【凍結】ドラゴンクエスト ~次元の竜と異界の者~ 作:しましま猫
第1話の投稿がこんなに遅くなるとは……。
書き出しが一番難しいのかもしれないですね……(汗)
それでは、どうぞ。
※一部誤字脱字、表現を訂正しました。
東京都にあるとあるオフィス街の、高層ビル群の一角に、世界的に有名なゲーム会社の本社ビルがある。地下鉄の駅からほど近く、通勤するにも便利そうだ。今日はこの会社で、とあるゲームの25作記念イベントが開かれていた。
その会社を「S&E」ゲームを「ドラゴンクエスト」といった……。
会場となった3階フロアには、朝から多くの人が詰めかけた。そしてイベント時間である午後12時が近づくにつれて、その数は次第にふくれあがり、人員整理をするスタッフも忙しそうにしている。列に並んでいる参加者に整理券らしきものが配られ、皆一様に待ちきれないといった表情で、思い思いに待ち時間をつぶしている。
なぜこの場がこんなに賑わっているのかというと、今日開催される「ドラゴンクエスト25作記念イベント」の一環として、限定グッズが数多く販売されることになっているからだ。しかも、それらの商品は数量限定で、今日だけ特別販売されるものなのだ。いつの時代も、この手のモノに目がない人々というのは案外に多いモノである。
その中にあって、一人無表情で列に並んでいる男がいた。列の前から数えて3番目に並んでいるこの男は、ほかの参加者と違って無表情で、並んでいるというよりただ突っ立っているといった方が適切だろう。特に何かをして時間をつぶすわけでもなく、ただひたすらに、時間が過ぎ去るのだけを待っていた。
「お待たせいたしました、これより限定グッズの販売を開始いたします、整理券をお確かめの上、順番にお買い求めください~!」
時計がちょうど12時を告げた。同時に限定グッズの販売が開始され、人々はお目当ての商品を買い求めていく。先ほどの男も特設カウンターに整理券を出し、目的のモノを受け取って金を渡す。この間もほかの客と違ってずっと無表情で、買い求めた分厚い本を鞄に入れると、そそくさとその場を離れてしまった。
彼、稲田ユウジは25歳、都内の高校で事務員をやっている、ごく平凡な若者である。実は彼はゲームなどあまり興味はない。「ドラゴンクエスト」というゲームは世界的に有名なため、彼も知らないわけではなかったが、あまりプレイしたこともなく、25作目だからといって特別に感慨もわかなかった。そんな彼は、年の離れた弟にねだられて、先ほど手にしていた分厚い本を買いにやってきていたのである。ここまでならよくある話だが、年の離れた弟といってもまだ小学四年生で、さらにその弟は父親の再婚相手の連れ子という、まあ多少複雑な関係になっている。それでも、よくなついてくる子供を邪険に扱うこともできず、興味のないものを買うために何時間も並んでしまうところなどは、この若者、ユウジの人となりを表しているといえるのだろう。
それでも面倒くさいモノは面倒くさい。彼はつまらなさそうに、長い廊下を通ってエレベーターの方へ向かった。ホールでイベントが続けられていたが、そんなものに興味はなかったので、足早に、フロアの西側にあるエレベーターホールに向かった。ほかに帰ろうとするものはおらず、静まりかえった廊下を進み、エレベーターホールにたどり着いた彼は、すぐに2基あるエレベーターの真ん中の、▼ボタンを押して点灯させる。程なくして扉が開き、彼はその中へ入っていった。
まぁ、つまらなかったが子供の喜ぶ顔を見るのは悪い気分はしない。そんなことをぼんやり考えている時、事件は起こった。
「ジリリリリリリリ!!」
非常ベルのいやな音が彼の耳をつんざいた。そして「ガタン!」という音とともに、エレベーターは停止した。どうやら何かアクシデントがあったようだ。おそらくこれは火災報知器の音だろうから、火事でも起こったか、周囲から悲鳴のような、そんな声が聞こえてくる。
周囲がおそらくパニックになりかけているような状況で、密室に閉じ込められている。ユウジは苦笑した。しかし彼は不安に駆られることも、取り乱すこともなかった。まぁとりあえず非常呼び出しボタンを押してみる。
「すみません、閉じ込められたようなんですが。」
彼はいつもと変わらない冷静な口調で、非常用マイクに向かって話しかけた。
「今、ビルの5階で火災が発生しました。その影響でエレベーターも緊急停止しています。すぐに救助を呼びますので、落ち着いて待っていてください。」
スピーカーから女性の声がした。落ち着いて話そうと努めているが、声がわずかにうわずっている。多少動揺しているのだろう。
「わかりました。」
ユウジはそれだけ答えて、エレベーターの床に腰を下ろした。慌てふためいても仕方がない、とりあえず言われたとおりにしておこう。そう考えた。
「それにしても、重たい本だ…。」
ユウジは先ほど購入した辞典のように分厚い本を手にとって眺めてみた。表紙には」25作記念 ドラゴンクエスト大辞典」というタイトルがでかでかと印刷されている。その周りにはモンスターやアイテムなどのイラストがごちゃごちゃ描かれており、いかにもお祭り用の特別販売品だ。ドラゴンクエストというゲームが大好きな義弟は、この本がどうしても欲しかったが、休日にも母親に塾に通わされているため、ユウジに購入を頼んできたのだった。
(まったく、ろくに子供の世話もしねーくせに、塾だの習い事だの、馬鹿なんじゃないのかあの女。)
ユウジは義弟の前では口には出さないが、父親の連れてきた後妻は好きではない。話を聞く限り、仕事人としては特殊な技能があるためそこそこ優秀らしい。しかし母親として、いやその前に人間としてみたときに、彼女の行動や言動は、ユウジにとっては疑問符のつくものばかりだった。たとえば……
ガタン、という少しの揺れの後、急に、エレベーターが動作を再開した。特にアナウンスもなかったが、復旧したと言うことなのだろうか。
エレベーターはゆっくりと降下していく。まもなく1階に到着するだろう。ユウジは本を鞄に戻し、立ち上がって扉の前まで歩を進めた。
(……? おかしいな、もう1階に着いてもいいはずだが……?)
エレベーターは降下を続けている。しかしいっこうに止まる気配がない。不思議に思って操作パネルの上の表示板に目をやる。
「……!」
見なければよかった、とユウジは後悔した。パネルには「緊急停止中」という文字以外は何も表示されて折らず、このエレベーターに未だ稼働するための電力が供給されていないことを示している。にもかかわらず、ユウジの足下は確実に下へ下へ降下しているのだ。彼はここに来て初めて、明確に困惑を覚えた。しかし、通常の人間であれば恐怖でパニックになっていてもおかしくない状況だ。にもかかわらず、困惑という程度で済んでいることからしても、この男の精神が並ではないと言うことがわかる。しかし、そんな彼でも、この不可思議な……いや恐怖体験にも近いような状況は、少なからず心の平穏を乱すものであったのだ。
(これは、いったいどういう………)
状況が理解できず、とりあえず周りを見渡してみる。エレベーターが動いていること以外、特に目立ってここがおかしいという視覚的な変化は、今のところないようだ。
(いや、待て、おかしいぞ……、さっきまであんなに騒がしかったのに……?)
そう、いつの間にか、周囲から聞こえていた騒がしい物音、人の声、非常放送など、そのいっさいが聞こえなくなっている。
(おいおい…、これは、さすがにやばいんじゃないのか?)
ここにきてようやくというか、彼はわずかばかり動揺を覚えた。そんな状態であったから、気づかなかった、先ほど鞄に戻したあの本が、淡い光を放っていることに。
スゥッ
何ともいえない感覚がして、エレベーターは停止した。そして、静かに扉が開く……。
(な、何だこれは!?)
開いた扉の向こう側の景色に、さすがのユウジも目を見開いた。うっそうと茂る木々の間から、陽光が差し込んでいる。どこかの森の中のようだが、そもそもなぜ、エレベーターを出た先がこんなところなのか、彼は訳のわからないまま、エレベーターから出て、ふらふらと前へ歩き出した。
「……ユウジ、私の声が聞こえますね?」
「?! 誰だ!」
どこからか聞こえた自分を呼ぶ声に、ユウジは反射的に問い返した。しかし、声はするが姿は見えない。
「……ユウジ、私はルビス、あなたにお願いしたいことがあって、ここへ呼びました。」
(……何かのイベントの一環か?)
彼は何とか落ち着こうと思い、とりあえず今の状況について考えてみた。たとえばこれは何かの、そうバーチャルゲームのCエムか何か、あるいは体験イベント……。
(ないな……。)
そう、ありえない。バーチャルゲームは手の込んだものだと、現実との区別がつかなくなるほど作り込まれていることもある。しかし、ゲームプレイをするためには未だに「ログイン」という動作がどうしても必要になる。カプセル装置のようなものに入って、それを動作させて眠ったような状態になり、脳波に直接働きかけることで仮想現実を実現しているのだ。したがって、いきなりエレベーターから仮想空間に入る……などということは、現在の技術水準では不可能なのだ。
さて、そうなると……。
(さっきからうっとうしく話しかけてきているこの声は、いったい何なんだ?)
ユウジはとりあえず、さっきから聞こえてくる声の主と、会話ができるかを試みることにした。
「あんたは何者だ。」
ただ、短く用件だけを告げる。少なくとも、自分を強引に、何らかの方法でこんな場所へ連れてくるような存在だ、油断はできない。
「私はルビス、アレフガルドを創造したものです。」
「アレフガルド? 創造? 『アレフガルド』というものを、『創った』ということか? いやそもそも、アレフガルドって何だよ……。」
帰ってきた言葉に、ユウジはさらにわけがわからなくなった。だいたい「創造した」ことはおいておくとしても、「アレフガルド」というものが何であるか、彼は知るはずもなかったからだ。
「……そうですね、唐突な話をしてしまいました。私は大地の精霊ルビス、あなたの世界とは異なる『アレフガルド』という地を創造、……つまり創り出したものです。
(?! 何を言っているんだこいつは……?)
ユウジは何とか平静を保ち、心の中を駆け巡る動揺を押さえ込みながら、必死で頭を回転させた。今の状況がどういうことなのか、声の主が話すことを聞いても、さっぱり理解できない。いや、言葉としてはわかるのだ、。ただ、それはあまりにも現実離れしすぎていて、彼の常識では理解することができなかった。
別の世界があって、それを創った存在が自分の目の前に現れて頼み事をしてくる。作り話、小説とか漫画とか、それこそゲームならばありきたりな話だ。そんな作り話はちまたにいくらでも転がっている。だがそんなことは現実に起こるはずもないし、ましてや自分が当事者になるなどあり得ない。ほとんどの、いや等しくすべての人間はそう思っているだろう。彼、ユウジにしてもそうだ。今話しかけてきている声の主が言うことなど、それこそ聞くに値するような内容ではない。
そう、通常であれば……だ。
先ほどバーチャルではないかと考えたときに、エレベーターに乗ったときに気を失ってみている夢ではないのかと、ユウジはそうも考えた。しかし、目を閉じて再び眠りにつこうとしてもできないし、自分の体をつねって痛みを与えてみたりもするが、普通に痛い。だから、信じざるを得ない、これは紛れもなく「現実」であるのだと。
「……信じたくないが、どうやら現実のようだな。あんたが何者かは興味はないが、俺に何のようだ。」
まだ混乱する頭で、それでも彼は何とか、この状況を打開する糸口を探る。
「先ほども言いましたが、あなたにお願いがあってここへ呼びました。私たちの世界へ来てほしいのです。」
「俺を別世界に転移しようってことか、どこかの売れない二次創作じゃあるまいし、何の目的でそんなことをする?」
「……私たちの世界は今、強大な悪意によって滅びようとしています。それを食い止めるために、あなたの力が必要なのです。」
「そういうことはもう少し、人を見てから頼むんだな、俺はこの通りただの人間だし、もちろん何の特別な能力もないぞ。どこぞの三文小説よろしく、あんたが特別な力でも与えてくれるなら、話は別かもしれないがな。」
話を聞く限り、ルビスという、女だろうこの声の主は、ユウジを自分の世界、つまりアレフガルドというところへ呼ぼうとしているらしい。しかもどこかで聞いたような、売れない作り話のネタのような話だ。返答を皮肉交じりで返しながら、内心これが夢で会ったらよかったと本気で後悔している彼の気持ちなど知るよしもなく、ルビスは一方的に話を進めていく。
「残念ながら、私にはあなたに大幅な力を与えるようなことはできません。私に許されている力は、自分の存在する世界において、限られた場所で創造の力を行使することだけです。自分で作り出したものでない限り、力を与えることはできません。作り出したものであっても、力を奪ったり破壊したりすることも、できませんけれど……。今回、あなたたちの世界で行われた何らかの行為によって、本来関わりないはずのあなたたちの世界と、私たちの世界がつながろうとしています。」
「ちょっとまて、話が見えてこないな。仮にあんたの言うとおりだとして、そっちの世界の危機とこっち側とつながることに、因果関係を見いだせんのだが。」
ユウジの思考はすでに平常にかなり誓いものまで回復していた。彼は非日常的なことを話すルビスの言葉を、ひとつひとつ性格に理解し、その矛盾点について尋ねている。常人が見たのならば、それこそゲームのオープニングとしか呼べないような光景が展開されていた。
「……いいえ、無関係ではありませんよ。今起こっている『世界のゆがみ』とでも言うべき現象は、私たちの世界を脅かしている悪意によって引き起こされています。」
「……ちょっとまて、俺たちの世界の人間が、『世界のゆがみ』ってものを引き起こしたから、関係ない世界がつながろうとしているって言ってたよな?」
「はい、あなた方の世界でいうところの『科学的な研究』と呼ばれているものの一部が、どういう理由化はわかりませんが、異なる世界をつなごうとしているのです。」
「ってことは、中身はわからんけど、その研究、いや研究結果は、あんたらの世界を脅かしている『邪悪な存在』がもたらしたもの……ってことになるのか?」
これはさすがにスケールが大きすぎる、それこそファンタジーで言うところの、魔王やら大魔王やらの力が、自分の今いる世界に干渉して、影響を与えようとしていると言うことになる。その手の話によくあるパターンとして……。
「はっ、いけない、もう、気づかれてしまった……!」
突然、今まで穏やかに話しかけてきていたルビスの声色が変わった。相変わらず姿を見せていないので、表情などうかがい知ることはできないが、先ほどまでとはうって変わった鋭さを感じさせる。何か抜き差しならない事態が起こったと言うことか。
「どうした? 何かあったのか?」
「ユウジ、もうすこしゆっくりと、あなたとお話をしていたかったのですが、どうやらかなわないようです。私があなたをここへ呼んだのは、先ほどお願いしたこともあるのですが……もう一つは、ある人の頼みで、あなたの命を守るため。」
「な、何を言っているんだ、おい?」
「次元の狭間を支配する偉大なる精霊たちよ、アレフガルドの精霊ルビスの名において命じます、かの者を我らが元へ呼び寄せ給え。」
ユウジの反応に言葉を返すことなく、ルビスは何か呪文のような、いやおそらくは呪文なのだろう言葉を、長々と唱えはじめた。ユウジの足下に光り輝く円と、何か文字のような者が浮かび上がる、そう、魔法や何やらが存在する架空の世界では、これを魔法陣といったか。
「狭間の世界を守護する門よ、交わる事なきその運命を交わらせ、かの世界と我らが世界をつなぐ架け橋となれ。天よ、繋がれ!」
ルビスが叫ぶのと同時に、魔法陣から光の柱が立ち上り、ユウジの体を包んでいく。それは目もくらむような輝きで、彼の視界と、そして意識さえも白く染めていった。
「オメガルーラ!」
その声と同時に、青年の体はその場から消え去った。足下にあった魔法陣は消え、わずかな光の粒子がその場に立ち上るのみであった。そして、まもなくすべてが消え、あたりは再び、静寂に包まれた。
「やはり、アレフガルドまでは届かなかった……、せめて、あとわずかな時間があれば……! ユウジ、今はわからなくてもいい、私を恨んでも……でも、これはあの人の祈り、知る人のいない、未知の世界に降り立ったとしても、忘れないでください、あなたは、決して一人ではありません。どうか……どうか、無事で……。」
ユウジは、薄れゆく意識の中で、ルビスの声を聞いたような気がした。それはなぜか、今日初めて出会った者の声のようではなくて……そう、遠い昔に、どこかで聞いた声のような、そんな気がした。
***
「一歩、遅かったようですね、邪悪なる者たちよ。」
「くっ、忌々しい精霊め、異界の者をどこへやった!」
森の中で、赤いフード付きマントの集団が、一人の女と対峙していた。赤い集団は仮面をかぶっており、表情はうかがい知れないが、言葉は怒気を含んでおり、明らかに女に対して敵意を向けている。
「……話す気などない、そういうことか。せめて貴様だけでも葬ってくれるわ! 大気に潜みし悪霊どもよ、集いて砕けよ、かの者を轟音と光のもとに爆砕し微塵とせん!」
集団のひとりが両手を前に突き出し、詠唱をはじめた。その手に光が集まってゆき、前方の空間がゆがんでいく。
「イオナズン!」
その言葉とともに女の周囲に激しい爆発が起こる。すさまじい轟音と突風が周囲の木々を蹂躙していく。風と音とがやんだときには、爆発のあった場所は何もない更地と化していた。爆裂系の上級呪文イオナズン、その威力は広範囲を爆発に巻き込み粉砕する。森の木々さえこの有様だ、女の一人や二人、消し炭どころか跡形も残るはずがなかった。
「う、あ、ばかな……!」
しかし、男は驚愕することになる。先ほどまで爆発の中心にいたはずの女は、それが止んでもなお、同じ場所に変わらず存在していた。しかも、どこかに傷を負ったような形跡すら、まるでない。それどころか、彼女の着ている衣装も、煤にまみれてすらいない純白のままだった。
「あきらめなさい、あなたたちの力では、精霊である私を傷つけることはできません。」
「くっ……。」
「まもなくこの空間は消滅します、わたしのこのかりそめの姿も、消えてなくなるでしょう、命が惜しければこの場から去りなさい。」
しばらく、女と赤い集団はにらみ合いをしていたが、次第に周囲の景色がゆがみはじめると、一人、また一人と黒い霧のような者に覆われ、赤い者たちはその場から消えていった。そしてまもなく、森が消え、それを見下ろすようにたたずんでいた滝もゆがんで消えていき……。
残ったものは、何も、なかった。
先ほどまでいたはずの女も、そこにはいなかった。
***
「ふうぅ、今日ものどかだねぇ。」
窓から澄み渡った空を見上げながら、一人の老婆がひとつため息をついていた。ため息と言っても何か悩みがあるわけではなくて、一息ついている、そんな感じだ。ログハウスのような丸太造りの建物は、よい感じで強い日光を遮ってくれる。ここにきてから十数年たつが、環境がいいせいか体調もよい。彼女はこの穏やかな生活が気に入っていた。上の者に頭を下げることも、下の者に気を遣うこともない。人のいやな部分に触れることもない。よい部分にも触れられないが、元々それは覚悟していたことだ。一人は寂しいかとも思ったが、ここにきて珍しい知り合いもできて、案外退屈しない日々を送れていると思う。そんな今の生活が、とても好きだった。
「おばあちゃん、大変よ!」
外から少女のような声がする。相当に慌てているらしいことがわかる。
「リリスかい、今行くからちょっと待っておいで。」
どうやら声の主は老婆の知り合いらしい。彼女はゆっくり椅子から立ち上がると、先ほどまで見ていた窓とは反対側の、ドアの方へゆっくりと歩いて行った。
「どうしたんだい、やけにあわてているじゃないか。」
いつもはおとなしいリリスが血相を変えている、何かよほどのことがあったのだろうか、老婆はとりあえず用件を聞いてみる。
「浜辺に人が倒れてるの!」 気を失っていて、目を覚まさないのよ!」
「何だって?」
=PREVIEW NEXT EPISODE=
たどり着いた異世界の孤島、それは地図からも消された「忘れられた島。青年がそこで出会う奇妙な生き物たちと、一人の老婆。彼らとの出会いは偶然か、それとも……。
レベル2 忘れられた島
予告編投稿してからずいぶんたってしまいました。プライベートで緊急事態が起こったために、その対処に追われてました。コンスタントに投稿されている方はホントすごいですよね。
こちらはマイペースでのんびりやっていきます、もし見てくださっている方がいらっしゃったら、超遅い更新化もしれませんが、のんびり眺めてやってくださいませ。