この月が沈まぬうちに   作:オーバードライヴ

9 / 10
ちょっと短め。そしてお題要素薄目。それでもこの回はなかなかお気に入りだったり。


梅雨空の下(お題:梅雨 2015/05/31)

 

 

 

 雨は嫌いだ。

 

 

 

 服は重くなるし体も冷える。艦娘の服は撥水加工をしっかりしてあるとはいえ、ずぶ濡れの濡れ鼠になってしまえば撥水も何もない。視界が悪くなるのがとても危険だが、眼鏡があるとその難易度も跳ね上がる。

 

 それに雨の音がどこか体をすり抜けて、何かをこじ開けようとするかのような、そんな感覚がするのだ。それを記憶というのか思い出というのかわからない。それでも閉まっておきたい何かをさらけ出してしまうような感覚があった。

 

 

 

 だから望月は雨が嫌いだ。必然的に梅雨は大嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっめあっめふっれふっれかぁさんがぁー」

 

 なぜか部屋に来ている卯月の声をぼんやりと聞く。ベッドの枠に背中を軽く預けながら望月は文庫本を読むでもなく眺める。少し前までこたつを置いていた位置、即ち今望月が足を突っ込んでいるところにはローテーブルが鎮座し、チョコなどが置いてあった。

 卯月は窓の向こうに見える鎮守府の中庭―――文月や三日月がよく手入れしているきれいな庭に咲く紫陽花を眺めながらルンルン気分だ。

 

「よっなべっでおつかいうっれしいなぁー」

「なんかいろいろ混じって変になってるぞー」

「ぴょん?」

 

 窓枠に下がったてるてる坊主が小さく揺れる。睦月と如月が作ったらしく、望月の部屋の窓にかけていった。

 

「ねぇもっちー」

「んー?」

 

 ご機嫌なテンションのまま卯月が振り返る。

 

「少し散歩に出てみないぴょん?」

「えー、だるい」

「むー、いつも望月はそう言うぴょんねー」

 

 頬をぷくっと膨らませる卯月には悪いが雨の中出るのはいろいろめんどくさい。

 

「わざわざ濡れに出ることないだろー?」

「防水外套あるから大丈夫ぴょん」

「着るのめんどーなんだよなぁあれ」

 

 艦娘は身分的には職業軍人扱いである。普通の軍人とは異なりかなり特殊ではあるが、軍用地では制服の着用が基本的に義務付けられるし、荒天時用の装備としてレインコートと鍔付の作業帽が支給されているものの傘は存在しない。戦闘職に優雅に傘を差す余裕などなく、傘を差している姿は貧弱に見えるからという理由らしい。

 

「雨の散歩も乙なものぴょん? カタツムリさんとかカエルさんとかもでてくるぴょん」

「それでも雨に濡れるのはいやなの」

 

 そう言って顔の上に文庫本を開いて載せ、寝る姿勢に持っていく。……寝るつもりはないが、行く気がないというのを示すにはこれが一番だ。

 それを見た卯月は小さくふくれっ面を作って顔を窓の外に戻した。

 

「あ、司令官だ」

 

 ガタンッ!

 

 かなり痛そうな音がした。振り返ると膝頭を押さえて悶絶している望月の姿が。どうやら飛び起きようとして膝をにしたたかにローテーブルへと叩き付けたらしい。

 

「――――なーんてうそぴょーん!」

「……うーづーきーねーえー……」

 

 眼鏡のレンズ越しの恨みがましい目が下から射抜く。笑みを手で隠しながらそれを覗き込む卯月。

 

「やっぱりもっちーは司令官にお熱ぴょん?」

「~~~~~~~っ!」

 

 瞬間湯沸かし器のように赤くなる彼女を見て嗜虐的な笑みを深める。

 

「あれあれー、眼鏡のフレームよりも赤くなってるけど図星ぴょーん?」

「……いい度胸だ卯月姉ぇ、この望月を怒らせたことを後悔させてやる」

「え?」

 

 

 

 

 3分後。

 

 

 

 

 くすぐりまくられて撃沈した卯月を見下ろして望月は鼻を鳴らした。

 

「まったく、卯月姉ぇは時々やり過ぎて自滅するよね」

「くすぐりは、うーちゃんの得意の分野だぴょん……」

「でもやられるのは慣れてない」

 

 望月はそう言うと小さく笑った。

 

「やっと笑ったぴょん」

「え?」

「もっちーは雨嫌いぴょん?」

「……好きじゃぁ、ないよ」

 

 悲しくなるんだ、とつぶやくように言ったのを聞く。

 

「どこか、ひとりの音がする……だから、嫌い」

 

 ポツリと呟いた言葉はことりと地面に落ち、雨音に紛れた。

 

「雨の音が何かをこじ開けようとするかのような感じ……それが記憶なのか思い出なのかはわからない。それでも閉まっておきたい何かを晒してくるような、そんな気分になる」

 

 望月はそう言うと目線を落とす。

 

「それが怖い、すごく、こわい」

「……そっか」

 

 卯月はそっと望月の両肩に手を回し。そのまま優しく抱きついた。

 

「ならちゃんと話さないとだめぴょん。一人で寝てたって解決はしない。ね?」

「……こんなときだけお姉ちゃんぶらなくてもいいよ、卯月姉ぇ」

「お姉ちゃんだから許して欲しいぴょん♪」

 

 そう言って笑う。そしてその瞬間に望月の背が冷えた。

 

「うっふっふふー。捕まえたぴょん」

「え゛?」

「さっきのお返しぴょん! 呼吸困難になるまで笑うがいいぴょん!」

「まってまってまって、ヒッ!」

 

 変な笑い声が部屋に響く。雨音はいつの間にかなりを潜めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 雨は嫌いだ。

 

 

 

 でも止まない雨はないらしいから、頑張ってみてもいいのかもしれない。そんな気がした。

 

 

 




卯月、望月の乗員を救助してるんですよね。
こんな組み合わせもありかなぁなんて。

感想などはお気軽にどうぞ。
それでは、次の機会にまたお会いしましょう。
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