あの日から俺の人生は狂ってしまった。 (完結) 作:ちゃるもん
えー、皆様、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。
今回は要望の多かったさとり様のその後となります。正月と言うことで、正月をテーマにした内容となっております。
では、どうぞ!!
「ふぅ……」
今日は一月一日、元旦である。
そしてここ、博麗軽が住む場所は博麗神社。そう、神社なのである。つまり、初詣に来る人が居るわけだ。それを子供、博麗霊華と博麗軽歩の二人。妻、博麗霊夢一人。そして、博麗軽の四人で捌ききらなければならない。
とは言っても、幻想郷の人口がそもそも少ないため、朝日の出から五時間もすれば何時もの静かな博麗神社へと戻るのだが。
「二年前は楽だったんだかな〜」
気疲れした声が虚しく部屋に響く。
軽の口から漏れた通り、二年前は閑古鳥が鳴くを体現していたほど人が寄り付かなかった博麗神社。しかし、二年前、霧雨魔理沙が言った言葉によりこんな事になったのである。
『この道を安全に行き来出来るようにすれば賽銭ガッポガッポじゃないのか?』
これに反応したのが霊夢である。もとよりお金に裕福ではなく、子供達に簪や蹴鞠の一つも買って上げられない節約の日々。それを解消出来るのであればと、霊夢の母性本能が遺憾無く発揮された。そした、それに軽も巻き込まれる。
しかし、軽は結界など張れず、出来ることと言えば簡単な護符を作る事ぐらい。霊夢も妖怪を追い返すことこそ出来るが、ここは幻想郷。人間と親しい妖怪も神社には来るのだ。
そこに現れたのが隙間妖怪の八雲紫。悪意と善意やらなんやらを操り、見事に安全な道を生み出したのである。それなら最初からしておけよ。と、思うところではあるが、管理者としてそこまで深入りは出来なかったとのこと。それなら俺の存在はどうなるんですか?と軽は言いたかったようだが、そこは喜ぶ家族を見てグッと堪えていた。
「っと、ここでずっと寝てるわけにもいかんな。準備しないと」
軽は起き上がり巫の服を脱ぎ、何時もの作務衣に着替える。そして、手にはお菓子が入った紙袋が二つ。
「さてと……それじゃあ霊夢、行ってくる」
「はーい。気を付けて、行ってらっしゃい」
外で上白沢さんと話している霊夢が、軽に返事を返した。それを聞いた軽は、フラン達と話している霊華と軽歩に手を振り森へと入っていった。
「なあ博麗霊夢」
「どうかした?」
「毎年思うのだが……本来元旦は家族と一緒に過ごすもので、友人宅などに訪問しに行くのは無礼に値するのではないのか?」
「うーん……まあ、基本的にはね。場所によって過ごし方なんて変わってくるし、軽にとってはアッチも家族。向こうもそう言ってるから別に気にしなくても良いんじゃないかしら?」
「変わったな、本当に」
「それに、ちゃんと夜には帰ってくるしね。ゾロゾロたっくさん引き付けて。どうせアンタも来るんでしょう?それこそ無礼になるんじゃないの?」
「ここは幻想郷だろう?そんなの当てはまるわけがないだろうに」
「よく言うわ」
■□■□
「来ましたね……」
「すいません、待たせてしまいましたか?」
「いえ、私も先ほど来たところです。ところで……」
軽が何の迷いもなく森を突き抜け、行き着いた先には、巨大な穴と、桃色の髪の女性。仙人である茨木華扇だ。
彼女がここに居るのには訳がある。この穴の先には既に機能を停止した旧地獄が広がっており、そこには凶悪な妖怪達が蔓延っているのだ。そこに、ちょっと結界術を齧った程度で、出来ることと言えば、簡単な護符を作る事のみ。そんな人間を妖怪達の巣窟に入れればどうなるか……想像に難くない。
つまり、彼女は軽を止めに来たのである。
「私は何時貴方と約束をしていたのでしょう?」
「あれ?していませんでしたっけ?」
「していません!!はぁ……この先は危険だと何回言えば分かっていただけるのでしょうか?いいですか?」
「あの、遮って申し訳ないんですけど……これ、茨木さん好きでしたよね?」
ピクリと華扇の動きが止まった。
そして、お菓子に簡単に釣られそうになっている自分が恥ずかしいのか、その顔は見る見るうちに赤く染まっていく。
そして、数分の沈黙の後、ゆっくりとその手が伸びて行き……
「ありがとう……ございます……ッ!!」
紙袋を掴んだ。
軽はそれを確認し、それじゃあ、お願いします。と会釈。
これでは軽が性悪男に見えるかも知れないが、これが彼らの日常なのだ。
「はぁ……しょうがないですね。受け取ってしまったものは致し方ありません」
彼女の中での仙人と言う括りがどう言う物なのかは分からない。しかし、甘味に目がないと言うのは、彼女の中で他人には知られたくない物なのだろう(とは言っても、人里の甘味屋には知れ渡っているのだが)。
最初、軽は華扇に対し普通にお菓子を渡したことがある。しかし、華扇はそれを断りそそくさと帰っていった。既に盛り付けられた物であれば彼女も喜んで食べて帰るのだが、贈物となると断固拒否される。で、あれば、と考えたのが、元旦の帰省(?)時に必ずしも現れる彼女に対して、交換条件で押し付ければ良いのでは?と考え、成功。それが、今でも続いているのである。
脇に抱えられ、大きな穴をゆっくりと降下していく。その間にも彼女の説教は続く。しかし、軽はそれを軽く受け流していく。
そんな、よく分からないやり取りを続け、大穴の一番底へと到着した。
「助かりました。ありがとうございます。良いお年を」
「はい、良いお年を」
華扇はみじかくそう言い残し、その場を去っていった。その顔には笑顔が浮かんでおり、なんだかんだで、彼女もこのような何でもない、たまに会って話しをしてと言った関係が気に入っているのかも知れない。
「さてと……行きますか」
■□■□
「おっす軽。あけましておめでとうだな。一ヶ月ぶりくらいかねえ?」
「ああ、あけましておめでとう。そんなもんか?なんだなんだで勇儀はよく地上に出てくるからなぁ」
「私らは自由だからねぇ。地上には行ってはならないなんて制約、あって無いようなもんだよ」
洞窟を抜け、旧地獄へと辿り着いた軽を待っていたのは長身の女性。名を星熊勇儀。鬼の四天王の一角を担う、鬼の大将である。
「先に地霊殿に行くんだろう?私達は先に行ってるから、ゆっくり挨拶してきな」
「お言葉に甘えてゆっくりしてくるよ」
勇儀と別れ、軽は旧地獄の奥へと進んで行く。向かう先は地霊殿、覚妖怪が住む屋敷である。
□■□■
「お兄さんじゃないか。久し振りだねぇ。今日もさとり様に会いに来てくれたんだろう?」
「ええ、ただいまですお燐さん」
「おかえり。相変わらず硬いねぇ……もう少し砕けたらどうだい?」
「初対面の相手に警戒心を抱かせるような行動をした、お燐さんの負けですよ」
にゃハハハと愉快そうに笑う猫又、火焔猫燐。ぶっちゃけると、軽は別段彼女を嫌ってるわけではない。ただ、なんとなくでこの関係を続けているだけだ。
「それを言われたら、私からは何を言えないよ……」
少し悲しげなトーンだが、その表情は笑顔である。
「さて、さとり様は何時もの部屋さね。どうせここはお兄さんのもう一つの家みたいなもんだから、遠慮せず寛いでいきな」
「一応挨拶はして置かないとね。あけましておめでとうございます」
「まったく……あけましておめでとう。ほら、さっさっと行ってやんな」
燐とも別れ、地霊殿の中へと入っていく。
外の賑やかさとは裏腹に、地霊殿内部はとても静かで、軽の足音だけが音を発していた。
そして、一つの扉の前で軽の動きは止まる。
コンコンコンっ
ノックの音が響き、扉越しに「開いていますよ、どうぞ」と声が聞こえてきた。
「失礼します。さとりさん」
「おかえりなさい。軽くん」
車椅子に座り、キコキコと音を鳴らしながら軽の側に寄ってきた少女。ガリガリの腕、辛うじて表情が読み取れるやつれた顔。妹である古明地こいしの第三の眼に似た、光を宿さない第三の眼。昔とは別人の様に変わってしまってはいるが、紛れも無く彼女は古明地さとりである。
「具合はどうですか?」
「そうですね……以前よりは多く食べられる様になりましたよ。コッチは、相変わらずですが」
自身の胸元にある第三の眼を優しく撫でる。
彼女の精神はこの数年の間にかなり回復した。以前は身内ですら、長時間一緒にいれば発狂する程であった。が、今では、親しい者が一緒にいる状態であれば、見知らぬ相手とも言葉を交わせる。
しかし、その反動なのか、今度はその体に異常が現れ始めた。軽のいた世界でも、広く認知されている症状。拒食症である。最初は永遠亭へと通いつめ、今では固形物は無理だが、ゲル状の物なら問題なく食べられる。かなり柔らかくした物も、少量であれば食べられるようになった。
しかし、精神は安定した。が、心はまだ直りきっていない。その証拠が、光を映さない第三の眼である。彼女の最大の特徴である相手の心を読む。今、彼女は相手の心が読めない。
「本当、去年もそうでしたが、神社の元旦は忙しいです」
「お仕事はみんなそんなものですよ。それに、この後もお仕事が残っているでしょう?」
「……思い出させないで下さい」
「ふふふっ。その程度で音を上げたらいけませんよ?」
■□■□
「っと、話していたらもうこんな時間ですか」
壁に掛けられた時計は十七時を指していた。
「楽しい時間は早く過ぎていくものですからね。それじゃあ、お願いします」
「分かりました」
軽はさとりの車椅子の取っ手を持ち、移動を開始する。
地霊殿を出て、賑やかな旧地獄の大通りを通る。まだ、軽と会っていないころの彼女であれば、聞こえて来る嫌味の数は、一つや二つでは済まなかっただろう。
しかし、今では彼女を悪く言う声は聞こえない。むしろ、好意的な声の方が多いのだ。それは、勇儀がさとりと良くつるんでいるのも一つの要因であるが、彼女が、心の声が聞こえなくなってから、他人の声を聞くようになったのも大きな要因である。やはり、言葉を交わしてこそ、通じ合える物なのだろう。
「よ、遅かったじゃねえか」
「勇儀はどんどん言葉が雑になっていってるわよね」
「うるせえぞパルシィ」
「お待たせしました。行きましょうか」
「お姉ちゃんは私が運んであげるね」
「ええ、お願いこいし」
「行きましょうかさとり様。ほら、お空も」
「はーい」
「いやぁ、賑やかだねぇ。ほれ、軽は私が運んでやろうじゃないか」
「任せるけど……あんまり速く」
「はいはいわーってるよ。ゆっくり飛べばいいんだろう?」
「分かってれば良いんだけどグエッ」
「ハッハッー!!」
「元気ねーアイツら」
既に大穴の底で待っていた勇儀達と合流し、地上を目指す。一人は楽しそうに笑いながら。一人はその脇に担がれる気絶しかけている。一人は、そんな二人に呆れてため息を吐き。そして、三人はその何時もの光景に笑顔を零す。そして、一人は、笑っていた。その三つ目の瞳に微かなひかりを宿しながら。
■□■□
「た、ただぃま……」
「勇儀……あんたねぇ……」
「いやはや、テンションが上がっちまってね?まあ、許してくれや」
勇儀は笑いながら両手を合わせ謝っている。
それに対し、霊夢は額に手を当て溜め息を付いている。
そんな二人の間に割ってはいる慧音。
「まあまあ、良いじゃないか。今日は一年に一回……てっ、訳でもないが、折角の宴会なんだ。楽しくいこうじゃないか」
そんな彼女達の後ろには既に酒瓶を開け始めている者達の姿。ある者は優雅にワインを楽しみ。またある者は豪快に瓢箪を傾ける。それぞれが勝手に宴会を始めていた。
「はぁ……もう……ほら、行くわよ」
勇儀はその言葉を待ってましたと言わんばかりに宴会の中に混じって行った。
「ここは……何時も賑やかですね」
「ええ。それがコイツ等の取得みたいなものだからね」
その言葉にヤジが飛んで来る。
『うるさいうるさい!!なんだかんだで一番酔っ払った後が面倒なくせに!!』
小さな鬼が
『まあ、実際そうだけど。貴女に言う資格は無いわよねぇ』
隙間妖怪が
『霊夢はあれでしょ、旦那の前でいい格好したいんでしょ妬ましい……』
嫉妬深い女性が
『本当に、以前は戦争みたいな感じだったのにね〜』
茶化すように吸血鬼が
「ええい!!うるさい!!実際そうでしょうが!!あと、吸血鬼は後で私が水風呂に入れてあげるわ。勿論背中も流して上げる!!」
「私も、早く治して……」
「別に急がなくても良いわよ」
「え?」
さとりの小さな呟きに霊夢が反応した。
「だって、ここにいるヤツら皆自己中心的な奴ばっかじゃない?私も含めて。だから、アンタも自分やりやすい様に進んでいけばいいのよ。何だったらほかの奴らも巻き込んじゃさいな」
そう言って、霊夢もまた、その輪に混ざっていく。取り敢えずは、軽に迫っている吸血鬼(姉)をぶっ飛ばす為に。
「そう、なのかも知れませんね」
第三の眼には、その宴会の光景が映る。少しの光を宿して。
彼女の症状が良くなるのはまだまださきになるだろう。けれど、その心が直るのは、そう遠くない未来かもしれない。
お読みいただき有難うございます!!
えー、お久しぶり(?)
まあ、言い訳をさせて欲しい。
どうしてもな?さとり様が死んでまうんや。何度書いてもな?死んでまうんや。それが嫌でな?いつの間にかこんな事になってしもうたんや。許してくや。
はい。見苦しい言い訳ですね。遅くなってすいませんでした。
妖夢は……ぶっちゃけるとですね?どのような罰を与えるべきなのかが分からないのと、作者の心が折れそうになるのでまだ先になると思います。
では、また次回お会いしましょう!!
良いお年を〜