【凍結】ドラゴンクエスト ~次元の竜と異界の者~ 作:しましま猫
このお話は、プロローグのさらに前書きみたいなもので、読まなくてもそんなには影響ないかもしれません。
予告編みたいなものだと思って読んでください。
NEW GAME 封印された伝説
我々の住む「世界」の裏側には、いくつもの別世界が存在するという。それらはお互いにわずかながら影響するともいわれるが、真実のほどは定かではない。
これは、偶然にもその「別世界」のひとつを覗いてしまった若者の物語である。
ゲーム機が家庭に普及するようになって、いったいどれくらいの年月が過ぎたのだろうか。いつしか人は、現実を疑似体験できる技術を確立し、特に様々な職種の訓練に多用するようになっていた。この「バーチャルリアリティ」のシステムにより、ゲーム業界も「疑似体験」を提供するハード・ソフトの開発にしのぎを削っていた。
***
そして、ここはとあるゲーム会社の社屋ビルの一室、所狭しと並べられた装置に接続された端末を前に、何人かの開発者たちが難しい顔をしているのだった。
「……なぜだ、なぜ戻ってこない!」
「お、落ち着いてくださいプロデューサー。」
「これが落ち着いていられるか! 消えたんだぞ、忽然と、何の痕跡も残さずに!」
プロデューサーと呼ばれた長身の男は、焦りやいらだちを隠そうともせず、隣にいるメガネをかけた長身の男を怒鳴りつける。その間にも何人かが手元の小型端末をたたき、何とか事態の収拾を図ろうとしている。しかし、
「だ、だめです、バーチャル領域にも反応がありません!」
皆が取り囲んでいる、カプセルのような装置の真上に取り付けられた大型モニターを眺めていた小太りの男性が叫び、その直後がっくりとうなだれた。
この実験室のような部屋は40畳ほどはあるが、その大半が大きなコンピュータ装置で埋め尽くされており、さほど広いとは感じない。部屋のちょうど中央あたりに、カプセル型の装置がいくつか置かれており、その真上に、先ほど小太りの男性が見ていた大型モニタ、ざっと見積もって100インチ程度のものが天井からつるされており、壁には所狭しとサーバーラックのようなものが並べられ、もはや何が何とつながっているのかさえよくわからないような配線が、ごちゃごちゃと天井から垂れ下がり、あるいは床を這い回っている。今、カプセル装置の一つが開かれており、そこを十数名が取り囲み、騒ぎになっている。数十分前まで、このカプセル装置には人間が入っており、とある疑似体験ゲームのテストプレイをしていたところだった。しかし、プレイ中に装置が原因不明のエラーをはき出して強制終了し、カプセルは安全装置により自動的に機能を停止して開いた。本来ならばその中には人間が寝かされているはずなのだが…、いないのだ、装置の中は「もぬけの空」だったのである。
「ど、どうしますプロデューサー、どのように報告を…。」
「う、うぅ、む。」
プロデューサーからすれば、誰かに代わりに答えてもらいたい、そんな心境だっただろう。しかし、彼こそがこのプロジェクトの責任者、判断は彼が下さなければならず、会社の重役に報告し裁断を仰ぐのもまた、彼の役目であった。
そして数週間後、社運をかけたはずの大プロジェクトは、永久に凍結されたのだった。
***
はるか昔、世界に突如出現した「魔王」は、その強大な力で邪悪な者たちを束ね、世界を手中に収めようとした。幾人もの勇敢な者たちが立ち向かったが、ことごとく倒れていった。そんな中、英雄を父に持つアリアハンの少年が、魔王を倒すため旅立った。彼とその仲間たちは世界を巡り、魔王の脅威から人々を救い、世界中に散らばる秘宝を集め、数々の奇跡を起こしていった。いつしか人々は彼を英雄の息子ではなく、世界を救う「勇者」だと確信するようになった。
そして、勇者たちはついに伝説のオーブをすべて集め、精霊神に仕えるという不死鳥をよみがえらせ、何人も到達不可能といわれる魔王の居城に降り立った。激しい戦いの末、勇者はかろうじて魔王を打ち倒したのである。
魔王討伐をアリアハン王に報告する折、新たに大魔王と名乗る者が現れる。魔王は大魔王の手先の一匹に過ぎず、やがて世界は闇に閉ざされるという。勇者は災いが出でるという大穴を通じて闇に閉ざされた世界・アレフガルドに向かった。精霊の力を借りるための秘宝を集め、魔の島へ渡る奇跡の橋を架け、勇者は大魔王の魔城に到達する。
大魔王の城の中、襲い来る凶悪な魔物を退け、勇者たちはついにその最深部へ到達する。そこで行方不明だった父に遭遇する。しかし、大魔王の側近と激闘を繰り広げた末、英雄は敗れ死亡する。勇者は父の仇を退け、城の奥深くで大魔王と対峙、竜の女王より受け取った光の玉を使い、辛くもこれの討伐に成功する。こうしてアレフガルドは光を取り戻し、勇者はその功績により『ロト』という称号を与えられた。しかし、その後勇者の姿を見た者はおらず、かくして勇者ロトはアレフガルドの伝説となった。
それから数百年後、アレフガルドを治める王国ラダトームが保管していた光の玉はいずこよりか現れた魔物の王に奪われた。これにより魔物の封印が解け、またラダトーム王女も魔物にさらわれた。多くの物が竜王討伐のため旅立ったが何れも失敗に終わった。そんな時、とある予言者がロトの血を引く勇者の出現を予言。予言通り勇者は王国に現れ竜王討伐のため旅立った。
やがて勇者は沼地の洞窟に幽閉されていたラダトーム王女を助け出す。さらに竜王の城がある魔の島に赴き、竜王討伐に成功。ラダトーム国王より王位の禅譲を持ちかけられるものの、自らの国は自らで探す、とこれを辞退。王女とともに新天地を求めて海を渡っていった。
海を渡った勇者は辿り着いた新天地でローレシアという国を築いた。妻との間に三人の子をもうけた勇者は、子供たちのために国をローレシア、サマルトリア、ムーンブルグの三つに分けた。そして三ヶ国はロトの姉妹国として共に発展していった。
それから百年後、ムーンブルクが魔物の軍団に襲われたとの凶報がローレシアへ届く。元凶である邪教の大神官を討伐するためローレシアの王子が城を旅立った。王子はサマルトリアの王子との合流を果たし、邪教の呪いで犬の姿にされたムーンブルクの王女を救い出す。やがて三人は海を渡り先祖の地アレフガルドへ向かう。かつての魔王の城にてその血族と出会い5つの紋章を集めれば精霊ルビスの加護が得られることを聞く。紋章を集めルビスの加護を得た三人は大神官の神殿のある雪原地帯・ロンダルキア台地に進行、大神官、そして邪教徒たちの信仰する破壊神を討ち滅ぼす。凱旋して間もなくローレシア王子はその功績を讃えられ、父王より王位を譲り受けるのであった。
「う~ん、勇者かぁ。」
夜なのだろうか、ランプのともる薄暗い部屋で、少年はある本とにらめっこをしながら、難しい顔をしてつぶやいた。
「おや、また本を読んでいたのかい?」
「あ、マリス様。」
「おまえさんはその本が好きだねぇ。」
マリスと呼ばれた老婆は、少年の頭をなでて、にこにこと笑う。が、次の瞬間、咳き込んでよろけ、膝をついてしまう。
「マリス様、大丈夫ですか?」
少年は心配そうな顔で、老婆に手をさしのべる。
「おばあさま、無理をしてはいけません!」
長い黒髪の少女が部屋に駆け込んでくる。続いてもう一人、赤髪をポニーテールに結った少女が入ってきて、水差しを差し出す。
「マリーカに、アンジュか、すまないね、心配かけて…。」
マリスと呼ばれた老婆は部屋のいすに腰掛け、水差しの水を飲んで、それから大きくため息をはいた。そして、先ほど頭をなでた単発の少年に向かい、彼の瞳をじっと見つめ、尋ねた。
「アレン、勇者にあこがれているのかい?」
「よくわかんないや、でも、みんなを守れるくらい、強くなりたい、僕は 呪文が使えないし、体力くらいしか自信ないから。」
老婆は静かに目を閉じ、そしてしばらくたってからまた、静かに語り始めた。
「いいかい、もしも、おまえが強くなって、大きな力を手に入れたなら、決して今の心を忘れてはいけないよ、誰かのために強くなりたい、皆を守ろうと思う、優しい心を。」
「うん、僕、必ず強くなって、みんなを守ってみせるよ!」
「良い子だ。」
少年の答えに満足したのか、老婆は目を細める。
「ま、今のご時世じゃ、城の兵士あたりになったとしても、剣を振るって敵と戦う機会なんざ、そうあるもんじゃないけどね。」
「ちぇ、なんだつまんない。」
「まあ、武器を持って戦うなんて、ない方がいいさ、なぁ。」
老婆はもう真っ暗になっている窓の外へ目をやる、発せられた言葉はこの部屋にいる子供たちではなく、どこか遠いところへ投げかけられたように、漆黒の闇に溶けていった。
「さぁ、おまえたち、今日はもう遅いから、おうちにお帰り。」
「は~い。」
老婆に促され、子供たちはそれぞれの両親の待つ家へ帰っていった。明日もまた来るよと笑顔で手を振って……。
しかし、子供たちがマリスという老婆を見たのは、この夜が最後だった。
***
誰にでも、その人だけの物語がある。人に語られないけれども、大切な、自分だけの物語が。これは、青年の見た不思議な世界、ある男の愛、一人の少女の祈り、幼い姫の願い……。
そう、これは「彼ら」が出会うための「物語」……。
DRAGON QUEST
~次元の竜と異界の者~
=PREVIEW NEXT EPISODE=
何の変哲もない日常は、突然として奪われた。男は見たこともない世界へ、見知らぬものの手で呼ばれてしまう。戸惑う彼の前に、さらなる非現実が、現実として押し寄せる。
レベル1 突然の始まり