GANTZ Repeat'   作:マルハン2

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31.追憶(1)

―数日前、REXベースキャンプ

ナイジェルは割り当てられた整備室でPCといくつかのモニタを前に深夜まで格闘していた。どれもこれも無茶な注文をする年下のボスのせいだ。ただでさえ多くの戦闘をこなすREXの装備は消耗が激しく、その都度部品の調達や微調整が必要なのに、訓練の度にターミネーターをぶっ壊して代替品を要求してくるタクミは自分を過労死させようとしてるに違いない。

いつかゴッソリと残業手当を請求してやる。固く心に誓ったナイジェルは今日もキーボードを叩いていると、来訪を告げるブザーが鳴り作業を止めた。

「ナイジェルさん居る? 私、アキラよ。」

訪問者が名乗った途端にナイジェルは席を蹴って散らかった部屋を片付け身だしなみを整える。部隊の性質上、タクミが実質的なリーダーであるが、それでも相手の階級が部隊で最高位であることに変わりはない。さらには夜遅くに1人で部屋に訪れたのだ。緊張しないわけがない。

「ちょっといい? 忙しいなら出直すけど。」

「いえいえ。歓迎しますよ大尉。」

少しでも緊張を解すために気さくに接したつもりだったが、アキラは不満そうに息を吐いた。

「私、()()()()()()()って言ったんだけど。」

「あ、ああ、そうか。悪いなアキラちゃん。」

その意味を悟ったナイジェルはすぐに公私の態度を切り替えた。元々アキラはナイジェルと知り合いだった。ヨコスカ基地の頃からタクミを通じて、幾度となくナンパしてことごとく撃沈されたのは懐かしい思い出だ。と言っても半分お遊びでやったことであり、アキラも冗談が面白い人という印象を抱いており、決して悪くない友人としての関係を結んでいた。

「で、こんな夜分遅くにどうしたんだい?」

レンチや金具が散在している机からどうにか引っ張り出したコーヒーメーカーで2人分のコーヒーを淹れ、片方を渡したナイジェルが尋ねると、一口飲んだアキラはしばらく黙りこくっていたが、意を決したように言った。

「ナイジェルさんは昔のタクミって知ってる?」

「昔? そんなのアキラちゃんも知ってるだろ。いつも自信がなくて、他の中隊の連中にいじめられてよ。」

そこで彼女は首を振った。

「違う。そうじゃなくて軍に復帰する前のタクミ。」

「…何でそう思った?」

訝しむのではなく娘の相談に乗る父親の持つ優しい眼差しで問いかける。その目に安心したアキラは溜め込んでいた疑念をポツポツと話し始めた。

「ナイジェルさんも気づいてるでしょ。今のタクミって昔と全然違う。どんなときでも強くて冷静で、時々とても怖くなることがある。変な話だけど、何だかタクミの皮をかぶった別人みたいに感じてしまうの。」

「それで原因がREXに入った時期にあるかもしれない、と?」

無言で頷いたアキラを見て、ナイジェルは内心迷っていた。この話は諫言令が敷かれている極秘事項だ。かと言ってこの子が素直に引き下がるタマじゃないのも重々承知。しばし逡巡したナイジェルはツナギのポケットからタバコを取り出しライターを探し当て、隣の美人の上官を見やって伺いを立ててみる。その動作を察したアキラがOKサインを出してくれたので、あまり吹かさないように心掛けつつ6時間ぶりの煙を吸い込んだ。

「何でオレに聞くんだい? ここにはもっと古参の隊員もいる。そいつらに聞いた方が手っ取り早いんじゃないか?」

「何人か聞き出してみたんだけど、要領を得ないものばっかで。それにナイジェルさんは前からタクミのことを知ってるから、そういう人に聞いた方がいいと思ったから。」

アキラはこう言ってるが、大方先の質問者にナイジェルの方が詳しいと言われたのだろう。ババの押し付け合いに巻き込まれるのは御免だったが、確かに自分も当事者の1人で求められれば説明する責任がある。知らないに越したことはなかったけど、こうなった以上正直に吐くまで眠らせてくれないだろう。

天を仰いで今日という呪ったナイジェルは、フッと口元を緩め

「アキラちゃんはタクミが好きかい?」

「は?」

これまでと全く関係ない話題に間の抜けた声を出したアキラ。訳が分からないといった表情を浮かべた彼女に対し、ナイジェルは笑うでもなく優しい目のまま年下の中尉に弁解する。

「知り合ったばかりの連中は気づかないかもしれないけど、旧知の連中は薄々分かっていると思うぜ。お前さんたちのやり取りって余所余所しいけど、どっか()()()()()と感じるからな。おっと、図星なら安心してくれよ。誰にも喋ってはいないぞ。」

あくまで話をする土台として鎌をかけたつもり―内容は本当―だったが、どうやら当たりだったらしい。ハア、とため息をついて眉間に手を添えたアキラは正直に告白した。

「多分そうだと思う。でも、自分でもまだよく分かってないの。今ある気持ちが何なのか。ひょっとしたら家族愛か何かと錯覚してるんじゃないかって。」

「奴がシェリーと一緒にいるときどう思う?」

「やっぱりイライラするよ。上司と部下の関係だって理解はしてるけど、あの子の視線ってどうもそれだけには見えないし。」

「じゃあ、もし他の女と結婚したら?」

「そうね…どっかに監禁するかも。」

ボソッと呟いたその答えは奇妙に生々しく聞こえ、ナイジェルは密かに背筋を震わせた。こりゃ苦労するな、と結論したナイジェルは本題に踏み入ることにした。

「まあいい。それよりアキラちゃんの質問だ。だが、その前にいくつか聞くことがある。」

先程とは一転、重々しい口調で切り出したナイジェルに、アキラも無意識に姿勢を正す。

「これから話すことは軍の中でも極秘事項だ。他言は一切無用。それから、嫌になったら途中で帰ってもいい。その代わり二度とこの話はなし、タクミへの気持ちも捨てる。できるかい?」

コクリと首肯したアキラに深く頷いたナイジェルは、自分に課された命令を破ることにした。まずデスクで唯一施錠していた棚を開け、奥に保管していた1枚の写真を取り出し手渡すと、アキラはそれを凝視して思わず口を覆った。

場所は戦場か事故現場か判別できないが、背景には煙と炎がモウモウと湧き出し何人かのガンツスーツの兵士が、救援に向かう様子が鮮明に映っていた。辺りには怪我人らしき人々が担ぎ出され、包帯に滲み出た血が現場の凄まじさを暗示している。

だが、問題は写真の中央に据えられたガンツスーツを着た人物だった。周りの兵士より一回り小柄な体格に陽光に反射する黒髪、やや丸みを帯びた顔の輪郭が男を東洋人と告げている。その男は炎の許に駆ける仲間と逆行して1人の少女を抱えてカメラに向かって歩み寄っていた。が、その少女はすでに死んでいた。なぜなら少女の首から先にあるはずの部位が綺麗に無くなっており、代わりに大事そうに少女の腕の中に収まっていたのだ。

さらにその2人はアキラにとってもよく知っている人物だった。

「タクミとシェリー…?」

男の方はごく普通の顔立ちで見慣れてないとすれ違ってしまうほど凡庸だったが、左の頬に刻まれた一筋の傷跡がアキラの幼馴染の顔と一致する。その目はガラス玉のように虚ろで何も映していないように見える。一方、少女は人形のように整っており、血の気の引いた青い顔に薄っすらと笑みを浮かべて頭に巻いた白い布地を赤黒く汚していた。

「ピューリツァ賞もビックリの代物だろ?」

皮肉交じりに説いたナイジェルにアキラは掴みかかる。

「ナイジェルさん、これってどういうこと!?」

「落ち着け、これから話す。」

 

まずはオレの話だ。興味ねえかもだけど、まあ聞いてくれ。

3年前ヨコスカが襲われたとき、オレはガンツで内陸の僻地に逃げたんだ。言い訳にしかなんねえけど、オレはあのとき、どうしようもなく怖くてな。仲間にも内緒で1人でケツまくった。始めは後悔の嵐だったよ。何度か自殺も考えたけど、ご覧の通りその度胸もなくてな。

それからはお決まりの転落人生さ。軍では運よくKIA認定されていたが、それはもうシャバには戻れないことを意味していた。オレは世界中を放浪した。幸いにもハッカーの腕はどこでも優遇されてな。色んな組織や戦地を回ったよ。

でも、スカイネットが横行する環境では長くは保たない。末端だったオレはそれこそ命からがら逃げ回って中東にたどり着いて力尽きた。砂漠のど真ん中だったもんで、このままミイラになっちまうんじゃないかって思ったよ。

それも悪くないと思って潔く砂に埋もれようとしたんだけどな。意識を失う直前、影が差した。そこには小柄な金髪の2人のガキが物騒な対物ライフル担いで、揃ってオレを見下ろしてんたんだ。

次に気が付いたときはオレはベッドに寝かされていて、さっきのガキが体を拭いていた。ここはどこだって聞いたら、驚くことに流暢な英語で『奪還者』のアジトだって言ったよ。

『奪還者』。スカイネット紛争が勃発した混乱の最中に生まれた中東で最大級のイスラム系ネットワーク。旧世紀の言い方を借りればイスラム過激派の派生形らしい。まあ、先進国の学者様が勝手にそう言ってるだけで、本人たちからすれば全くの別物だそうだ。

実際、そうだった。CNNが流してた血生臭くて猛々しいイメージとは裏腹に、結構穏やかで気さくな組織だったよ。オレのような白人(フランク)でも腕さえありゃあ取り立ててくれたからな。オレは自分の腕を利用して、鹵獲したターミネーターのOSを書き換える仕事をこなす傍ら、奴らが軍からコッソリ持ってきた故障したガンツを何とか動かせるように悪戦苦闘するのが習慣になった。

だが、連中の立場は複雑だった。中東は一大産油地帯だ。未だにその価値は高いし、組織の重要な資金源でもある。現地の抵抗軍もその利権を狙って衝突するし、スカイネットも機械の稼働に必要な油田を奪おうとする三者三様の思惑が入り乱れた激戦区の温床。街中でドンパチなんて日常風景だ。

一方で、『奪還者』は内側にも問題を抱えていた。元々『奪還者』はスカイネットの勢力に押された過激派や反政府組織が自然と寄り集まって出来たものだ。当然宗教上の方針の違いから組織ごとの派閥が存在するから、発足当初は頻繁に分裂があったって話だ。でも、当時の指導者がデキる人でな。こんな御時勢だからこそ結束しなければならない、過去の遺恨を払うのはその後だって何度も派閥間で話し合って組織をまとめ上げた。

奴らはとても高潔な仲間意識で結ばれていた。互いの人脈を提供し合って民兵御用達のAKから旧米軍との戦いのいざこざで入手した西側の銃も持っていた。さらには独自のルートを使って食料や弾薬を仕入れていたよ。純正品っていうお墨付きでな。

それでも、現行の兵器でガンツの庇護を受けた抵抗軍や圧倒的な物量で押してくるスカイネットに、正面から立ち向かうのはこっちが消耗するだけだ。地の利やゲリラ戦で対抗はしたが、次第に勢力は弱っていった。

だが、『奪還者』には切り札があった。そいつらは双子の姉妹で、どんな目標も一発的中の凄腕スナイパー。ちょうどオレが匿われた2年前から突然現れて、抵抗軍・スカイネット双方に『奪還者』最大の脅威と目された。特に抵抗軍の兵士からは『アルミラージ』と恐れられたよ。アルミラージとは中東の伝説上の生き物で、見た目はちょっとデカい金色のウサギなんだが、凶暴で頭には一角獣(ユニコーン)みてえな角が生えてどんな獲物も刺殺して食っちまうんだと。その双子は金髪で自分より何倍もデカい男を簡単に取り押さえるぐらい体術にも長けていたことも由来かもな。

姉の名はセシル。妹はシェリー。そうだ。シェリーは中東で戦っていたんだ。だったらアキラちゃんも写真の娘が誰かは分かるだろ?

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