GANTZ Repeat'   作:マルハン2

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9.T-000

142周目、ぼくは爆風と閃光に煽られながら孤軍奮闘していた。

「クソッ!」

スーツも限界に近いが、相手はこっちの事情を汲んだりはしてくれない。陥没した穴に滑り込み、息を整えつつ五感を研ぎ澄ませ、状況把握に徹する。

真のベテランは地面の振動や敵のわずかな動作で次の事態を予測すると曹長が言っていたが、ぼくの場合、何度も同じ場所で戦っていたのでこうして穴蔵に籠っていても、相手の位置が明瞭に感じ取れた。

銃声やモーターの駆動音、巻き上がる砂塵、焼けた肉のような臭い。それらが形成するフィールドが触媒となり、シンクロすることでぼくの感覚は驚異的に拡大する。

が、すでに30発以上の銃撃を受けた身体は失神寸前だ。ガンツソードも紛失してしまい、残るのはボロ布みたいな自分だけ。

だからぼくは足元に転がり込んだ手榴弾を見て今回の戦闘から離脱しようと決めた。真っ白に変わった視界の中でマザーの言葉が再生される。

 

「そもそもT-000は初期の試作品を実戦用に改造したものだ。そのため他の機種と比べ大型化は免れなかった。」

「キャタピラはその名残ってわけか。」

「そうだ。しかし、奴の装甲はT-600の倍は堅い。よほど近づいて撃ちまくらないと破壊は不可能だ。かと言って不用意に接近したら蜂の巣にされる。」

「じゃあこれで斬りかかっても無駄じゃないか。」

マザーは軽くガンツソードを振ってみたぼくに苦笑を返す。駄々をこねる子供に対する母親のように。

「確かにただ突っ込んだだけでは単なるバカだ。それでもお前はそいつを使いこなさなければ、ループから抜けられない。」

ふと1枚の写真を見せられた。T-000の分解図とすぐに分かった。

「胴体の中心にマークがあるだろう。」

すぐ横に拡大画像が添付されていたので、注視するとぼくは息をするのを忘れてしまった。

「見ての通り核を示すマークだ。つまりこの機体は小型の原子炉を内蔵している。ループを発生させるには、莫大なエネルギーが不可欠だからな。」

知らなければ良かったと思った。いつ暴発するか分からない大量破壊兵器が近くにいるのを想像すると、考えただけでも恐ろしくなる。

「だったらT-000を破壊しても…」

「お前はおろか、辺り一面が火の海になる。」

後を引き取ったマザーが淡々と告げた。

「だが、ガンツソードを自在に扱えるようになれば話は別だ。」

少し軽い調子で言うと、今度は頭部の画像を差し出した。

「ターミネーターには頭部にメインプロセッサを司るチップが埋め込まれている共通点がある。この部分を切り離せば動きを停止するのもな。」

自身も赤いガンツソードを起動させる。

「つまりだ、お前は剣でコイツに接近し、頭のチップを壊せばいい。間違って原子炉を斬ったらアウトだ。」

途中で死なないことも込みで。言外に付け足すとマザーはぼくに正対した。

「気楽に言うなよな。」

「なら射撃に変えるか? ちなみに私はできるようになるまで100回は超えたぞ。」

とりあえず意地悪で言ってるわけじゃないということは分かった。

「お前ももう立派な兵士だ。兵士なら諦めるな、どんな理不尽にあっても。」

「買いかぶりすぎだよ。ぼくは…」

「目を見れば分かる。私が保証する。言っただろう? お前の死に場所は私が決めると。」

微笑みながらも彼女の目は真剣だった。それに、その言葉には単純だけど力があった。隊で教官が偉そうに垂れる訓示とは根本から違う何かが。

正直、今まで戦闘に必死でぼくはこれっぽっちも戦いに疑問を抱いたことなど無かった。死にたくないという純粋な本能が身体を支配し、それに従って銃弾を潜り抜けてきた。

けど、改めて考えてみる。もしループから抜けた後、ぼくはこの先何のために戦えば良いのだろう?

特に思い入れの深い人物や、崇高な使命があるわけでもない。大抵の仲間は家族や友人を守るため、と答えるだろうがぼくの親は息子が死んでも泣いてくれるか分からないし、友達も何人弔いに来てくれるかも見通しがない。

本気で考え始めたであろうぼくに苦笑しながらも、マザーは優しく見つめていた。

「無様でも構わない。無駄に死を重ねたくなければ、諦観を殺せ。」

「どういう意味…?」

「心技体…この中で私が教えてやれるのは技術だけだ。寧ろそんなものはどうでもいい。本当に大事なのは心、つまりは兵士としての精神。それはお前自身が手に入れるしかない。」

「揺るぎない鋼鉄のハートって奴?」

段々と重々しい話題になって来たので、空気を変えるために若干茶化した言い方をした。冗談のつもりだったけど予想に反してマザーは真剣な顔を崩すことは無かった。

「そうだな…例えばお前の部隊の仲間が裏切って敵側に寝返ったとしよう。そいつを殺す指令が出たとき、お前は実行できるか?」

「それは…」

意地が悪いと思った。少なくとも簡単に答えられるものではない。

「今でこそ人外の化け物が相手だが、一昔前は人間同士の殺し合いが普通だった。裏切者の存在は軍だけでなく国の脅威になる。軍人は命令に逆らうことは許されない。政治が敵と定めた瞬間から任務に私情を挟むのは御法度だ。」

「…そんな難しい話、分からないよ。ぼくは戦いたくてここに入ったわけじゃないから。」

「だが軍人となった以上、政治から逃げることはできない。与えられた任務に、世界にただ忠を尽くすしかない。」

漠然に過ぎる言葉にぼくは黙って聞くほかなかった。軍、任務、忠誠。当面の引受先程度という軽い認識で志願書にサインしてからはひたすら訓練の繰り返しで、不運な時間の牢獄に囚われてからは生き抜くことだけで手一杯だった記憶を辿ると、馴染まない言葉の集合という印象で留まってしまう。

「タクミもいつか分かる。自分が何者なのか。何を選び取るのか。何に忠を尽くすのか。お前は優秀だがどこか受け身なところがある。状況に流されるままだといつか痛い目に遭うぞ…それからこれは忠告だが―」

不意に真っ直ぐとぼくを見据えると

「幾多のループを経てお前は生き残るための力を引き出してきた。お前自身がどう思おうが、お前は普通の人間じゃなくなってきているんだ。分かるな? お前はもう昔の自分には戻れない。」

そんなことは分かり切っている。このときのぼくは内心でそう呟いたが、今に思えばそのときのぼくは全く成長していないただの間抜けだった。

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