Fate/Zero【人間賛歌の魔王】 作:Red_stone
「なに?」
殺気を感じて、体がのけぞった。
「…………ッ!?」
ひゅん、と音がして目の前を剣閃が通り過ぎて行った。
「どうした、勇者!? 戦えないなどと、そんなことは言わないだろう──お前ほどの勇者なら!」
勝手なことを、と思うが──
「そっちがその気なら……イー! クイィィィップ!!」
どこからともなくIDアーマーが現れ、装着される。普段はトランクに入れておくものだが、ここに来たときは影も形もなかった。できると思ってやったら、できた。
正直訳が分からなかったが、そんなことを気にしていられる状況じゃない。
「人間賛歌を謳わせてくれ……喉が枯れ果てるほどにッ!」
数段強い踏み込み。地震が起きたのかと思えるほど。どうやら奴もまた生身ではないらしい。
「──だが、見えないほどじゃ……ない!」
隙一つ見えない敵は恐ろしい……実際、こういうひたすらに練度を高めて行った敵というのは出会ったことがない。ゾンダーしかり、遊星主しかり、武術などというまどろっこしいものは使わない。そんなものより特殊能力を使う。
ぎりぎりで刀を視認してかわし、ウィルナイフで反撃した。
「っは! 勇者も生身ではこんなものか。だが、こんな時はどうする。鋼の凶弾から誰かを助けられずして何が勇者か!」
あっさりと飛びのいてかわした甘粕は背後に何十種類、何百丁もの銃を創造する。
「こんなものまで──マズイ!」
凱のスーツはもちろん防弾性能くらいはあるが──あれだけの数に撃たれれば中身がぐちゃぐちゃになる。
いくら超人エヴォリュダーでも、無限回復能力なんて持っていない。怪我をしたら死ぬ。犯罪者たちの戦いを乗り切れたのは……そう──仲間たちのおかげだ。似たような状況に陥ったときは仲間が助けてくれた。だが──今は。
「仲間が……勇気が……足りないッ!」
銃口から火が吹く。いくつもの銃声が重なり、大きな爆音となる。教会を倒壊させそうなほどの音──いや。
「……俺は一人じゃないッ!」
ライオンが居た。
「行くぞファントムガオー! ……フュージョン」
「来たか、勇者!」
隠し切れぬ笑みをたたえた甘粕が機械の獅子に凱が一体化するのを見届ける。
「ガオ! ファー!」
ライオンが人型になり教会を踏みつぶす。
「なるほど、素晴らしい! 勇者の力──魅せてもらおうか!」
甘粕は脅威よりもむしろ喜色を感じている。まるで本物のヒーローに会った子供のように目を輝かせている。
「っでやぁぁぁぁぁ!」
「ぬおぉぉぉぉぉぉ!」
人一人分はあろうかという爪三つを立てて──巨体の重さを十分に活かす上から下への飛び蹴りを放つ。そして、人間程度の大きさしかない敵はあろうことか刀を抜いて真正面からぶつかる気だ。
「「っ!」」
衝突。わずかな時間、拮抗し──
「うわぁぁぁぁぁ!」
なんと、巨大ロボの方が弾き飛ばされる。まるで戯画的な悪夢──何倍もある敵を吹き飛ばしてしまうとは。体重にして数十倍はくだらないだろう。しかし、この男にそんな常識は通用しない。
「っ甘粕ゥ!」
吹っ飛ぶ中で凱は、甘粕が天に手を掲げるのを目撃する。
「弱いな。勇者──この程度か? それでどうする。貴様の世界は俺の世界よりも進んでいるようだ。ならば、あったのだろう。日本が焼かれたことが。再び核の火が灯されたとして、お前は守れるのか? なあ──勇者!」
創法……とてつもない練度、そして密度を誇るそれは超兵器さえも自在に作り出す。かつて日本に落とされ、地獄を作り──何十年経とうと消えない傷跡を残した“それ”。その兵器の名は──
「リトルボォォォォォォイ!」
此処に最悪の兵器が現出した。
「核? まさか、そんなものを──」
ガオファーにその超高熱を耐えるだけの防御力はない。その熱量を前に塵一つ残さず、影だけ残してこの世界から消え去る。
「終わりなのか? 俺たちは──」
……声が聞こえた気がした。
「誰だ?」
懐かしい声。負けるな、と励ましてくれている。
「……ッ!」
その瞬間、莫大な熱量が世界を焼き尽くし、衝撃が全てを押し流した。
「む。やってしまったか」
と、全身をやけどで爛れされた甘粕が呟く。そりゃ、そうだ──ここまでの高熱、盧生と言えどもダメージを負う。直前まで超精密な創法を使っていたのだ。どうしても防御は遅れる。というか、そもそも……
「……消し飛ばすつもりはなかったのだが」
そのまま核が爆発すると言う発想がなかった。凱がなんとかするだろう、とそんな風に考えていて、爆発は予想外だったから防御が遅れた。
とはいえ、死ななかった。ならば、盾法で体を再生するのも容易。力を分け与えられただけの眷属でも一片の肉片から回復できる。そのオリジナルであれば、細胞の一片が残っているならさして盾法が得意でなくとも次の瞬間に完全回復くらいはやってのける。
「──おお!」
回復した目に渦が巻く光景が飛び込んできた。甘粕の起こしたものではない。つまり。
「ファイナル……フュージョン! ガオ! ファイ! ガァァァァー!」
凱はまだ生きている。渦を蹴散らし勇者王の雄々しき姿を誇る様に降臨する。
「そうだ。これくらいで倒れるはずがない! そうだよな──勇者!」
あふれ出るほどの精気を発散して笑みを浮かべる……この男は楽しんでいる。
「お前は危険すぎる。ここで倒す!」
勇者王の胴体にあしらわれた獅子の口が開き、光輪を射出する。腕を掲げ、その光輪を纏い──
「ブロウクン……ファン! ──トォォム!」
腕ごと飛ばす。
「素晴らしい! ならば俺も対抗しないわけにはいくまい──ロケットォ! パァァァァンチ!」
対抗して腕を文字通り“斬り飛ばして”ぶん投げた。彼の使う邯鄲法の術理に照らせば、強そうと思えば強くなるから間違ってはいない。
「──ッ!?」
凱が驚愕する。はたから見ればキチガイの意味のない自傷行為だ。一瞬ひるんだ。
「まずい!」
その隙に二つの腕の威力は相殺された。腕は明後日の方向へ飛んでいく。もちろん、すでに甘粕は腕を再生している。
「……まだだ! もっと燃えろォォ」
甘粕が飛び上がる。──はるか上空、雲を超えるまで。
「何だ……?」
上を仰ぐ。
「スぅパァァァ! イナズマ! キィィィィィィック!!!」
天に上った甘粕は雷を纏い、地上のガオファイガーに向けて一直線に蹴り降ろす。
「お前には負けられない! ドリルニィィー!」
凱は膝のドリルで迎い撃つ。
「がぁぁぁぁぁ!」
ドリルが砕かれた。その下の足も半分ほどちぎれて、挙動がおかしくなっている。
「っこのォ!」
無事な方の拳を握りしめ、殴りかかる。
「甘い! ゲッタ―トマホォォォォク!! ブゥゥゥメラァァァァン!!!」
身体の三倍はある斧を投げつけた。
「っぐ! うわあああああ!」
胴体に当たり、体ごと飛ばされる。巨大なロボットが人間に振り回され、いたるところをボロボロにしている。いっそ笑ってしまうような光景。
「まだだ。俺の勇気は折れていない!」
転がった腕をもどす。右足と左腕はちぎれかけ、右腕も火花を散らしている。立つのでさえ辛いような有様。それでも凱は立ち上がる。それが勇者。
「地球を守るため、か。なんとも美しい。ああ、傷つき、倒れ──なおも民草を守るために立ち上がる。それこそが俺の愛する真の勇気と言うものだ。もっと俺に魅せてくれ、お前の雄姿を!」
「それは違う。傷つくこと、倒れることが美しさじゃない。強敵にあきらめず立ち向かうことじゃ、もっとない。真の勇気は、美しさは──誰もが笑って暮らせる平和な光景だ! それは戦いの中じゃない。……先にこそある!」
「平和の中で育まれるのは堕落、そして恥すら忘れた家畜のみ。違うと言うのなら、お前自身の手で証明して見せろ。……スペシウムゥ! コォォォォセェェェン!!!」
腕を交差させ、青白い光を放つ。エネルギーの密度が先ほどとはケタ違いだ。寒気を感じるほどに──とてつもないエネルギーが集中している。
「……なんという力──対抗できるのはこれしかない! ヘル! アンドォ──ヘブン!!!」
左手には紅光、右手に黄光が宿る。限界以上のパワーが供給され、体のあちこちが軋む。半壊状態で使えるような業ではない。だが──
「機体の不足は勇気で補えばいい!」
轟、と嵐が吹き荒れる。道を示す。敵へと至る道を。
「ヴィィィィィタァァァァァァァ!!!」
スペシウム光線もどきとヘルアンドヘブンがぶつかり合う。
「勝つのは──俺だ!」
じりじりと、スペシウム光線の蒼光を切り裂いて行く。
「ああ──真の勇気を見せてくれ」
蒼光が止まった。
「かっ……」
勝った、そう思って。
「まだだ! ライダァァ……キィィィィィィック!!!」
甘粕の蹴りによる馬鹿げた衝撃が全身を襲った。
「ぐわああああああ!」
押し負けた。ヘルアンドヘブンの力が、腕が破壊される。
「勇気が──」
ガオファイガーの全身がばらばらになる。外装は崩れ、中身も半分ほど砕け散って横たわる。
「──砕かれる……ッ!」
もはや指一本動かせない。そもそもガオファイガーには指どころか上半身が残っていない。
「まだ諦めていないか? 当然だ、お前こそ勇者──こんなことで諦めるはずがない」
甘粕は一人合点する。
「ああ、信じているさ。お前のことを信じている。俺は魔王としてお前に立ちはだかる。さあ、この脅威にお前はどう対処する?」
答えなど聞いていない。起き上がれもしない相手に対して、まだ戦えるのだと心の底から信じている。地べたにはいつくばっても、また立ち上がれるのが勇者なのだと。
「ツァ────リィ…………ボンッバッァァァァァァ!!!」
ゆえ、今ここに最大規模の災厄が到来する。人類史の歴史の中でも最凶、最悪の類に属する。威力にして広島型核爆弾リトルボーイの3300倍にも達する。この夢の世界を砕きかねないほどの脅威。
「あ──」
凱にはどうすることもできない。打ち壊されたガオファイガーはピクリとも動かない。絶望に心が飲まれそうになる。
いや、ガオファイガーが動けたところでどうしようもないのだ。プロテクトシェードなど、この人類が生み出した最大の災厄の前に何の意味も持たない。
「さあ、見せろ!」
と、甘粕は言う。だが、もう凱には何もない。“凱には”