GANTZ Repeat'   作:マルハン2

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32.追憶(2)

タクミが何でコイツらと出会ったかというと、その頃抵抗軍ではある極秘作戦が進行していた。泥沼化した現状を打開するために『奪還者』と協力関係を結ぶって内容で、スカイネットから中東を解放しようとしたんだ。

お題目は立派だが、現地のイラク方面軍は長年の抗争でまともに話し合いなんて出来ない状況だった。そこで派遣されたのがREXだった。何でもワグナー中佐は交渉のプロで、似たような事案を解決した実績もあるらしい。それに、ネームバリューでREXに勝る部隊はないからな。

その頃の『奪還者』と言えば、勢いを盛り返して支配領域を拡大、鹵獲したターミネーターを混成した私設軍隊、アルミラージの賞金額(レート)が20万ドルに跳ね上がった、言わば全盛期に当たり、中東地域に与える影響は絶大だった。

『奪還者』でもREXの動向は注意していた。特にジャップ・ザ・リッパーと呼ばれる兵士には。ある日、セシルが別動隊の応援に駆り出されて、シェリーが日課のパトロールを行っていた。1人じゃ心細いだろうから鹵獲したエアロスタットをオレが飛ばして上空を監視する条件でな。シェリーには必要ないって言われたが。

しかし、残念ながらいつも通り異常なく終わるはずだったパトロールは、奴らの登場で戦闘に早変わりした。REXが現れたんだ。哨戒任務で通るルートが偶然警備エリアとダブっちまって、ちょうどそこは罠に地雷を敷き詰めていたから、無用な犠牲者を出さないためにシェリーは警告として地雷に1発撃った。

流石にREXは指揮官が優秀なのか、すぐに意味を悟って形だけ反撃して撤退しようとした。でも、同行していた案内役の現地兵がパニクって銃を乱射したんだ。多分アルミラージの攻撃だと分かってた分、恐怖も倍増したんだろう。それほどアイツらが名を轟かしていたってわけだが、こっちも応戦せざるを得なくなった。

砂嵐の中でもガンツスーツのレンズを撃ち抜く腕前だ。シェリーはそいつの肩を撃ち抜いて帰らせようとした。すると今度は黙っちゃいないのがREXだ。極秘作戦の要として呼ばれておきながら、初日に味方をケガさせてそのまま帰りましたってわけにはいかない。かと言って、敵のスナイピングは精鋭でも手こずってしまうほど正確だ。

そこで出て来たのがジャップ・ザ・リッパーだった。一目でピンときたよ。ヘンテコなお面を被っちゃいるが、姿勢の一つ一つ―歩き方でさえ―を取ってみても只者じゃない。オレはシェリーに逃げろと通告したが、アイツはそのまま戦闘を続行した。

両者の獲物は刀一本と対物ライフル。シェリーにはオレがハッキングで使えるようにしたガンツスーツがあったから、条件は圧倒的に有利だった。だが、ジャップ・ザ・リッパーはオレたちの予想を遥かに超える力を見せつけた。わずかな銃身(バレル)の傾きから弾道を予測して避けるか弾き返し、着実に距離を殺して接近戦に持ち込んで生け捕りにしたんだ。

オレは急いでモースルの本部にこのことを伝えた。シェリーとセシルは『奪還者』防衛の中心柱だ。それが抵抗軍に捕らえられたとなったら大惨事。『奪還者』は早速要員を整え、救出作戦を立案した。

ところが翌日、シェリーは帰ってきた。自分を捕まえた張本人を引き連れて。奴は彼女を解放する代わりに連絡係とすること、定期的に自分たちを抵抗軍の代表者として交流を持つことを求めてきた。最初は困惑したが、シェリーを取り返すためには要求を呑むしかなかった。

けど、それ以上にオレが驚いたのはジャップ・ザ・リッパーの正体だった。本部に着いたとき、奴は信頼の証拠としてマスクを脱いだ。ポカンとしたよ。人類の英雄がオレに気づいて

「もしかして先輩ですか? 良かった。生きてたんですね。」

って話しかけるんだよ。もちろん他人の空似と思ったが、奴は間違いなくコガ・タクミだった。どういう経緯でああなったのかは知らんが、顔の傷以外はアイツのままだった。

途端にオレは怖くなった。オレは裏切り者だ。タクミは本当に嬉しそうにしてたが、心の底ではどう思ってるか分かったもんじゃない。正直に恨んでるだろって尋ねたよ。でもアイツは、過ぎたことは仕方ない、死の恐怖には誰も逆らえないって笑って許してくれた。泣いたよ。まさかいつもキョドってた後輩に慰められるなんてな。

次にどうしてシェリーを返しに来たのかと尋ねた。そしたらタクミは面白そうな子だからって答えた。捕まえて基地に密かに連行した後、シェリーはすぐに自決しようとしたらしい。私は戦場で生き、戦場で死ぬ。薄汚い牢屋で男どもの慰みものされる気はないってな。

実はシェリーとセシルは自然に生まれてきたんじゃないんだ。スカイネットの反乱が始まって十数年後、アメリカで以前から研究中のプロジェクトから2つの実験体が逃亡した。そのプロジェクトは受精卵の段階から人間の遺伝子を操作して、マリナ・オーグランに匹敵する最強の兵士を創造することを目的としていた。

実験体は特定の能力を発現するよう調整(メンテ)を受けていた。肺活量を増強して泳ぎに秀でた者、乳酸の分解を速めて何時間も活動可能となった者、前頭野連合の活性化措置を受けて優れた作戦を立案する者。変わったものじゃ、完璧な容姿を追い求めた者なんてのもいたな。結局どれも失敗したそうだが。

シェリーたちはその中でも奇跡的に成功し、射撃に特化した調整を受けていた。しかし、そこでの生活は人間的とは言えなかった。毎日訓練漬けでミッキーマウスの代わりに戦争映画、可愛らしいネックレスの代わりに拳銃を与えられた。

このままじゃ国の道具としての人生しか待っていない。シェリーと比べて活発で自己主張の強かったセシルは、自分たちの生を掴み取るためにシェリーを伴ってアメリカを出た。その後は傭兵として世界中の戦場を回ったそうだ。皮肉なことに自由を求めた先にあった居場所はやっぱり戦場だったのさ。

それで最終的には『奪還者』に落ち着いた。幸いにもそこの連中は自分たちを対等な存在として扱ってくれ、家族のように大切にしてくれた。普通なら半年単位で契約するはずが、いつの間にか専属の兵士になって居着いちまったんだと。

そんな訳だからタクミに対する『奪還者』の第一印象は最悪だった。コミュニケーションはロクに取れねえし、ここの伝統や文化を丸っきり理解してねえし、来たばっかりで仕方ねえけど環境に慣れてないせいで初対談の前日に腹壊したりもしたもんだ。

けど、段々とアイツも言葉やルールを覚えてきて、仲間たちと打ち解けていった。セシルとも何故か意気投合して、宴会の度に射的の腕を競い合ったもんだ。今でも毎回負けて泣く泣く財布を搾り取られる姿を思い出すよ。

シェリーがタクミのことローガンって呼ぶだろ? アレって元々セシルが言い始めたんだ。元ネタはアイツらが小さい頃見させられたっていう手から爪が伸びるヒーロー…何つったかな。ともかくそのキャラの名前から取ったんだと。他にもヴェイダーなんてのもあったっけか。だってそっくりだろ。全身黒づくめで赤い剣なんて持ってるしよ。

一方、シェリーはそうでもなかった。組織のパイプ役を任されてる以上、タクミたちと接している時間は多いはずなのに、あまり懐こうとはせずいつも傍観してた。きっとタクミに一騎打ちで負けたのを根に持ってたんだろう。それが心配になって長に相談したら、何故かオレもシェリーに付き添えって命じられた。

最初は反対した。裏切り者が古巣に戻るなんて自殺行為以外の何物でもない。オレは駄々をこねまくったが、タクミは大丈夫だって何度も説得した。それに折れたオレは渋々イラクのアル・アサード基地に足を踏み入れたが、杞憂だったよ。誰もオレが元抵抗軍だって気づかないんだ。よくよく考えればすでに戦死扱いされてる一兵卒の顔なんて覚えてる物好きはそうそういないからな。

それからは裏でイラク方面軍の弱みを握る指令を受けていたオレは、好都合に基地を出入りできるようになった。その過程で軍の中は水面下で対立していたことが判明した。極秘作戦の全権を任されているワグナー中佐率いるREXと、表向きは協力しているがそれを面白く思えない方面軍の上層部。前者は徹底した秘密主義を貫き、後者は隙あらば命令権を奪おうとした。

そんなのに気を取られていたから中佐もオレも、タクミに降りかかった異変に気づけなかった。当時、タクミは作戦上の都合でロバート・ノーリッシュとレイチェル・ウルフリックというイギリスから来た情報局員と親しくなっていた。

ロバートはある大物政治家の息子で、情報管理局に入ったばっかのペーぺー。こういう手合いは将来の票田を確保するために、コネを作って同期と同じ釜の飯を食うもんだが、奴は今時珍しく貧困層の人間ばかりが前線で戦っているのに金持ちの将校は司令部で胡坐をかいているのは間違ってるって考え方の持ち主で、そんな構造を改革する手始めに戦争を知りたくてわざわざイラク行に志願したんだと。ボンボンらしく口を開けば青臭い理想論ばかりだったが、人当たりも良く悪い奴じゃなかった。

レイチェルの方は根っからの軍人家系で育ったが、幼い頃に父親を戦争で亡くしたせいで争いを好まず、平和的解決を望んで分析官の道を選んだ変わり者で、イラクに駐留中の情報室長に秘書として付いてきた。彼女を一言で言い表すとしたら、いい女だ。美人だしスタイル良いし性格も落ち着いている。実務でも情報収集や分析力は完璧の一言。強いて欠点を上げるんなら、真面目過ぎるところだったな。5ヶ国語なんて話せるくせに酒の名前なんてほとんど知らなかったくらいだ。

2人は同じ学校を卒業して別々の進路に別れたんだが、勤務先が偶然一致して再会した。タクミとは歓迎会で知り合って、歳が近かったせいか一緒にメシも食うようになった。特にレイチェルは宗教芸術が趣味でな。ジャンルはズレるがタクミは数少ない話が合う相手だって嬉しそうに言ってたよ。

そうして時間が経っていくうちにタクミはロバートに相談を持ち掛けられた。どうやらロバートはレイチェルに惚れて、モーションかけてたみたいなんだ。確かにロバートは良い奴だし、家柄も容姿もハイレベルで頭も良い。一般的な水準からすれば、玉の輿になれるチャンスだ。

でも、レイチェルもかなりの名家の血筋だからあまり関係はなかったし、何より乗り気じゃなかった。ロバートは本当に良い奴だったが、どうにもそれだけだった感じで、オレから見てもまだ現実を知らない甘ちゃんでしかなかった。タクミは応援するって答えたけど、それがまずかった。

ある日、タクミはレイチェルに正体がバレた。駐留中の外交官を手伝うためにバグダッドにヘリで向かう途中で、スカイネットに襲われたんだ。幸いにもREXが護衛していたから大事には至らなかったが、騒動の渦中でやむを得ず顔が割れてしまったんだと。

そこからアイツらは距離が近くなっていった。最初は共通の趣味がある程度の関係だったんだが、傍目から分かりやすいくらいに互いを意識するようになってな。仕事中にちょっと目が合っただけで赤くなったり、メールのやり取りでニヤついたり、手製のランチとかも食べてたな。それだけ一緒に居るのに手を出してないと分かったときはビビったね。どこのティーンエイジャーだってくらいに初々しいオフィスラブだったよ。まあどっちも感情表現は苦手っぽいし、タクミの方は明らかに女慣れしてないしな。仲間内でも頻繁にいじられてた。

だが、ロバートに応援しているって言ったタクミのことだ。友人を裏切る真似はしたくなかったんだろうな。と言っても、慣れない土地で秘密作戦に従事するのは生半可な根気じゃやっていけない。そんなストレスが溜まりまくる毎日で、普通なら挨拶するのがせいぜいの美女から声を掛けられるんだ。男なら断れるはずがない。だからタクミは誘いに乗りはしたが、ハッキリとした返事は言わずに彼女と過ごしていた。ロバートも2人の様子がおかしいと勘付き始めていたが、気のせいだといつも通りに接していたらしい。

そんな煮え切らない態度に我慢できなくなったのか、レイチェルは大胆な行動に出た。早い話が色仕掛け。そこらへんは詳しく教えてはくれなかったが、なし崩しで関係を持っちまったってことは予想できたよ。そっからは何だかタクミの雰囲気が変わった。妙に余所余所しい感じで、表ではあまり口を聞かなくなり、セシルたちと会っているときもどこか上の空。基地に帰ってもさっさと報告書をまとめてレイチェルの部屋に一直線だった。

シェリーもその関係を疑問に思って忠告したんだが効果はなく、タクミはただただレイチェルにのめり込んでいった。まあ四六時中くっついてる訳じゃないし、仕事はきちんとこなして任務上の問題はなかったから、部隊員やオレたちも程々にしとけとだけ言っておいた。

そんなこんなで任務は順調に進み、『奪還者』側も重い腰を上げて抵抗軍首脳部と交渉の席に着く約束を取り付けた。後は会談が上手くまとまればREXは任務完了ってわけだが、物事は最後の一歩が一番重要ってな。タクミもオレたちもいつも以上に気を張って交流を続けた。

そんな時、事件は起きた。連日の激務で疲れたタクミがレイチェルの部屋に泊まった翌朝、ロバートがレイチェルを朝食に誘いに部屋に来た。運の悪いことにロバートは2人が揃って部屋から出てくる瞬間を目撃しちまった。

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