霧先が指揮する「みらい」は順調に横須賀に向けて航行していた。
実に静かな航海であったが、突如として対空レーダーに反応が出る。
「これは!?」
滞空レーダーに出た反応を確認したみらいは声をあげて霧先を呼んだ。
「艦長!対空レーダーに感あり!数40!」
「一体誰が・・・距離と種類は!?」
「距離5000!種別は・・・三種類います!」
霧先も攻撃があるかもしれない事は予期していた。
しかし、誰が発艦させたかは分からない。
霧先は艦橋からの光景と、対空レーダーの光点が現れた地点を艦橋の作業台に置かれた海図に照らし合わせる。
すると丁度、猿島方面から艦載機が発艦していることが判明した。
霧先は一先ず彼らの撤退を望んだ。
艦載機には妖精が乗っていることが判明している以上、武力を振りたくないというのが自衛官でも軍人でもない彼の本心だった。
「ダメコン妖精さん、艦載機が破壊された場合乗っている妖精さんはどうなるんですか?」
「たしか重傷は負うけど艦娘の所に強制的に戻されるはず・・・。」
ダメコン妖精から聞いた霧先は、猿島方面を眺めた。
迫り来る現実に対し霧先は指示を出した。
「みらい、対空戦闘用意・・・・・。」
「・・・・・・了解、対空戦闘用意!」
「ECM、電子戦開始!」
「ECM、電子戦開始!」
霧先の決断した指示をみらいは復唱し、対空戦闘の用意とECMを起動する。
一方、猿島方面からやってきた艦載機の編隊は着実に「みらい」へ近づいていた。
「みらい」視認できる距離まで来た九九艦爆の妖精は、遂に「みらい」の航跡を発見した。
「右30度に航跡!」
「重巡クラス・・・間違いないわね、奴よ!」
指示された攻撃目標の艦であることを確認した隊長機の上を一機の戦闘機が飛んで行く。
その機の操縦士らしき妖精は親指を立てて微笑みながら飛んでいる。
「相変わらずね、良いでしょう、先陣は任せたわよ。だけど油断しないで、相手は未知の艦よ。」
隊長妖精は仲の良い熟練妖精に先陣を任せることにした。
その事を仲間に伝えようと無線機を稼働させようとするが作動しなかった。
彼女には分かるはずもないが、これは「みらい」のECMによる電子戦・・・ジャミングの影響だった。
それを知らない妖精は仲間へハンドサインを送った。
「やっぱり動かないわね・・・。全機、攻撃位置へ!」
「了解!これより雷撃進路につく!高度200メートルにまで降下!」
隊長妖精から送られた指示を受け、各九七艦攻の妖精は一気に降下を行い、雷撃準備を整え始める。
戦闘中でなければ、航空ショーと見間違えるほどの一糸乱れぬ行動で九七艦攻たちは降下していった。
だがこれは一方的な戦闘への一歩である。
「みらい」艦橋では、似た戦闘に遭遇したみらいが霧先に意見を具申した。
「・・・・・艦長、ここは角松二佐に援護を要請した方が・・・。」
「角松二佐達はダメだ。最悪の場合、向こうに被害が出るかもしれないんだ。」
「それは痛いほど良く分かってます!ですがこちらにはイージスシステムがあります、『あの時』の様になる確率は低い筈です!」
「・・・分かった、試しにリンク16を使用してみて。」
「了解、リンク16起動!」
みらいは試しにリンク16を起動してみる。
これこそ現代の戦闘艦の強みであり、相互の情報を共有することで効率的な戦闘が可能となる機器だ。
だが、みらいの期待はあっさりと裏切られた。
リンクするはずのシステムにはただ一文「Error」と表示され、あっさりと失敗が告げられた。
「そんな・・・リンク16がエラー!?」
「今いるイージス艦の識別番号は全員「みらい」・・・「みらい」が三つも表示されればエラーを起こすか・・・。」
薄々予感していた霧先は溜め息混じりに肩を落とす。
それでも諦めがつかないみらいは、更に霧先へ意見を具申する。
「では・・・全自動迎撃モードを!」
「全自動迎撃モードは危険だ、最悪のケースもある。」
全自動迎撃モードとは、敵味方選別から射撃までイージスシステムに一任するもので、目標からのIFFと略称される敵味方識別信号が反応しなければ敵と判断し、迎撃するというモードだ。
この時代の航空機には当然そのような反応を示す機器を積んでいる訳がない。
IFF反応がない場合は全機を敵と判断し全滅するか、システムを止めるまで攻撃は止まらない。
だが、霧先が狙っているのは敵の動揺。
此方は数に限りがあるミサイルが主兵装である以上、湯水のごとく使うことは難しい。
「未来の技術は・・・恐ろしいな。」
長門は状況を見てつぶやいた。
艦娘の面々には事前に全自動迎撃モードについて説明がなされていた。
それを聞いた全員は冷や汗をかいた。
自分達が艦船だった時代は人の手で確率によって奪われていた命がスイッチ1つで確実に消し去られる。
しかも感情を持たない機械によって行われるということに。
彼女達は初めて技術の進歩ほど恐ろしいものはないということに気づかされた。
「ですが艦長!」
「僕だってこんな手段は使いたくない!!」
霧先の怒鳴り声に全員が驚き、引き気味になる。
自分が感情を表に出しすぎたことに気付いた霧先は静かに言葉を繋げた。
「・・・海上自衛隊に所属する護衛艦の臨時艦長として、被害は出来れば避けたい。でも、敵は目の前まで迫ってる上に僕たちの素性を知らない。蒼龍達日本国民を守り、自衛隊として存在するには通らなければならない道なんだ。」
「・・・・今回は仕方がありませんね。指示をお願いします。」
霧先の言葉に折れ、覚悟を決めたみらいは指示を仰ぐ。
みらいの覚悟を受け取った霧先は深めに識別帽を被り、指示を述べた。
「みらい、モニターにレーダーを表示。」
「了解。」
指示を受けたみらいは、艦橋のモニターにレーダーを映す。
レーダーには無数の光点が表示されており、「Enemy 九七艦攻」「Enemy 九九艦爆」「Enemy 零戦」と表記されていた。
これら全てが霧先が相手をすることになる勢力だった。
その頃上空では攻撃隊が動き始めていた。
「艦爆隊、隊長機に続け!高度3000まで上昇!」
一機が上に上がると続いて複数の戦闘機が後を追うように高度を上げる。
その様子を見た零戦妖精は声を漏らした。
「流石、隊長。無線が使えない状況でも一糸乱れぬ飛行だ・・・。敵機が一機もいないんじゃあ戦闘機の出番はないけど、高みの見物と行きますか。重巡一隻に40機、あっという間に海の底でしょうね!」
しかし彼女たちは、それが大きな慢心であるということに、すぐ気付く羽目になる。
雷撃を行う艦攻隊と上昇する艦爆隊の様子はレーダーにしっかりと捉えられていた。
「80度、7マイル、主砲、短SAM攻撃用意!目標群α、13機、80度、距離5マイルに接近!目標群ブラボー、22機、170度、6マイル!」
みらいはCICからの情報を読み上げて準備を行う。
霧先はそれを聞きながら攻撃手段を模索していた。
(友成に教えて貰った、同時に128目標を補足、追尾可能なイージスシステム。さっき言ってた、全自動迎撃モードを使ったなら、40機とそのパイロット約80名。影さえ留めないかもしれない・・・。)
蒼龍が推察していると、攻撃手段を決めた霧先が、みらいに指示を下し始めた。
「ミサイルドーマント、最も近い6機に照準、発射管制は手動で行う。」
「発射管制、手動に変更!」
それを聞いた蒼龍は目を見開いた。
(手動で・・・6発だけ?・・・いや、これは威嚇?まさか、この世界に存在しない兵器を見せて、相手が動揺しパニックを起こすのを見計らっている?確かにそうすれば相手も下手には手を出せずどちらにも損害は余り出ない。なるほどそれなら!)
蒼龍の推察はほぼ当たっていた。
霧先は敵を動揺させ、指揮がままならない状況を作り出そうとしていた。
そうすれば相手も下手には手を出せなくなる。
ただ、蒼龍の考えと違うところは、最低でも30機を撃ち落とすことを考えているところだ。
彼の手は小刻みに震えていた。
(これから起こるのは血が流れる戦闘。この艦一隻でどこまでやり合えるか・・・僕はこれから生きているモノ相手に・・・・。)
一方、角松らが乗艦するみらいでも、異変は感知されていた。
レーダーを見ていた青梅は声を上げる。
「ッ!みらいαに40機接近!」
「何っ!?」
青梅からの報告を聞いた菊池は、艦内電話を手に取り、即座に艦橋に報告した。
『艦橋、CIC!此方砲雷長!10㎞先のみらいαに敵航空機40機接近!』
「何だと!?何故報告しなかった!?」
『レーダー索敵範囲が届かない位置から発艦したようです。』
角松からの問いに菊池は冷静に答えた。
その時、航海長である尾栗はすぐに原因を見つけた。
「まさか・・・猿島か!洋介!アイツら、猿島の影に隠れてやがったんだ!」
「猿島か・・・・・艦長、どうしますか?」
角松は最高指揮官である梅津に指示を仰ぐ。
指示を求められた梅津は目を閉じて考えた。
そして考えを終えると、静かに一言だけ述べた。
「・・・・我々は、霧先艦長を信じるしかあるまい。」
「では・・・このまま待機ですか?」
「航海長、ここは深海棲艦の危険もある。我々は彼を信じてここで待つほかない。」
「了解です・・・。」
尾栗は悔しげな声で答えた後、自分の仕事に戻った。
(霧先、みらい・・・無事でいてくれ・・・。)
外を双眼鏡で見ていた角松は、祈ることしかできなかった。
その頃、九七艦攻隊は「みらい」へ、雷撃進路をとっていた。
「全機!突入進路確保!攻撃地点まで5マイル!」
九七艦攻隊が海面まで近づき「みらい」に向かってくる。
だが「みらい」は既に戦闘準備を終えており、その向かってくる編隊の内の一機に主砲が向けられる。
「たかが一門の砲で何が出来るの?」
妖精達は完全に慢心していた。
その艦がこの世界ではあり得ない存在であるという事を知らないせいで。
だが、その艦の存在を知るときにはもう遅かった。
「右対空戦闘、CIC指示の目標、撃ちぃ方ぁ始めぇ!」
「トラックナンバー2636、主砲、撃ちぃ方ぁ始めぇ!」
重厚な音を立てて、127㎜主砲から発射された主砲弾は、一機に吸い込まれるように着弾し、九七艦攻を木端微塵にした。
「っ!」
それだけでは終わらず、「みらい」の主砲は射撃管制装置によって次々と照準を定めて撃墜していく。
九七艦攻妖精は、主砲弾を目視するも避けきることが出来ない。
それ故、なされるがままに被弾し、粉砕されてしまった。
「トラックナンバー2636から2638撃墜!新たな目標、210度!」
右舷側のレーダー上に表示された光点が消えると、主砲が旋回し、反対側の敵を持ち前の連射速度と命中精度で一掃する。
次々と攻撃機の残骸が海に浮かび、CICの対空レーダーから「Enemy 九七艦攻」と表示された光点が消えていく。
「っ!!」
妖精たちは確信してしまった。
自分たちが戦っているのは唯の敵では無い、恐ろしい悪魔なのだと。
「隊長!九七艦攻隊がぁ!」
「えっ?」
後部座席の妖精に声をかけられて、隊長妖精が下にいるはずの九七艦攻隊に視線を移した。
しかし、さっきまでいた九七艦攻隊はそこにはおらず、黒煙と残骸になり果てていた。
そしてその中心では「みらい」が白い航跡を描きながら優々と航海していた。
「!?」
「くっ!」
その光景が目に飛び込んだ熟練妖精率いる九九艦爆隊は「みらい」に一斉攻撃をかけようと急降下をする。
「ッ!待って!」
そんな声が届くはずもなく、熟練妖精達は一直線に「みらい」へ降下する。
その一連の動きは「みらい」のレーダーに捉えられていた。
「トラックナンバー2656、さらに接近!」
「シースパロー発射はじめ!Salvo!」
霧先の指示で、後部VLSから噴煙が上がり、対空ミサイル「シースパロ―」が敵機に飛翔する。
レーダーでは「Enemy 九九艦爆」と書かれた光点にシースパローが近づいていく。
「うっくっ・・・!?」
無慈悲にもシースパロ―は熟練妖精が乗る九九艦爆に一直線に飛んで行き、熟練妖精諸共、九九艦爆を爆散させた。
「うわぁぁ!な、何が起こっているの!?」
熟練妖精を追いかけていた、隊長妖精は煙の中を突き進み煙の外に出る。
そしてダメージの確認を即座に行った。
「どう、機体にダメージは?」
「大丈夫です隊長!銃座も身体もピンピンしています!」
「よし・・・ッ!!」
隊長妖精は安堵するも、目前に来たシースパローに驚き、何とか躱す。
しかし、シースパロ―が狙って居たのは隊長妖精の九九艦爆では無く、後ろの九九艦爆だった。
「振り切れぇぇ!!」
隊長妖精の願いは叶わなかった。
普段、訓練でいい成績を出してきた大鳳航空隊は、一機、二機、三機と次々あっけなく撃墜されていく。
中には躱して、逃げ切ろうとする者がいたが奮闘するだけ悪あがき。
最終的に機体と共に撃墜される運命にある。
シースパローは音速を越える戦闘機やミサイルを迎撃するために設計、開発、運用されている兵器。
たかがレシプロ機が回避することなど到底不可能であった。
あっという間に攻撃隊は撃墜されていき、数十秒後には空に無数の黒煙が出来上がっていた。
(何なのあの重巡洋艦は!?・・・このハリネズミめ・・・こいつに通常の攻撃は効かないわ・・・そうだ!これなら!)
隊長妖精にある考えが浮かぶ。
だが、それは危険が及ぶため、一人で行う博打に近い戦法だった。
だが今はそれしか方法がないため、後部座席の妖精に声をかける。
「ねぇ、今までの戦闘では何度もあなたに助けられたわね・・・。」
「はい!」
「脱出しないさい!」
「えっ、どうしてですか!」
「前を見なさい!」
後部座席の妖精が正面をよく見てみると、機体からオイルが漏れていた。
これでは油圧が低下し、大鳳まで戻ることは出来なさそうであった。
「オイル漏れよ、油圧が下がっている!」
「ッ!」
「残念だけど、大鳳さんの所までは戻れそうにない、今ならヤツの攻撃がやんでいる・・・脱出の時は尾翼に気を付けて!」
「隊長は・・・どうするんです!?まさか!?」
「心配しないで、まだ死ぬつもりはないわ、だけど、こいつは奥の手を隠し持っている、奴の情報を持ち帰ることが今後の戦闘を大きく変えるのよ!」
隊長妖精は心配する後部座席の妖精に自分に死ぬつもりはないことを伝えると、今回の戦闘の重要性を告げた。
それを聞いた後部座席の妖精は口を閉じ切ってしまった。
その時「みらい」では撃墜報告がなされていた。
「目標群ブラボー、14機撃墜確認、目標群エコー6機撃墜!目標群ブラボー、散開します、45度から3機、330度から2機、170度から3機接近!」
みらいからの報告を聞いた霧先は頭の中で考えを巡らせていた。
(戦闘開始から一分で彼らは部隊の半数を失った。一部パニックになってはいるが、統制は取れている・・・・やはり経験では勝てないか・・・。)
相手との練度の差に限界を感じていた霧先は次の一手をどうするかだけを考えていた。
だが、戦場ではそれが命とりとなる。
「トラックナンバー2667、急接近!」
(まずい!一瞬の隙を!)
「友成さん!航空機が右60度20より真っ直ぐ突っ込んでくるのです!」
霧先の一瞬の隙を狙い、隊長妖精の九九艦爆が「みらい」めがけて突っ込んできた。
軍人ではない霧先の隙が、敵に勝機をもたらしたのだ。
「隊長!先に行きます!」
「えぇ、後でね!」
「くっ!」
後部座席の妖精はコックピットから飛び出てパラシュートを使って脱出した。
そして隊長妖精は九九艦爆の速度を上げて「みらい」に向かった。
(シースパロ―はもう間に合わない・・・。)
シースパローが間に合わないことを悟った霧先は最終防衛火器であるCIWSを使うことを決定した。
「CIWS!AAWオート!」
霧先の指示が下ると、射程に入った九九艦爆にCIWSが銃口を向ける。
「距離1500・・・照準よし!これでも喰らっていなさい!」
同時に隊長妖精の九九艦爆からも、爆弾が投下された。
CIWSは、それを迎撃する為に発砲するが、的が小さく中々当たらない。
体に響くようなCIWSの発砲音が響き渡る艦内で、霧先は悟った。
『完璧な計画ではなかった・・・僕の経験不足と妖精の乗る艦載機への攻撃の躊躇。それがこの事態を生み出した。僕の肉体は・・・戦闘を理解していなかった!!』
ファランクスはやっと爆弾を迎撃したが、艦橋に近すぎた。
「わぁあぁ!!」
艦内にいた艦娘と妖精達は爆風による振動で転げまわり、霧先は羅針盤に手をつかんで振動に耐えた。
爆炎から脱したのを確認すると、霧先は被害状況を聞いた。
「みらい、艦内各部の損傷は!?」
「ッ!左舷SPYレーダー故障!」
問題はさらに起こった。
「敵機直上!急降下!」
「っ!」
上空にはまだ九九艦爆が残っていた。
その艦爆の搭乗員である隊長妖精は、機内で最後の調整をしていた。
「突入角度80度・・・経験のないこの角度で私は・・・まだ、正気よ!この化け物め・・・お前のうめきを聞かせてみなさい!」
隊長妖精は引き金を引き、機銃を「みらい」に浴びせる。
だが銃弾は、艦橋や暴風窓に被弾し、かすかに損傷を与えるだけだった。
「引き起こさないの!?」
空母である赤城は、この距離になっても機体を引き起こさないことに驚愕していた。
同時に霧先も相手の攻撃を悟り、回避行動を指示した。
「面舵いっぱーい!右停止、左一杯急げ!総員艦橋から撤退!」
「面舵いっぱーい!」
霧先の指示で、「みらい」は急速に面舵を取った。
隊長妖精の博打に近い攻撃手段、それは機体を「みらい」の艦橋にぶつけるという特攻に近い形だった。
「総員撤退!」
みらいの掛け声とともに全員が艦橋から出て行く。
だがその時更に問題が起こった。
「翔鶴姉?翔鶴姉は!?」
「まだ艦橋に!?翔鶴さん!」
瑞鶴が、姉である翔鶴を探すが姿が見当たらない。
艦橋に取り残されていると瞬時に考えた霧先は、艦橋に取り残された翔鶴を助けるべく、艦橋内へと引き返した。
「艦長!待って!」
みらいは艦橋に引き返す霧先を止めようとするが、加賀に腕を掴まれて止められた。
みらいは振り払おうとするが、加賀も離すまいと力を込めて引き留める。
「加賀さん、離してください!」
「駄目よ、この艦を操作しているのは貴方!貴方が死んだら誰がこの艦を操作するの!」
「でも、艦長が!」
みらいと加賀が言い争っている最中でも、九九艦爆は近づいていた。
「日本軍にこんなパイロットが!?」
霧先は艦橋左舷で動けなくっている翔鶴の元に駆け寄る。
一方、隊長妖精は「みらい」に衝突するように機体を保たせてから脱出していた。
再び霧先は戦闘を理解することになった。
『恐怖、怒り、感情に支配された時、人は戦いに敗れる、だが敵を倒さなければ、自らが倒される。』
「あ、あぁ・・・。」
「翔鶴さん!この鉄帽を!」
霧先は翔鶴に鉄帽を被せ顎紐をつけた。
CIWSは九九艦爆を迎撃しようとするが、それは出来なかった。
『単純で明白な事実を、僕は。』
「艦長!」
「翔鶴姉!」
みらいと瑞鶴の悲痛な声が響き渡る。
そして九九艦爆は二人の目前に迫ってきた。
『理解するのが遅すぎた!』
「クソ!」
霧先は翔鶴を庇うように抱き寄せる。
それと同時に、九九艦爆が艦橋左舷に衝突し、爆発炎上する。
「わあぁぁああ!!」
激突時の振動で艦内は揺さぶられ、艦娘やCICにいる妖精たちは転倒する。
「ぐわっ!あがっ!」
霧先と翔鶴も爆風で吹き飛ばされ、身体を艦橋内の機材に叩きつけられた。
揺れが収まり、床に倒れ込んだみらいは咳き込みながら立ち上がった。
「ううっ・・・ッ!ECM反応なし・・・艦内士官室火災発生・・・。」
みらいが艤装を使い、被害状況を確認しているとダメコン妖精が声をかけた。
「みらいさん、艦内のダメコンをするから、あなたの妖精を借りるわよ!」
「あっ、はい!お願いします!」
みらいの了承を得たダメコン妖精は自衛官妖精を引き連れて、艦橋を後にする。
煙が立ち込める中、艦橋へ消えた霧先のことを思い出した。
「そうだ・・・艦長!!」
みらいは慌てて艦橋に入り、後追うように瑞鶴も続いた。
艦橋内には煙が充満し、警報が鳴り響いていた。
みらいの脳裏には対ワスプ戦の時の光景が映し出されていた。
航海科の自衛官が死亡した戦闘、その光景が焼き付いて離れないみらいは呼吸が荒くなり、汗をかきながら必死に霧先を探す。
「翔鶴姉!」
「艦長!」
二人は何とか霧先と翔鶴を発見した。
翔鶴は無事だったが、霧先の方は機材に叩きつけられて意識が無かった。
「翔鶴姉、大丈夫?」
「大丈夫よ瑞鶴・・・でも友成くんが・・・・。」
「艦長!艦長!しっかりしてください!艦長!」
みらいが呼びかけるが、霧先は目を覚まさない。
そんな時、翔鶴は自分の手が濡れていることに気づく。
見てみると、それは赤く鉄臭い液体・・・霧先の「血」だった。
何処から出たのかはすぐ分かった、霧先は頭を大きく切り、そこからとめどなく血が流れていた。
自分がいたせいで、自分が腰抜けなせいで怪我をさせた。
そんな思いに潰されそうになった時、うめき声が聞こえた。
「うぐっ・・・ててて・・・・。」
「艦長?艦長!よ゛がっだぁよ゛ぉ。」
「ははっ、そんなに泣いたら折角の顔が台無しですよ・・・。」
霧先が起き上がったことに、喜びのあまりみらいは泣きながら霧先に抱き着いた。
霧先は苦笑いになりつつも、みらいを受け入れた。
「友成くん、大丈夫なの?」
「えぇ、翔鶴さんこそ大丈夫ですか?美人な人が怪我をしてしまってはいけませんからね。」
「美人!?・・・あっ、いえ、私の所為で友成くんが・・・・。」
霧先の言葉に、一瞬赤くなる翔鶴だが、すぐに霧先に謝った。
だが、霧先は翔鶴が思いもしなかった回答をする。
「いいですよ、これは僕が招いた結果です、翔鶴さんは悪くありません。」
「でも・・・。」
「大丈夫ですから、それに偶然とはいえ翔鶴さんのような綺麗な方にお近づきになれただけよかったですよ。」
「あ、あうううう・・・・。」
霧先の無自覚な口説き文句に、翔鶴は完全にノックアウトされ、真っ赤になっていた。
それにキレた瑞鶴は霧先に怒鳴った。
「ちょっと!なに翔鶴姉のことを口説いてるの!?」
「事実を言っただけなんですが・・・・。ともかく、被弾してしまったことは今更変えられない。被害状況は?」
「グズッ・・・艦内士官室で火災発生、ECM、左舷SPYレーダー故障です。」
鼻をすするみらいから損害状況を聞いた霧先は険しい表情になる。
ECMと左舷SPYレーダーがやられてしまっては「みらい」の対空能力は激減するのは目に見えていた。
「通信入ります・・・。」
みらいの声と共に艦内に放送が流れる。
『此方攻撃機5番機より大鳳へ!目標にダメージを与えるも撃沈に至らず!隊長機以下勢力の4分の3を損失・・・壊滅状態!第二次攻撃を要請します!』
「4分の3・・・!?」
無線通信を聞いた大鳳は驚愕していた。
相手は重巡で、島風に攻撃を仕掛けた敵だから、40機を発艦させた。
だが、いきなり電波障害ができ、その障害が消えたと思ったら航空機の4分の3を失ったとの報告が出た。
ダメージを与えれたなら撃沈できると思った大鳳は無線通信に応答した。
そして、その無線通信は、角松らが乗る「みらい」にも聞こえていた。
『大鳳より、任務中の攻撃隊へ、全機帰還せよ!繰り返す、現在第二次攻撃隊を準備中、こちら空母「大鳳」、第一次攻撃隊は帰還せよ!第二次攻撃隊は現在、発艦準備中。』
「諦めの悪い奴らだ!」
通信を聞いていた米倉は吐き捨てるように言う。
CICレーダーで一部始終を見ていた菊池は、静かに眼鏡を取り、言った。
「俺達は・・・諦められるのか・・・?」
米倉はゆっくりと振り返り菊池を見た。
菊池は眼鏡を拭いていた。
「戦場に置いて、諦観は美徳じゃない。」
菊池は眼鏡をかけ直し、ヘッドフォンを外した。
その隣で、艦橋から非常時の作戦指揮の為に来ていた梅津は、目をつぶって指で手を叩きながら何かを思案している。
菊池は梅津が此方を向くと同時に意見を述べた。
「艦長、トマホークでの・・・「大鳳」攻撃を具申します。」
菊池は現実と向き合うことにしたのだ。
この世界で自分たちが生き残るための現実と。
次回予告
赤城「大鳳への警告と攻撃・・・泥沼になりゆくこの戦闘を終わらせるため菊池少佐は大胆な決断をする・・・。
次回「第拾肆戦目「大鳳撃沈」」
次回に向けて、撃ちぃ方ぁ始めぇ~!」