この月が沈まぬうちに 作:オーバードライヴ
それではどうぞ。
「あー! 髪留めがないぴょん!?」
脱衣室がら聞こえてきた大きな叫び声にその場にいた面々がビクッと肩を揺らした。
「な、なんだいきなり!?」
文字通り飛び上がった長月が顔を真っ赤にしながら振り返った。
「髪留めが、髪留めがないぴょん!」
「かみどめぇ……?」
望月がめんどくさそうにそう言って彼女の長い髪を指さした。
「いつも使ってるうさぎのやつは髪に留めてんじゃん」
「それじゃないぴょん!」
頬をぷくっと膨らませた卯月がセーラーの左襟を指さした。
「ここにつけてたやつがなくなっちゃったぴょん!」
「あー、あのブローチ替わりのやつか」
「ブローチじゃないぴょん! 髪飾りだぴょん!」
そういうとそわそわと服入れを漁る卯月。
「あれ、いつからつけてたっけ?」
そんなに大切なものなの? と望月が聞いた。――――それが地雷だと知らずに。
「大切なものぴょん!」
その怒声とも取れる声に望月が一歩後ずさる。
「卯月のことを信じて待っててくれた人の……その人から預かった……大切なものぴょん……!」
「……ごめん。からかうつもりはなかったんだ」
元々赤い瞳をさらに赤くし、ぽろぽろと涙をこぼす卯月の視線から逃げるように俯いて目線を逸らした望月。
「あれは、卯月が預かってるものぴょん。いつでも返せるように無くさないように持ってたのに……」
零れた涙は、脱衣室の足ふきマットにすわれていく。
「きっとどこかにあるよ……探そう?」
じっとその場を静観していた弥生が声をかけた。
「ここには必ず持ってきたの?」
「ぐすっ……間違いなくつけてきたぴょん……」
「なら間違いなくここにあるな」
長月が腕を組んでそう言った。
「探す前にとりあえず全員服を着ろ。風邪を引いてしまうし、服の下とかを改めて確認できる」
「そうだねー、まぁ睦月姉ぇたちが今ワッチだしさがしてても誰も文句言わないだろうしね」
望月がそう言いながら制服の黒のセーラーを取り出した。眼鏡を服にひっかけないように器用に引っ張りながら頭を通す。
「とりあえずは籠のまわりだね……ん?」
服を着た卯月の足元にカンという音を立てて金属製のものが落ちてくる。
「………あったね」
「…………ぴょん」
「よかったじゃん」
「…………ぴょん」
なんとなく、あれだけ大騒ぎした後だとここまで大げさに騒ぐ必要があったのかと思ってどこか冷めてしまう。
「……あー、もう恥ずかしいぴょん! 泣き損ぴょん!」
「それならあたしは泣かせ損じゃん」
望月はどこか苦笑いを浮かべていた。それに長月も似たような笑みを返す。
「でも……見つかったなら……よかった」
「ぴょん。……やよやよにも、ある?」
「もちろん……」
そう言うと弥生はどこかぎこちない笑みを浮かべた。
「どんなにボロボロでも……大切なものは大切なものだもん……」
「ぴょん」
弥生の声はどこか寂しげだ。それを見て卯月が笑みを深くした。
「……今度こそ、ぴょん」
「うん……今度こそ」
卯月には弥生のそれが何なのか、思いあたるところがあるらしい。そして笑いあう。
今度こそ。
それを見てやれやれと肩をすくめる長月。
「ほら、後続がつかえてるからさっさと上がろうか」
「ぴょん」
「うん……」
「とりあえず談話室でグータラ横になってたいねー」
「望月はグータラしすぎだと思うぴょん……」
そんな会話が脱衣所に響いた。
「睦月」
小さく響いた声に振り向く。もう寝る姿勢だった睦月は軽く驚きながらも笑った。夜も遅くなり、どこか物悲しい時間である。
「弥生ちゃん? どうしたの?」
「何でもないけど……少しだけ顔が見たかったから」
「もう、弥生ちゃんは寂しがりやにゃし」
そう言うと睦月は彼女によっていった。
「睦月は、寂しいとか……思わない?」
「んー、思うことはあるよ。でも最近はあんまりない」
だってみんながいるからね。
そう言った彼女はどこかスッキリとした顔をしていた。
「大丈夫だよ。どこかにいったりしないから」
そう言って抱きしめる彼女に弥生は小さく目を見開いた。
「なんで……わかちゃうの……?」
「睦月はみんなのお姉ちゃんだもん。わかるよ。大丈夫、今度は置いていったりしないから」
「……うん」
「だから、今日はゆっくり休んで、明日からまた頑張ろう?」
「うん……」
抱き合った二人を月光が照らす。静かな夜が深まっていった。
卯月×加古、あんまりみないですよね……いい組み合わせだと思うんだけどなぁ。
今回は結構難しかったなぁ……精進せねば。
感想などはお気軽にどうぞ。
それでは、また次回にお会いしましょう。