GANTZ Repeat'   作:マルハン2

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27.オアフ島解放戦線

今の地球で騒がれてるのは戦争と環境問題だ。戦争はいい。銃をぶっ放せば敵の数は減るというシンプルな原則で解決できる。けど、環境問題は別だ。ターミネーターとの戦った後の場所は、戦闘が激しくなる分砂と灰に埋め尽くされる。ミサイルの爆撃で大地は焼かれ、銃弾は木々を抉り取っていく。

機械は壊れた部品を交換すれば何とかなるけど、生き物は違う。1ヶ月、1年、10年。長ければ100年単位の時間が必要で、スカイネットの先制攻撃(審判の日)で核が落ちた地域はまだ回復の兆しがない。学者の話では数千年経てば元に戻るだろうという見解だ。

人間を始めとする生物は安定した環境が、水や緑がないと生きていけない。しかし、ターミネーターどもはそんなのお構いなしに自然を焼き払っていく。それはこのオアフ島も例外ではなかった。

「こいつはひでえな…」

カザマが狭い窓から、砲撃で立ち昇る黒煙や人と機械の骸が転がった更地を見ている。REXは今、基地から発信した特殊作戦用輸送機に乗り、戦場に向かう途中だ。装備のチェックを終わらせた部隊員はリラックスした姿勢を取りながらも、闘志を静かに漲らせている。抵抗軍最強とされるREXの隊員でも戦闘を目前にすると、恐怖を感じるのはどの部隊とも変わらないらしい。

アキラもその1人で久々の実戦に緊張感を抱いていた。空軍士官学校の演習で何度かエアバイク(飛行ユニット)を乗り回したものの、あくまでも演習の領域でしかなく模擬戦のレーザー照射で撃墜と扱われては実戦も何もあったものじゃない。

かつてオアフ島はハワイ諸島の中心地であり、世界でも指折りのリゾート地だったことでも有名だ。ワイキキのビーチには多くの人が集まり、壮大なダイアモンドヘッドと青く透き通った海が出迎えてくれたものだ。

しかし、眼下に広がるのは黒焦げで倒壊しかかったビルと度重なる上陸作戦で血に赤く染まった海岸だけ。海にはまだ『プライベートライアン』の如く兵士の死体がプカプカ浮いている。

「ありゃもう泳げそうにないな。」

「誰もお前のガチムチな水着姿なんて見たくねえよ。」

「その前にオレたちが敵をファックするから先に海面が油まみれになるだろうぜ。」

仲間の笑い話を聞き流し、アキラはヘルメットを肩にかけてエアバイクの許に歩く。その途中で妙な光景が映った。例の補充兵、シェリー・セシルが担いでいる武器を入念に弄っているのだ。それも今時珍しい実弾式の銃を。

「アンタ、そんなモン使ってるの?」

「はい大尉。無理を言ってワグナー中佐に手配していただきました。」

彼女の持っているライフルはPSG-1だった。高い精度と値段を両立したせいでほとんど買い手が付かなかったドイツ製造の傑作オートマチック式スナイパーライフルだ。ガンツから支給されるエネルギー系の武器が主流の昨今、戦車や爆撃機が積んでるもの以外実弾系の火器を運用する軍はほとんどいない。

ガンツの武器と比べて弾薬が必要だし、何より重いのだ。

「どうして今更そんな骨董品を…」

「ガンツの武器はクセが強くて私には合わないんです。」

そう言って薄く微笑み銃をなでるシェリーの指先は、子供をあやすのと同じように映った。

「彼女は特別なんですよ。」

隣でバイザーの感度を調整するタクミが薄く笑って割って入ってくる。屈強な野郎どもの中で場違いに細身―それでもかなり筋肉質だが―のこの男は、自分と半年近く戦場を離れていたというのに、そういった緊張の色を全く感じさせなかった。それどころか、まるでこれから遠足にでも行くかのようにニコニコしている。

軍に戻ってから、アキラは彼のこの笑顔が何故か気に食わなかった。昔より明るい感じがするけど、どこか浮世離れしたように見えて、僅かながら違和感を感じる。生理的に受け付けられないのだ。しかし、今は作戦の真っただ中で士気に関わる発言は控えた方がいい。仕方なくアキラは口をつぐんだ。

「特別?」

「アナタと同じ天からの授かり物(gifted)ってことです。もうすぐお分かりになれると思いますよ。」

『リムジンが作戦領域に接近。残り10分です。予定通り敵の対空砲火は沈黙。田舎者どもも意外とやるようだ。』

輸送機のパイロットから戦況が報告される。どうやら滑り出しは順調らしい。

「じゃあ先に行くから。私らがいないからって落とされても文句言わないでよ。」

「大丈夫ですよ。今日は()()()()()()()日みたいですから。よーしお嬢さん方! そろそろお仕事の時間だ。ヤドカリを準備しろ!」

タクミが隊員たちに檄を飛ばす間に、アキラは何人かを率いて格納庫に入り、愛機のコックピットに乗り込んでメーターが示す数値を読み取る。エアフライト機能は良好。センサーの信頼度も高い。スピーカーからSUM41の『Blood In My Eyes』が景気づけに流れてきたが、気流の揺れが外殻に響きよく聞こえない。

『フェイズ1を始動する。カーゴ内減圧開始。先遣隊は気密状態を確認せよ。』

後部ハッチが開放され、剥き出しのコックピットに座るアキラたちに気流の圧が叩き付けられる。光学迷彩で覆われた機体だから、傍目には空中に小さな口が開いたようにしか見えない。

『機体後方より敵機接近。ハンターキラー級が4。ヴァローナ2行けるか?』

「ヴァローナ2了解。お構いなく。この子の足だったら振り切れるから。」

『分かった。上手く敵さんを引っ掻き回してくれ。射出開始。幸運を祈る。』

ドシュ、と重くカタパルトが動き、1秒後にはアキラは落下の法則に従って空中に滑り落ちた。

 

横殴りのGが体を軋ませる。スーツがその大半を吸収してくれるが、やはり無茶な機動にはそれだけの対価が必要だ。レーザーロックの警告音がヘルメットの耳元からがなり立ててくる。アキラは後ろからのバルカン攻撃を旋回してかわし、機首を上げる。敵もそれに追随し、両翼である円筒形のタービンを器用に操って角度を調整し、ミサイルを発射した。

アキラはスロットルを限界まで叩き込み、そのまま上昇し続けるとバイザーで薄暗い視界が減殺し切れない光で覆われた。運よく雲の切れ目から日光が差し込んだのだ。すかさずそこに突っ込んだアキラに追いすがるミサイルは、なお真っ赤に感知される熱源に向かって加速して信管を作動した。灰色の雲が紅い炎に押し広げられて霧散する。

その光景を捉えたハンターキラーは、敵機の撃墜を確信して次の獲物を探そうと右に反転したが、頭上に近づく影が鷹のように鋭い一撃をかまし、片方のタービンを破壊されて落ちていった。

「ようやく最後か。」

上空の敵を一掃したアキラが呟く。あの時アキラは太陽の熱と全開にしたアフターバーナーでミサイルのサーモを誤認させ、ついでにチャフのアルミ箔をばら撒いて爆発するよう仕掛けたのだった。

悪くない。肩慣らしにしては上出来だろう。

「こちらヴァローナ2。フェイズ1を終了。ハンターキラーを一掃した。」

『了解。次は本隊のサポートを頼む。連中、どうやらハーヴェスターを出してきたらしい。』

「分かった。データを送ってちょうだい。」

ハーヴェスターはスカイネットが保有する陸戦兵器でも最大級のサイズと火力を誇る厄介な敵で頭部が首と一体化している以外はMSサイズのT-600と言っていい。全長15m以上の巨体から繰り出されるパワーはT-600の比ではなく、戦車なんて一撃でペシャンコにされてしまう。破壊するんだったらZガンでも苦戦するくらいだ。

現在の状況は味方はREXの加勢で、敵拠点の防衛線まであと一歩に迫っているが、奥の手なのかハーヴェスターが3機陣取っており、太平洋方面軍オアフ島駐留部隊は苦戦を強いられているようだ。その中にREXのエンブレムを刻んだスーツの一団が飛来する迫撃砲や機関銃の隙間を縫って立ち向かう様子が見て取れた。

この戦闘で自分たちに課せられた役割は空挺戦力のトップバッターとなり、降下地点の選定誘導と主力部隊の先導という殴り込み全開の内容だった。アキラの任務であるフェイズ1は上空から降下を行う隊員たちの目を敵から逸らすための陽動と降下地点の確保であり、フェイズ2は地上の味方を支援する作戦だ。

目標を定めて低空飛行で肉薄する。上空からのんびり近づいていったら対空ミサイルに狙い撃ちされてしまう。エアバイクはずば抜けたスピードだけでなく、ヘリ以上の機動性を発揮できるため、よく戦艦などの巨大兵器の撃破にはうってつけなのだ。

途中で地表にいくつか黒い筒状の残骸が打ち捨てられていた。さっきタクミが言っていたヤドカリだろう。ヤドカリは抵抗軍が特殊部隊用に導入した空挺降下用外装式装備の愛称だ。伸縮性に富んだ特殊なジャンプスーツを着込んでムササビのように空を滑空し、ブーツと背中に装着した高圧ガスボンベを盛大に噴射して着地時の衝撃を和らげる。着地後は内蔵したコンピュータが、証拠隠滅と機密保持を兼ねて原型が分からなくなるまで焼き尽くす寸法だ。

地上は一足先に地獄絵図が出来上がっていた。上陸部隊は今でこそ敵陣に食い込んでいるが、彼らの後ろには無数の骸が砂と血の上で頭蓋や腹の中身を曝してその代償を静かに語っていた。所々に衛生兵(メディック)がまだ息のある者を探して救命行為に励むが、患者の大半は必ず手足が捥げ悪ければ()()()が離れ離れだった。そもそも散らばり過ぎてどれが顔だか手だか分からないのもある。21世紀のオマハ・ビーチが忠実に再現されていた。

不意に胃の腑を揺さぶるような轟音が響き、望遠カメラで前方を投影すると崩れ落ちるハーヴェスターが映った。

「ウソだろ…」

思わず驚愕の声が零れ落ちる。レーダーが示す範囲に味方の機影は確認できない。となると、地上部隊の連中が自力で破壊したことになる。有り得ないと思った。アキラの知る限り歩兵がハーヴェスターを倒したなんて話は聞いたことがない。

すると、横たわったハーヴェスターの残骸から1つの黒い影が躍り出た。それは黒いマスクをかぶり赤い刃を携え、無駄のない動きで群がるターミネーターを斬り伏せていく。タクミだ。

体を半回転して並の自動車以上の重量を持つT-600を軽々と蹴り上げて切り刻み、ガトリングが発射する弾丸を斬り飛ばして接近し戦車を象ったT-100の腕を切断してXガンを至近距離でぶち込む。型破りで洗練され、華麗ながらも獰猛。静と動を使い分け、予測不能の太刀筋を繰り出す様は、明らかに訓練で身に着けられるようなものじゃない。そこにいたのはまさしくジャップ・ザ・リッパーだった。

そんな背中に襲い掛かる3体のT-600。知ってか知らずかタクミは目の前の敵に集中して振り返ることもない。アキラは歯噛みした。あの程度の数なら簡単に片づけられる。問題はエアバイクの火力で、ターゲットはタクミから数十mも離れておらず、下手をすると爆風に巻き込むかもしれないのだ。

葛藤しながらもトリガーに指を置いた瞬間、一発の銃声と共に真ん中の1体が突然ガクガクと震え倒れ込んだ。何が起こったのか分からないまま、再び響き渡った銃声と連動して両側のターミネーターだけじゃなく、REXの周りの奴らも糸の切れた操り人形のようにピクリとも動かなくなる。

『ナイスフォローだ、シェリー。』

カザマの弾んだ声が周波数に乗って耳朶を震わせる。その当人は突破したばかりの第一防壁の上から、PSG-1を構えて銃口を左右に動かし少し止まると思ったら弾を発射するという動作を繰り返している。その距離、目測で700m。いくら高精度のスコープを使っているとしても尋常じゃない。

狙撃には優れた空間認識能力だけでなく、弾丸への重力の影響、気温や気圧、風の向きや速度を綿密に計算してようやく引き金に触れることを許される。それでも外すことも珍しくないのに、シェリーは戦場という厄介極まりない環境でチョロチョロ動き回る標的を、頭部の脆い部分―アイカメラやチップ―を全て1発で仕留めてしまっているのだ。恐らくは米粒にしか見えない目標を海風が吹きすさぶ中、精度に難があるオートマチック式かつライフルの射程距離ギリギリで正確に射抜くなど、世の名狙撃手といったレベルを超えている。

銃を撃つたびに反動でたなびく金髪に思わず見惚れてしまったアキラは、甲高い電子音とそれに続く爆撃音を耳にした。ヘルメットの防音機能を通しても大気が揺れるほどの衝撃を錯覚するのは、ハーヴェスターが左肩のプラズマキャノンを撃ち出したせいだろう。

逃げ惑う味方たちを容赦なく中空へ舞い上げるほどの威力は、そこら中をクレーターにしてしまうほどで、REXでもまともにやり合うのは自殺行為に等しい。しかし、タイミングを計って一斉射撃を窺う隊員たちを尻目に、アイツだけは違った。

立ち昇る土煙を切り裂いて猛然と突き進むタクミ。頭部の視覚センサーと肩のレーザーでその姿を追い、ハーヴェスターがプラズマ砲を連射するが、少しも当たる様子がない。普通なら見切れるはずのない速度で飛来する光弾なのに、タクミはどれも紙一重で回避するのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

『シェリー、デカブツの大砲が面倒だ。目を潰してくれ。』

タクミが息切れしているのが疑わしいほど滑らかな口調で話す。その間にもタクミに狙いをつける雑魚を一掃すべくカザマたちが援護射撃を行い、後れを取るまいとアキラも火器管制をプラズマ砲に切り換えもう一体のハーヴェスターの注意を引く。

何度撃っても当たらないことに痺れを切らしたのか、ハーヴェスターが急接近し人1人を軽く握りつぶせる大きさの拳を振り上げる。ぶつかったらまず無事じゃ済まない一撃を前にしたタクミは、逃げ出す素振りを見せるどころか刃を立てて甘んじてそれを受けた。全長に匹敵するほど伸ばしたガンツソードを拳に突き刺して地面に縫い付ける。

『足止めした。少し狙いやすくなったと思うんだけど、どうかな?』

『上出来よローガン。』

シェリーが賞賛の言葉と共に放った弾丸は真っ直ぐに頭部の赤い一点を貫き、鋼鉄の雄叫びを挙げながらハーヴェスターは停止した。タクミはそのまま武器を逆手に引き抜くと、投げ槍の要領で上半身を捻りもう1体のハーヴェスターに無数の筋が浮かんだ腕を思い切り振り抜いた。一筋の閃光と化した赤い刃は大気を切り裂いて飛び、狙い違わずプラズマ砲に吸い込まれ盛大に炎の花を咲かせる。その隙を見逃さずアキラが全砲門をぶち込むと、鉄の巨人はさらなる爆炎を伴って木っ端微塵に砕け散った。

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