NASAの探査衛星がそれを捉えたのは約一週間程前のことだった。
地球へと向かう謎の物体。
直径約40Mのそれは普通に考えれば隕石である。
地球への飛来は免れないと計算されたが、大気圏で燃え尽きるため大きな被害は出ないとNASAは推測していた。
しかし、その物体が隕石ではない可能性が浮上した。
それが問題となり国際会議が開かれているのである。
「衛星が捉えた情報によると、飛行物体は熱を持っていることが確認されました。
これは体外環境から影響される熱ではなく、生物的な熱であるのです」
眼鏡をかけた白衣の男性が語る。
プロジェクターには例の飛行物体と共に衛星からのデータが映し出されており、国際会議に出席している者達の顔を曇らせた。
やがて一人の黒人の男が口を開く。
「じゃあ何か、君はそれが地球外生命体またはエイリアンだとでも言うのかね?
実に飛躍した考えだ」
「可能性はあります。
この物体が地球へと衝突するなら万が一を考えておかなければならないものです」
黒人の男はそれを聞き不満気な表情を浮かべた。
他の者も同じようで口々に文句を言い始める。
白衣の男はそれを見てやれやれといった動作のあと再び口を開いた。
「ではミサイルで迎撃して破壊すればいい……と言いたそうな顔ですね?
勿論、それについてはもう作戦を立てています」
そう言って画面を切り替える。
映しだされた画面には飛行物体のルート予想図と、迎撃ポイントが描かれていた。
「衛星からの迎撃と、空軍によるミサイル迎撃で物体を攻撃します。
万が一大気圏を突破したことを考え、衝突付近近くのタンザニア、コンゴ周辺にも警
戒態勢をとります。
陸からの迎撃も視野にいれ、これを完全に破壊します」
黒人の男は顎を撫で納得したように頷く。
会議に出席している他の男たちも同じように頷いているのが見える。
なんでも破壊すればいいというわけでもあるまいに。
「では、この作戦について詳しい資料を配布します。
予算等についても資料に記載されています。
また、飛行物体から散った部位などはこちらが回収しますのでよろしくお願いしま
す」
会議は一日中続き、飛行物体への対策は完璧なものと思われた。
しかし、後に人類は思い知ることになる。
未知の恐怖を。
某日 AM10:23 タンザニア沿岸部
万が一に備え、タンザニアに軍が派遣された。
空軍はすでに迎撃体制に入っており、いつでもミサイルの発射が可能だ。
地上ではパトリオットとTHAADミサイル、戦車と装甲車が配備された。
これだけ万全を期していれば、地球外生命体でも倒せる気がしてくる。
そう思いながら軍人であるマック・タイラスはタバコに火をつけた。
「おいマック、支持があるまでキャンプで待機って言ったろ。
タバコ吸うなら何か言えってんだ」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこには同僚のロイ・クランが立っていた。
キャンプからいつの間にかいなくなっていたマックを探していたようだ。
「あぁ、すまんなロイ。
待機は暇でなぁ、つい口が寂しくなっちまう。
俺だって奴が来たら本気を出すさ」
ロイは不可解といった様子で顔を歪めて「奴?」と言う。
単なる物体のことをまるで生きているかのように比喩したことが伝わらなかったようだ。
「あの隕石のことさ。
なんでも生物かもしれないって話だ」
「なるほどね。
でもどうせぶっ飛ばすんだ、関係ないね」
違いねえ、とマックは吸い終わったタバコの火を消してキャンプへ向かおうとする。
だがそれはロイの言葉によって遮られる。
「なぁマック。
俺、結婚したんだ。一ヶ月前」
「あぁ、知ってる。
俺は日本にいたから結婚式に行けなかったけどな」
「そうだったな。
だからってわけじゃないんだが……その…… 」
ロイが珍しく言葉を濁らせた。
何か言いにくいことでもあるのだろうか。
十年以上共に戦って来た仲間だと言うのに。
「どうした、らしくない」
「すまない。
俺が言いたいのは、その……俺に万が一のことがあったら、妻に伝言を頼みたい。
一言愛していると」
マックは何も言わず頷く。
ロイは最後に「お前にだから、頼める」と残し、逃げるようにキャンプへと向かっていた。
「もう一本、吸いたくなっちまったなぁ」
そしてマックは再びタバコに火をつけた。
それからしばらくして、飛行物体が衛星による迎撃攻撃を受けた。
NASAによると大気圏突破も時間の問題とされ、空軍がこれを迎撃し破壊できなかった場合、地上での迎撃が決行されることとなった。
まずTHAADミサイル、パトリオットでの迎撃が行われ、それでも目標が健在の場合戦車と装甲車による迎撃が行われるそうだ。
ミーティングを終えたロイとマックはそれぞれの配置へと移る。
ロイは戦車による迎撃担当。マックは迎撃ミサイル部隊の隊長を務める。
マックはロイにアイコンタクトを送り、作戦の成功を祈る。
「できれば、夫の口から直接言わせたいからな。
愛の言葉ってやつは」
そう一人呟き、マックは作戦位置へと移動した。
守るものが増える重さは、普段持つライフルよりもはるかに重い。
命の重さはわかっているはずだったのに。
同日 PM3:28 タンザニア
場は緊張状態に陥っていた。
目標とのコンタクトがいつになるかわからない今、一瞬でも緊張を解けば危険な状態になる。
それを誰もが理解していた。
やがて空の彼方に光が見えた。
激しく燃えているように見えるそれは、強烈な熱を帯びているようにみえる。
同時に無線から音声が響く。
「――本部より、目標が大気圏を突破。
至急迎撃を開始せよ! とのことです。 どうぞ―― 」
「こちらマック、了解。
できれば次は見えてから言わないでくれと本部に伝えてくれ」
言うと同時にマックは無線を落とし、THAADミサイルを発射する。
それを合図に次々と別の者達もミサイルを発射する。
「THAADを発射するには遅すぎたかもしれない!
総員、パトリオットの準備を急げ! 」
「隊長!すでに発射準備はできています! 」
「よくできた部下を持ったもんだ。
よし、目標が射程位置に入ったらすぐにぶち込んでやれ! 」
了解!の声に合わせマックもパトリオット発射の準備をする。
マックの予想通りTHAADミサイル発射が遅かったようで、着弾数はあまり多くなかった。
効果はあまり望めず目標は健在している。
「よし、総員! パトリオット発射! 」
マックの声に合わせ、パトリオットが発射される。
ミサイルの雨が飛行物体に向けて飛んで行く。
「第二射急げ!
時間はないぞ! 」
まもなくして第二射が放たれる。
やがて最初に放たれたミサイルが目標に着弾。
多少ながら落下のスピードが弱まり、すぐに第二射が目標に着弾した。
「やったか! 」
マックは目標を双眼鏡で確認する。
最初は煙でよく見えなかったが、徐々に煙が晴れ状況を確認することができた。
目標は健在だった。
ミサイルによる迎撃を受けながらもダメージはないように見える。
「嘘だろ……、さすがにビビるぜ」
マックの額から汗がこぼれ落ちる。
今までどこか楽観視していた目標への評価を塗り替える。
そして同時に悟った。
これがただの隕石ではないことを。
瞬間、飛行物体の表面から幾つもの目のようなものが開き、浮かび上がる。
奇怪なその姿に場は凍りつき、見た者の思考は一瞬ながら停止した。
「衝突するぞ! 」
誰かが叫んだ言葉でマックは我に返った。
同時に強い衝撃が走る。
飛行物体が地面に衝突し、それにより地響きが発生したのだ。
だが、40Mクラスの物体が衝突した割にその衝撃はあまり強くない。
身を低くし防御態勢をとることで踏みとどまれるほどだ。
だが、衝撃の強さなど、どうでもよかった。
衝撃が収まり顔を上げた瞬間、信じられないものがマックの視界を支配する。
「なんだ……こいつは…… 」
飛行物体はかつての姿から形を変えていた。
巨大なウミウシの姿ような姿をしており、体表は固く石のようだ。
ゆっくりと周りを確認すると、こちらに向かって接近してくる。
マックはその姿に驚き、そして恐怖した。
脚が竦み、思うように動けない。
マックの脳裏には日本のテレビや映画でしか見たことがなかったある存在が思い浮かんでいた。
強大な力を持ち、地球上の生物の何倍もの大きさを持つ。
口から熱線を吐き野を焼くものもいれば、体中から電気を放つものもいる。
そうだ、見たことがある。マックはそれを見たことがある。
あの怪物を体現するような言葉をマックは知っている。
日本では昔から架空の存在として語られていた存在、それは――
「怪……獣……! 」
目の前に架空の存在であったはずの『怪獣』がたしかにそこにいた。