿め、とは口には出さないけれど態度には出ている。

 

「……ソラウ。しかしだね、そんなものはランサーが敵の攻撃をかわすだけの能力を持っていたらよかった話で──」

「それで、あの状況で5対1になったら、サーヴァント5体に対して勝てないランサーが悪いとでも言うつもりかしら? これ見よがしに乗ってきた戦車まで、ものの見事に頭から落っこちてたでしょう。あなたのやったことって何? 調子に乗って状況も顧みずにライダーにしかけさせただけじゃない。そんな調子で、あなたはこれからマスターとしてやっていけると言うの?」

 

「ソラウ……!」

「大体、ランサーが敵と戦っている間、あなたは何してたの? ただ震えて見てただけじゃない。そんなにライダーが怖かった? 令呪を一つ無駄うちして──あなたがやったことってそれだけよね」

 

「それは──」

「あの場にはキャスターのマスターもいた。ライダーのマスターもね。その子はあなたの教え子で、家柄のない凡百の徒と言っていなかったかしら? それとも、あなたはそんな雑魚にすら怯えて何もできないような屑なのかしら。だって、あなたの聖杯戦争におけるアドバンテージ……ランサーへの魔力供給を私が担っているゆえに、あなたは他マスターと違って全力で戦える。その力があれば──」

 

「やめていただきたい、ソラウ殿。それ以上は我が主への侮辱だ」

 

 ランサーが止めた。

 

 ソラウはぎくりと表情をこわばらせ、一瞬で頭を切り替えてランサーへと甘い顔を作って何かを訴えようとする。それを見たケイネスが面白くなさそうに舌打ちし──

 

 一瞬、とても気まずいままに時間が止まる。

 

 ……次の瞬間、緊急放送がホテル全館に響き渡った。いわく、テロリストにより爆弾が仕掛けられたから避難してほしいと。

 

「聞いてくれ。敵のマスターが我らに挑むようだぞ。私の仕掛けた罠を越えられるものなら越えてみると良い。ランサー、準備しておけ」

 

 婚約者にいいところを見せようとでも言うのだろう。叱られた子供のようにしゅんとしていた彼が背筋を伸ばし胸を張った。

 

「──ケイネス。大丈夫なの?」

 

 対して、婚約者は疑わしげだ。もちろん、彼の実力に対して。

 

「もちろんだとも。汚名挽回して見せよう、ソラウ」

 

 

 

 そして、侵入する敵を待って──肩すかしするには十分な時間が流れた。

 

「音が聞こえてこないわね」

「ふむ。まだ侵入していないようだ。一般人の避難に手間取っているのだろう。段取りの悪い奴だ」

 

「ふぅん」

「主よ、お気を付けください。何か、悪い予感がします」

 

 弛緩した雰囲気の中、ランサーだけが落ち着かなさげにしている。戦場の勘、というやつだろう。

 

「黙らんか、ランサー。貴様の言うことなど聞く耳持たぬわ。貴様はただ、吾輩の罠に疲弊したサーヴァントとマスターを叩けばそれでいいのだ」

「マスター。あなたの腕は存じ上げております。あなたならばサーヴァントを倒すことも不可能ではないでしょう。ですが──騎士の誇りにかけて弱体化した敵を倒すなど私にはできかねます。どうか、ご再考を」

 

「うるさい。──うるさいぞ貴様! 私の──主の言うことが聞けんのか!? もしや貴様は令呪をもう一つ要求するか」

 

 ギロ、とにらみつけた。多分の嫉妬も混ざっているのだろう。粘着的な視線がランサーをねめ上げる。

 

「そんな……ただでさえ貴重な令呪をそんなことに──」

「黙れ! 貴様など──」

 

 続きの声は爆音に飲み込まれた。──ビルが爆破解体され、彼らは高空から瓦礫とともに地面に叩きつけられる。

 




よく外道とか言われる切嗣が甘いと言われるシーンは書いてみたかったので、それだけで満足です。
敵が主人公に甘すぎるのはラノベの常のような気がしますが、ブギーポップに出てくる人でなし達なら客ごと爆破とかいつもやっていることでしょう。あのラノベはいつも一般人が被害にあっている気がします。
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