GANTZ Repeat'   作:マルハン2

27 / 53
29.5.濡れ仕事

大海原。

見渡す限りの黒に近い青の平面が燦燦とした陽光を浴びて、目を凝らさないと分からないほどの小さな波の屈折率で、キラキラと光を反射している。その上には世界が戦争真っただ中であることをつゆとも知らず、カモメたちが日向ぼっこしに来たように長閑に翼を広げていた。

そしてさらに上を巨大な影を携えて、カモメと変わらない速度で航行する長方形の物体。上から覗くと真っ白に塗装されているので雲と判別しにくいけど、ステルス性を意識した独特の平たくのっぺりとしたシルエットは人工物に違いない。

かと言って完全に四角四面なわけではなく、両翼の先端は空気抵抗を考慮して丸みを帯びた形状だし、胴体部分には貨物スペースを設けているのか、ふっくらと緩やかな丘陵を描いている。いずれにしてもぼくらが日頃から見慣れている飛行機のシルエットから随分とかけ離れたそれは、全体像だけならば何を間違ったか極端に肥大化したエイが暖かな日光に誘われて、フワフワと漂っているうちに空を飛んでいたという連想が頭を占有するだろう。

「そうか? オレはあの間抜けにでかい口を見てると、寧ろ鯨が出てくるが。」

と、隣で映像を鑑賞する同僚が少しきつめの暖房で襟元を緩めてぼくの感想に返す。確かにあのタンカーすらすっぽりと収まりそうな規格外のエアハッチは、何もかも呑み込んでしまう底なしの空洞だ。でもきっとあの空洞の中にも潮の香りは届くのだろう。

人類の真の故郷と形容される海の濃厚な磯の匂いを思い出そうとしたけど、残念なことに想像の中の自然の匂いは鼻腔に入り込んだプラスチック独特の乾燥染みたそれに打ち消されてしまった。

「これが現在我が軍とウィンダム・エアライン社が共同開発している新型空中空母、Q-1008ヴィルコニルです。」

映像を止めて照明を戻した戦略観測調査室の出向者は説明を続ける。

「全長391.6m、全幅766.4m。文字通り史上最大級の航空機です。長距離侵攻作戦における管制機の他に、成層圏プラットフォームの役割も果たせるほどの積載量を誇ります。搭載可能な艦載機は60機以上。もちろん空対空ミサイル(AAM)、対空機関砲、巡航ミサイルなど武装面でも隙がありません。軍はこれを複数機配備して恒常的な航空艦隊を実現するつもりです。」

ヒューと誰かが口笛を鳴らす。不謹慎な行為に調査室の男は眉をひそめたが、強面の男どもに気圧され視線を手元のパッドに戻した。

「最終的には各空域に常駐し防空指揮所として機能させる予定ですが、如何せん予算の都合がついておらず今はこのプロトタイプだけが生産されています。計画の発案者はボスポルク・ブリズギナ准将。ロシア方面軍の一翼を担う大物で、統合参謀本部の中でも生粋のタカ派で知られる人物です。」

「ああ、あの鷲鼻か。いかにもって感じだよな。」

添付された資料にあった写真のページをめくったアキラがボソッと呟く。何がいかにもかというと、この高官殿の風評だ。先手必勝、絶対撃滅。防衛行動なんて生温いことは端から考えず、徹底した反抗戦で敵を殲滅する。そのやり口はテロリストよりも過激であり、味方を捨て駒みたく扱った仕上げに絨毯爆撃なんてするものだから、遺体の回収はほとんどできた試しがない。普通ならこんな指揮官は即刻クビになるはずだけど、被害を顧みない攻撃的なスタンスがターミネーターの上陸を阻止しているのも事実だ。アキラがロシアに居た頃は軍内でも度々衝突があったとかなかったとか。

「あまり敬礼を返したくない相手だな。どうやって推薦状もらったんだか。」

『そこまでにしておけ。』

渋みのある低い声が続いて愚痴ったカザマをたしなめた。今はこのノーフォーク海軍基地の抵抗軍統合特殊作戦コマンド(JSOC)が設けた会議室から遠く離れたペンタゴンにいるワグナー中佐がホログラムで注意したのだ。

心なしか空気が引き締まった気分になり、全員の背もたれ具合が幾分か解消される。ぼくはチラリとアキラを盗み見た。緊張しているらしくいつも八の字の眉がさらに皺を寄せていた。無理もないか、と思う。彼女を始めとする新入生は()()()()()()()()()()()

『さて諸君。お疲れのところで悪いが追加の任務だ。先程のようにこのヴィルコニルは既存の勢力図を大きく変えるかもしれない存在だ。その価値は計り知れない。』

「こいつを1機作る金でどれだけの介護施設が作れるんですかね。」

隊員であるモリソンの揶揄に全員が含んだ笑いを漏らすが、見咎めたぼくに気まずそうに咳払いをした。

『現在運用されているのはこの試作機のみだが、計画自体は何年も前から凍結されている。調査の結果、ブリズギナ准将の独断で建造されたことが判明した。問題は資金の出処だ。』

そう言って中佐がデスクに投影したのはある男の顔だった。どこにでもいる典型的な白人だったけど、隣のバーに表示された経歴が普通の会社員とは異なっていた。

「ドニス・ベル・ボシェロ。情報管理局の兵器研究部に所属する者です。ヴィルコニルの開発計画に携わったメンバーの1人で、ブリズギナ准将とも交流がありました。計画終了のいざこざに紛れて設計データと予算の一部を彼に横流しした形跡があり、今も彼に匿われている可能性が高い。」

調査室の男が別の映像に切り替える。どこかのカフェで数人の男が会話しているのを映したものだった。そのうちの2人はさっきの顔写真と一致するけど、他には見覚えがない。

「追跡班がテロリストとの密会の撮影に成功したものです。ブリズギナ准将は以前から軍の体制に不満があり、決起を促すために自作自演のテロを計画していると考えられます。恐らくはボシェロが仲介役となったのでしょう。」

『内部監査部門はこの情報を聞きつけ、奴を法廷に引きずり出そうとしているが、守りが堅く手が出せない。そこで事態の収拾を特務部隊に委任したというわけだ。』

中佐が後を引き取り説明する。要は証拠集めをしろと言うことなのだが、そんな簡単な理由でぼくらが動くことはない。案の定中佐は男に言った。

『ありがとう。ここからは我々の話になる。下がってくれ。』

男は怪訝な顔になったが部屋の雰囲気が変わったのを感じ取り、そそくさと退散していった。ようやく本題だ。ヨセミテ渓谷の騒動が終わって数日後、ターナーに関する資料を洗っている最中に呼び出されて早4時間。ぼくらが招集された理由がやっと分かる。

自然と空気が引き締まった感じになり、隊員たちの背筋も真っ直ぐになる。全員を見渡してワグナー中佐は

『これを見てほしい。』

と別の画像をアップした。筒状の物体を防護服の人物たちが囲んでいる。物体には全員が予想したように見慣れた円と扇形を組み合わせた独特のマークが刻印されてあった。

「核か…」

『威力こそ戦術級だが数だけでも10基はある。ブリズギナはこれをヴィルコニルに詰め込んで、有用性をアピールするつもりだろう。参謀本部は早急の事態の解決を図っている。』

「他人様の家探りですか。あまり良いものじゃありませんね。」

『この作戦は上院軍事委員会(SASC)にも後押しされたものだ。スポンサーにケチをつける訳にはいかん。』

自分もあまり納得していないのか、中佐も取り繕った表面に僅かな皺が浮かんでいる。作戦を説明する、と話した。

『この報告を受けたロシア政府は直ちにブリズギナとボシェロ、テロリストどもを逮捕して国際刑事裁判所に引き渡すとしているが、声明はあくまで表向きだ。いくら奴らでも身内を簡単に日の下には差し出さないだろう。そんなことをしたら現地軍だけでなく、米国(こちら)にも被害が及びかねん。特にヴィルコニルに関わっていた政治家連中にはな。』

「よって参謀本部が降ろしてきた指令は、この2人の逮捕となる。核弾頭の回収も同時に行う。」

タイミングを計ってぼくが続ける。ホログラムの中佐が一息つくために何かを持った形の左手を口に近づける。たぶん紅茶だろう。生まれも育ちもアメリカなのに、名前がイギリス臭い中佐は習慣もイギリス風でコーヒーよりも紅茶派だ。そのため紅茶には少しうるさい。

「暗殺じゃないんですか?」

別の隊員が訪ねる。ぼくは首を横に振り

「リスクが高すぎる。ボシェロだけなら揉み消せるけど、ブリズギナの方は日陰者とはいえまだ力は残っている。政治レースの真っ最中に候補者が一晩で消えるシナリオは足が付きやすい…とまあ、ここまでが()()()()()になる。」

その言葉に隊員たちの表情がサッと消え去る。これから口にする意味を予期しているように。存外に察しの良い仲間の反応に満足して再び中佐に立場を譲る。

『君たちの任務は両名の逮捕に違いはない。ただ、国際刑事裁判所(ハーグ)には渡さん。』

「根拠は何ですか?」

アキラが口を挟んだ。しかし彼女の質問は分からないことを尋ねるというよりは単純な確認といった感じだ。少なくともその頭ではある程度の筋道は経てているのかもしれない。

『ボシェロにグラハム・ターナーが関わっていた可能性がある。彼の拘束任務を遂行している以上、我々が動くのは妥当と判断した。』

 

数時間後、トレーニングルーム。日が沈みかけ黄色い光がガラスを透過して、淡く室内を照らしている。少し眩しすぎるくらいの光量に目を細めたアキラは、棒を手放して懸垂を中断することにした。着地と同時に腰からぶら下げたタイヤがドスン、と重々しく落ちる。特殊部隊に選抜された以上、生半可な体力では任務に支障を来す可能性があるので、アキラは休暇中も体力調整を欠かさなかった。

「相変わらず精が出るね。本当にトレーニング好きだなアキラって。」

別室で走っていたタクミがボトルを寄越した。まただ。妙に張り付いた笑顔で接してくる幼馴染に、そのままボトルを放り返した。

「好きでやってるわけじゃねえよ。最近鈍ってるから鍛え直してんの。」

「お互い半年も離れてたからね。ぼくもまだ本調子じゃないから頑張らないと。」

「…アンタが言っても嫌味にしか聞こえねえよ。」

「え?」

「何でもない。ところでさ、今回の任務って副業(パートタイム)になるの?」

「どこでその言葉を?」

「噂よ。特務部隊REXは本業と副業に分かれてて、本業は通常の作戦行動を取るけど、副業は高度に政治的判断を要する公に出来ない任務を受け持つ…今回のように。」

沈黙を肯定にして隣のバランスボールに飛び乗り、フワフワとした弾力に上手く乗って重心を保つ。粗方の姿勢を試し立ってみたが、ボールは動いてない。まだ勘は鈍ってないらしい。

Nothing is true, everything is permitted(真実はなく、許されないことなどない)…火のない所に煙は立たぬって言うからね。」

REXの標語を持ち出され、暗に認めたと分かって

「じゃあ、タクミはその…」

「誰かがやらなきゃいけないんだ。君もここに入るときに言われただろう?」

そう言い切った横顔はこの世の地獄を見飽きるほど焼き付けた目をしていた。以前所属していた部隊にいた元特殊部隊の仲間が、REXのことを人狩り(マンハンター)と蔑んでいたことを思い出した。

いいかアキラ。奴らはメディアの前では『私たちはお国のために尽くします。』みたいな面してるけどな、いざという時は躊躇なく相手の首を掻き切れる連中なんだ。連絡が入ればちょっと出張してくる風を装って、命を奪った後に素知らぬふりで週末のミサに参加するサイコパスなのさ。

バカ騒ぎの中、酔った勢いで口を滑らせた同僚は数日後に体調を崩して除隊した。理由は大よその察しは着いていた。

「安心して。君の役割は陽動だから直接手を下すことは無い。そのために中佐が擬装用にMiG-29を8機手配したよ。」

へえ、とアキラは感心した。

「随分と大盤振る舞いじゃん。」

「そうでもないさ。飛行ユニット(エアバイク)の配備以降、ほとんどの戦闘機が退役したから、どこも在庫を抱えているんだ。当初の予定価格より安く買い叩くことが出来た。」

「私の他にも乗り込む奴らがいるから、戦術隊形ができる機数を揃えたってことか。」

「中の警戒をさせないために、外を派手に飛び回ってほしいんだ。書類上ではネリス空軍基地のものを拝借しているけど、実際はブローカーを通して退役国から払い下げてもらったから墜ちても心配ないよ。」

「その言葉、パイロット(わたしら)にはタブーワードなんだけど。」

「ああ、ゴメンね。でも大丈夫。()()()()()()()()。」

妙に確信めいた物言いにアキラは訝しんだが、口を噤んだ。自分たちの前に大柄な数個の影が並んだからだ。どれも私服のトレーニングウェアを纏っているが、鋭い眼光に異常に太い腕やタクミより遥かに厚い胸が、男たちを只者ではないと告げている。

「お前らREXだろ。」

「ええ、まあ。アナタ方は―」

「陽動で一緒に飛ぶことになった奴らよ。さっきブリーフィングしてきた。」

「ああ、なるほど。今回はお互いにベストを―」

タクミが手を差し出してそこまで言ったとき、男の1人がその手を唐突に払った。

「気安く触んな。この殺し屋(ウェットワークス)が。手が汚れるだろうが。」

露骨に嫌悪の表情を浮かべた男が払った手をシャツで拭う動作をする。アキラはため息をつく。トレーニングが終わった途端に嫌な連中と出会った。これはしばらく抜け出せそうにない。男らはジロジロと若い男女を観察すると

「チッ、急に上から呼び出されたと思ったら、中古車に乗って汚れ仕事のお手伝いとはな。しかもこんなガキのお守りなんて、オレたちも軽く見られたもんだ。」

「あ?」

鼻を鳴らしてせせら笑う男たちに、早くも怒りを募らせて詰め寄る。これでも昔よりは改善されたが、元々沸点は低い方だ。小馬鹿にされて黙っていられるはずがない。女性の方では下手な男よりも背が高いアキラだが、目の前のパイロットたちは体格に優れ頭一つ分差がある。しかしそんなことは気にしない。

「何だよ姉ちゃん。綺麗な顔が台無しだぜ。」

「アンタらこそ人に喧嘩売っておいて、何もなしに帰れると思ってんのか? 今ならまだ冗談で済ませられるけど。」

「喧嘩? おいおい、これはただの挨拶だぜ。部隊同士のレクリエーションでMPを呼ばないでくれよ。」

「MP? 呼ぶかよそんなの。パイロットなら自分の仕事(タスク)を全力でこなすのが筋だろうが。それをよそに手柄を取られるのを気にしてちょっかいかける低能の世話させたんじゃあ迷惑になっちまうだろ。」

「分かった分かった。気分を悪くさせちまったな。お詫びにジュース奢ってや―」

ガツン、と音がした。アキラがベンチプレスの脚を蹴り上げたからだった。子供扱いされて怒ったと思い、やれやれと諸手を上げた男の足元に唾が飛んだ。

「詫びる相手が違うだろうが。ちゃんとコイツに謝れってんだよ。」

「このチビ助に? 悪いが嬢ちゃん、オレは士官ってのは簡単に頭を下げるもんじゃないと教わったもんでね。」

すると今度はアキラがハッ、と小さく笑った。

「へえ、私にはシュミレーターで負けたからって憂さ晴らし、コイツには階級を盾にして威張るわけ? 面白い男ねアンタ。股の間のそれにはピンポン玉でも詰まってんの?」

男というのはナニのデカさを言われると、結構マジになったりする奴がいる。平然と卑猥な言葉を投げたアキラを真顔になった男が胸ぐらを掴み上げようとして、腰を低くした影が横に割り込んだ。

「まあまあ、これくらいにしましょう。ね?」

タクミが愛想笑いを作って間に入ってくる。何とか仲裁をしているのは分かるが、頬の傷が奇妙に引きつったように映り、却って間抜けにしてしまっていた。男がドン、と小突いた。

「どけよチャイニーズ。オレはこっちの姉ちゃんに用があるんだ。それとも何か? 御高名なREX様は下々の者とは口が利けないってか?」

「やだなあ。今度の合同作戦、逮捕が主目的ですよ。暗殺なんて物騒なことにはなりません。それにこれ以上ややこしいことになると、ぼくはアナタたちに特別拘留権限を使わざるを得なくなる。場合によっては軍法会議に掛けられることになります。」

「ふん、そんな脅し―」

そこまで言いかけた男はタクミを前にして何も言えなくなってしまった。頼りない笑みはそのままだが目が笑ってない。まるでガラス玉みたいだ。人を人と思ってない目。何人もフラットに殺してきた者の目…。男は今になってタクミの警告の真の意味に気づいた。

「良かったのかよ。あんな嘘っぱち言っちゃって。」

男たちが硬直している隙に半ば強引に連れ出されたアキラは、酒保(PX)で買ってきたガムを噛んだ。歯と歯で噛み潰した隙間から柑橘系の香りが滲み出し、糖分を欲していた体に優しく染み渡る。

「アンタがその気になれば瞬殺だったでしょ。」

「それじゃあぼくがMPに連行されちゃうよ。それにあの人たち優秀そうだし、加減は出来なかっただろうなあ。」

どこかズレた返しで薄く微笑みプルタブを引っ張ったタクミが、チビチビとアイソトニック飲料特有の微かに濁った液体を嚥下した。長閑に備え付けのディスプレイに映る野球中継を眺めるタクミをチラリと盗み見る。この部隊に移籍してから関連する資料は大方目を通したが、彼らが請け負ったとされる暗殺任務については一切の記録が消されていた。逆にそれが真実を裏付けている。

あの手はどれほどの命を奪ったのだろうか。先日彼が言った100人斬り。アレは本当なのだろうか。戦争で人を殺すのと異なる重みをアキラはまだ知らない。

「あ、そうだ。言い忘れてた。」

「何だよ。」

これ以上一緒にいる義理もないので自室に戻ろうとした矢先、タクミがポン、と合掌した。何となく気にかかり尋ねる。彼はごく軽い調子で言った。

「作戦、もしかしたら失敗するかもしれないから気を付けて。それだけ。」

 

MiG-29という機体はアキラにとって決して無縁なものではなかった。まだロシアでパイロットの錬成課程を消化していた頃―同期の中では最年少だった―練習機代わりに背後の教官に怒鳴られつつ四苦八苦して飛ばした苦い記憶がある。

後の愛機となるエアバイクの性能とは比べるべくもないのはさておき、アキラはこの戦闘機が割と気に入っていた。第4世代機に共通する美しいフォルム。前線での使用に耐えうるためのシンプルな設計に裏打ちされた信頼性。他の戦闘機と比べると少々小ぶりだがF-16に伍すると評された運動性能は今回の作戦でもかなり重要視されている。

堅いシートに座ってヘルメットのHUD上の数値を確認して異常なしと報告する。懐かしい振動だ。末尾のターボファンが奏でるエンジン音に浸って想像する。眼下に雲を置いた真っ青な空の中を、流星の如く駆ける銀色の機影。初めてその飛ぶ姿を目にしたとき、いつかはあれに乗るんだ、と幼心に決意したものだ。

エアバイクは性能こそ文句のつけようもないものの、あの戦闘機に似つかわしくないダサいデザインはアキラには邪道に映った。それが飛ぶ時ときたらUFOにしか見えず、あれに乗るくらいなら卒業せずに一生訓練生のままでいいと半ば本気で考えたこともあった。

『ジャガー1より各機、これより状況を開始する。』

ヘルメットに内蔵した通信装置に無線が入り、データリンクを介して目標の位置補正が逐次更新される。レーダーに赤い光点がいくつも現れた。ヴィルコニルが艦載機を発進させたのだ。

『ジャガー2了解。予定通り敵を引き付ける。』

『ジャガー6、同じく陽動に移る。』

トレーニングルームで因縁をつけて来たのと同じ声の主が、すぐ頭上を通り過ぎる。流石に彼らも作戦中は無駄口を叩くことはしなかった。

「ヴァローナ2了解。ふんどし(ローインクロス)に染みを付ける。」

作戦前に告げられたターゲットの下品なスラングに、事前に取り決めた符牒を付加する。随分と染まったものだと思う。訓練校に入ったばかりの頃は男の職場に付き物のファッキンな慣習に気後れしたものだけど、卒業する頃には普通の女性同士の会話の仕方など忘れてしまっていた。

別に興味など無かった。自分に必要なのは空という1つのミスが命取りになりかねない世界で敵を倒す技術であり、隙の無いメイク術や美味しいスイーツ店のマッピングではない。だから話に着いていけなくなって、疎遠になっても気にならなかった。休日中に余計なカロリーを取る暇があれば、少しでも鍛錬に励んだ方が余程有意義だ。

瞼の裏に実戦でもコンビを組んだかつてのパートナーの大きな背中がチラついた。やはりまだ()()()()()()()()()。口中に小さく舌打ちして脳内の男を追い出し、敵味方識別装置(IFF)で味方機の展開を確認して一気に操縦桿を下げた。

フワッと体が浮き上がった直後、肩にハーネスが食い込み耐Gスーツが気嚢を膨張させ、血流を抑えて貧血を防ぐ。今回は作戦の秘匿性を考慮して、ガンツの兵器は一切使っていない。これから身内を叩こうというのにこちらの素性が割れてしまっては任務の意義が歪んでしまう。

ヴィルコニルより伸びる火線の位置と数から逆光で狙われにくいコースを選出して、やや大げさなくらいの角度から突入する。ウェポンベイのR-27を兵装選択し、風防(キャノピー)の向こう側に鎮座するターゲットに鷹の目を据えた。MiG-29のHOTASは西側のそれよりも劣っていたが、今では規格の共通化により最新バージョンにアップデートされている。

細かく操縦桿(スティック)を左右に傾けて殺到する対空砲火を回避し、相対距離が50km―R-27の射程―に入った瞬間に、アキラは追尾装置(シーカーヘッド)をオンにして

「ヴァローナ2、フォックス1。」

と呟いてトリガープルした。

 

「対空砲を集中させろ。ドローンにも援護命令だ。」

「敵は8機だ。確実に1つずつ落とせ。」

「システムオンライン。ドローン全機射出完了。」

コックピットと言うには広すぎる空間―しかしコックピットには間違いない―で、オペレーターの報告が錯綜する。ズラリと並んだコンソールで次々と入れ替わる情報と格闘する彼らの姿を、ブリズギナは一段上の艦長席から眺望していた。

カリブ海よりウィンドワード海峡を抜けて3時間、大西洋を高度約2万フィートで巡航中に、レーダーが所属不明の戦闘機を探知した。呼びかけは通じず第2種戦闘態勢を命じてから数分後にはこの様だ。

仮眠中に叩き起こしてきた隣の機長は、予想外の襲撃に戸惑いつつも管制員に指示を飛ばしていた。一線を退いているとはいえ流石に場慣れしている。民間に下ろうとしていたところを高い金を払って引き留めた甲斐があったというものだ。

「増援の方はどうだ?」

「センサに感は認められず。警戒は続けていますが、相手の出方が不明瞭です。本当に奇襲を仕掛けるつもりならあるいは…」

「面白い。あの数でヴィルコニルに挑むつもりか。」

機長の答えに増援はないと確信しながらも、ブリズギナは敵を注意深く観察していた。かつて空を制した戦闘機がガンツの兵器に座を譲った後、一部の金持ちゲリラに払い下げられた噂は聞いているが、あくまでもコレクションの意味合いが強く、専門の訓練が必要な金食い虫にわざわざ乗り込む物好きがいるとも思えない。

それに襲ってきた編隊の動き。混戦の中でも絶妙なチームワークでカバーし合う戦法は、プロの操縦そのものだった。とすると、傭兵が痺れを切らして盗賊紛いの暴挙にでも出たのだろうか。しかし彼らが正規軍を攻撃して得られるメリットなどないし、このバカでかい飛行機を奪ったとしても持て余すだけだ。

『お気付きですか? 准将。』

耳元のヘッドフォンから男の声が伝わる。この艦に同乗しているボシェロだった。

「ああ、恐らくは参謀本部が寄越した後始末部隊だ。」

『やはり来ましたか。しかしどこからコースの情報が漏れたのでしょう?』

「私が聞きたいよ。そのことについては君の方が詳しいんじゃないかね? 元情報管理局員君。」

『私はただの技術屋です。亡命したのだってヴィルコニルに日の目を当たらせてやりたかったからですよ。』

やれやれと肩をすくめるボシェロが目に浮かぶ。研究が続けられればこの男には命の危機など屁でもないらしい。学者と言うより悪の組織に居座るイロモノ博士の相貌を脳裏に追いやった。

「とにかくREX(やつら)のことだ。ただの旧型機と思ったら痛い目に遭うぞ。」

『御心配には及びません。このヴィルコニルは鉄壁です。准将には安全な航海をお約束しますよ。』

「敵機、ミサイル発射を確認。直撃コースです。」

そう言った矢先、真っ直ぐに飛来した弾頭は無数の光の束に貫かれて、着弾地点から大きく外れた上空で内蔵した炸薬を爆発させた。

『あのようにこの艦は史上初のレーザー収束器を搭載しているのですから。』

「そうか。それもそうだったな。」

調子の良い答えに満足したブリズギナは深く腰掛け、いつものようにモニターの中で繰り広げられる戦いの光をとっくりと眺めた。

 

「レーザーとか反則だろ!?」

半分やけくそな気分でアキラは罵った。事前に資料に目を通しはしたが、実際に対峙した脅威は別物だ。発射して3秒も経たないうちに落とされたミサイルに注意を奪われる愚は犯さず、がなり立てるロックオンの警告を無視してバーナーを全開にし、(ラーストチカ)の愛称に相応しい低空飛行で敵艦のなだらかな翼面を接地ギリギリで飛び退る。

次いで放射される光線を急旋回を繰り返して紙一重で回避するが、弾幕を潜った先にはコウモリみたいな形状の護衛(ドローン)が待ち構えていた。アラートが表示される前にほとんど条件反射で舵を切り、機体を90度左回転、相手から見て翼を垂直方向に立てたまま突っ込む。

相対距離が見る見るうちに縮んでいくのをHUDのレーダーと目視の両方で捉える。40、30、20…空間機動において衝突を意味する間合いに入った瞬間、アキラは()()()()()()()()

いや、正確には真似ただけだ。ほんの小さい頃、家の奥にしまってあった戦記漫画。戦争の残酷さが克明に描写されていたそれは、主人公の駆る戦闘機が前代未聞の戦法で敵を打ち落としていくシーンを子供の自分に鮮烈に焼き付けた。

特に練習したわけでもなく、何となくできたら良いな、と茫洋と思っていただけだ。だから操縦桿を倒し垂直のまま重力に引かれていったMiG-29の挙動に着いていけなかった無人攻撃機より、パイロット本人が驚いていた。

「これ、私がやったの?」

状況の認識が追いつかない思考を尻目に、四肢は電撃的に動いて機器をコントロールしてバランスを取り戻し、スロットルを叩き込んで急上昇。無茶な機動で発生したGで狭まる照準線に、おっとり刀でターンする無人機を重ねる。最早ミサイルを使うまでもない。

火器管制をバルカンに切り換え、HUD上で赤く明滅するエンジン部分を正確に射抜く。急所を破壊された敵機は自分の機体(ボディ)に何が起こったのか診断プログラムを走らせたが、結果が判明する前に30mmの弾丸が機首の演算装置を砂糖菓子みたいにバラバラに破壊した。

火の粉を拭いて墜落する機体を尻目に真っ直ぐ群れを突き破ったアキラは、高度計が許す限り上昇を続けペダルを離して木の葉落としに入った。慣性に沿って急速に降下する中で、眼下の烏合の衆に再びバルカンで強襲する。

爆発で統率に綻びが生じたポジションを立て直すのに手一杯の敵機は、直上の攻撃に対処しようと回避に移ったが、目標の上を取るという空中戦のセオリーは覆せず、至近距離のミサイルを食らって爆散した。

「ヴァローナ2よりCP(コマンドポスト)へ。R-27の弾頭と燃料の追加を要請する。」

『こちらCP。支援要請を受諾。安全空域まで後退せよ。』

200km後方に待機するAC-130を中継(カットアウト)して通信指令室から電送されたデータに従って火中を後にする。敵の弾が届かない場所まで退くとコンピュータがMiG-29の両翼に()()()()()()()()()()()()()ことを告げた。

これもガンツの技術の賜物だ。通常ガンツの転送は一定の空間に座標を設定し転送を行うが、もし転送場所が移動するものだったなら座標と目的地に齟齬が生じてしまう。そこで対象にセンサを搭載することで随時座標を補正し、その誤差を修正できるわけだ。まだ戦闘機が稼働していた頃、ガンツの技術をフィードバックした結果の1つだった。

『ジーザス! 何て機動(マニューバ)だヴァローナ2!』

『まったくだ。あんな動き初めて見たぜ。一体どんな訓練したんだ?』

同じ様に補給を受けに来た味方機が賞賛のファンファーレを送る。こんな時でも素直に嬉しく思える感性は失っていなかった。

「サンキュ。けどアレはただのまぐれよ。たまたま上手く行っただけ。」

『謙遜するなよ。下手したら機体に負荷が掛かって空中分解しかねなかったぞ。それを偶然と言うには出来過ぎだな。』

「マジだって。それよりもパッケージの方はどうなってんの?」

『予定通りに届いたようだ。これもアンタの仕掛けたお陰だな。』

 

その頃ヴィルコニルは大混乱に陥っていた。敵が物量に負けて及び腰になったところを一気に畳みかけようと、ドローンに攻勢を掛けるよう指示を送ったら、そのドローンが突如親機に牙を剝いたのだ。

最初は誤作動―それでも有り得ないことだが―を疑ったが、程無くしてハッキングによるものだと分かった。それこそ有り得ないが現に起きてしまっている。発信源を突き止めると中央電算室のプログラムが書き換えられていると判明し、急いで人をやったら何とそこには黒い戦闘服を着込んだ一団が待ち構えていた。

テロリストはFN FALや中国製AKなどゲリラ御用達の銃を撃ち鳴らして、次々と区画を制圧していた。とてもゲリラとは思えない手際の良さで。もっともブリズギナの方も相手の正体に当たりは付けていた。身元が割れないように違法に入手した武器を使っているが、間違いなく抵抗軍特殊部隊の動きだ。だが問題は別のところにあった。

「どうやって奴らはここに侵入したんだ!? 空挺降下なんて不可能なはずだ!」

「わ、分かりません! センサも異常を感知せず!」

「くそ…ボシェロに繋げ! せめて核弾頭だけでも回収するんだ。」

「それが…数分前から通信が途絶しています。」

「何だと!」

苛立ちの余り手元のカップを床に叩き付けたと同時に、背後の気密扉が爆風を伴って吹っ飛んだ。溢れ出るエネルギーに艦長席から放り投げられたブリズギナは強かに背中を打ちつけ、立ち込める火災煙に肺を激しく収縮させられた。

この衝撃は計算されたものではない。爆弾を設置して障壁を破壊する常識を無視して突入してきたテロ集団の1人が持つRPGが、ブリズギナの予想を裏付けていたが流石に閉口した。

「正規軍の隠密部隊か…ハーグの代わりに私を逮捕しに来たんだろう?」

「そのつもりで来たんですが、ちょっと前に事情が変わりましてね。」

思いのほか若い声がRPGの男のものだと気付くのに、少しだけ時間を要した。黒いフェイスキャップとゴーグルで顔は見えないが、落ち着き払った声音だ。相当の場数を踏んできたと分かる。

「事情? 司法取引でもしてくれるのか?」

「誠に残念ですけどアナタにもう黙秘権は無いんです。」

心持ち落ち込んだ様子だったものの、男は躊躇なくホルスターからブローニング・ハイパワーを抜き、ブリズギナの生命と野望を終わらせた。

 

パン、パン。室内に二度撃ち(ダブルタップ)の銃声を響かせたのを見届けたカザマは何となく居た堪れなくなり、静かに十字を切った。頭と胸から赤い血漿を飛び散らせた准将の遺体が、恨めし気にこちらに青い双眸を向けていた。対象(レイヤーワン)を仕留め、指揮所を制圧する後続の隊員に指示を飛ばすタクミの背中に、そっと近づく。

「なあ、やっぱり逮捕でも良かったんじゃないか?」

「そうは言っても命令は命令だよ。彼からすればテロを起こしたのをこのデカブツで抑え込んで、もう一度中央に返り咲くつもりだったんだろうけど、『力による管理』なんて前世紀の思想だ。現にぼくらは貴重な情報源で勝利したじゃないか。そうでしょう? ボシェロさん。」

そう呼び掛けた先にはブリズギナと共に指名手配されているはずのボシェロが涼し気な顔で佇んでいた。

「同感だね。情報戦が物を言う現代で昔ながらの大艦巨砲主義とは、酔狂にも程があろうに。」

「決行前日に情報を漏らしたアンタも随分酔狂に思えますけど。」

カザマが呆れ混じりに皮肉ると、ボシェロは鼻を明かして嗤った。

「私はヴィルコニルさえ完成すればそれでいい。奴の誇大妄想に費やす興味なんて微塵もないよ。おっと、言っておくが私と核弾頭は無関係だからな。アレは向こうが保有していたものだ。」

「分かってますよ。ところでボシェロさん、そちらが持つというターナーの情報ですけど…」

「ああ、そうだな。ここでは何だから脱出後に話そう。」

UAVの攻撃の中をどうやって逃げるか。答えはアキラが接近してヴィルコニルに発射した最初のミサイルにあった。実はあの1発は細工を仕掛けており、着弾直前で弾頭が分離し、中に仕込んでいた小型センサをヴィルコニルに付着させることで、その正確な座標を特定することに成功した。奇しくもこの作戦は戦闘機とガンツの補給システムをレクチャーされたカザマが、それを逆手に取る発想で思いついたものだった。

「ああ、そのことなんですけど。」

指揮所を出て予備電算室に向かおうとしたボシェロをタクミが引き止める。その手にはブローニングが鈍く銃身を光らせていた。

「アナタもここで死んでもらいます。」

「な、何を言ってるんだ…私は君たちの協力者だぞ! 殺せば情報は―」

「もちろん取り出せなくなる。でもね、ボシェロさん。ぼくは()()()()()()()()()()()()()()()。アナタ自身からね。もうアナタの情報の鮮度は失われている。」

「何の話だ? 私と君は会ったばかりじゃないか。くそ! アメリカ人め…」

両手を挙げてじりじりと後退するボシェロが戸惑いながらさりげなく背中に手を回す。次に取り出したのは小型の起爆装置だった。

「動くな! さもないとこのスイッチを押し―」

不意に空気を切り裂く音が聞こえた。残念なことにボシェロは死角から放たれたライフル弾で片手をスイッチごと吹き飛ばされ、2発目で頭蓋骨を貫通した弾がカルシウム壁に反射して肉の中身をミンチみたいにグチャグチャにされて事切れた。

「良かったよシェリー。君は最高のスナイパーだ。」

『アナタが射角が15cmしかない場所に張り付かせた理由が今分かったわ。撃ちにくくて仕方なかったけど。』

「隊長、準備が完了しました。」

部下の1人が脱出の手筈が整ったことを告げる。任務はこれで終了だ。隔壁を通じて低い唸りとソニックブームの余波が伝わった。MiG-29の混成部隊が本格的にヴィルコニルの()()()()に移ったらしい。

「さあ、帰ろうか。撤収、撤収。」

 

『ブリズギナ准将は拘束中に暴れ出し、誤って火災に巻き込まれて死亡。ボシェロ技術情報部員は抵抗し自死。これで間違いないかね?』

『はい。間違いありません。』

上院軍事委員会の召喚で招集された会議室の中で、ホログラムで映し出された議員に同じくホログラムで出席したワグナー中佐が至極真面目な様子で応対する。

白々しい、とアキラは感じた。全ては仕組まれていた。委員会は端から彼らを逮捕する気はなかった。ヴィルコニル建造計画には多くの有力者が関わっていた。国防族、兵器開発産業、投資家、挙句にはテロリストも1枚嚙んでいたらしい。ブリズギナは計画の責任者として多くの弱みを握っていた。

抵抗軍とテロリストが裏で馴れ合っていたことが露見すれば、間違いなく世間から抹殺される。保身に走った権力者たちはすぐに示し合って、彼らの暗殺作戦を立案した。わざわざ旧式の装備を用意したのも現場にある程度の証拠を残すためだ。無論、隣に並び立つREX隊員も事情は把握しており、それが改めて軍内の官僚主義的体制を実感させた。

『詳細はフライトレコーダーが記録しています。ただいまノイズの除去を進めているので、今しばらくお待ちください。』

『その件については()()()()()()くれ。予想外のアクシデントが無いようにな。』

委員長である上院議員がニヤリと口元を歪めたのを最後に立体映像は消失した。空間に明るさが戻り妙に湿気た空気が薄らぐ。唯一残っている中佐のホログラムにタクミが何かを囁き、会議は終了した。各自が持ち場に戻る道すがら、アキラは彼を呼び止めた。

「アンタ、何で私にこの事を話さなかった?」

知る必要(need to know)の原則だよ。余計な背景を気にしないで良いから自分の任務に専念できるし、何より君に言うと何を仕出かすか分からない。」

事実を知ったのはさっきの結果報告の時だった。いくら自分が陽動組だったとはいえ、知らないうちに汚れ仕事に加担させられていたことは我慢ならなかった。確かに彼の言う通り前もって目的を知らされていれば、気持ちに迷いが生じて撃ち落とされていたかもしれない。

「君が羨ましいな。」

「は?」

「怒る、動揺する。普通の反応だ。とてもまともだよ。やっぱり死人に心は宿らないみたいだ。とても羨ましい。」

少しばかり自嘲気味に笑い廊下の先に消えたタクミの背中が随分と寂しく映った。今思えばこのときほんのちょっとでも話し合っていたら、彼のSOSに気付けたかもしれないとアキラが思い至ったのは随分と先の事だった。




アサシンクリードにハマって標語に入れさせていただきましたw
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。