「まだ連絡はつかないのか?」
「ええ、ナイジェルも色々と試してるんだけど…」
ベガスの追走劇から早5日。カザマはREXの基地で行方知れずになったタクミとアキラの安否を確かめるために奔走していた。
あのときトンネルに入ってもないのに、無線が切れたきり彼らとの交信が途絶え、ついでに乗っていたハウンドのビーコンも掻き消えた。カザマたちが現場に到着したときは、すでに2人の姿はなく破壊されたハウンドだけが転がっていた。彼らは敵に捕らわれたのだ。
「カザマ、どのみち仕様がなかった。奴らの狙いは最初からローガンで、それをおびき出すためにターナー自身がエサになった。こちらの読み負けよ。」
「分かってるさ。だが、こうしてる間にもタイムリミットは迫ってる。アイツらのことだ。そう簡単にはくたばらねえだろうが…」
「おい! ちょっと来てくれ!」
一同の不安を表すかのように沈黙しかけた空間に、ナイジェルが興奮を滲ませた声を上げた。それに連られて隊員たちがナイジェルと彼のデスクを中心にワラワラと集まる。
「ナイジェルさん、どうした?」
「どうやってもタクミたちが見つからねえから、最終手段だと思ってGINSで検索掛けてみたんだ。そしたらこれが見つかった。」
「GINSを使ったのか?」
GINS―Gantz Inteligence Network Surviceは情報管理局を始めとする国家間の情報機関が運用・管理している情報共有掲示板で、その名の通りガンツの高度な情報処理能力を並列接続して、リアルタイムで新鮮かつ要度の高い情報を閲覧できるシステムだ。ざっくり言えば『軍事用に超バージョンアップされた2ちゃんねる』と言ったところか。
ただし、情報を共有するということはホットな話題であるほど拡散しやすい。現在秘密任務を遂行中のREXが、『隊長が行方不明になりました。探してください。』なんてスレを立てたら、どんな化学反応が起こるか分からない。その危険性はナイジェルもよく知ってるはずだ。
「大丈夫だ。もしものためにタクミから秘匿回線で繋がるアカウントを作ってもらったんだよ。例え100件覗き回っても閲覧数にカウントされない代物だ。時々お前らの訓練で使うT-600のモーションマネージャをいじるために、使えそうなリソースをこっそり回してもらってたんだ。
「いつの間にそんな…完全に御法度だぞ。」
「だが、今回はそれのおかげで助かったんだ。たった今確認したんだが、匿名の書き込みで炎上してる。」
ほれ、とナイジェルが示したトピックス欄に閲覧数がすごいことになってる一文があった。
وقد الله يكافئ أولئك الذين يكافحون في المسرح، وهنا نحن.
「ここに集え、アッラーは現場で奮闘する者に報いる。」
ミミズがのたくった跡にしか見えないが、シェリーやナイジェルが読めるということはアラビア語なのだろう。そしてメッセージの下には花火か何かで彩られる細長い城と、小粋なスーツを着こなした耳と目が極端にデフォルメされた生物が写った画像が添付されていた。
「何だ? このヘンテコな生き物は。ネズミか?」
見たことのない不思議ネズミに困惑するカザマ。ネズミの背後にある城とそこに群がる人々の距離から、城は相当高く建っているらしい。しかし、これでは何を示しているのか見当もつかない。
「ひょっとしてミッキー?」
揃って首を捻る3人の中でシェリーがボソッと呟いた。
「知ってるのかシェリー。」
「ええ。イラクに居た時、アジトの中で世話をしてた子がこれによく似たぬいぐるみを持ってたのを思い出したの。確か審判の日以前に世界的に人気だったマスコットキャラクターよ。」
「へえ、コイツがミッキーか。そういやガキの頃にアニメか何かで見たような気がするぜ。」
と感心するナイジェルにカザマが発破をかける。
「じゃあ、あのデカい城はどこか分かるのか?」
「画像の遠近法から推測して、恐らくはフロリダのディズニーワールドだろうな。トーキョーにも似たのがあるらしいが、ここまで大きくはない。」
「フロリダ…」
20年以上前にスカイネットが世界中に撃ち込んだ核ミサイルの標的は様々だった。経済、行政、物流、科学。人類の存続に必要なインフラを破壊するために選ばれた候補地の1つがフロリダだ。そのせいで州の南半分は放射能汚染区域として未だ立ち入りが制限されている。
「それにアッラーの文も『奪還者』が合言葉に使ってたもんだ。タクミがオレたちに向けたSOSだと分かるようにな。」
「じゃあ話は決まりだ。ナイジェルさん、すぐに足を用意してくれ。」
返事を待たずに踵を返し、ブリーフィングルームに向かう。何にしても部隊というのは頭がいなければ話にならない。ならば、今の自分たちのするべきことはその迷子の頭をくっつけ直すことだ。もしかすればターナーもそこにおり、アキラも捕らわれているかもしれない。
「待ってろよ大将。」
湧き上がる敵への怒りと必ず助けるという強い意志を双眸に灯し、カザマは着々と救出プランを練り始めた。
静まり返ったある夜、ぼくは自分の部屋で学校の宿題に取り組んでいた。面倒な漢字の書き取りが終わり、背伸びをして時計を見る。午後10時20分。そろそろ寝た方がいいだろう。リビングに居る両親にお休みを言うために、部屋を出てまだ明かりが点いている大きめの空間に近づくと、朗らかに笑う両親と知らない男の声が聞こえた。確か今夜は父さんの同僚が遊びに来ていたから、多分その人だろう。一応挨拶はした方がいいだろうと思ってドアノブに触れたとき、その声がこう言った。
「そう言えば、子供は元気か? お前らが酒でこさえたガキ。」
酔っているのか少し大きめの声が尋ねた途端、笑いが一気に途絶え、後には沈黙だけが残った。まだ言葉の意味が分からなかったぼくは、静かになってちょうどいいと思って扉を開けると、そこには赤ら顔の父さんの友人と対照的に、凍り付いた表情を全く同じように刻んだ父母が揃ってぼくを見ていた。
ふと鼻腔に漂ってきた仄かな甘い香りを知覚すると共に、微睡んでいた意識が徐々に引き上げられていく。その匂いに誘われるまま深い暗闇に閉ざされた瞼を何とかこじ開けると、アキラは自分がベッドの上で横たわっていたことに気づいた。
まだボンヤリとしたまま周囲に首を巡らし、無意識に匂いの正体を辿ろうとして、開けた視界に自分がいる空間の詳細が伝達される。アンティーク調の小物に落ち着いた色の照明が反射し、華やいだ色彩で統一された壁や天井が部屋を囲っている。その中で何より目を引いたのが、至る所に置かれた独特のデザインをしたネズミのぬいぐるみだった。
「何? この場所は。」
「シンデレラ城のVIPルームの1つだよ。閉鎖前はパークの入場者から抽選で選ばれた組のみが宿泊できたらしい。予約も取れない完全な魔法の空間だ。」
背後から低く澄み渡った声に振り向いた先には、パーティー会場のときと変わってシックな黒スーツに身を固めたグラハム・ターナーが立っていた。その姿を認識した瞬間、最後の光景がフラッシュバックする。
そうだ。私はタクミとハウンドでアイツらを追って、コブラが出てきてそれから―
条件反射的に距離を取ろうとして白いシーツに手を突いたが、起き上がったばかりなのか力が入らず無様に倒れ伏す。どうにかして立ち上がろうとするアキラをよそに、ターナーはゆっくりとした足取りで近づく。
「無理はしない方がいい。まだ麻酔の効力は残っている。」
「ここはどこ? どうして私は生きてるの?」
「君は眠らされた後、こちら側の安全上の観点からフロリダの旧ディズニーリゾート区画に移送させてもらった。もちろんコガ・タクミ君も無事に保護している。」
「安全上の観点? 私はアンタの敵よ。人質にでもしたつもり?」
「そんなつまらん理由じゃない。どちらかと言えば私は君たちをここに連れてくる必要があった。」
部屋に用意されていたティーカップに
「いい反応だな。度胸がある。」
口角を少しだけ上げたターナーだったが、恐らくはこうなることを予想していたはずだ。一方のアキラは八方塞がりの状況に緊張して、ほとんど味を感じられなかった。
「どういう意味? 言っとくけど私はマリナ・オーグランの死体なんて知らないからな。」
「アレはただのブラフだよ。そうでもしないとREXは、特にコガ君は動いてくれないだろうからね。」
「…その口ぶりだとタクミが隊長だからって理由だけじゃなさそうだな。」
「理解が早くて助かる。一言で言えば、彼はマリナと交わした約束で戦っている。」
約束。何気ないありふれた言葉だけど、このときはアキラの胸に直撃するのに十分な威力を発揮した。ずっと気になっていたのだ。なぜ訓練でも着いていくのが精一杯だったタクミがほんの数年でここまで出世したのか。なぜあれほどの強さを身に付けたのか。なぜマリナの名前に過剰に反応するのか。
そして
「知りたいんじゃないか? 彼の秘密を。ただし、これを聞くと今までの君たちには二度と戻れなくなる。」
これまでの疑念が一気に噴き出した胸中に、ターナーがそっと囁く。それはアキラにとって十分過ぎる追い打ちと変わらず、思わず膝に置いた手を握りしめる。聞くか、知らずに蓋をするか。
二度と戻れなくなる。
その言葉を聞くのはもう何度目だろうか。自分の人生を振り返って、アキラは考えてみる。母と子を捨ててどこかに行ってしまった父。必死に努力した娘を結局見てくれないまま心を壊して死んだ母。そして
そうだ。私は知らなければならない。そうでなければ自分の本当の目的を果たせないのだから。固く閉じていた瞼を開き、アキラはティーカップを置いた。
あの後、間の抜けたのも束の間に両親はぼくにいつものように振る舞って、客人に挨拶させて部屋に返させた。そのときに疑問を感じたぼくは、辞書で『酒でこさえたガキ』の意味を調べてみたけど、結局見つからなかったから明日母さんに聞いてみようと思って布団に潜り込んだ。
けど深夜になってもなぜか眠れずにもどかしく思っていると、居間の方から大きな声が聞こえてきた。内容は分からないけど、オレがこうなったのはお前らのせいだ、裏切り者、子供が起きるでしょ、なんてのが聞こえたのは覚えてる。終いには母さんの泣き声が響いて思わず部屋を飛び出そうになったけど、直前に父さんの友達が乱暴に廊下を横切ったため、慌てて自室の扉を閉めた。そのまま二言三言玄関で父さんと怒鳴りあって、もう一度バタンと音がしたきり騒がしさはすぐに鎮静した。
只事じゃないと子供心に察知したぼくは、せめて心配かけないように早く寝ようとしたものの、やっぱり眠れずに悶々としていると、部屋の扉が開く音がした。起こさないように静かに近寄ってきた人影は、優しく頬を撫でる手つきから母さんだと分かった。このまま目を開けようかとも思ったけど、こんな時間まで起きてると分かったら怒られそうだから止めておいた。
母さん。毎日朝早くに起きてしっかりとご飯を作って、ぼくを送り出してくれる母さん。一日も欠かさずに家事をこなす真面目な母さん。時々怒りっぽくなるけど、いつもはとても優しい母さん。その手で撫でられるとぼくは安心しきって勝手に眠くなってしまう。今もきっとそうだ。
だから母さん、どうしてぼくの首を絞めてるの? どうして『死ね』なんて言うの? どうして怒ってるの?
やめてよ母さん。ぼくをそんな目で見ないで。苦しいから放して。『ゴミ』なんて言わないで。ぼく何にもしてないのに。謝るから。ごめんなさい。すみませんでした。申し訳ありません。だからやめてよ。
やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて。
ぼくを殺さないで。
従業員用らしい殺風景な廊下を進みながらも、時折アヒルや犬を擬人化したキャラクターが案内板の隅で踊っているのを見る度、ここがテーマパークの地下なんだと改めて思わされる。しかし、そう思えるはずの余裕はアキラにはなく、ただ俯いてターナーの後ろに続くしかなった。
全部信じられなかった。かつての伝説とされたマリナ・オーグランが時のループを利用して抵抗軍を勝利に導いてきたこと。3年前の戦いでタクミがそのループに巻き込まれ、何度も戦って死んできたこと。マリナと出会って必死に訓練し、戦場で生き延びた矢先に言い渡された残酷な選択。そしてタクミは最も過酷な決断の末に最愛の師を殺めたという結末。そのどれもが信じられなかった。
「やはり止めておくかい?」
着かず離れずの距離を保って先導するターナーが、何度目かの勧告を口にする。アキラはそれを聞いて我に返って
「しつけえんだよ。何度も行くって言ってんだからその通りにしろ。」
「そうか失礼。彼の話を聞いてかなり動揺してるようだから、時間を置いた方が良いと思ったんだが。」
返事をせず無視を決め込むアキラに、軽く肩をすくめ白銀の髪を揺らしながら廊下を進む。何故自分を攫ったテロリストの親玉とこうしているのかというと、例のVIPルームでタクミの秘密を知ったときだった。
『ところで、もう一つ君に知らせるべきことがある。』
『何なの? 今ちょっと1人にして欲しいんだけど。』
『だが、私はこうも言ったはずだ。君たちをここに連れてくる必要があったと。』
『タクミならまだ分かるけど、私に何の用なの? 口説いて味方にでもするつもり?』
『そうとも言えるし、そうでないとも言える』
『要領を得ねえな。もっとハッキリ喋れよ。』
『そうだな。これから君に2つの物を見てもらおうと思ってる。プロメテウス計画の全貌とシメオン・スロノムスキーを。』
あそこで追い続けてきた任務の一端と、消息不明の父親の名前が出れば、食いつかないわけにはいかない。例え敵の罠だとしても、今のアキラにはこの男が嘘をついてるとは不思議と思えなかった。
「随分とお父上が嫌いなようだね。もうすぐ再会できるというのに。」
「当たり前でしょ。あんなろくでなし、思い出しただけで100回は殺したくなる。」
日本を出てロシアに新居を移して数ヶ月後、父のスロノムスキーはジュニアハイスクールに入ったばかりの娘と常に自分を支えてくれたはずの妻を置いて、忽然と姿を消した。警察も捜索に躍起になったが足跡一つも出ずに打ち切りになり、母子に残されたのは当面は食っていける金と失踪後に父から届けられた一通の手紙だけだった。
『研究の都合でしばらく戻れない。目途が立ったら連絡する。』
その一行以外は白紙だった手紙を見た母は号泣し、アキラは少し汚らしい筆跡をなぞってそれを破り捨てた。蓄えがあっても、いくらか血が混ざってるとはいえ間違いなくロシアの男だった父と違い、日以の混血であるが故に不安定なアイデンティティの母親と十代の娘だけで北欧の大地で生きていくのは中々酷だ。かと言って頼りになる親戚も知り合いも皆無の状況で、駄々をこねてばかりではいられない。
そこからアキラは必死になった。母のお荷物にならないように寝る間を惜しんで机に向かい、その才能も手伝ってあっという間に大学に飛び級した。元々日本に居た頃から父に英才教育を受けていたため既に高校レベルの知識を持っていたのが幸いしたが、当人に感謝するほどおめでたい頭は持ち合わせてなかった。
問題は母だった。元々日本で博士号を取っていた母は、ロシアの大学との
母の足手まといにならないように頑張ったつもりが、逆に母がお荷物になってるというお粗末。それでもアキラは母が回復すると信じて一層努力し、特例で抵抗軍から15歳でパイロットにスカウトされるほどになったが、母が帰ることはなかった。
アキラが士官学校に入学する直前に投身自殺したのだ。後日遺体を確認したアキラが見たのは、その手に父の手紙が握ってあったことだった。どうやら自分は父に負け、母に捨てられたらしい。そのときからアキラは決意した。結局母は父がいなくなってから娘を見てくれなかった。だったら彼らのために泣くなんて馬鹿馬鹿しいではないか。
これからは自分のために生きる。そのためには自分の力を証明しなければ、し続けなければならない。常に私は力のある人間だと主張しなければならない。その日からアキラは泣くのを止めた。
「恐ろしいものだな。血筋とは。」
「何か言った?」
「いいや。さあ着いたぞ。我らの
中央銀行にある巨大な金庫を思わせる円形の扉がゆっくりと口を開くと、アキラはその場に立ち尽くした。そこにあるのは異常だった。幾重にも整列する円筒形の透明なポッドには全裸の人間が収まっており、頭に何かドーム状の装置を着けられて液体の中でユラユラと漂っている。その周りでは白衣の男たちが、手元のパッドと筒の表面にスクロールする文字の羅列を、交互に見比べており真剣に議論し合っていた。
「何よこれ…」
「プロメテウス計画。被検体の脳内に現実と遜色ない仮想空間を形成し、擬似的に戦闘訓練を行う画期的なVRシュミレーションだ。あくまで仮想空間だから命の危険はなく、安心して訓練に臨んでもらえる。これはそのプロトタイプだよ。」
さっさと中に入ったターナーを追って慌てて扉を踏み越える。あまりにも異様な光景に我知らず固まっている自分に舌打ちし、奮い立たせるために抗弁する。
「そんなもんSFじゃ使い果たされたネタだろ。画期的というには発想が貧しいな。」
「もちろんオリジナリティーな部分もあるさ。こいつは脳内に波動関数を応用した量子力学的アプローチが可能なんだ。海馬や外側膝状体などの記憶や感覚機能を司る部位に直接干渉しながら意図的に覚醒状態を下げつつ…つまり彼らは夢という形で情報を受け取り、夢の中で戦うのさ。お陰で時間的制約も随分と削減できた。君だってあるだろう。夢の中じゃ何日も経っているのに起きたら一日が過ぎただけという現象が。」
なるほど。それならごく短期間で一人前の兵士が出来上がるだろう。確かに画期的だ。タクミが『自分はいらなくなるらしい』と言っていたのも頷ける。そこまで至ったとき、引っ掛かりを覚えた。短期間で一人前に…
「この演習は何のプログラムを使ってるの? 先に言うけどFPSの初心者レベルの戦闘を追体験させてるなんてのはなしだからね。」
「中々どうして鋭いな。白状すると彼らが立っている
ヨコスカ。ある意味でタクミの始まりの地とも言える場所。となるとこの計画の真の目的は…
「ジャップ・ザ・リッパーの量産化…」
「ご名答。丁寧にもコガ君がそうだったように、システムにはタイムループ機能を搭載している。これで高い精度で『彼』を再現できるわけだ。」
「嘘つくなよ。個々の状況に合わせてそんな複雑な時間の巻き戻しを計算するなんて、ガンツでも出来るかどうか分からないのに。」
「それについてはこれを見てくれれば分かるさ。」
ターナーの台詞に呼応してポッド群の壇上に1枚の黒い板が出現した。冷蔵庫ぐらいの高さだが厚さは10cm程度で、ポッドから伸びたケーブルが至る所に繋がれている。だが、アキラが最も気になったのはその表面だった。不規則な盛り上がりは服の皺にも、肉の筋にも例えられる。よく観察すると人の形を象っており、そこにある顔は―
「…お父さん?」
「正式名称『極高速量子演算装置有機統合接続式試作1型』、シメオン・スロノムスキータイプ。ガンツの祖とも言える、君のお父上の今の姿だ。」
「どうしてアンタがこんな…」
思いがけない再会を果たした父に向けた恨みとも悲しみともつかない言葉は、モノリスの冷たい石版に吸い込まれたまま帰ってこない。不意にこの場所が不気味に感じたアキラは問い質した。
「アイツは、タクミはどこにいるの? 今すぐ会わせろ!」
ここは怖い。早く抜け出したい。タクミに会いたい。いつもの頼りなさそうな困った笑みで安心させてほしい。しかし、ターナーの返事は案の定だった。
「現在、彼は別室で特殊訓練を受けてもらっている。残念ながら面会は不可能だ。」
「そんなのはどうでもいい! いいからアイツに―」
恐怖のあまり喚き散らしそうになったが、突如現れた白衣の集団に押さえつけられ、首筋に鋭い痛みが走ると同時に意識が混濁してしまった。再度訪れた睡魔に抗えず落ちていくアキラは
「お父上についても改めて話すとしよう。我々も時間がなくてね。君にもやってもらうことがある。」
という呟きを最後に意識を手放した。