リーチを伸ばして大上段に振り下ろしたガンツソードは10m先まで届き、3体のT-600をまとめて切り倒した。戦闘開始から約2時間、第8中隊は上陸地点の煙台海岸部から怒涛の進撃を続け、現在は主力の第12連隊が陣を張るまでの時間稼ぎを担っていた。
「ナイジェル! ゴトウの馬鹿がしくじりやがった、こっち来い!」
「無茶言わないで曹長! ついさっきヤマニシとバーニーを後方に送ってきたばかりなんスよ!」
あちこちから怒声がこだまするけど嫌な雰囲気じゃない。むしろ、まだまだこれからだって勢いを感じる。何やかんやでみんな楽しんでるようだ。
無論、ぼくも楽しかった。今までの戦場でこんなに張り切って押し進んだことはないほどだ。隊の仲間が楽器を持って行進しているのなら、ぼくは先頭に立って棒を振る役だ。
一振りごとに全身全霊を込めて、土とオイルが混ざった大地を開拓していく。硝煙を纏いながら敵の頭蓋を踏み砕き、蹂躙する。味方もそれ続けと前進し、銃をぶっ放す。中にはコンバットハイになった奴もいた。指揮役の中隊長も言うことを聞かない部下に半ば憤慨しつつも、ぼくに着いてくる。
「曹長、部隊の損害は?」
塹壕に隠れて敵から奪ったマシンガンを豪快に撃ついかつい背中に尋ねると、曹長は大笑いしてバンバン背中を叩いた。
「なんだ嫌味か? 大丈夫だ、どこかの猫かぶりのおかげで死人は出ちゃいない。」
それを聞いて安心した。この回にたどり着くまで隊の仲間を何人犠牲にしてきたことだろう。でもそれも今日限りだ。もうすぐこのイカれた世界から脱け出すために、もう誰も死なせない。
「しっかしあれだな。よくよく考えると信じられないよな。」
ナイジェルが口を挟む。
「何がです?」
「お前さんのことだよ。こんなに強いのに何で今まで演技してたんだ?」
「敵を欺くにはまず味方からって言うでしょう? それに少し謎めいていたほうがモテるって聞いたんで。」
「そうか? けどお前が女の子に声かけられたところ見たことないぞ。」
「放っといてください。」
気楽なおしゃべりをしつつ、時計を見る。そろそろお出ましだ。
「曹長、前にいるイシヅカとホリカワに下がるよう伝えてください。」
「何でだ?」
「時間です。」
指で天を指すと、小型輸送機が降下してくる。恐竜の骸骨のマークが施されたそれは、積んである焼夷弾をあたり一帯にばらまき、うろついていた雑魚を一掃すると中から赤いラインが浮かんだスーツを筆頭に続々と増援が着地する。
「タクミ、待たせたな。」
土煙の向こうから高い声が響き、戦場の女神マリナ・オーグランが颯爽と姿を見せる。その存在感と振る舞いは周囲の人間を隠れることも忘れて、無意識に視線を集めさせる。
「いいや、時間ぴったりだよ。」
「そうか、ならいい。」
合流を成功させた後、マザーは唖然とする隊のみんなに応援にきたと告げ、中隊長にぼくを借りる旨を伝えた。隊長はしばらく渋ったみたいだけど、結局マザーに押し切られてしまった。
「よし行くぞ。やり方は覚えてるな?」
作戦開始14時間前。
「出てこない?」
「うん。最初の1回からずっと見てないんだ。」
ぼくはこのループの元凶ともいえるT-000にまったく遭遇できていなかったのだ。
「そういうのは辛抱して待つものだが…分かった。私も同行しよう。」
「え?」
「もしかしたらループの波動を発しているのが2人いるから、奴も混乱しているのかもしれない。別れるより一緒に行動していたほうが、向こうから現れるだろう。それにお前が間違ってエンジンを斬ったりしたら困るしな。」
そういうわけでぼくらはタッグを組んでT-000が現れるのを狙っていた。
正面に無数のターミネーターが立ちふさがる。それでもぼくらは怯まずに突っ込んでいく。数秒遅れて10体以上が吹き飛んだ。さらに増える。
30秒もしないうちに半径100mほどの敵は物言わぬ鉄くずと化し、1分経つころには相手の包囲網はガタガタになった。赤と黒の閃きが走るたびにターミネーターの頭が、腕が、脚が飛び、味方は雄たけびを上げる。
彼女が飛ぶ。その動作を感じ取ったぼくは、飛んでいる間にマザーを狙い撃ちしようとする輩をピックアップして瞬時に片づける。着地。また斬る。斬る。斬る。
それでも湧き出る敵を前にしても、ぼくは奇妙な安心を感じていた。恐怖がないわけじゃない。恐怖は重要だ。呑まれると膝は震えて動けなくなりすぐに死んじゃうけど、研ぎ澄ませるといい感じで緊張し体の運びを速めてくれる。
でもぼくは安心していた。マザーという絶対の戦友に背中を任せている。今までたった一人で戦ってきたぼくにとって、それは途轍もない安らぎを与えてくれた。お前の死に場所は私が決める。殺し文句だな、と思った。この人の隣にいる限りそんなことは有り得ないというのに。
再び敵が襲い掛かってくるが、ぼくには些細な出来事に過ぎない。どうせ全部返り討ちだ。どんなに絶望的な戦場にいたとしても、この最高のバディに切り抜けられないものはない。ぼくらは2人で1人だ。
そのときだった。
遥か1km先にぼんやりとシルエットが見えた。すぐにT-000だと直感した。
「マザー!」
「ああ確認した。焦るなよ。」
ぼくとマザーは全速力で駆け出した。行く手に何百ものターミネーターが立ちふさがるけど、ぼくらは抜群のコンビネーションで関係ないとばかりに斬りまくる。T-000が放った砲弾をガンツソードで斬り払って一気に肉薄する。
「やれタクミ!」
「これで終わりだ!」
巨大な体の懐に潜りこみ、ぼくは頭部に刃を突き立てて-
次に目に入ったのはいつも起きた時に移る兵舎の天井のシミだった。