この月が沈まぬうちに   作:オーバードライヴ

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この時はお題がなかったので勝手に『改二』ということで執筆。大遅刻の回でした。
それでは、始めていきましょう。


空を見上げて(お題:フリー 2015/04/26)

「睦月を見失った!?」

 

 如月がそう聞き返すと弥生が弱々しく頷いた。

 

「金龍丸やぼすとん丸を見捨てるわけにはいかないって……弥生は応援を呼んできてって言って……一人で転進して……それで……」

 

 今にも泣きそうな顔でそう言う弥生、如月は彼女に大丈夫よと声をかけ、空を見上げた。

 

「……陽炎さん、隊列離脱許可を頂けますか?」

 

 二水戦旗艦を神通から引き継いでいた陽炎は如月の声を聞いて一瞬迷ったように間を空けた。その間にも如月は言葉を続ける。

 

「敵艦載機……一個飛行隊程度の戦力を相手に睦月一人で行き足の遅い商船2隻を守り切ることはほとんど不可能です。そして睦月は弥生をこちらに飛ばしてきたということは私達を信じているということだと判断します。……陽炎さん」

 

 陽炎は肩に担ぐようにしていた神通を縋るように見た。神通ですら爆撃で被害を追うような状況だ。その状況で戦力をさらに分断することは果たして最善だろうか。

 

「大福丸と隆盛丸の護衛もあるし、神通さんの曳航もあるのよ。私達から裂ける人員は少ない。それでも、いける?」

「旧式とはいえ、歴戦の駆逐艦のつもりですよ。陽炎さん」

「対空戦ということもわかってる?」

 

 答えはない。だが如月の双眸は射抜くような鋭さで陽炎を見ていた。

 

「……そうだったわね。あんたたちのほうが先輩だものね」

 

 陽炎が頭を掻いた。

 

「谷風、17dgから二人裂いてくれる?」

「浜風ぇ、動けっかい?」

「もちろんです」

「なら谷風さんと浜風で動くよ」

 

 それを聞いた陽炎が首を振る。

 

「弥生、損害は?」

「軽微です。行け、ます!」

 

 陽炎はそれを聞くと顔を上げた。

 

「二水戦臨時旗艦として通達。陣形を変更、神通さんと大福丸・隆盛丸の護衛を17dgの浦風、磯風、24dg海風で続行。神通さんの曳航は涼風に移行、指揮は私。涼風行けるね?」

「おうっ! 任しとき!」

 

 その答えを聞いて陽炎は頷いた。涼風に神通を託し陽炎は如月たちを見やる。

 

「如月弥生浜風谷風は睦月及び金龍丸・ぼすとん丸救援をお願い。指揮は如月、睦月が戦闘可能なら合流し次第睦月に30dgの指揮を戻してください」

「はいっ!」

「了解よ」

 

 如月がそう言って踵を返す。

 

「如月」

 

 その彼女に声をかけた。黒い長髪を靡かせる磯風だ。その後ろには笑みを浮かべる浦風も近づいて来る。

 

「これを使え」

「……12.7センチ連装高角砲の後期型?」

「少しはましになるはずだ」

 

 差し出された主砲を如月は見下ろして、一瞬躊躇い、それを手に取った。

 

「わかったわ。借りていくわね」

「弥生ちゃんも持っていきんさい。睦月ちゃんが主砲弾を使いきるのも時間の問題じゃろうけぇ、渡してあげるとえぇ」

 

 浦風はそう言って磯風と同じ砲を弥生に持たせた。

 

「浦風さん……」

「必ず助けてきんさい。必ずじゃけぇね!」

「はい……!」

 

 弥生が頷いた。それを見て浦風は満足そうに頷いた。

 

「行くわよ!」

 

 如月が声をかける。第三船速で転進。空を見上げて走る。その後ろを彼女の僚艦が走っていく。

 

「“旗艦”によろしく伝えてくれ!」

 

 磯風の叫びを背に加速する。

 

「待っててね、睦月ちゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 痛みに顔を顰める金龍丸を守るように相手の射線に割り込んで機銃を乱射する。相手の爆弾がすぐ近くに落下してくる。瞬発信管が作動し破片交じりの爆風が彼女を叩く。

 

「あぐっ……!」

「睦月さん……もういいですから……!」

「諦めちゃだめにゃし!……ぼすとんさん! 左舷一ポイント回頭いまっ!」

「りょ、了解ですっ!」

 

 最後の対空砲弾が詰まった弾倉をリロードしながら睦月は叫ぶ。その間にも敵の艦載機は寄ってくる。まともに換装する余裕もない。ホールドオープンになった対空砲のスライドストップを外す。ガシャンという音とともに初弾が押し込まれた。それをすでに血まみれになった右腕で支え空に向ける。

 

「この勝負は、負けられないのです!」

 

 連射をカット、数撃ちゃあたるの対空戦のセオリーからは外れるが、このマガジンが最後だ。無駄玉は一つも撃てない。

 

「当たって……!」

 

 鈍足の商船など艦載機にとっては的に等しいだろう。それを二隻も背中に隠し、睦月は一発ずつ砲弾を叩きこんでいく。痛みに歯を食いしばりながら砲弾を叩き込んでいく。

 

「そうだ、私はまだここにゃしぃっ!」

 

 せめてもの囮として、引き返して来るであろう弥生たちが帰ってくるまでの間敵の攻撃を引きつけることができれば。

 睦月に向って落ちて来る爆弾。それを空中で爆発四散させる。それが彼女に残された最後の砲弾の使い道だった。あまりに強い爆風に睦月は弾き飛ばされる。

 

「睦月さんっ!」

 

 海面に叩きつけられた彼女は立ち上がろうとして、痛みに膝を折った。それでも懸命に顔を上げる。

 

 このタイミングで敵に応援の航空隊。最悪だ。

 

「それでも、少しは役に立てたのか、にゃ……?」

 

 上がった息でそう囁くように言ってありったけの声で叫ぶ。

 

「ぼすとんさん! 金龍丸さん! 睦月はここまでの様です。回避運動をしつつ進路維持、方位2-2-5! 睦月をおいて海域を離脱せよ!」

 

 普段は使わない命令口調。その違和に睦月自身も変な笑みが出そうだ。

 

「睦月さん……っ!」

「せめて生き残ってください! 如月ちゃんに、よろしく伝えてくださいね……!」

 

 死力を尽くして立ち上がる睦月。その彼女に向って敵の艦載機が殺到する。空になった対空砲を掲げる。まだあきらめてないことを形で示す必要があった。引金を引いても遊底が後ろに下がり前に戻ることなく保持される。弾が入ってないのだから当然だ。それでも、撃とうとする意志は相手に伝わったはずだ。それでいい。瞼に浮かぶ妹たちの幻影に笑みを送る。

 

 

 あぁ、こうして死んでいくのか。定められたように、こうやって。

 

 

 耳に響くは魔女の予言か。マクベス第5幕第5場―――――――

 

 

――――――明日、また明日、また明日と、時は小刻みな足取りで一日一日を這うように時の記録の終の一語にたどり着く。

 

 

「如月ちゃん、弥生ちゃん」

 

 

――――――昨日という日は阿呆の為に塵に返る死への道を照らしてきた一筋の光。

 

 

「卯月ちゃん、皐月ちゃん、水無月ちゃん、文月ちゃん」

 

 

――――――消えろ、消えろ。束の間の灯火、

 

 

「菊月ちゃん、長月ちゃん、三日月ちゃん、望月ちゃん、夕月ちゃん……」

 

 

 

 

――――――人生は歩く影法師、哀れな役者だ!

 

 

 

 

 

「私は、睦月は貴女達の姉で、幸せだったのです」

 

 

 

 

 そう言って笑い。睦月はそのまま弾を吐きださない砲を構え続ける。笑っていられるだろうか。

 

「―――――――睦月っ!」

 

 爆弾を抱えて飛び込んでこようとした敵機の出鼻をくじくように白の曳光弾が空中を駈けた。敵航空隊は一度離散。睦月が視線を曳光弾の出所を探す。そこには誰かの姿が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――第30駆逐隊、現着! 睦月、お待たせ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 如月が両手に砲を構えて、最大船速で突っ込んできていた。

 

「谷風さん、浦風さんは金龍丸さんとぼすとん丸さんの護衛に入ってください!」

「了解じゃ!」

「谷風さんに任せときっ!」

 

 ハイテンポな高角砲の掃射。右砲左砲を交互に打ちだすことによりそのタイムラグすら縮めていく。だがそれよりも早く睦月の頭上に敵機が到達した。クルリと上下反転。急降下爆撃の姿勢に入る。

 

「睦月っ!」

 

 弥生が砲を全力で投げ渡す。それを見た睦月が左手を伸ばす。その手に吸い寄せられるように浦風から託された12.7センチ高角砲後期型が納まる。安全装置解除。

 彼女の目に再び光が戻る。それを振り上げれば敵の艦載機はすでに下りてこようとしていた。引き金を引く。睦月の頭上で艦載機が爆弾ごと砕けて散る。

 燃え落ちる航空燃料の中で緑色のセーラー襟と金の三日月型バッジが光る。

 

「睦月ちゃん。大丈夫かしら?」

「間に合わないかと思ったけど話は後! 今は対空戦用意!」

「了解よ!」

「わかってる……負けないよ」

 

 追いついた弥生が睦月に12.7センチ口径用対空榴弾が詰まったマガジンを睦月に渡した。血まみれの彼女はそれを受けとり、空を睨む。敵増援部隊が間もなく射程内に到達する。

 

「これ以上はやらせない! 旗艦、先頭! 輸送船団を中心にした輪形陣を組んで離脱します! 第30駆逐隊、対空戦闘、始めっ!」

 

 睦月の声に、輸送船団が息を吹き返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ボロボロの帰還ね、睦月」

「ははは……」

 

 何とか先行する陽炎たちに追いついた睦月たちはそんな声に迎えられた。実際睦月は借り受けた連装高角砲すら砲弾を打ち尽くし、過熱で焼き付いたそれを右手に提げ、如月の肩に体重を預けるようにして何とか動ける状態だったのだ。

 

「敵機35機の猛攻から二隻の輸送艦を守り、うち20機を撃墜。応援に来た35機の第二波攻撃隊も12機撃墜。損害甚大なれど、喪失艦なし。……とてつもない武勲じゃない」

「旧式といえど、まだまだ負けないのです。それに如月ちゃんたちが上手く捌いてくれたので上手くいったのね」

 

 睦月はそう言って砲を振った。

 

「浦風さん、ごめんなさい。高角砲、ボロボロになっちゃいました」

「ええんよ。それで帰ってこれたならそれで十分じゃ。それにそんな武勲を立てられたなら本望じゃろうて」

 

 浦風はそう笑って睦月の髪を撫ぜた。爆炎に焙られ、硝煙で燻された髪が彼女の奮闘ぶりを語っている。目を細めてそれを見る浦風の横で陽炎がパンパンと手を叩いた。

 

「さぁ、目的地はもうすぐよ、帰ってきたらとりあえずさっさと入渠させてもらいましょ。睦月はおそらく最優先で叩き込まれるでしょうけど」

「う……」

 

 そんな会話をしながら船団は前に進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後船団は無事帰還し睦月たちが他の駆逐艦娘からその武勇伝を根掘り葉掘り聞かれるまではあと2日ほどの時間が必要だ。

 またこの武勲を賞して睦月と如月に正式に12.7センチ連装高角砲後期型が装備されるまではさらに2週間程待たなければならないのだった。

 

 

 




睦月如月の改二で浦風砲? と疑問に思ったんですが、考えれば納得でしたね。
睦月たち第30駆逐隊(30dg)が第八艦隊に組み込まれていた時、同じ外南洋部隊の一員として第17駆逐隊(17dg:浜風浦風谷風磯風)が共に組み込まれていたんですね。そして睦月が沈んだ時の睦月の“部下”に弥生だけでなく磯風がいた(実は陽炎も)……。浦風達とは僚艦だったわけです。そう考えると浦風砲って彼女たちからの思いを引き受けたのかなぁなんて。
睦月×陽炎とか睦月×浦風とか新たなカップリングが生まれそう……。

感想などはお気軽にどうぞ。
それでは、また次回にお会いしましょう。

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