口調も若干変更しています。
「あと何人だ?」
ようやくたどり着いた
「さっきのでちょうど最後だ、と言いたいところだが、まだ本命の2人が来てないぞ。ったく、何やってんだかアイツらは。」
「隊長なら大丈夫だろう。それにあのイワンの大尉だって、簡単にはくたばるまい。」
「何を根拠にそんなこと言えんだよ。」
「あの坊主はどんな戦場でも絶対に帰って来た。それだけだ。」
必死にレーダーと睨めっこしながら計器を調整するナイジェルに、横たわった負傷者を介抱するマーカス・クロッソン曹長が、落ち着き払った声で返す。アフリカ系の血が濃く入り混じっている強面の巨漢は、長年のキャリアを反映したように冷静だ。マリナ・オーグランの時代からREXの副官を担っている肩書は伊達じゃない。
「けど旦那、これはヤバいんじゃねえの? オレも何度か修羅場は潜ってきたが、こいつは流石に―」
「いいから機体の調整を続けろ。お前の仕事はそれだろうが。」
包帯を肘の付け根に巻いたカザマの隣で横たわって、呼吸マスクで覆われたシェリーの小さな顔を撫でる姿は、奇しくも父親のそれに見えた気がした。
「…ハアッ、ハアッ…ハッ…!」
アキラにとってそれは終わりのない戦いだった。燃え盛る炎に照り返るチタン合金のフレームの化け物たちが、撃っても撃っても殺到する。もう100体を超えたあたりから数えてない。
こうして肩で息をついている間にも、明確な攻撃の意図を感じ取った体が反応して、無意識にトリガーを引かせる。これではポッドに沈められてた時と変わらない。不意にその時の記憶が脳裏を掠め、舌打ちしたアキラは前方から迫る大軍をロックオンして、一斉に撃ち尽くした。
圧縮された不可視の指向性エネルギーが目標に炸裂し、派手な爆音と共に粉々に砕け散る。1機、2機、3機…順調に数を減らして時間を稼ぎ、ジリジリと後退したときだった。背後にフッと影が浮かび羽交い締めにされ、身動きが取れなくなる。何者かと首だけを動かしてみると、そこには今日だけで何度も相手にしてきたマスクズの、のっぺらぼうの黒い仮面が、アキラの顔を映していた。
まだ、生き残りが居たのか。少し前ならすぐにでも振り解けたのに、今は力を使い切って腕に力が入らない。せめてもの反撃に股間を思い切り蹴り上げたが、マスクズは何の反応も示さない代わりに、ますます拘束する力を強めていく。
度重なる疲労の連続でいよいよ意識も限界に達しかけたその直前、背中の圧力が嘘のように消えた。圧迫された気管が緩まり咳き込みながら振り返ると、マスクズの首は黒い手袋に絞め上げられていた。
ミシミシと嫌な音を立てる手から逃れようと、必死に暴れるマスクズだったが、抵抗も虚しく頸椎をへし折られ全身から力が抜ける。アキラはその手の持ち主の名を呟いた。
「タクミ…」
スーツの至るところが裂け半分機能を失い、片目が潰れた姿はターナーと戦った結果を物語っている。そして何より…
「アンタ、腕が…」
「仕方ないよ。そうしなきゃ勝てなかった。」
本当なら歩けるはずもないのに、その顔は平然とした様子で淡々と告げる。それが逆に痛ましい。余計な心配をさせないために、アキラは何事もないように振る舞うことにした。
「そんなことより皆はどうしたの? もう時間がない。」
「とっくに撤収した。あとは私たちだけ。さっさとしないと置いてかれるよ。」
「だったら急がなきゃね。アキラはまだ動ける?」
「この状況じゃやるしかないでしょ。」
「それもそうだね。じゃあ行こうか。」
ガシャンと剣を担いで駆け出すタクミを追い、先陣を切って飛び込んだ背中を狙う敵に照準を絞り、トリガーを引き続ける。さっきまでボロボロになるまで戦ってたはずなのに、タクミの動きに澱みはない。これまでと同じように紙一重で銃弾を避け、いっそ芸術にさえ見える剣技で次々と敵を屠っていく。
アキラは交錯する戦場から瞬時に状況を把握し、絶妙な間合いで相手の懐に入り込み見えない一撃を加えて、すぐに離脱する。蛇のようにスルリと抜けていく身のこなしに、着いていけないT-100が直後に体の内側から膨れ上がって爆発する。
何分そうしていたか分からないまま、気が付けば2人は背中を合わせて敵の猛攻を凌いでいた。アキラが鳳仙花の如く鉄塊を火球に包んで粉砕する一方で、バッティングのように銃弾を跳ね返すタクミ。激しい訓練と戦闘を潜り抜けたベテランの兵士でも再現できないほどの抜群のコンビネーションで、華麗にステップを踏むたびに倒れる機械の山。
身体はオーバーロードを訴えているのに、アキラはギリギリのところで踏ん張っていた。何だろうこの感じ。指示もハンドサインもないのに、タクミの動きが背中から感じ取れる。一瞬のアイコンタクトで何がしたいのか分かる。例えば今みたいに身を屈めば、すぐ頭上を何mも伸びた黒い剣閃が通り過ぎ、硬質な物体同士がこすれ合う音が響く。
変な奴。今でも殺してやろうかと思っているのに、この瞬間が続けばいいと感じてる自分がいる。おかしな話だ。カルロスのコールサインを受け継ぎ、復讐のために近づいたはずなのに、彼に死んでほしくないと思っている。奇妙な感覚はアキラを安心感で包み込んでいた。
これがループを受けた者の力なのだろうか。手に取るように分かる戦友の動きだったが、人間には限界がある。不意に膝を屈したタクミに気を取られたアキラは、迫るRPGロケットの対処を遅らせてしまった。すぐにXガンを撃って弾道上で爆破したが、その余波は殺しきれずに2人まとめて吹っ飛ばされる。
朦朧とする意識をどうにか引き上げて、傍らに転がるタクミの胸倉を掴みあげる。
「どうしたのよ。急に倒れやがって。」
「ゴ、ゴメン。やっぱり連戦は無理だったみたい。」
「ったく、怪我人のくせに見え張るから。」
平気そうに振る舞っているが、タクミの容態はどう見ても致命的だ。左腕の切断箇所は止血できているとしても、腕1本無くしたまま戦える人間なんて存在しない。そんな奴がいたとしたら、そいつは人間じゃない。
でもどうする?
さっきの掃討戦でいくらか戦力を削いだが、未だに敵は健在だ。片やこちらは怪我人を抱えた体力が尽きかけている女が1人。
「ここまで来たのに…!」
不運の連続にほぞを噛む。そんなアキラを見透かすようにライフルを向けたT-600。思わずタクミを抱き寄せて地面に伏せるが、もう間に合わない。それでも離れないアキラの背に、無慈悲に筒先を上げたターミネーターは、しかし直後に上空からの弾丸の雨に蜂の巣にされた。
「何が起こったの?」
「上よタクミ。」
いち早く勘付いたアキラの言うままに空を見上げると、REXの使う輸送機が闇夜にその見慣れたフォルムを浮かび上がらせていた。
『ようご両人。まだ生きてるかい?』
「グッドタイミング、ナイジェルさん。生憎とまだ死に損なってるみたい。」
『そいつは結構。ここはオレたちが抑えるから、お前らは北に向かってくれ。4kmもすればでかい広場に出るはずだ。そこで合流しよう。』
「分かった。少しでいいから保たせてちょうだい。」
通信を切ってタクミを引っ張り上げるが、力が入らないのかガクリと脚がもつれてしまう。その有様に肩を落としたアキラは、そのまま上体を担いで背中に乗せて走り出した。
「ちょ、ちょっとアキラ?」
「何? うっさいからちょっと黙ってて。」
「でも、こんな格好で―」
「黙れつってんだろ!」
罵声と一緒に拳骨を喰らい、口を噤むタクミ。
「そんな状態で歩かれたら迷惑なの。大体、アンタまともに動けないでしょ。」
流石に反論できず大人しくなった相方を背に、アキラはひたすら走り続けた。
「もうそろそろね。タクミまだ生きてる?」
「何とかね。できればもう少し丁寧に走ってほしいんだけど。」
「縄で引っ張ってやろうかコラ。」
スーツで強化された脚力のお陰で、合流地点はすぐに見えてきた。ナイジェルの奇襲が功を成したのか、時折轟音が響くものの、敵が接近している様子はない。体力も立て続けに消耗しているせいで、段々と目の前が暗くなってきた。
酸素を欲した肺が大きく伸縮し、口元に鉄臭い匂いが広がり、たまらなくなって血を吐く。その拍子に脚が何かに引っ掛かってしまい、勢いをつけていたことでバランスを取る間もなく、アキラたちは地面に2度、3度と転げ回った。
「だから丁寧にって言ったのに。」
「人に運んでもらってた身分で、偉そうな口利いてんじゃねえよ。ムカつく。」
悪口を叩きあうが、互いの無事を確認するようなものだ。自然に肩を貸し合ってどうにか立ち上がり、フラフラになりながらも歩を進める。
「ターナーのことだけどさ。何でわざわざ戦ったりしたの? アンタだったら生存重視でとっとと逃げると思ったのに。」
「あの化け物相手に逃げ切れるわけないよ。それにアイツだけは、ぼくの手で殺さなきゃいけなかったんだ。」
殺す。その言葉を躊躇いもなく口にしたタクミを盗み見て、少しだけ心が波立つ。ほんの前まで虫も殺せないような情けない顔して、いつも寂しげな笑みを浮かべていた目元が、今は鋭く尖り何もかも達観した光を湛えている。
この戦争は彼を本当に変えてしまった。昔の引っ込み思案な少年を、殺人に躊躇せず時には自分の命すら利用する残酷で優秀な兵士に作り変えてしまうほどに。重すぎる呪いと運命のイタズラは、自分の幼馴染の人間性を欠片も残さず奪い去った。
「君こそどうしてあんな場所に居たんだよ。そのままカザマたちに着いていけば、今頃には逃げ切れたはずだ。」
「さあ、何でかしらね。もしかしたら何度呼んでも返事一つ寄越さない、いい年こいたどっかのバカを探すためかも。」
「何か…ゴメン。ぼくがもっとしっかりしてれば、こんな目に遭わなかったのに。」
「今更グダグダ謝るな。アンタだって人の子なんだからさ。それにもう誰かに死なれたりするのは御免なのよ。」
「…そうだね。早く帰らなきゃ。ぼくだって笑点録画しっ放しなんだ。」
「そういうこと。まずはアンタを皆の前で土下座させるところからね。それから私に皿一杯のミートパイを御馳走すること。もち手作りで。」
「ぼく右腕しかないんだけど。」
「だったら脚でもなんでも使えばいいだろうが。アンタ意外と器用だし。ていうか器用過ぎてちょっとキモいくらいだけど。」
「ひどい。そこは内なる繊細さが滲み出てるようとか言ってほしいよ。」
「そういう表現が許されるのは、イケメンに限られるんだよ。アンタはイケメンじゃないからダメ。」
「ああ、そう…」
「とにもかくにも、まずはこのクソッたれな肥溜から抜けるよ。考えるのは生き延びてからでいい。」
軽口を叩きあいながら、グラつく体を引きずって合流地点を目指して進む。もう互いの体力も限界に近付いている。ここで気を緩めると二度と立ち上がることはできない。死にたくない。今の2人の心は一緒だった。皮肉にも何度も死に至ることで、アキラたちは生の素晴らしさを身をもって知ることが出来た。そうだ。今は生き延びるだけでいい。生きていれさえすれば、どうにだってなるのだから。
周囲の光量が陰ったのはそのときだった。足元に浮かぶ魚みたいな影に気づいたアキラが上を向くと、1機のハンターキラーが偵察用の真っ赤なモノアイを、こちらに真っ直ぐ向けていた。その姿を認識するより早く2人は反対に飛び退き、機銃の掃射を間一髪で回避する。
もう一発食らわせようと機体を旋回させる隙を突いて、タクミはガンツソードを伸ばし、アキラはXガンでタービンを撃ち抜いた。翼をもぎ取られた鉄の鳥は、姿勢を維持しようとクルクル回ったが、却って気流を乱してしまい最後は錐もみ状態になって地に落ちる。が、落ちた場所が悪かった。
ハンターキラーが激突したのは、ジェットコースターのレールを支えるポール―アキラたちのすぐ近く―であり、その拍子に吹き飛んだ破片の1つが脇腹に刺さり、もう1つがアキラの頭部を直撃する。金属バットで殴られるよりも遥かに激しい脳震盪に、視界がスッと闇に覆われる。
だからアキラは気づけなかった。いや、気づいたがどうしようもなかった。激突の影響で耐久限度を超えたポールが金属を無理矢理引きちぎる音を奏でながら、頭上に倒れ込む光景を。
頭の片隅で警告が走るが、どこに動くことも叶わない体は座り込むばかりで、アキラはただ茫然と迫り来る一撃に目を閉じた。
激しく唸るエンジン音に揺さぶられながら、ナイジェルは輸送機のカメラを通して、タクミとアキラを探していた。もうすぐ合流地点なのに2人が到着したという通信が入ってこない。敵にやられた可能性も出て来たが、レーダー上にターミネーターの反応はない。
最後に見たのはアキラがタクミを抱えて逃げる姿だったが、あの速さならギリギリ間に合うはずだ。一向に分からない状況に苛立ち、クロッソンに回線を繋ぐ。
「旦那、大尉から連絡は?」
「ダメだ。使える周波数は全部試したんだが、全然返ってこない。マズいな。もう撤退まで時間がないぞ。燃料もあまり残ってない。」
「待ってくれ。あともう少し―」
呟きながら必死に探し回るナイジェルの眼は、ある一点に急速に集中した。思わず再び通信を開く。
「煙が上がってる。」
「何? どこだ。」
「11時方向。ジェットコースターのコーナー付近。何か人影のようなものが…」
そこまで言いかけたが、クロッソンがガコンと乱暴に操縦席に割り込んできたお陰で、ナイジェルは強かに頭を打ちつけた。
果たして予期していた衝撃は来なかった。体も5体満足で残っており、身も切れるような痛みも相変わらずだ。何が起こったのだろうか?
茫洋とした瞼を開いて、巻き上がる炎と煙の世界に何とか目を凝らす。するとアキラは何故自分が何ともないのか、その結果を目の当たりにすることになった。
彼女の眼前には全身から血を流しながら、自分の体重の何十倍もある鉄の柱を、腕1本で受け止めているタクミの姿があった。
「あ…」
「や、やあ、無事だったみたいだね。」
喉の奥を震わせながら、懸命に踏ん張り柱を支えるタクミ。信じられない光景だった。いくら常人とは比較にならないパワーを発揮するガンツスーツでも、今のタクミのそれはほとんどが機能を停止し、立ち上がることもままならないはずだ。
しかし彼は残った力を振り絞り、アキラを押し潰そうとしている圧倒的な質量に抗っている。ツウ、と鼻腔から新たな血が漏れ出た。
「アンタ何やってんの。早くどけよ…死んじまうぞ。」
震えた声と手で何とかタクミを押し退けようとする。だが、動けない。脇腹を貫通した破片が、筋肉の一部を断裂していた。
「どけるわけないだろ。そんなことしてみろ。ぼくは君のファンクラブに、寄って集って殴り殺されるに決まってる。さあ早く、ぼくが使えるうちに。」
僅かに残ったパワーアシスト機能で辛うじて均衡を保っているが、ほとんど虫の息だ。このままでは2人仲良く潰される。ガクガクと揺れる足元の地盤が重さに耐えかねて、少しずつ沈下する様子が嫌でも分かった。もう時間がない。
頷くのも惜しく、アキラは歯を食い縛って槍と化して刺さった鉄片を、気合と意地をフル稼働して引き抜く。1mmでも動かすごとに白目を剥きそうになるほどの激痛が襲うが、声には決して出さなかった。目の前にもっと苛酷な痛みに耐えている男がいるというのに、出せるはずもない。
そのときがターニングポイントだった。陥没した地盤がおもむろに深みにはまったのだ。彼我の距離が一気に縮まり、目と鼻の先に丸太よりも太い鉄塊が迫る。だが、タクミは逃げなかった。最後の足掻きとばかりに絶叫を上げて、残った腕にありったけの力を送る。限界を超えた力の行使に筋肉が耐え切れず、血管が破け勢いよく皮膚を突き破って、所々から鮮血を飛び散らせる。その様はまるで、決壊寸前の水道管の様だった。
その間のコンマ数秒にアキラは全力を掛けた。渾身の腕力で鉄片を引きずり出すが、末端が僅かに曲がり肉に引っ掛かって抜けない。そこで脚部に力を集中して跳び、手近な壁に向かって背中から衝突した。背中から肺まで突き抜けるほどの痛みが達するが、その強引な衝撃で破片はアキラの腹から肉を少し削って、表に排出された。
その瞬間タクミが力尽き、支えを失った柱がここぞとばかりに、血塗れの背中を覆い隠したのが見えた。アキラが地面に落ちるのと同時に、落下の衝撃で轟音と黒煙が高く舞い上がった。
スーツの防護で骨折は防げたが、全身打撲と腹部の切創のせいで体に力が入らない。それでもアキラは止まることはなかった。
タクミを助けなければ。
ただそれだけを胸にさっきの破片を棒代わりに、ヨロヨロと柱の許に辿り着く。晴れた煙の向こうに黒い人型が見え、アキラは愕然と目を見張った。果たしてそこにあったのは、うつ伏せになって瓦礫に挟まれた瀕死のタクミだった。胴体や下半身は無事なものの、たった1本で支え切った右腕は完全に下敷きになり、見る影もなくグチャグチャのミンチになっている。
「タクミ!」
「…アキラ? 良かった。抜けたんだ。」
アキラの呼びかけに弱々しく顔を上げるタクミ。しかし動作は緩慢で、血の気も引いて青ざめている。
「待ってろ。すぐに出してやるから。」
すぐに柱に鉄棒を差し込んで、肩を押し当てるが重く圧し掛かった円柱はビクともしない。
「無駄だよ。中の構造材が腕に突き刺さってるんだ。」
「うるさい。喋るな。」
「それに落下の拍子に腕の骨が飛び出たみたいなんだ。さっきから動かしてるんだけど、引っ掛かって抜けないんだよ。」
「喋るなって言ったでしょ。クソッ、動けよ。」
「だからさ、君に頼みがあるんだ。」
「喋るなって言ってるだろうが! いいから大人しくしてろ!」
髪を振り乱し、半ば自棄になって力を入れるが、何度試しても結果は変わらず、残るのはアキラの荒い息だけだ。思わずその場に座り込み、泣きそうになるのを堪えてタクミを見つめる。ほとんど死にかけているというのに、その目は穏やかなままだった。もう、何を言うかは分かり切っていた。
「ぼくのホルスターにガンツソードがあるはずだ。それを使ってコイツを切り落としてくれ。」
「…何諦めたツラしてんのよ。まだどうにかなるかもしれないでしょ。」
そう言ったが正直言って、状況は八方塞がりだ。ハンターキラーが爆発したときの炎が、燃料と一緒に一斉に飛び散り、火の海がジワジワとアキラたちを囲んでいる。おまけに柱を動かす術はなく、火の手が回るのも時間の問題だ。
その観点からすると、タクミの提案は唯一の策と言えるだろう。だが、仮に腕を落としたとして助かる確率は上がるわけではなく、寧ろ多量の出血により激減する可能性が高い。ただでさえ全身の切り傷や左腕の火傷で深刻なダメージを追っているのに、生き延びる未来は限りなく遠い。
「打つ手なしかよ、チクショウ…」
思わず泣き言を漏らしてしまう。絶望に打ちひしがれる中、タクミの声がそっと囁かれた。
「嫌なら放っておいても良い。君だけでも逃げるんだ。君は世界のただ一つの希望なんだから。」
希望。そう言えばターナーも似たようなことを口にしていた。ガンツを生み出した父。その娘である自分。罪が子に受け継がれるというならば、アキラにはすでにその覚悟があった。ここはその分水嶺なのだ。使命を放棄して2人仲良く炎に包まれて消えるのか、例え自分より大切なものを見捨ててでも救世主の役割を選ぶのか。それとも―
「…いくつになっても世話の焼ける奴だな。」
アキラは決断した。タクミのスーツから刀を取り、刃を出現させ、頭上に構える。呼吸を整え、目を瞑り、瞼の裏に様々な情景を巡らせる。気弱な幼馴染との出会い。共に過ごした幼い日々の他愛ない思い出。ヨコスカでの再会と初めて想いを交わした夜。婚約者の死に隠された人物を知ったときの衝撃と、憎しみと思慕の狭間で揺れ動く毎日。そして戦友として駆け抜けた戦いの数々。
ここに至るまでの記憶が走馬燈のように過ぎ去り、アキラは一旦その全てを消去した。ズシリとした手元の感覚がこれからすることの重さを代弁している気にさせる。きっと私はこのことを生涯忘れないだろう。永遠に背負う罪の一つを数えて息を吐く。それでも震える手だけは誤魔化せなかった。
「平気だよアキラ。ぼくは
それとも愛した者の半身を奪ってでも、足掻いて生き延びる道を掴み取るのか。返答はせずアキラは真っ直ぐに剣を振り下ろした。
「いたぞ! もう少し寄せろ!」
「分かってる!」
2人の生存を確認して数分、ナイジェルは燃え盛る広場の中で、懸命に機体の着陸に取り掛かっていた。頭上の星空を覆うほどの煙で視界は確保できず、急激に上がった熱気のせいでバランスが不安定になってしまう。
「見えた! 両名とも間違いない。」
クロッソンの声が弾み、収容された兵士たちの間で安堵の溜め息が漏れる。だが、その一方で素直に喜べる状況でもなかった。カメラで確認した限り、タクミは両腕が欠損しており、それを背負うアキラも所々に傷跡が見られ、どう取り繕っても無事ではない。ここまで来れたのが奇跡と言ってもいいくらいだ。
どうにか2人を回収しようと後部ハッチを開いたとき、アキラの数m手前にあるマンホールが火山噴火のように噴き上がり、一瞬2人を包み込む。だが直前にアキラがタクミに覆い被さり、炎の舌がその端正な顔を軽く舐める光景が焼き付いた。彼女の耳を塞ぎたくなるような叫びが聞こえた気がした。
「アキラ!」
思わず声を大にするが、無論アキラには届かない。しかし仲間のそれに応えるかのように、彼女は脚を突き立てて前進を再開した。ゆっくりと、だが着実に。一歩一歩に滲み出る覚悟と熱が、ここまで伝わって切るのが分かる。その気迫に気圧されたナイジェルは、あと30mほどで力尽きたアキラたちが、駆け付けた
前回の掲載に出て来たアキラの使う技術はガン=カタです(笑)