第一話から熱かったですね。
予算が心配になるくらいです。
個人的にかなり面白かったので今後にも期待です。
怪獣の接近に伴い、太平洋沖には駆逐艦や巡洋鑑、空母をはじめと戦力が集められた。
イージスシステムを搭載したイージス鑑も用意され、防衛線が引かれる。
対人を想定したものではないため編成に統一感はないものの、今集められる戦力としては十分だ。
しかし、勝つことは目的としていない。
あくまで今回の作戦は足止めや進路変更だ。
その作戦にマックは表皮のサンプルを回収するために出撃することになった。
あわよくば討伐も考えられているが、可能性は低い。
表皮サンプルの回収成功確率はゼロに等しいし、そもそもマック一人で行うこと自体がおかしい。
本来ならもっと大掛かりで数十人以上……いや今回の場合もっといてもいい。
しかし、それを集めるには時間が足りなすぎた。
怪獣の再出現の時間が短すぎた。
せめてあと一、二日伸びていたなら動員人数を増やせたかもしれない。
一人では今回の作戦が無駄になる可能性もある。
全滅、そしてサンプルの回収失敗。
希望すらみせることができない完全な敗北。
それでも少しの光を信じ進むためにも、一人でもやらなければならないことがある。
マックにはその覚悟があった。
今回マックは、ヘリに乗り上空からパラシュートで怪獣の背に降下することになった。
少しでもタイミングがズレると失敗の危険がある。
だが、これが今現在できる成功率の高い作戦であった。
マックに特殊な切断器具と、サンプルを収納するケースが渡された。
念のためと小型の爆弾も持って行くことになった。
もし切断器具で事足りないようなら、爆発させてでもサンプルを回収して来いということだ。
怪獣が形質変化を起こした時、柔皮はミサイルなどの物体を吸収していたため表皮上で爆発することはなかった。
ベル博士は表皮上で爆発すれば組織を破壊できるのではないかと考えたのだ。
あと数十分もすれば怪獣が目に見えるだろう。
防衛線上は緊張に包まれ、空気が張りつめて重い。
各所で少しの安らぎを求めて紡がれる会話もどこかよそよそしく、空を掴んで離れていくだけだ。
そうしているうちに一分、また一分と時は刻まれていく。
時間の流れがやけに遅く感じ、焦燥感を煽る。
静寂の中、レーダーに一つの赤い点が現れた。
それが注目を集めた瞬間、場は一瞬にして空気を変える。
同時に海面が大きく盛り上がり、生物とはかけ離れた異形の姿を持つ怪物が姿を現す。
unknown……怪獣だ。
形質は変化していないようで、岩のような体表のままだ。
怪獣の確認を合図に一斉に攻撃が始まった。
ミサイルや砲弾が次々に怪獣へと叩き込まれる。
マックも準備を整えタイミングを伺う。
怪獣が変化を始めてからでは遅い、それを予測した上で回収作業をしなければならない。
怪獣は攻撃に怯むことなく進行する。
タンザニアで形質変化を起こしたときは戦闘機の様子を見て空を飛べる事を理解し変化したように見えた。
もし今回もそうなら、同じようなことをしなければならない。
何かを怪獣に学習させる……本当ならこんな方法は間違っている。
大きなリスクを背をわなければ前に進まないほど我々人間は遅れているのだ。
たった一人の来訪者に。
悠々と進行していた怪獣の動きが鈍くなってきた。
マックはこれを形質変化の前触れだと解釈し、降下を開始した。
怪獣の背めがけて飛び降りる。
想像以上の風圧に耐えながら、目標を補足する。
それを確認した攻撃部隊は砲撃を一度止め、マックの様子を確認する。
マックは無事怪獣の背中に着地し、いつでもサンプルの回収作業に取りかかれる状態になった。
怪獣はやがて進行を止めるとあの時と同じように首を持ち上げ周囲を観察しだした。
今度はイージス鑑を含む攻撃鑑に興味を示したようだ。
だがそれほど長い時間観察せず、首をもちあげたまますぐに怪獣は動き出してしまった。
「動き始めた!?
砲撃が止んだからか……?
だとしたら…… 」
マックはしばらく考え、やがてそれをまとめる。
砲撃が止んだ瞬間に奴は動き始めた。
脳内で一つの可能性が浮上する。
「今回あいつが興味を示していたのは武器ほうか……!
おい!攻撃を止めるな!俺はうまく何とかするから攻撃してくれ! 」
無線で攻撃部隊と連絡を取る。
時間はある。
しかし、時間をかければかけるほどにこちらは疲弊し、士気を失っていく。
これ以上被害を広めないためにも、すぐに行動する必要があった。
「攻撃……ですか!?
危険すぎます!それなら爆弾を使った方が…… 」
「形質変化を促すために必要なんだ!
おそらく奴が欲してるのは攻撃だ。
必要としてるモンを叩き込めば奴は絶対に形質変化を起こす!
頼む、信じてくれ……! 」
しばらくの無言のあと、静かに了解の声が聞こえた。
マックは一言だけ礼を述べると、砲撃に備え身を低くする。
同時に再び攻撃が始まった。
怪獣に幾多の砲撃が加えられ、強い衝撃がマックを襲う。
油断していれば振り落とされてしまいそうだ。
怪獣は爆炎を纏い、なお進行を止めない。
やがてまた動きを止め周囲を観察し始める。
砲撃は怪獣を絶え間なく襲う。
しばらくの間の後、怪獣は体表を変化させた。
あの時に見たようなぶよぶよとした柔らかい体表だ。
同時に幾多の目のような模様が全身に浮かび上がる。
背中にある目はマックを見つめているようにも感じ取れる。
「……気持ちが悪いぜ。
さっさとサンプルを回収してここからオサラバだ」
マックは切断器具を取り出し、サンプルの回収を開始する。
器具の刃はいとも簡単に怪獣の体表を貫き、引き裂いていく。
その感触の軽さに一瞬だけ驚くが、すぐに忘れ作業を続ける。
ケースいっぱいの表皮を回収し終えたマックは、怪獣が行動を再開する前に海へと飛び込む。
泳いで怪獣との距離をある程度取り、振り返る。
その時すでに怪獣は変化を終えていたようで、行動を再開していた。
「何とか間に合ったか……
早いとこサンプルを博士の元に…… 」
その瞬間だった。
怪獣の側面が裂かれるようにして開き、沢山の穴が生み出される。
前の翼のように目に見て形容できるものではない。
システム的な学習をしたのだろうか。
だがその考えはすぐに消えた。
開いた穴から刺のようなものが射出される。
それはまるでミサイルのようで、一直線に攻撃部隊へ飛んで行く。
迎撃しようとするが間に合うわけもなく、イージス艦の装甲を貫いた。
少しの間の後、イージス艦は爆発。
爆風がマックを揺らした。
同じように攻撃を受けた駆逐艦や巡洋艦、空母も爆発を起こし、辺り一面が一瞬にして火の海になる。
水中の潜水艦にも攻撃はあたっていたようで、水をとおして衝撃が伝わってくる。
怪獣は攻撃を繰り返し、まるで精密な機械のように戦闘機と軍艦を破壊していく。
「おい……おいおい……嘘だろ? 」
五分もしないうちに部隊は全滅。
外敵の排除手段を学習した怪獣の前に、人は為す術もなく散った。
最後にマックの目に映ったのは、燃え盛る炎と海中に潜っていた怪獣の姿だけだった。
結局、先の戦闘においての生存者はマックを含めたったの6人。
そのうち二人はヘリのパイロットで、残りは運良く生き残った者だった。
タンザニアではほとんど死傷者を出さなかったが、今回の戦闘でかなりの者が命を落とした。
サンプルを回収出来たものの、それに見合うのかわからないほどである。
「……タイラスさん。サンプルの回収お疲れ様です。
次のunknown出現までにこの表皮の謎を解き明かしてみせます。
勇敢に戦い命を落とした者のためにも、必ず」
サンプルを受け取ったベル博士の手には力が込められている。
博士として何もできなかった悔しさと、これ以上被害を増やさないという強い思いが伝わってくる。
マックも同じだ。これ以上被害が出るのを黙って見ているわけにはいかない。
しかし、一瞬にして部隊を全滅に追いやった怪獣を倒す術などあるのだろうか?
全ては研究班に任せられたのであった。
太平洋での戦闘から一週間。
サンプルの研究は順調に進んでいるがまだこれといった怪獣の対策はわかっていないようだ。
対策本部は重く硬い空気に包まれている。
それもそのはずだ。
またいつ怪獣が現れるかわからない。
その恐怖はマックのような軍人から普通の生活を営む人々も共通である。
いつ脅かされるかわからない日常を、恐怖という荷物を背負ったまま送っている。
もどかしく思ってもどうすることもできない。
マックの行き場を失った衝動が拳にかわり壁へと叩きつけられる。
その瞬間をちょうど休憩していたベル博士が見ていた。
一瞬だけ目が合うが、気まずさゆえにすぐに目を逸らす。
「不安……ですか? 」
ベル博士が声をかける。
マックは答えず、顔を伏せたままでいる。
不安だけではない様々な感情が胸の奥にあった。
それが複雑に絡まって、解けなくて、イライラする。
だからといって物に当たるのは間違っているということも理解している。
理解していてなお、ぶつけずにはいれない。
ベル博士は少しだけ笑みを浮かべて、やがて口を開いた。
「……人間は今、試されていると思うんですよ。
私たちの持つありとあらゆる力を。
それは勿論、武力以外の力も含まれています」
コーヒーを啜りベル博士はゆっくりと語りだす、
誰に語るでもなく、あくまで独り事のように優しく。
「今の私たちにunknownは倒せないでしょう。
しかし、二時間後の私たちはどうでしょう。
明日の私たちは? 明後日は? 」
繰り返される問い。
硬く強い意思、彼の魂とも言える言葉。
それがいま空気に溶けて、広がっていく。
「沢山のことを試して、試して、試しましょう。
ギリギリまで頑張って、ギリギリまで踏ん張って、生きましょう。
心が折れなければ私達の力はきっと届きます。
それは多分、きっと光のように明るく未来を照らすでしょうから」
紡がれた言葉は博士としてではなく、ベル・ワーグナーとしての言葉だ。
博士のような人間が精神論を語っていい状況ではない。
しかし、ベル・ワーグナーは信じている。
人々が持つ心の力という強さを。
それが何を証明するかを。
「……さて、そろそろ休憩は終わりですね。
いち早く奴への対策を確立しなければなりません」
ベル博士は立ち上がると、コーヒーカップを残して去って行った。
マックは彼の去った後の空白をただまっすぐに見つめる。
何かそこに残っているような気がして、それ知りたくて。
やがてそれがわかった瞬間、気づけばマックは立ち上がっていた。
胸の奥にあった余計な感情はもう解けてまっすぐになった。
信じてみようと思ったのだ。
彼が持つ力を。自分の持つ力を。
そして、人々の持つ力を。
最近忙しいこともあり更新が遅れました。
今後も忙しさは続きますが、文章力向上のため頑張っていきますのでよろしくおねがいします。