この月が沈まぬうちに 作:オーバードライヴ
お読みいただけるなら幸いです。
注意事項です。
・連作短編の形式なので時系列が前後or皆無です。
・ショタっ子提督が出てきます。苦手な方ブラウザバック推奨です。
・加筆修正を行っていますが、1時間のものなのでかなり短めです。どうぞご容赦ください。
それでは、始めていきましょう。
「ほっといてよ!」
そういい残して彼女は走って逃げていった。それを呆然と見つめる如月。
「睦月さんの叫び声がしましたが、何かありましたか?」
「司令官……」
如月が振り返ると小さく見える影、まだ若いというより幼いといった方が似合う彼女たちの提督だ。冬服の開襟の制服に着られてるといった印象の彼が首を傾げて如月を見る。
「何でもないわ、お仕事のお邪魔だったかしら」
「いいえ。私の仕事は終わっているんですが……夕張が頭から煙り出して突っ伏してるので、それを処理すれば仕事は終了です」
「そう。なら如月がお手伝いできることはないかしらね」
「近海警備から帰ってきたばかりで仕事に駆り出すほど人材に困っているわけでもないですしね」
提督はそう言って肩を竦める。その動作は誰かのマネだろうか、どこか大人びた背伸びした仕草に見える。
「なら少しお暇しますね」
「わかりました。警備お疲れ様でした」
彼は如月の敬礼をどこか崩れた答礼で受ける。敬礼を解くと如月が微笑んで背を向けた。
「あ、それと」
提督が思い出したように声を掛けた。
「ちゃんと入渠しておくようにしてくださいね。打ち身は放っておくと痛みますから」
如月が驚いたように振り返る。
「あと、しっかり睦月さんとお話した方がいいと思います」
そう言って提督は小さな部屋に消えていく。
「……気づいてた?」
僅かに痛む右肩をさすって如月はその背中を見送った。
「……限界、かにゃ」
少し固めの布団に倒れこんだ。どこかへたった肌掛けが睦月を受け止める。そこでうっすらとめを開ける。目を完全に閉じると今日の結果が瞼に戻ってきそうで嫌だった。
また怪我をさせた。
結果からいえば『旗艦だった睦月を庇って二人そろって被弾、睦月小破、如月損害軽微』。落ちてきた爆弾が煙突を抉って海面下に抜けて海中で爆発した。浅い角度で落ちてきていたことと最大角で急旋回中だったために無事だった。爆弾が遅延信管だったことも幸いした。瞬発信管なら如月は今ごろ海の底だっただろう。今回は幸運だった。
視界の端にある鏡台をじっと見る。……自分でも覇気がないと思う双眸が見つめ返してきた。
庇って如月が被弾したことへの自分に対しての怒りだとか、妹に守ってもらわなければいけないことへの不甲斐なさだとか、そういうものをごちゃまぜにした感情を如月にぶつけてしまった。その後悔が胸を塞いでいた。
「如月……」
つぶやいて、後悔した。呟いたところで彼女が来るはずないのだ。私が拒んだのだ。私が彼女の手を拒んだから。
「―――――なぁに?」
だから答えが返って来てびっくりした。扉の向こうからくぐもった声が返ってくる。
「……如月?」
「なあに?」
ゆっくりと寝台から離れ、扉の方へと向かう。扉の取っ手に手を掛け、動きを止めた。その扉を開けていいのか、自分でもわからなかったからだ。
「どうして、きたの?」
その言葉に自分でも棘があるとわかる。それが喉に刺さり、嗚咽になった。
「……さぁ、どうしてかしらね」
扉の向こうで動く気配。扉に背中を預けたのか、外開きの扉が僅かに揺れた。
「……ごめんなさいね、睦月」
扉の向こうから、声。
「睦月が30dgの駆逐隊旗艦だから。私には言う資格がないのかもしれない。一番のお姉ちゃんだから私が見えないものが、視えていたのかもしれない。それでも、あそこであなたを失いたくなかった」
その言葉に自らの言葉を噛み殺す。
「あの時の睦月の行動はきっと間違ってなかったと思うわ。あそこで敵を落とすしかなかった。そうじゃないと近海に被害が出たもんね。だから睦月の行動は間違ってないと思うわ。艦娘としてあなたは正しかった。私はそれを曲げさせようとしたのかもしれない」
睦月は額を扉に預ける。どこか冷えた木の扉に両手を預けた。そうじゃないと姿勢を保つことすら難しくなりそうだった。
「それでも私は……如月はあなたを守りたかった……!」
扉の向こうの声が、震える。
「私は……誰かを失うことが、怖くてたまらない」
むかし……まだ純粋な艦だったころ、睦月型と呼ばれる仲間の中で如月は真っ先に戦没した。姉妹を失う悲しみを知らないまま、残す悼みだけを知り戦没した。だからこその恐怖感なのかもしれない。
「睦月、私の独善かもしれない。それでも覚えててほしいの。私の姉はあなた一人なの。だから、だから……」
扉ををこつんと叩く音。妙に部屋に響く。
「だから、いなくならないで……!」
如月の声にいよいよ嗚咽が混じった。
「嫌われてもいい。口をきいてくれなくてもいい。でも、如月の前からいなくならないで……!」
睦月の視界が歪む。扉に背中を預けた。そうじゃないと膝から崩れ落ちそうだった。力なく下げた手がこつんと扉を叩く。それにこつんと音が返ってきた。
「……ごめん。如月」
「いいのよ」
何に対してのごめんか、如月には伝わっただろうか。
「あれでよかったのかなぁ、司令官?」
望月が提督室のお茶菓子を口に放り込んでそう言った。
「いいんですよ。あれで」
望月と同じぐらいの背丈だろうか。そんな小柄な提督は砂糖と牛乳をたっぷり入れた珈琲を啜ってそう言った。唇の上にできた珈琲の髭を舐め取る。
「睦月さんも如月さんも、きっと仲直りしたいと思っていたはずです。二人ともそう思っていたのならもうその時には仲直りしているものです」
男性にしては高い声でそう言って提督は笑う。
「そんなものなのかなぁ」
「そんなものかもしれませんよ」
提督は優しく笑った。
「――――――鶴は飛ぶ千尺の雪、龍は起つ一潭の氷」
望月は首を傾げる。
「禅語の一つです。聞いたことはありませんか?」
「ないなー」
望月はそう言ってへらっと笑った。
「鶴は千尺も積もった雪を蹴って飛び立ち、龍は湖一面に張った氷を破って空へと舞い上がる。……多少の行き違いも困難も乗り越えられる。私はそう信じているんですよ」
「司令官?」
「……睦月さんも如月さんも誰かを想える人です。大丈夫です。もちろん、あなたもですよ、望月さん」
「まー、司令官がそう言うならそうなんだろうねー」
望月のどこか嬉しそうな声が響いた。
夜闇が近づいて来ているが、どこか暖かな気配を感じさせていた。
こんな感じの話が続きます。
感想などはお気軽にどうぞ。
ストック放出は早めに行いますので、しばらくは更新多めです。
これからどうぞよろしくお願いします。