救国戦士 織斑一夏   作:狂笑

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第二話

無機質ながら、軽快なメロディーが一時限目の終わりを告げる。

一時限目のIS基礎理論授業、入学前に渡された参考書を読み込んでおかなければ頭が爆発するところだった。なんで専門用語を専門用語で説明するのかな。意識高い系みたいだったよ。

 

力尽きたように机に伏せる。

(精神的に)疲れたのも確かだが、それだけではない。

現在、この教室付近の廊下には他クラスの女子や二、三年の先輩達が詰めかけている。

容姿のレベルの高い女子もちらほら見かける。だが、視線を合わすと頬を赤くしてふいっと顔を逸らされてしまう。

今感じる視線は殆どが好奇心から来るもので悪意が見られないため、俺も話しかけてみたいのだが、相手の選択をミスするとその子が女子社会からハブられかねないし、何より話題がない。だから、伏せるしか方法がないのだ。

 

「お、織斑君、大丈夫?」

 

ふと、顔をあげる。話しかけてきてくれたのは隣の女子のようだ。

紫色に近い黒髪の、ショートカットが似合う可愛い子だ。

 

「ああ、ありがとう。こんなに視線を向けられるのに慣れてなくてな」

 

「そ、そう……」

 

笑顔で返答すると隣の女子は頬をリンゴのようにして黒板の方を向いてしまった。

これが昔から天然ジゴロと言われる所以なのだろうか。

 

「……ちょっといいか」

 

後ろから突然話しかけられた。

 

「なんだい?」

 

そう言って後ろを向く。

そこにいたのは――

 

「……箒?」

 

「そうだ、私だ」

 

――六年ぶりの再会になる幼なじみだった。

 

篠ノ之箒。俺が昔通っていた剣術道場の子。髪型は今も昔も変わらずポニーテール。肩下まである黒い髪を結ったリボンが白色なのは、神主の娘だからだろうか。

あの頃と比べれば色々と育ったな。どこがとは言わないが。

 

「廊下でいいか?」

 

「別に構わないぞ」

 

俺もこの状況から抜け出せるのはありがたい。

 

「早くしろ」

 

「お、おう」

 

スタスタと廊下に行ってしまう箒。

アイツは待つという考えがないのか。

 

 

 

廊下に出たのはいいが、俺等から4メートルほど離れた包囲網が形成されていた。

意味ねえな、これ。

しかも廊下に移動させた箒からは切り出さないとか、何、新手のイジメ?

仕方ない。俺から切り出すか。

 

「そういや、去年、女子中学生全国剣道大会で優勝したってな。おめでとう」

 

「な、なんでそんなこと知ってるんだ」

 

「そりゃ、新聞に掲載されていたし、ネットの掲示板でも注目の美人剣士って評判になっていたからな」

 

「び、美人……」

 

箒は顔を真っ赤にしてフリーズしてしまった。何故か湯気が出ているようにも見える。

 

無機質ながら、軽快なメロディーが再び流れる。

二時限目の開始を告げるチャイムのようだ。

これが流れた瞬間箒は物凄い勢いで戻っていってしまった。

だから待つという行為を覚えようぜ。今時犬だっって覚えるのに。

ゆっくり戻るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

この後、授業に遅れて千冬姉に出席簿で叩かれたのは言うまでもない。

この際、出席簿がへし折れたのだが。

 

 


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