ウルトラマン ~光の巨人~   作:ふしどり@すずめ

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第四話 絶望の暗雲

太平洋での惨劇から一ヶ月。

先の戦闘以来怪獣は姿を現していない。

どこかで生存しているのは確実だが、発信機を仕掛けていなかったので場所が特定できない。

サンプル回収という目の前の目標に囚われていたがゆえのミスだとベル博士は嘆いていた。

しかし過ぎたことは仕方ないとすぐに気持ちを切り替え研究に戻った。

スイッチ切り替えの早さには自信があるようだ

 

マックが回収したサンプルの研究はかなり進んでいたが、なかなか対策が練りづらい状況であった。

怪獣の表皮は地球上の生物のどれにも該当しない組織構造をしていた。

遺伝子構造は解析不能なレベルだ。

現代の技術ではまるで意味がわからないという。

四重らせん構造だけではなく、もっと複雑なものや遺伝子構造の根本を覆すようなものまであるらしい。

しかも、本体から切り離された表皮は鮮度を失わない。

まるで表皮自体が生きているかのようだ。

外界からの刺激によりその性質は変化することができる上に、ある程度の衝撃は吸収される。

あの怪獣、unknown01は外界からの刺激を受け進化していく謎の生命体ということになる。

 

そんな奴にどうやって立ち向かえばいいのだろう。

体内から爆破するという案もでたが、全身が表皮と同じ性質を持っていた場合倒すことは難しい。

それに怪獣が進化し爆破自体が効かなくなってしまう可能性もあるのだ。

 

今のところ有力な攻撃方法として酸が挙げられている。

怪獣が進化する前に全身を酸で溶かし倒す作戦だ。

この作戦には難点が多い。

まず、巨大な怪獣をまるまる溶かすほどの酸を用意できるかということ。

次にこの作戦は環境へのダメージが大きいということだ。

怪獣がもし市街地に現れようものなら大惨事が起きる。

以上の点からあまり推奨される作戦ではないのだ。

この他にも怪獣の表皮をわざと変化させて、その状態に反発する攻撃を与えアレルギーのようなものを起こす作戦や、

 

力づくで表皮を抉り取る作戦なども提案された。

しかしどれも怪獣の対策としての決定打がなく、状況は拮抗していた。

 

これにはベル博士も頭を悩ませていて、どうにもならない状態らしい。

サンプルのおかげで少しは対策が練られるかと思ったが、いざ蓋を開けてみるとこれだ。

怪獣という絶対的な存在に今持っている技術では太刀打ちできないということがわかるだけ。

絶望を越えた先にも絶望が見える。

終わらない死のマラソン。

 

それでも心は折れない、折ってはいけない。

諦めてしまったら見えるはずのものさえ見失う。

今はただ見えない何かに向かって手を伸ばし続けるしかない、走り続けるしかないのだ。

マックは研究資料を何度も見直す。

現時刻は深夜。

早く対策を考えなければという焦燥感が彼を動かし続けていた。

 

気づけば時間はかなり過ぎていた。

日差しが強く、夜がとっくに明けていたことを知らせる。

ここのところベルもマックも忙しく、外の空気まったくを吸っていない。

起きて会議、研究、睡眠の繰り返し。

時間の感覚などとっくに狂っていた。

軍人としての生活が懐かしくも思える。

今も軍人であることには変わりないが、怪獣との交戦経験があり生き延びた者は少ない。

駆り出されるのも無理はないのだ。

今日もまた同じような日を繰り返す。

そう思った時だった。

 

突如として対策本部全体に警報が鳴り響く。

仮眠をしていた人々も、そうでない人も騒然とし、状況の確認を始める。

マックが状況を飲み込めずにいると、ベル博士が肩を叩いた。

はっと我に返り、気づけば口が動いていた。

 

「ベル博士、状況は!?

 この警報は……まさか…… 」

 

ベル博士は無言で頷く。

それが意味するのはたった一つである。

恐れていた事態が発生した。

 

「……unknownが出現しました。

 場所は太平洋。進路は日本。

 日本への予想上陸時間は2時間。

 今は現地の戦力が迎撃に当たっていますが、突破は時間の問題です。」

 

ベル博士は淡々と事を伝える。

あくまで冷静、感情的になってはいけない。

わかっていたことだ。

 

「時差があるとはいえ、今から我々が向かうのは無理があるでしょう。

 それに、今は何も対抗策はありません。」

 

「それでも、行きます」

 

マックの力強い声に「そう言うと思いました」とベル博士は再び頷く。

心なしか口元が笑っているような気がした。

日本にはマックの家族がいる。

それだけじゃない、沢山の人々が暮らしている。

怪獣が日本に上陸し太平洋の時のように暴れまわれば大変な惨事が起きる。

向かう理由はいくらでもある。

 

「特別機をチャーターしました。

 日本まで2、3時間ほどで到着します。

 その代わり、少々狭いですが。」

 

そう言うとベル博士は「ついて来てください」と言い、足早に動き始めた。

マックもそれに急いでついて行く。

対策本部を抜け、ドックへと向かう。

ベル博士に案内された先には、かつて「ブラックバード」と呼ばれていた一機の戦闘機があった。

 

「これは……SR71!?

 戦闘機じゃないか!

 実際に乗ったことはないが知ってるぞ! 」

 

「正しくはSR71-Bの発展型です。

 SR71-Bを改良したもので世界に一機しかありません。

 復座式のこの戦闘機なら短時間で日本に向かえます。」

 

言葉の後、マックはしばらくブラックバードを見つめていたが、やがてベル博士に向き直り、頷いた。

ベル博士もそれに返事をするように頷き、互いの意思を疎通させる。

やらなければならないことは、たった一つだ。

 

「ベル博士、感謝する。

 俺だけ早く行っていいものか悩むが、今はそんなこと考えてられないな。」

 

「そうです。

 unknownの背中に乗った、勇気あるあなたなら、きっと。 

 私もすぐに向かいます。

 その時にはきっとあの怪獣を倒す策があるはずです」

 

そう言う彼の瞳からは揺るぎない意思が汲み取れる。

彼の信念は強い。

きっと怪獣を倒す策を見つけられると信じられる。

 

「……わかった。

 ありがとう、ベル博士」

 

マックは再び礼を言うとブラックバードの復座に乗り込んだ。

次にパイロットが乗り込みマックに軽く挨拶すると、発進の準備を始める。

この戦闘機が飛び立ち、しばらくするとマッハの世界だ。

それでも日本に到着するころには怪獣が上陸しているだろう。

日本に到着したら素早い行動が求められる。

現地の軍隊と連携を取り、情報を対策本部と共有しながら怪獣と戦闘。

問題は山積みだがとにかく今は早く日本に着くことが先決だ。

 

管制塔からサインが送られ、パイロットがブラックバードを発進させる。

離陸時のGに耐え、加速に身を任せる。

しばらくすると、まるで自分が風や時に同化していくかのような感覚に陥った。

魂ごと溶けていく……そんな感じだ。

この不思議な感覚は一体……?

 

そう思った瞬間、強烈な赤い光がマックの意識を現実へと引き戻した。

突然の出来事にブラックバードは揺れるが、すぐに体勢を整える。

狭い座席から窓を除くと、そこには巨大な火の玉らしきものが見えた。

しかし、マックがまばたきをして次に目を開けた時には、もうそこには何もない。

太陽のフレアが散乱して見えたのだろうか?

それにたまたま強風が重なったのかもしれない。

隕石ならNASAが探知しているはずだし、マックが見た夢の可能性もある。

様々な可能性を考えるが、そんなことをしている場合ではない。

少しでも怪獣への対抗策を考えなければ。

気持ちを切り替え深呼吸をする。

そうしてマックは深い思考の海へと身を堕としていくのだった。

 

 

 

深い集中から意識を戻したのは、日本に到着する少し前のことだった。

長い間怪獣への対抗策を考えていたが、全くいいアイディアが浮かばない。

絶望的と言っても過言ではないが、あくまで"今は"だ。

一時間後には対抗策が生まれるかもしれない。

それが無理でも、二時間後、五時間後、十時間後はどうだ。

ベル博士は言っていた。「人間は試されている」と。

ならば、その試練を乗り越えてやろうではないか。

気持ちで負けるわけにはいかない。

ベル博士がマックに与えた影響は大きかった。

 

マックが日本に到着した頃には、怪獣は既に日本に上陸していた。

千葉県の太平洋沿岸から上陸し、東京方面へ向けて進行中とのこと。

ブラックバードから降りたあとは現地の自衛隊と合流し前線へ向かう。

怪獣に攻撃を続けているが足止めにもならないと装甲車で移動した際に隊員から聞いた。

奴はまた進化したようで、大地を踏みしめる脚と背中に巨大な胞状の組織を持っているらしい。

この目で確認するまで詳しいことはわからないが、進化のスピードが早くなっているような気がする。

太平洋で見た時は脚も胞状の組織もなかった。

この一ヶ月間でそれを得たのか、自衛隊との交戦で得たものかはわからないが、注意が必要だ。

 

運転手の「もうすぐ見えます」の声と共に、その異形の姿が徐々に露わになる。

全長40Mほどのそれは、一ヶ月前に日本のテレビで見た"怪獣"と酷似していた。

 

「ティラノサウルスが可愛く見えるぜ

 見たことはねえが断言できる」

 

太く巨大な脚、トカゲのような腕、背中には胞状の組織があり内側で球体のように見えるものが光っている。

二本足で大地を踏みしめながら進行するその姿は、まさに"怪獣"であった。

ミサイル攻撃は健在で、胞の脇から刺のようなものが射出されている。

いつの間にか眼のような組織まで発達しており、規則的に光を放っていた。

表皮は岩皮と柔皮の中間で、ある程度の強度を持っているように見える。

怪獣としてはパーフェクトではないだろうか。

 

「こいつは中々、すげえ奴だ。

 本当に怪獣じゃねえか」

 

思わず溢れる。

声は微かに震え、一人の人間として恐怖を感じる。

その姿に呆然とし、ずっと見ていられるような気もした。

だがそんな暇はない。

一刻も早く首都への進行を止めなければならない。

日本の主要機能は東京にかたまっていると聞く。

首都が落ちれば日本の機能は失われてしまう。

そうなる前に何とかしなければ。

 

「マック・タイラス軍曹、支持を」

 

自衛隊員たちが指示を待つその声で我に返る。

戦場の指示権は普通マックのような階級の軍人が持つことは少ない。

あっても分隊一つの指揮権が精一杯だ。

しかし、怪獣との交戦経験のあるマックは特別にそれが持たされていた。

 

「よし、とにかく奴を東京へ進行させるな!

 注意を引いて進路をずらすぞ! 」

 

マックの声に続き、了解の声が轟く。

なんとしてでもこの国を守りぬく。

妻の愛したこの国を。息子の愛したこの国を。

そして、マック自身が愛したこの国を。

怪獣という脅威から。

再びそれを固く誓ったマックは、力強くその一歩を踏み出した。

 

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