Fate/Zero【人間賛歌の魔王】 作:Red_stone
ノリと勢いだけで書くはずがかなりの難産でした。細かいところは気にしないでくれるとありがたいです。
「ここ……は?」
呟いたのは長い茶色の髪を生やした青年だ。今は温和そうな顔をしているが、やるときはやる男である。
銀河の果てで一仕事終えて、永い眠りに着こうとしたところでいきなり教会風の部屋へと放り出された。それが今の端的な現状だった。
「俺は──三重連太陽系の崩壊に巻き込まれて死んだはずじゃなかったのか……」
そう、この男こそ勇者。人類を守護する
彼の記憶は銀河の中心でソール11遊星主と戦ったところで途切れている。勝利を得たが──地球に送り出せたのは少年二人だけだった。彼を含む仲間たちは三重連太陽系とともに消滅する覚悟を決めていた。
「しかし……穏やかな雰囲気だな」
……覚悟を決めていたのだが、肩透かしを食らった気分だ。致命傷寸前で改造手術でも受けなければ助からない傷を負っていたはずだが、今は傷一つない。全身を蝕む疲労すらも消えている。
「良い面構えだな、客人よ」
声がかけられた。
「ッ誰だ!?」
声にはまぎれもない尊敬の念が込められていた。だが、凱の神経に触ったのは別の感触──妄執とも呼ぶべき強烈な意思。全身から発せられる強烈な精気。
……こんな目立つ男になぜ気付かなかった!? 顔つきが変わる。柔和な優男から戦士のそれへと。
「俺の名は甘粕正彦。会えて光栄だ──気高き勇者、凱よ」
凱は焦るが、一方で相手は穏やかだ。少なくとも、表面上は。こいつは強い、と本能で理解する。
「──客人と。俺を呼んだのはお前か!? GGGの皆はどうなったんだ!?」
どのような“力”を持っているかはわからないが、何をしてきてもおかしくない。あるいは幾多の星を機械昇華させてきたZマスターよりも強いかもしれない。
「さて、どうなったものやら」
敵意は感じられないが──しかし、これは薄氷の上の綱渡りだ。何がきっかけで襲いかかってくるか知れたものではない。
「……敵、か」
構える。こうなってみれば、最初から悪人と以外に言いようのない顔だった。
「いや、本当にわからんのだよ。ここでは他人の記憶を読むということもできるのだが──未来を見ることはできないのでね。君の仲間のことは知っているが、どうなったのかはわからない」
「ならば、どうして俺はここに居る?」
「ふと、目についたから捕らえてみた。吟味はしている最中だ。しかし──中々の拾いモノだ。もしかしたら、お前は盧生の器になれるかもしれん。うむ……」
「──盧生?」
「む? ああ……悪いが、俺は君の期待には応えられそうにない。そもそも、どうやら俺とお前では生きている世界そのものが違うようだ。というか、お前を引き込んだはいいものの──引き抜いた世界を見失った。どう見つけていいモノかもわからん」
「な……」
絶句した。つまりは物を考えずにとりあえずやってみたら、できてしまったということだろう。後先も考えずに。
やってみたらできた、しかし逆のことをしようとしてみたらできなかった。と。……この男──
「もしかして、ただの馬鹿じゃないのか……?」
「……む。そう言われることもよくあるがね。しかし、俺は常に己に思考することを課している。頭は使わなければ鈍る。努力のかいあって頭の働きは人後に落ちぬと自負している。根拠のない自信は滑稽だが、己を卑下することはさらに見苦しい。自信を持てぬ男にはいかなる魅力もない」
自信満々に断言した。
「……いや」
こんなふうに大真面目に語るところが馬鹿っぽいとか言われるのではなかろうか。
「ふむ、君に当てがなければ俺の話に付き合っては貰えないだろうか」
「……そんな暇は──」
ない、と言いかけたが、考えて見たらこの世界と元の世界の時間が同じように進むとしたら、すでに三重連太陽系は潰れている。そう考えれば、むしろここで情報を引き出した方がいいのかもしれない。
どうせ、仲間を救うためには時間軸を調整する必要がある。過去にさかのぼるのは超龍神の実例があるから、やってできないことはないだろう。
「君は勇者と呼ばれていた。何度も世界を救った──ああ、君は素晴らしい勇者だとも。その勇者に聞いてみたい。勇者と呼ぶべきではない者たちについて、君はどう思う? 君が守ったものに関して、どういう感想を抱いているのか。俺はそれを聞いてみたいのだよ」
勇者でないもの? それは──
「バイオネットや他の犯罪者のことか? 打倒すべき悪であり、できることなら彼らは更生させるべきだと俺は考えている」
「ふむ、俺は犯罪者など死刑にすべきと考えているが──それは置いておこう。そもそも社会的背景が異なれば死刑廃止論に意味はない。俺が言っているのはそういうことではない。明快な悪ではなく──さりとて勇者になろうともしない普通に生きる人間。力がないなどとうそぶき、何の努力もしない者たちだ。そう、実例を上げれば……君たちがゾンダー、そしてソール11遊星主と戦っていたとき、何もしない奴らが居たはずだ。口は出したかもしれんがね」
「まさか──長官達のことを言っているのか? だとしたら許さないぞ。あの人たちだって、ともに戦う勇者だ! 武器を取ることだけが勇気じゃない」
「彼らを馬鹿にするつもりなどみじんもない。しかるべき時に備え、万全を尽くす──お前の言う通り武器を取ることだけが勇気ではない。決して諦めず、ともに戦う……ああ、人も機械も関係なく、お前たちは本当に素晴らしい勇者たちだ」
「ならば、誰のことを言っている」
「居るだろう? ただ、願うだけ──祈るだけ。何もしようとはせず、ただ嵐が通り過ぎてくれと──他の誰かが何とかしてくれと叫ぶ恥知らずども。己を罪なき無辜の民などと呼ぶ“自称”弱者たちが」
「……ッ! それは違う。彼らには彼らの生活がある。人々の生活を守るために勇者がいるんだ。逆じゃない──彼らの幸せを願うからこそ、俺たちは戦うんだ! 彼らが後ろにいるから戦える。お前の言うことは破綻している」
「君は高潔な勇者だ。彼らを邪魔などと思ったりはしまい。だが、本当に思ったことはないのかね? 高尚な理想を理解しようともせずに、己が利権のみに執着する俗物どもが邪魔だと。なあ──宇宙の危機を後目に、勇者たちを地球から追い出して。考えるのは自分の面子だけだ。危機に際して、どう責任を逃れるか以外に考えが及ばない愚物ども。君は本当にあんな奴らは死ねばいいと思ったことがないと?」
「あれは方便だった。国連事務総長は俺たちを送り出すために苦渋の決断をしてくれた。俺たちは感謝こそすれ、恨みなどしていない……ッ! 皆、自分の仕事を果たしただけだ」
「苦渋の決断? 力で奪えなくて、それでもかけた金が惜しくて、苦し紛れに追放扱いにすることが彼らの仕事か。ふん、俺のぱらいぞでは真っ先に死ぬタイプだな。しょせん、誰かの後ろに隠れるしか能のない声ばかりが大きい連中に過ぎない。奴らには危機に際して立ち上がる気概すらない。実際、彼らは何も行動を起こさなかったろう?」
「彼らは自分の仕事を果たしてくれたはずだ。俺は帰れなかったから今地球がどうなっているのかわからないが、異常気象の中で一人でも多くの人を救うために行動を起こしている。俺はそう信じている」
「君が知らない以上、俺は君の世界の人間がどうしたのかは知らない。だがな、俺の知る限りでは──災害が起こった時、いわゆる上の人間は責任逃ればかりしていたよ。君の言うやるべき仕事を果たした人間というのは、権限もない下の人間でね。越権だと後で責任を取らされたよ。いわゆる“偉い人間”というのは国家に寄生して生き血をすすり、何かがあれば立場の弱い者に文句を言う。危機に抗うことなど考えることすらできない。そんな奴らを助けるために勇者が死ぬなど──実に惜しいとしか言いようがない」
「な──貴様は、そんな言い方……! なんでそんなことが言える!? 彼らは生きている。理不尽に奪われていい命じゃない。追放されようと、俺は戦う! 皆を守るために。今を生きる人々の輝きを守るために!」
「いいや。理不尽に立ち向かうことこそが人の輝きだ。ゾンダーは実に良い脅威だった──君たちという輝ける勇者を生み出した。俺は必死に生きあがく人間を愛している。君の世界は参考になったよ。やはり、何の力もなしに理不尽に立ち向かうことは難しいか。ならば、Gストーンに相当する力を世界にばらまけばいい──そうだ! 何も変わらない。我が計画は何も間違ってなどいない!」
「計……画……?」
「さて、君は素晴らしい勇者だ。ゆえ、俺と戦う勇気はあるのだろう?」
空気が変わった。
中と下含めて3日連続で投稿します。