ウルトラマン ~光の巨人~   作:ふしどり@すずめ

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第二話 生贄の誇り

マックがそれを初めて目にしたのは一ヶ月前のことだった。

 

先月、日本にいる妻と息子に会いに行った時、テレビで見たことがある。

息子が夢中になっている液晶の先には、エイリアンとも見れる巨大な生物と巨人が戦いを繰り広げていた。

 

「このエイリアンは随分と大きいんだな」

 

「パパ、これはエイリアンじゃないよ。

 カイジュウだよ、カイジュウ! 」」

 

カイジュウ…… あぁ、怪獣か。

確かちょっと前のロボット映画に似たような単語があったなと思い出す。

なるほど、日本の作品が元ネタなのかと納得する。

 

もし現実に怪獣が現れたら、現代兵器では倒すことができないのではないか。

現に防衛隊の飛行機が怪獣に攻撃をしかけていたが、注意を逸らす程度の効力しかなかった。

怪獣が存在する世界でさえ、注意を逸らす程度だ。

現実では豆鉄砲以下の攻撃力だろう。

 

テレビで見た怪獣は、注意を逸らされた隙に巨人が放った光線で打ち倒された。

巨人の勝利を見て喜ぶ息子を見て温かい気持ちになる。

現実にもこの巨人が存在したらと、少しだけ考えて笑ったのを覚えている。

 

だが、今は笑っている余裕などない。

一目見て思った。こいつは『怪獣』だと。

目の前に存在しないはずの、いや存在しないと勝手に思っていた『怪獣』という驚異がそこにある。

シルエットこそはテレビで見た怪獣とは全くかけ離れている。

しかし、エイリアンや化け物とは違った恐ろしさと不気味さが感じられる。

 

「ば、化け物だ……! 」

 

誰かが叫んだ。

違う、そんなのじゃない。

そんな弱い言葉で表現できるほどの存在じゃない。

 

怪獣が迫る。

ウミウシのように地面と接着した面をぐねぐねと動かし進む

歩みこそ遅いものの、その遅さがより怪獣としての恐怖を増幅させる。

 

「全員撤退、ここは捨てる!

 戦車と装甲車にまかせて退避しろ! 」

 

マックの合図と共に、ミサイル操作担当の軍人たちは撤退していく。

怪獣は歩みを止めずゆっくりと、しかし着実に迫ってくる。

戦車や装甲車が攻撃を加えるも、爆炎を纏うのみでダメージは感じられない。

まるで無効化されているようで足止めにすらなりはしない。

 

「くそっ……!

 どうすりゃいいんだよ! 」

 

マックが叫ぶ。

攻撃が一切通用しない相手にどう対処すればいいのかわからない。

このままでは全滅すら視野に入る。

 

そう考えていると、突然怪獣が歩みを止めた。

頭のような部位を動かし、空を飛ぶ戦闘機の様子を見つめているように思える。

 

「な、なんだ……

 どうしたんだ……? 」

 

瞬間、怪獣の体表に変化が生じた。

先ほどまで石のように見えていた体表が、ぶよぶよとした柔らかい性質に変化する。

同時に幾多の目のような模様が浮かび上がり、さらなる不気味さを帯びた。

 

肉質が変化した為かこちらの攻撃に対する反射も変わっていた。

先のように攻撃を無効化しているのではなく、吸収しているように見えるのだ。

戦車の主砲も怪獣に直撃した瞬間爆発せずに怪獣の表皮に吸い込まれる。

まるでずぶずぶと沼に引き込まれるかのようだ。

 

怪獣は攻撃に目もくれず、ただひたすらに戦闘機を観察している。

今がチャンスだと言わんばかりに攻撃を仕掛けるも、すべて吸収される。

無駄だとわかっていても攻撃せざるを得ない。

それしか我々には恐怖を拭う手段が残されていないのだ。

 

やがて怪獣は満足したと言うような様子で戦闘機の観察を止めた。

体を丸め、一切の動きを止める。

そして再び体表……いや、形質を変化させた。

 

背中のように見える部位が裂け、巨大な何かがゆっくりと生えてくる。

それは我々がよく知るもので、『翼』と表現するにふさわしいものだった。

 

「翼……?

 そんな、嘘だろ? 」

 

怪獣がその翼をはためかせると、巨体がゆっくりと宙に浮かんだ。

一度、二度と繰り返すたびに体は高度を増していく。

やがて十分な高度を手に入れたのか、凄まじい速度で飛行を始める。

戦闘機が追尾するも、見失わないようにするのが精一杯といった様子だ。

 

「戦闘機を見て、飛べることを理解したのか……この空を…… 」

 

あまりにも早い進化。

怪獣は地球上の生物では何十年、何百年とかかる進化を一瞬で成し得たのだ。

 

怪獣が飛び去ったあと、戦場に残ったのは恐怖と緊張感。

何が起きたのかさえわからぬ者もいる。

救いだったのは被害があまりないことだ。

怪獣はただ移動するだけで暴れたわけではない。

死傷者は数えるほどだろう。

それでも我々が負った傷は深い。

突如として訪れた恐怖に、我々人間はただ無力さを思い知るだけだったのだから。

 

 

 

怪獣との交戦は世界的なニュースとなり、多くの人間がその存在を知った。

情報操作により、怪獣は軍隊の強烈な攻撃を受け逃亡ということになっている。

最後に怪獣を捉えた戦闘機の情報によると、怪獣はインド洋に飛び込んだらしい。

その後の行方はわからず、今もどこかの海で生存していると考えられている。

 

怪獣出現から五日経った今日。

国連は各国の首脳を集め国際的な対策会議を開いた。

怪獣対策本部を置き、この事態と向き合うという。

対策会議にはNASAを含む多くの研究機関も参加している、

マックも怪獣と交戦した者として会議に参加することになっていた。

会議室はざわついており、不安を語る者もいればビジネスを語る者もいる。

やがて白衣の男が皆の前に現れ、プロジェクターから映像を写しだした。

 

「皆様こんにちは。ベル・ワーグナーと申します。

 私の口から、あの生命体についての説明と対策についてお話したいと思います」

 

ベルと名乗った男はそう言ってお辞儀する。

前会議にも出席していたベルは、界隈では有名な博士だ。

さまざまな分野に長けているようで今回の会議に出席しているのも納得できる。

 

「地球外から飛来した謎の生命体。

 研究機関では『unknown01』と呼んでいます。

 生命体というカテゴリに属するかはまだわかりませんが、便宜上そう呼んだほうがわかりやすいでしょう」

 

ベルが説明を始める。

手慣れた様子で画面を操作すると、怪獣の姿が映し出された。

 

「まずは先の戦闘から得たデータを解析してみましょう。

 unknown01はミサイルをはじめとする火器攻撃が一切通用しませんでした。

 今回核での攻撃は試していませんが、効果は期待できないでしょう」

 

会議の参加者たちは顔をしかめながら映像を見つめる。

自分たちが抱えた問題を見たくないと言うように。

しかし、いつどこに怪獣が現れるか分からない以上、人事のように事態と接することはできない。

 

「次に形質の変化です。

 一度目は頑強な表皮から、ぶよぶよとした柔皮になり目のような模様が浮かび上がりました。

 この状態では、ミサイルなどの攻撃は皮膚に吸い込まれます。

 二度目は背部が断裂し、翼のようなものが生じました。

 この時奴は戦闘機の様子を観察しているように見られました」

 

「では、そのアンノウンは戦闘機を見て翼を生やしたのか?

 とても知能があるようには見えないのだが」

 

参加者の一人が疑問を投げかける。

ベルはにこりと笑い、今から説明しますと諭した。

 

「unknown01は、空を飛ぶことができると理解した可能性があります。

 宇宙から飛来した奴は、地球の重力で最初は地面を這っていました。

 この星では這うのが移動手段だと重力下で解釈したのでしょう。

 しかし、戦闘機は空を飛んでいました。

 奴はそれを見て、這うだけが移動手段ではないと理解し、そして形質を変化させた―― 」

 

「バカバカしい!そんなことはどうでもいいのだ!

 あの化け物をさっさと殺す方法を考えろ! 」

 

小太りの男が声を荒らげる。

それに続くように何人かの人たちが野次を飛ばすが、ベルは表情を変えない。。

不安と焦りが生じるのは誰もが同じだ。

しかし、ここにいる者の多くは国の首脳。

国民の不安と焦りを飲み込むためにも、無理にでも冷静にならなければいけない場なのだ。

 

「殺す方法はまだわかりません。

 攻撃が効かない以上、殺すこと事態難しいのです。

 表皮のサンプルが入手できれば対策も練りやすいのですが、それも難しいでしょう。

 表皮が通常状態にある場合は特にです。

 柔皮状態であれば、入手できる可能性はあるのですが…… 」

 

「ならまずサンプルを入手する方法を模索するべきですね。

 同時に、次に出現した時のプランも考えましょう。

 有効的な攻撃方法があるかもしれません」

 

真面目な男の声により方針が決定する。

誰も異論がないようで反論の声は上がらない。

 

「ではそうしましょう。

 unknownの表皮を採取する方法ですが、形質変化した柔皮に限定したいと思います。

 いつ変化するかはわからないので素早い作業が求められます。

 形質変化を見てから機械を扱うのは難しいでしょう。

 確実なのは人の手で採取することです。

 予めunknownの体に乗り、形質変化を見極めて採取する方法です」

 

発言後、場がざわつく。

この方法は確実性はあるかもしれないが、下手をしたら死を伴うものだ。

体に乗ってる最中に怪獣が暴れだし放り投げられたらひとたまりもない。

サンプル入手のための生贄を募っているのと同じ状況だ。

 

「その方法。もし採用されるなら俺にやらせてください」

 

一人の男が名乗りを上げた。

その男は先の戦いで、間近で怪獣を見た者だ。

見た上で、その恐怖を知っていながらも名乗りを上げた。

その男は……

 

「あなたは……軍人のマック・タイラスさんですね?

 あなたの証言は、いいデータになりました。

 しかし、本当にいいのですか? 」

 

マックは無言で頷いた。

自分でもわからない何かが彼の心を動かした。

それが正義感なのか、好奇心なのかもわからない。

強いて言うなら、軍人としての誇りが彼を動かしたのだろう。

マックの強い意思を汲み取ったのか、ベルはにこりと微笑んだ。

 

「わかりました。

 では、あなたに一任します。

 この役目は重いものですが、あなたならきっと出来ると信じています」

 

「ありがとうございます、博士。 」

 

その瞬間、会議室のドアが突然開いた。

ドアを開けたのは黒服の男で、なにやら焦っているように見える。

 

「どうかしましたか?

 今は会議中なので特別な要件でなければ後にしてください」

 

ベルが言うと黒服の男は特別な要件ですと述べた。

会議室がざわつき、不安を煽る。

 

「太平洋沖にunknown01が出現。

 アメリカ大陸へ向けて進行中とのことです」

 

会議室に衝撃が走る。

再びの怪獣出現、

人間は試されている。その力を。

ベルはゆっくりとマックを見つめる。

マックはその視線に頷き答える。

予想よりも早い出撃となりそうだ。

 

 

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