Fate/Zero【人間賛歌の魔王】   作:Red_stone

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エピローグ

 

【ウェイバー&ケイネスside】

 

「あの実験は終わったか!?」

 

 ケイネスはガリガリと鬼気迫る顔で何かを紙に書きつけている。pcはすでに世に出ているというのに、手書きだ。それが時計塔のフォーマット。横には書類の山。しかし、今は論文を書き上げねばならない。

 

「あのって、どのですか!? ケイネス先生」

 

 ウェイバーは雑多な機器類の間を駆け回っている。どう見ても、いくつかの実験を並行で作業している。明らかにオーバーワークで、実験機器をぶちまけて全部を駄目にしてしまいそうに見えるが──まだやらかしてはいない。

 

「今夜締め切りの論文の奴だ!」

 

 顔は上げない。そんな時間ですら惜しい。

 

「いや、それ二つありますよ!?」

 

 ウェイバーもまた──手を休めない。というか、休められない。ここで休んだら論文が書けない。ただでさえ、終わるかどうか……まあ普通に考えたら諦めるしかないのだが。

 

「くそ! 時間が足りん!」

「あと人手もね!? 雇えないんですか?」

 

「私に付き合ってくれるのはお前くらいだ!」

「じゃあ、仕方ないですね!」

 

「ああ、だが──すぐに奴らの鼻を明かしてやるさ! そうすれば、また手のひらを返して手伝わせて下さいと土下座しにくるさ」

「いいですね、それ!」

 

「ならば──」

「絶対に遅らせるわけにはいきませんね!」

 

 二人は多忙な研究の日々を送っていた。時計塔とは研究者の集まりだ。権力構造が歪んでいて、随所に弊害が出ているが表向きの存在理由としてはそれ以外にない。

 

 研究の実証ができなくなったからと言って──いや、準備をすればできるのだ。ケイネスは多くの権限を奪われ、実家から勘当まで受けた。ソラウとの婚約もなかったものとなった。だが、上層部と交渉し時計塔に残らせてもらった。もちろん、ここでやるものといえば研究以外にない。だからこそ忙しくしている。しかも、雑用までやらなければならないと言うのだから。

 

 それでも、二人は未来に希望を持っている。まだ研究はできるのだ。それに、論文は数を出さなければならないと言っても、実は数を多く出した奴が偉いのだ。家ではなく、研究者としての実績は数で決まってしまう。引用された数で偉さを決めるのはインパクトファクターと言うし、彼ら二人の研究は時計塔に突き付けられた条件により秘匿できないが──基本的に秘匿が徳とされる魔術師ではそんなものは無意味だ。

 

 偉くなってやろうと日夜精根尽き果てても気力を絞り出してずっと研究ばかりやっている。ウェイバーは征服王の従者に相応しい自分になれるように、ケイネスはソラウを嫁に貰えるように。本当に頑張って──倒れそうなほどに頑張っている。

 

 

 

【綺礼&瑠生side】

 

「では、行くか」

 

 瑠生が片手にスーツケースをもって教会を後にする。後始末も引き継ぎも終わり、新しい仕事へ向かうのだ。

 

「ええ。しかし、本当によろしかったのですか?」

 

 綺礼が付き従う。実を言うと、立場は逆転している。ここ日本ならまだしも──今の仕事は瑠生が従う立場だ。

 

「何をいまさら。その手の話は聞き飽きたよ」

「確かに、あなたほどの人材をあんな仕事に使うとは考えられないことでしょう。私も、まさか認められてしまうだなんて思いませんでしたよ」

 

「知り合いは多いのでね」

「……まさか、あなたにそんな知り合いが居たとは」

 

「買い被りだな。私はそこまで潔癖でもないんだぞ」

「新しい発見です」

 

「ならば、私も新しい発見とやらをさせてもらおう。この道ではお前が先輩だ。教えてくれ。……ああ、これも新しい経験だ」

「ええ、思いもしなかった。私があなたに何かを教えることになろうとは。……それも、殺人の術を」

 

「これも神の教えに従うがゆえだ」

 

 二人は空港へ行き、紛争地帯へと飛び立つ。そこに危険な魔道書がある。──人を殺しても手に入れたいほどに価値のある“それ”が。

 結局、綺礼は真っ当な職に就くことを拒否した。神父になればどこかの国で穏やかな生活ができたろう、冬木に来る前の瑠生()と同じように。だが、瑠生までも──代行者になるとは誰が予想できたか。

 この父子は新たな道を歩き出した。綺礼は誰かを教えるなどやったことがなかった。適当に神の教えを説くくらいはやったが、神父になるための指導をしたことがあるわけではない。それでも、どうにかこうにかやっていくのだろう。

 ──答えを見つけるため。今度は二人で歩き出した。

 

 

 

【時臣side】

 

「……っぶは!」

 

 時臣は安酒をかっ喰らっていた。葵との離婚騒動で多くの財産を失っていたものの、このような酒など飲む必要がないほどの金はあった。

 なのにこんな風味もへったくれもない度数が強いだけのアルコール飲んでいるのは──合理性ゆえだった。ただ酔いたいだけなのに高いワインなど必要ない。

 

「くは──」

 

 今は一人。広くなったように思える屋敷をどこともなく見つめる。

 こうして奥に引っ込んで酒をかっ喰らってはいるが、現世とのつながりを断ったわけではない。商売は続行しているし、繁盛もしている。こんな姿は誰にも見せていない。

 一人になってしまった屋敷で、ただ悪い酩酊に呑まれて体をぐらぐらと揺れるに任せる。

 

「あーあ……」

 

 だが、魔術の研究はしていない。部屋も、道具も、すべてそのままに放置した。まだ埃が溜まるほどの期間が経ったわけではないが、彼の人生でここまでの期間足を踏み入れないなどありえなかった。

 

「はー……」

 

 直接ビンに口をつけて酒を喉に流し込む。焼けるような感覚が今は身に染みる。

 ワインなど、しょせんはたむわれでしかなかったが今は手放せない。酩酊した感覚が心地よい。どうせ、現実に居ても奈落に堕ち続ける感覚を無限に味わうのみ。

 

「……うーい」

 

 とはいえ、人にこの姿を見られないようにしている。実は離婚騒動があってショックを受けているのに働きぶりは確かだと、商売相手からは逆に尊敬の念を覚えられているほどだ。

 だから、かたんと扉が開いた音に驚いて──見られたくなくて顔を隠そうとしたら椅子から転げ落ちてしまった。

 

「うわ。うわわわわわ──」

 

 どうしよう!? と、相手が誰かも確認できずに焦りまくって──焦るばかりで何もできない。

 

「──お父様!」

 

 凛とした声が響いた。

 

「え? ……凛」

 

 ぱちぱちと目をしばたたかせた。酔っているとはいえ、実の娘を見間違えたりしない。

 

「お母様は会うなと言ってます。でも、どうしても会いたくて……話をしたくて」

 

 ただ、この子は葵に親権を取られて会うことは叶わないはずだった。いや、もしそれがなくとも──聖杯戦争は二度と行われない。その秘儀は永遠に失われてしまった。

 間桐が潰れた。アインツベルンは音信不通。根源への道は閉ざされたのだ。だから、凛には好きにさせようと思った。全ては無駄と散ったのだから。

 

「なぜ、君が──」

 

 葵の元で新しい人生を踏み出せばいい。大学を卒業するのに十分すぎるほどの金は渡した。

 だから、凜はもう自分には用がないから会うこともないと思っていた。……なにより桜は時臣を恐れるようになっていた。大人を恐れて、助けてくれた少年のそばを離れない。凜はそんな桜の世話を焼いていた。桜のそばにいるならば魔術は捨てなければならない。なぜなら、桜の魔術回路は虫食い状態で、周りに魔術師がいるだけで魔力が流れてショック死する危険がある。

 一人前の魔術師になると言うことは、桜との関係を切ることに他ならない。

 

「お願いがあります」

 

 凜は覚悟を決めた目をしていた。ああ、私もそんな目をしている時があったな──と、想いを馳せる。ぼんやりとして思い出せない。あれはそんなにも遠くの記憶だったか。

 

「何だい? 私にできる事なら何でもしてあげたいけど、できることなんて何も……」

「魔術を教えてください」

 

「魔術を? だが、遠坂一族の悲願を果たすことはもうできない。それに、ここは倫敦ではないんだ。魔術なんて覚えるよりも、普通に教育機関に行って教えを受けた方が将来の役に立つ」

「そんなことはありません」

 

「凛、魔術は過去のものだ。聖杯戦争が失われた今──そこに至る秘儀を取り戻す術はない」

「──それがどうかしたのですか?」

 

「それがどうしたって、聖杯戦争がなくなったのなら魔術を習う意味なんてないじゃないか」

「あります」

 

「──え?」

「意味はあります。聖杯を掴めないのなら、他の手段で根源を目指せばいい。遠坂の彼岸は根源の到達。その手法の一つが失われたなら、別の方法を探しましょう」

 

「……な。それは──え? 確かに……その通りだが」

「なら、やっぱり意味はあるんです。受け継いでいく価値も。だから──教えてください。遠坂の魔術、その全てを」

 

「ふふ。ああ、確かにその通りだ。凜、君に教えられてしまったよ。私は君に全てを教える。後は頼む。そして、私から引き継いだ君が、次に引き継がせる。そして、その次に──遠坂の悲願を果たすまで次の世代に託し続ける」

「はい。お父様」

 

 二人の父娘は聖杯戦争ではない他の方法で遠坂家の悲願を果たす方法を探す。そして、そのために次代を育てる。

 

 

 

【切嗣&アイリside】

 

「さて──来たね」

「ええ、来たわ」

 

 二人はアインツベルン城の前にいる。聖杯戦争終結の後に大聖杯を破壊し、一晩休んだのちにすぐに発った。そして、ここにいる。

 

「結界、か。ユーブスタクハイト爺は僕たちを迎え入れる気はないようだね」

「そうね。でも、話し合いは大事よ? 拒否するだけじゃ、何も伝わらない。それは──とても悲しいことだわ」

 

 結界が二人を拒んでいる。そもそも二人の姿は軽装だ。ここは雪に閉ざされた場所──こんな軽装ではまず極寒によって殺されるはずだ。なのに、平然としている。

 

「戦わなければ得られないモノもある。僕たち二人の大切なモノを取り返そう」

「いいえ。強奪なんてしない。子供を無理やり奪われる世の中なんてあっていいはずがない。だから、話し合って譲ってもらうの」

 

 アイリスフィールがエクスカリバーを召喚して結界をたたき割った。

 

「そうだったね。彼は奥にいるはずだ。まずは彼に会いに行こう」

「ええ。会いに行きます、お爺様。だから──少しだけ待っていてね、私たちのイリヤ」

 

 遠慮なく入っていく。迷いはない。まっすぐに歩いて行く。

 

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