被弾してしまった海鳥。
友成の主張に角松はどうこたえるのか。
始まりの航海編最終話です。
第拾壱戦目「攻撃命令」
横須賀上空では海鳥が未だ二式水戦から逃げ続けていた。
しかし、相手が海鳥の最大速力位に届いている以上、振り切ることはできない。
佐竹は銃創を負った森に言葉を投げかけ続けていた。
「森二尉!答えろ!貴様の生年月日は何年何月何日だ、えぇ!?確か1982年9月3日乙女座だったろ!今何年だと思ってやがる、1962年だぞ!1982年生まれで1962年死亡じゃ勘定が合わねぇんだ!死ぬな!」
佐竹は一刻も早く振り切ろうと尽力するが妖精らは諦める気配すらなかった。
「手ごたえはあったけど・・・浅かった・・・止めを刺すわよ!」
妖精はもう一人の妖精に手信号で合図する。
その合図を見た妖精は意味を理解して、佐竹と森の乗る海鳥を仕留めるべく動き始めた。
「みらい」CICでは角松が佐竹に連絡をしようと呼びかけていた。
「シーフォール、フォーチュンインスペクター映像途絶!どうした海鳥!?現状を報告せよ!佐竹一尉どうなっている!?」
『こちら・・・シーフォール・・・・・・・・・・・・コックピットに・・・被弾。』
「何っ!?」
『ガンナーが・・・・。』
「森二尉がどうした!?」
『銃創を・・・・血が・・・・。』
佐竹の言葉にCICにいた全員が絶句した。
無理もないだろう、海上自衛隊・・・ひいては全自衛隊に置いて初の戦闘負傷者が出てしまったのだから。
「そんな・・・・うそ!」
「みらいさん落ち着いて!」
みらいは佐竹の報告を聞き、過去の出来事を思い出したのか頭を抱えたまま座り込んでしまい、霧先が落ち着くように促す。
佐竹からの報告を聞いた角松は即座に指示を下す。
「全速で離脱!日本軍機を振り切れ!できるか!?」
『目標2機、本機を完全に補足・・・・振り切れません!!・・・・・・・・・・・・・・副長、攻撃命令をお願いします!一刻も早く森二尉を収容しないと!放射させて下さい!』
「相手も同じ日本人だぞ・・・同じ民族で、殺しあわねばならんのか・・・・!」
佐竹の焦る声がCICに響く、それだけ事態は不味いことが分かる。
だが、角松は指示を下せなかった。
彼の海上自衛官としての超えてはならないラインは勿論、同じ日本人同士が戦い、血を流すことは認められなかった。
そこに若い曹の自衛官が角松に意見を言った。
「副長、この艦は自分たちにとっての国と同じ、攻撃されたら反撃は当然です、攻撃命令を!」
部下に言われても未だ角松は迷っていた。
その時、霧先があることを思い出す。
「フロートだ・・・!」
「フロート?」
「フロートを破壊することが出来れば、二式水戦はバランスを崩し戦闘を継続できません。更に、あのタイプの水戦はフロート内に燃料タンクがあって、破壊されれば例えバランスを保っても航続距離は落ち、本艦までの追跡は不能になります。」
「本当か?」
「あくまで、あの水戦が第二次大戦の頃と同じだったらです、しかし、今はそれしか手段はありません!」
霧先の意見、それは二式水戦のフロートを破壊することだった。
霧先の言葉を聞いた角松は佐竹に指示を出した。
「・・・シーフォール、発砲を許可する、但し照準は目標のフロート部のみだ、佐竹お前ならできるはずだ。」
『副長、それは攻撃命令ですか?』
「そうだ、攻撃命令だ。」
『ですが、実戦での射撃は初めてです、フロート以外にも着弾する可能性が・・・。』
「それは認めん!お前の腕を信じている。」
事実、飛行する航空機の一部を打ち落とすのは相当な技術を要する。
更に、今回の二式水戦は大戦時の機体、確実に当たるかは佐竹の腕にかかっていた。
佐竹も覚悟を決めて行動に移った。
「了解!バルカン砲アイリンクシステム接続!」
佐竹は機器を操作し戦闘態勢に入った。
アイリンクシステムと呼ばれる操縦者の目線で火器が動くシステムを起動し、稼働を確認する。
「接続確認!」
接続を確認した佐竹は二式水戦に攻撃する手段を窺った。
「みらい」CICでは霧先がみらいの発艦させた海鳥に命令を出した。
「シーフォールセカンド、聞こえましたね?今回の攻撃はあくまで自衛権の行使です、目標はフロート部のみ!」
「了解、これよりシーフォールの援護に回ります!」
海鳥が佐竹らの援護に向かうが間に合うかどうかは怪しい。
その間にも二式水戦は機銃を撃つ準備を進めていた。
「射線確保!よし、いつでも撃てるわ!」
妖精はこの時明らかに慢心していた、いつも通り相手を落とせると。
そして、その慢心が命取りとなる。
「プロペラピッチ改変!ティルト変更60度!・・・80度!」
佐竹の操作によって海鳥の翼が徐々に折れていく。
そんなことを考えもしない妖精は引き金を引こうとする。
「止めよ!」
しかし妖精が発砲しようとしたとき海鳥が視界から消えた。
これは妖精の慢心の所為だった。
「き、えた!?下に!?急降下で逃げたの?いない・・・どこ・・・!」
妖精が海鳥を探すがどこにも見当たらない。
その時、妖精の乗る二式水戦に影が掛かり、おかしいと思った妖精が後ろを振り向くと、前にいたはずの海鳥が翼の折れた状態で太陽を背にしながら自分たちを狙って居た。
「よくも森を・・・!」
佐竹はバッチリと標的を定めていた。
「目標一機をロックオン、ファイア!」
「うわああ!」
佐竹の声と共に、海鳥に装備されたバルカン砲が無数の弾を吐き出す。
それは正確に二式水戦の機体とフロートを繋ぐ部分に命中し、破壊することに成功した。
妖精の乗る二式水戦はフロートが外れ、飛行が不安定になった。
「ダメ!バランスが取れない!」
何とかバランスを取ろうとするがそれはタダの悪あがき。
結局妖精の乗る二式水戦は海にあっけなく墜落した。
佐竹がもう一機の二式水戦を追っていると小さな海鳥が合流した。
『こちら海鳥パイロット妖精!佐竹一尉、後の一機は私達に任せて早く「みらい」に!』
「・・・誰だか知らんが恩に着る、後は任せたぞ!」
『了解!』
交信を行った後、佐竹の乗る海鳥はみらいに進路を変える。
パイロット妖精の乗る海鳥は、佐竹に代わって二式水戦を追いかけた。
「先輩の仇を取ってやるわよ!」
「了解!目標ロックオン!」
「ファイア!」
もう一人の妖精の乗る二式水戦は海鳥の発砲による被弾でフロートが外れ、フロートは空中で爆発した。
その後、フラフラとよろめきながら水面に墜落した。
「何なのよ・・・あの機体は・・・。」
妖精が操縦席から出てくると丁度海鳥が此方に向かってきていた。
「化け物め!」
そう言う妖精の上を海鳥は最大速力で飛び去って行った。
「よし、帰還するわよ。」
「了解・・・森二尉は大丈夫でしょうか?」
「今まで自衛隊には戦死者なんて一人もいない、そしてこれからもよ。」
射手妖精にそう言ったパイロット妖精は「みらい」CICへと通信を入れた。
『フォーチュンインスペクター、シーフォールセカンド、目標二機とも洋上不時着、パイロットの生存を確認!報告終了。』
「医療班待機!」
パイロット妖精からの報告を受けた角松はすぐに医療班を手配した。
こうして海上自衛隊と日本国海軍の航空機による戦いは海上自衛隊側の勝利として終わった。
それから数時間たった「みらい」医務室では霧先が桃井一尉を訪ねていた。
「桃井一尉、森二尉は?」
「大丈夫、致命的な場所は当たっていないわ、ただ感染症が心配ね。」
「奇跡ですね、今回は。」
「今回?」
桃井は霧先の言葉に疑問符を浮かべる。
霧先は桃井に説明した。
「相手はかなり警戒しています、近いうちに再び戦闘がおこる可能性があります。」
「・・・被害が出ると?」
「少なくともイージス艦と言っても完全無欠ではありません、操作する者の隙があれば反撃は必ずうけます。」
霧先の言葉は、かつて「みらい」が受けた攻撃のことを言っていた。
だがそれを知らない桃井は、霧先の的を終えたような発言に納得していた。
「そうならないことを望むわ。」
「自分はこれで、会議があるので。」
「分かったわ、気を付けて。」
そういって霧先は医務室を後にしてブリーフィングルームへ向かった。
霧先がブリーフィングルームに到着すると、今回の作戦の反省と今後の行動の計画の為「みらい」の幹部自衛官と、艦娘達が既に集まっていた。
霧先は書類を手に、空いている席へと座る。
全員が集まったことを確認した角松が仕切り、会議が始まった。
「これより横須賀近海に置いての作戦行動の結果会議を行う。霧先一佐、報告を。」
「分りました、被害の方は海鳥の各所の鋲が戦闘中に紛失、フレームに歪み多数、森二尉が意識不明、しかし命に別条はないとのことです。」
「森二尉が負傷か・・・・。」
霧先の報告に尾栗はため息交じりに呟いた。
不安そうな尾栗に霧先が補足を加えた。
「あの時シーフォールセカンドの到着が少しでも遅れていたら戦闘は継続され森二尉は助からなかったそうです。」
「危機一髪か。」
「えぇ、内臓に被弾していなかったのも功を奏したようです、報告は以上です。」
霧先の報告を聞いた角松は長門に視線を移す。
長門は特にこれと言って動揺している様子も無く、腕を組んだまま報告を静かに聞いていた。
角松はそんな様子の長門に問いかけた。
「さて、長門、貴様は日本海軍が先制攻撃はしないと言ってきたが・・・・この状況はどう説明する?」
「恐らく提督は命令していない、艦娘の誰かが動かしたと推測している。」
「そんな言い訳が通るか!お前の言っていたことは嘘なんじゃないのか?」
「嘘は付かない、第一嘘をついて私に得があるか?」
「・・・・。」
角松は長門の言葉に納得はしていた。
周りを固められている以上、長門らが嘘をついて自分たちに損害を与えたとしても、袋叩き似合うことは分り切ったことだ。
だが、角松は長門たちへの疑惑が払拭できていなかった。
「副長、まずは今後の作戦を考えるべきでは?」
「・・・・そうだな、何か案があるものはあるか?」
会議が停滞すると考えた菊池の提案によって、角松は長門への疑惑を置いて案を募った。
殆どの物が黙り込む中、霧先が手を挙げた。
「あります。」
「どういう案だ?」
角松が聞くと、霧先は用意されているホワイトボードに近づき、貼られている地図を用いて説明し始めた。
「まず、僕たちの乗る「みらい」で横須賀湾内に進行。そこから僕と第一、第二艦隊の誰か一名と共に内火艇で横須賀鎮守府に上陸、横須賀鎮守府最高司令官と交渉を行います。また自衛のため9mm拳銃、64式小銃を携行します。」
霧先の言葉を聞いた尾栗は、驚いて立ち上がった。
「進行って、それじゃあ相手の思うつぼだ!瑞鶴みたいにマリアナの七面鳥撃ちだぞ!」
「航海長さん!誰が七面鳥ですって!」
「瑞鶴さん、少し静かにしていてください・・・・。」
「アッハイ・・・・。」
尾栗の言葉に反応した瑞鶴が怒り出す。
だがそれを霧先が少し怒気を交えた言葉で制すると、やっぱり神通の子供だであることを感じ取った瑞鶴は静かに引き下がった。
みらいも、周りにばれない程度には霧先の怒気に怯えていた。
瑞鶴が座ったことを確認した霧先は、尾栗の言葉に答えた。
「進行して攻撃されることは見えています。しかし、行動しなければいつまでたっても平行線、燃料も食料もつきかけています。更にいえば僕たちの乗る「みらい」は全員で15人、被弾しても被害は最小限に抑えられます。」
「それでもだ、相手は必ず攻撃を仕掛けてくる。その時どうするつもりだ?」
霧先は淡々と尾栗に説明した。
だが、菊池は納得できず、霧先に聞く。
「護衛艦の艦長を務めている以上、搭乗員の人命と日本国民である艦娘の皆さんを護るために自衛隊法第95条を適応します。」
霧先の言葉に自衛隊員らが驚いている中、艦娘たちは疑問符を浮かべていた。
当然、彼女たちが自衛隊法を知るわけがない。
「じえいたいほう?」
「自衛隊の行動について書かれた法律の事だ、95条ってことは武器使用か?」
蒼龍に尾栗が説明した。
95条が何であるかも素早く答えると、霧先は頷いた。
「だが、それは・・・・。」
「これは自衛官に適応する法律です、そこで「みらいさんは護衛艦である」つまり彼女自身は自衛官であると僕は思います。」
角松が言う前に霧先は打開策を持ち出した。
自衛官ではない霧先が、この法律を使うことは出来ない。
しかし、自衛艦であるみらいならば可能と彼は考えた。
「自衛隊法第95条、自衛官は、自衛隊の武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備又は液体燃料を職務上警護するに当たり、人又は武器、弾薬、火薬、船舶、航空機、車両、有線電気通信設備、無線設備若しくは液体燃料を防護するため必要であると認める相当の理由がある場合には、その事態に応じ合理的に必要と判断される限度で武器を使用することができる。ただし、刑法第36条又は第37条に該当する場合のほか、人に危害を与えてはならない。刑法第36条又は第37条に該当する場合は「正当防衛」と「緊急避難」の事です、例えばみらいさんに明らかに敵意を持った駆逐艦や99式艦爆が砲撃や爆撃をしようとした場合ハープーンで弾薬庫を吹き飛ばして沈めても、シースパロ―で迎撃してもそれは自衛隊法第95条、更に日本国民を守るための自衛隊としての自衛権の行使になり合法になります。」
「えっと・・・?」
長すぎる法律を電は必死に理解しようとするが出来なかった。
それを見た霧先が、端的な言葉を使って意味を説明した。
「簡単に言えば攻撃してくる艦娘に対して警告しても無視してきた場合、自衛官は銃で頭を撃ち抜いて殺害しようがハープーンで沈めようが艦載機を撃ちおとそうが法には触れないのです。」
「それでは死者が!」
加賀の言葉に霧先は頷く。
そして言葉を続けた。
「それは承知の上です。ですが、もう僕たちに選ぶ道はこの世界は残してはくれていません。どこでも戦いが起こっている世界で綺麗な手でいることはできない。いつかはその手も汚れる。遅かれ早かれその事実は戦闘艦に乗って、武力を保持している限り、僕たちに起こりうることなんです。」
霧先の言葉を聞いた加賀は黙り込む。
彼の言う通り、強大な武力を持つものが生き残るためには、その力を使うしかないということは加賀も分っていた。
内容を聞いた梅津は霧先に尋ねた。
「・・・・・霧先艦長、その作戦、被害はどうなる?」
「相手が正規空母で40機を発艦させたとして・・・みらいさんの過去の戦闘から考えると、ECM、主砲、SPY-1レーダーに損傷、艦橋左舷と士官室で火災、この艦と同じ数の隊員が同じ配置にいたとして負傷者12名、死者5名・・・・そしてトマホークによる攻撃で敵正規空母が轟沈です。」
「・・・・・代償か。」
梅津は呟くと指を絡め、肘を机について溜息をついた。
「敵を葬ることに躊躇した当時の砲雷長のまねいた結果だそうです。」
「その当時の砲雷長とは?」
菊池に問われた霧先は少し眉に皺を寄せた後、答える。
「・・・・・それはまだ話せません、しかしやってみる価値はあります。」
「そんなに横須賀に行きたいのか?」
尾栗に聞かれ、霧先は少し思案する。
そして今はなすべきと考え、訳を説明した。
「・・・・実は詳細は言えませんが僕の母さんはこの横須賀にいます。」
艦娘たちを除く自衛官全員が霧先の言葉に耳を疑った。
霧先も異世界から来たというのに母親がこの世界にいる、それは大きな矛盾を招いたからだ。
「僕は8歳の時に父親を殺され、母さんの顔を知らずに生きてきました。その母さんが横須賀にいる、それだけで会いたいという気持ちが溢れてきました。しかし、僕は臨時とはいえイージス艦の艦長、おいそれと独断行動は出来ません。ですから、何としてでもこの作戦と交渉を成功したいのです。」
「・・・仕方あるまい、我々も手負いの状態、長期戦は不可能だ、補給も必要、ならばその作戦にかけて見ようじゃないか。」
「という事は・・・・。」
「霧先艦長の作戦を実行する、作戦開始は明朝0700!以上!」
「了解しました!」
梅津の決定に全員が応答し、作戦は決定された。
梅津自身、阪神淡路大震災で母親や父親を亡くした子供を見てきた。
それに自分も子持ちである以上、霧先に感化されたのだろう。
こうして、海上自衛隊がのちの横須賀沖海戦と呼ばれる開戦に出る運びとなった。
だが、これが霧先の歩む道を決めることになるとはだれも予想していなかったのだった。
予告詐欺しちゃいました。
次回は必ず開戦します。
では、次回予告
みらい「艦長の作戦で横須賀港で戦闘をすることになった私たち、だが攻撃は私たちを襲う、そしてあの大和が・・・・。
次回「第拾弐戦目「開戦!横須賀沖海戦」」
それでは次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!