砂塵が吹き荒れ何も見えなくても、ぼくは2時の方角に敵が現れたのが分かっていた。そいつらがランチャーをぶちかますことも。
「タクミ!」
耳にタコができるほど聞いたナイジェルの警告に内心舌打ちしつつ跳躍し、かわした攻撃の爆風の勢いを借りて飛び込んだぼくは、黒い刀身をシャッと振ると一拍おいて敵の上体が崩れ、伝導液が血のように吹き出した。
「あれ、本当にタクミか…?」
仲間の一人が文字通り目を点にして、呆然として呟く。無理もないだろう。
つい昨日まで模擬戦にもビビっていた後輩が、マリナ・オーグランの真似事でガンツソードを持ってきたとばかり思っていたのに、冗談抜きに彼女そっくりの戦い方で鬼人のごとき働きをやってのけているのだから。
「全員聞け!これより第8中隊はコガ・タクミを全力で援護する! 奴の動きを絶対に妨げるな!」
曹長の戟が飛び、味方がぼくの周りを取り囲む。ちょっとした高揚感を感じながらぼくは地を蹴った。
物凄いスピードで雲が後方に流れるが、ガンツ製の
何もシートまで気を遣わなくてもいいだろうと他兵科はこぼすが、アキラには重要問題だ。メイクが許されない訓練時代からようやく解放されたのに、機動Gやストレスで痔にでもなったら笑えない。
エアバイクはガンツバイクに円盤状のローターを装着したもので、全体としてはUFOに見えてもおかしくないが、その最高速度はかつての戦闘機に勝るとも劣らない。そのくせ、パイロットには極力負担がかからないよう設計されているから、曲芸飛行もお手の物だ。
武装面でもプラズマ機銃とミサイルが2門ずつあるからハンターキラーにも十二分に対抗できる。
これらの性能とスーツの恩恵もあって、アキラはその才能を存分に発揮し、1年前の初陣からこれまで30機近い撃墜数を記録した。所属する部隊内ではエース級の戦果で、自分でもそう思っていた。
けど、今日は事情が違う。REXとかいう特殊部隊が作戦に参加しているからだ。何でも隊員のおよそ半数が勲章受章者で、特に隊長の女が別格に強いらしい。刀一本で100体以上のターミネーターを地獄に送ったらしいけど、噂話に大抵尾ひれはつきものだから、アキラは鼻で嗤ってやった。
聞けばREXは新しい戦術や兵器をテストするプロパガンダ的存在で、リーダーが女なのも血の気の多い野郎どものささやかな心情に配慮してのことみたいだ。
(ま、それなりに美人だし。)
ヘルメットに映し出されたウインドゥを読み取りながら、アキラは操縦桿を左に倒す。すぐ横を敵のバルカン砲が大気を震わせた。
今回の彼女らの任務は戦闘区域の上空に現れる敵の爆撃機を迎え撃つことで、地上部隊の被害を最小限に留める役割だ。アキラはこれまでに5機の撃墜に成功し、上機嫌だった。
「っと!」
後ろから再度火線が迫り、下降してやり過ごす。そのまま地上に向けて落ち続けると、敵機が追いすがってくる。狙い通り。
落下を装って射程内ギリギリまで引きつけると、レバーを手前に引いてユニットを急上昇させる。それでも付きまとうハンターキラーを視認したアキラは、構うことなく雲に突っ込んだ。
直後に同じ道筋をたどった敵機が動きを鈍らせた一瞬を突き、急制動をかける。瞬間的に抑え込もうとしてくるGに耐えたアキラは、素早く背後を取りボタンを押した。
何か閃光がまたたくと同時に雲が弾け飛び、少し遅れてユニットが爆発の煙を引き裂いて現れる。これで6機目。
張りつめた息を吐くと、耳元のスピーカーに通信が入った。
「またやったのか、アキラ。」
「うん、今日は何だか調子いいみたい。」
「よく言うぜ。3か月前には二ケタ近く落としたくせに。」
ディスプレイの隅っこに映る金髪の男の顔が大げさにため息をつく。
「そういうカルロスだって、この前上からメダルもらってたろ。」
「それでもお前には負けるよ。はあ、またオレがおごるのか。」
「無駄口叩くヒマがあるんなら手を動かしたら? 一機で100ドルの決まりでしょ。」
すれ違う敵のいくつかに当たりをつけて、機体を反転する。エアバイクはスピードだけじゃなく、格闘戦も申し分ないくらい細かく動いてくれる。
「ま、精々頑張るさ。そっちも暴れすぎて幼馴染君に逃げられないようにな。」
いきなりのカウンターにドキリとしたアキラは、つい大声で叫んでしまった。
「ちょ、ちょっとカルロス! アイツとは何でもないって何度も…!」
言い返す前に男の顔は画面から消える。
「オイ! …ったく。」
仕方なくアキラは操縦に専念する。空を飛ぶのは嫌いじゃなかった。小さいころに家族で見に行った戦闘機の美しいフォルムに魅せられて、作文でパイロットになりたいと書いた思い出がある。
女のお前なんかになれっこないとバカにした男子を、土下座させて謝らせたのはご愛嬌だ。お陰で小学校時代に「ゴジラ」という不名誉な称号を得たが。
あのころのアキラは良く言えば学校のアイドル、悪くて男も黙らせる女帝だった。喧嘩は負けなしで学校どころかそこら中の公園なんかもテリトリーにしていたこともある。
さっぱりとした振る舞いから女子には人気だったが、男子からは畏怖される対象でしかなく、唯一口を聞いていたのはさっき話題に上がったタクミくらいだ。
だからといって、彼とのことで冷やかされるほど当人同士の関係が進んでいるわけではない。
言うなればいつまでたっても甘ちゃんの弟を心配する姉のようなものだ。断じて異性と感じてるわけではない。
ふとタクミのことを思い出し、司令部からのデータを呼び出して地上部隊の様子を確認する。これも決してタクミの安否を気にしているわけではない。単に気になっただけだ。
「えっ!?」
数秒意識が画面に吸い込まれ、操縦が疎かになる。空間戦闘で直進移動は死を意味する。わずかな隙を狙ってハンターキラーが追尾してきたが、味方の援護なのか、すぐに落とされた。
「何やってるんだアキラ! あのままだと狙い撃ちだったぞ!」
スピーカーから耳鳴りがするほどの音量でカルロスががなりたてる。
「あ、ゴ、ゴメン。レバーが何かに引っかかったみたいだったんだよ。もう大丈夫。」
「ならいいんだが…。貸しにしとくぞ。」
通信が切れても、アキラはレーダー画像がバグってるんじゃないかと考えていた。
そうじゃないと支援役の第8中隊のマーカーが、激戦区のど真ん中に陣取ってるなど有り得ないのだから。