高校生艦長と自衛艦の航海日誌   作:みたらし饅頭

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前回三分割にすると言ったな・・・・アレは嘘だ。
今回非常に長いので注意!


第参拾参戦目「悖らず、恥じず、憾まず! 下」

友成にゴチになった吹雪たち三水戦トリオは友成の助言通り加賀に赤城の居場所を聞いて入渠ドックにやって来た。

 

「ここ?」

 

吹雪は暖簾に顔を突っ込み中を覗く。

睦月と夕立も手で暖簾を押しのけて中を見る。

 

「いない・・・・。」

 

吹雪がそういって中の更衣室を見回した。

更衣室はかなり良い和風な内装となっており温泉施設といっても良い出来だった。

 

「加賀さんと工廠長がここだって言ってたけど・・・。」

 

情報通り来たものの赤城を発見できない三人はとりあえず更衣室に入った。

 

「吹雪ちゃんは、本当に赤城先輩が好きなんだね。」

「好きって言うか・・・憧れ?」

「憧れ?」

 

睦月の問いに吹雪が答えて夕立が聞き返した。

 

「うん!私もあんな風に・・・みらい先輩や赤城先輩みたいに皆を守れたら、素敵なのにな~って。」

「駆逐艦には無理っぱい~。」

「それは・・・分かっているけど・・・・。」

 

吹雪がそこまで言うと奥の浴場から水の音が聞こえた。

誰かが湯船から上がってくるようだ。

 

「赤城先輩かなぁ?」

 

吹雪は目を輝かせながら浴場と更衣室を隔てる引き戸を開けた。

 

「ふぇむっ!!」

「あらぁ!」

 

すると吹雪の顔は突然二つの大きな柔らかいものに挟み込まれた。

 

「ぷはっ!」

 

吹雪が挟まれていたのは高雄型重巡洋艦二番艦「愛宕」の胸だった。

 

「あ、あなたは・・・・。」

「こんにちは~。えっと確か~新しく入った駆逐艦の・・・・。」

「吹雪です・・・。」

「そうそう!吹雪ちゃん!どうしたの?ドックに来るなんて、もしかして被弾した?鼻のとこちょっと赤くなってる~。」

「うぇ、いや、これは・・・・。」

「早く入った方がいいわよ?今空いているから~。」

「うぇ?あ、いや・・・でも・・・・。」

 

愛宕のマシンガントークについていけない吹雪は困惑する。

その様子をサッサと逃げた睦月と夕立が暖簾の陰から眺めていた。

 

「は~い、バンザイして~?」

「バ、バンザイ?」

「バンザ~イ!」

「バンザーイ?」

 

揺れる愛宕と揺れない吹雪。

両者の差は明らかだがひとまず置いておこう。

吹雪をバンザイさせることに成功した愛宕は躊躇なく吹雪の服を掴み・・・。

 

「ふぇ?」

「吹雪、抜錨しま~す!」

「ふぁぁぁあああ!?」

 

脱がした。

意外にも吹雪は少しビキニに近い下着を着用している。

吹雪好きな提督がいたならば感謝感激雨あられな場面だろう。

 

「ちょ、ちょっと~!」

「さぁ脱いで脱いで!下もバンザ~イ!」

「バ、バンザーイ!」

 

「どうしよう・・・?」

「戻ってるしかないっぽい~・・・。」

 

睦月と夕立は協議の結果「触らぬ神に祟りなし」ということでサッサと撤収することにした。

そして睦月と夕立に置いてけぼりにされた吹雪は愛宕に身ぐるみを剥がされ浴場にタオルを身体に巻いて入った。

浴場もこれまた立派な作りで温泉施設のようだった。

 

「どうしよう・・・。」

 

吹雪は見回しながら浴場を進む。

そして大きな共同風呂を見つけた。

 

「ここに入れってことかな?」

 

吹雪はゆっくりと爪先を湯につける。

 

「はぁあ・・・あったかぁ~い。」

 

かなりいい温度なのか吹雪の顔は緩んだ。

そしてタオルを脱いでゆっくりと風呂に入り肩までつかる。

 

「(何か不思議な感じ・・・身体が包まれるっていうか・・・身体が軽くなるっていうか・・・何か気持ち良すぎて・・・・。)はぁぁぁ~~。」

 

心地よい温度が吹雪の全身を包み込み、安楽をもたらす。

艦艇時代では味わえなかった至高の安楽が。

「風呂は心の洗濯」と言われるがその通りだろう。

おかげで吹雪は緩み切った顔で輝いていた。

 

「気持ちよさそうですね。」

 

そんな吹雪に声を掛けたのは彼女が探していた本人、赤城だった。

何故か一人風呂でプチプチで遊んでいた。

吹雪はサッと振り返る。

 

「あ、あ、赤城先輩!ふぁぁ・・・。」

 

恥ずかしい場面を見られた吹雪は少し困惑した。

そこに赤城がプチプチをしながら尋ねてきた。

 

「ダメージを受けたのですか?」

「あ、いえ!実は全然入渠の予定なんかなくて・・・赤城先輩は?」

「昨日の戦いで敵の魚雷を受けてしまって・・・迂闊でした。」

「昨日・・・えぇ!?」

 

プチプチをしながらことの顛末を離す赤城が「昨日」と言って吹雪は赤城の後ろの反転フラップ式案内表示器方式の修復時間を見て驚く。

何とそこには15:30:15・・・つまり修復に15時間半もかかると表示されていた。

 

「こ、こんなに掛かるんですか!?」

 

吹雪が驚いているとブザー音が鳴り天井のレールから「修復」と書かれたバケツが搬入されてきた。

 

「何ですか?」

「高速修復材よ!友成君が許可してくれたのね。」

 

この鎮守府では高速修復材は原則提督の許可がないと使用は控えられていたが、工廠長という役職が出来上がった現在は工廠長である友成の許可があれば使用される。

但し入渠時間が5時間以上か後続が詰まっているなどという場合のみで使用数も限られている。

高速修復材は赤城の上に来ると止まり湯船に中身を投下した。

 

「わぁ!」

 

吹雪が驚くのも無理はない。

高速修復材が全部入ると少し淡い緑色に湯船が光り修復時間が一気に0になったのだ。

 

「ふぅ~~~・・・!ふぅ、上々ね。」

「はぁ・・・。」

 

吹雪はただ驚いていた。

 

 

 

そして赤城の入渠が完了したが昼時だったので吹雪と赤城は食堂に向かった。

で、机の上に載っているのは吹雪のカレー大と赤城の山もりカツカレーだ。

 

「それ・・・食べるんですか?」

「頂きます♪はむっ。ん~~♪」

 

山もりカレーを口に含み幸せそうな顔をする赤城。

吹雪もさっそくカレーを食べてみようとする。

すると満面の笑みでカレーを頬張る赤城が目に入る。

 

 

「ふ、ふふ。」

「ん?どうかしましたか?」

 

 

赤城は吹雪が何故笑っているのかを聞いた

 

「いえ、赤城先輩ってやっぱり素敵だなぁって思って。」

「え?どうしてです?」

「どうしてもです!頂きます!」

 

赤城はイマイチ吹雪の言うことが理解できず頭に「?」を浮かべ吹雪はカレーを食べ始める。

 

「赤城さん、よくそれだけ食べますよね・・・。」

 

ふいに一人、赤城に声を掛けてきた。

 

「あら、友成君・・・ってその恰好はどうしたんですか!?」

「へっ?工廠長?って!どうしたんですか!?」

 

声を掛けたのは友成・・・・なのだが彼は非常に汚れていた。

 

「いやぁ・・・実は・・・・。」

 

 

 

 

 

 

遡る事数十分前。

吹雪たちと別れた友成は工廠で講習を受けていた。

 

「ここがこういう構造でここがこうなっているの。」

「じゃあ明石さん、こうしたらいいんですか?」

「そうそう!理解が早いわねぇ~。」

 

友成は明石指導の元、艤装の修理を練習していた。

その横で夕張と主任妖精は複数の工廠妖精と何かを作っている。

 

「じゃあ次は飛行甲板の・・・。」

 

明石が次のステップに入ろうとした時、事件は起こった。

 

「うわあぁぁ!暴走したぁぁ!!」

「何事ですか夕張さん!」

 

突然の夕張の声に友成が振り向くと何かが空中を飛んでいた。

 

「あれは!ハープーン!?」

「あっ!壁にぶつかる!」

「総員退避!衝撃に備え!」

 

明石が壁にぶつかるというと同時に友成が退避指示を出す。

そしてハープーンは壁に大穴を開けた。

 

 

 

 

 

 

「・・・・というわけでして・・・。」

「あら?なら何故爆発音が聞こえなかったのかしら?」

「恐らく演習艦隊が砲撃訓練をしていたので・・・その砲撃音でかき消されたのでしょう。」

 

そういう友成は頭を掻きながら言った。

 

「まぁ、備品や装備には損害もないですし壁の修復もすぐに完了します。それに暴走したのは複製品のハープーンで研究用も現存しているので被害や損害はあまりないですよ。」

「そうですか・・・くれぐれも気を付けてくださいね?」

「分かってます、赤城さん。それと吹雪。」

 

赤城と話し終わった友成は吹雪に話しかける。

 

「な、何でしょうか工廠長?」

「いや、椅子から立たなくてもいいよ・・・みらいを探していたようだから一応場所を教えておこうと思ってね。彼女なら訓練場に後2時間はいるそうだから。」

「あ、ありがとうございます!」

「いや、いいよ。じゃあ、僕はさっさと身体を綺麗にしてくるよ。こんな体で食堂にいるとまずいから・・・。」

 

吹雪と話し終えた友成は二人に一言いって食堂を出ていった。

 

「・・・・・友成君も『此方側』になってきましたね。」

「『此方側』?」

 

赤城の言葉を吹雪は疑問に思い、聞く。

 

「いえ、何でもありません、冷めないうちに食べましょう?」

 

赤城はそう言った後、カレーを再び食べ始めた。

 

 

 

 

 

 

「ここにみらい先輩が・・・。」

 

吹雪は食事を終えた後、赤城と別れてみらいに会うために訓練場に来ていた。

 

「あっ!みらい先輩・・・・。」

 

吹雪が訓練場を見るとみらいが目を閉じて海面に艤装を付けた状態でいた。

吹雪は少し様子を見ることにして離れたところから見る。

そしてみらいは深呼吸をして目を開けた。

 

「教練対空、対水上戦闘用意!元機起動異常無し!SPYレーダー及び対水上レーダー、所属不明艦載機15機と艦影4隻補足!方位本艦右舷120度、距離30000、所属不明航空機、急速接近!最大戦速、面舵一杯、急速回頭!」

 

みらいは訓練を開始してからほんの30秒で機関を作動させ最大まで加速し対空戦闘の体勢をとる。

その様子の吹雪は驚愕していた。

 

「(す、凄い!たった30秒でもうあんなに加速して対空戦闘を・・・。)」

 

それだけでは終わらずみらいは訓練を続行した。

 

「スキャン結果、深海棲艦の艦載機と判明!対空戦闘用意!敵艦載機15機、127㎜主砲への諸元入力完了!敵艦載機主砲射程内!右対空戦闘、CIC指示の目標!127㎜主砲、撃ちぃ方ぁ始めぇ!」

 

みらいは言葉通り艤装の主砲を回転させる。

そして空砲が127㎜単装速射砲から放たれる。

 

ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン ドン

 

「敵艦載機10機撃墜!残り5機進路変わらず本艦に接近!距離20000!前甲板VLS一番から五番、スタンダード対空ミサイルへの諸元入力完了!スタンダード発射!Salvo!」

 

みらいの言葉と同時に艤装のMk41VLS 5基が勢いよく開く。

しかし中にスタンダードは搭載されておらず空洞となっている。

これは訓練中に誤射をすることが無いようにみらい自身が抜いたのだ。

 

「スタンダード目標に向け飛翔中!目標到達まで約5秒!4、3、2、1、命中!探知圏内の敵航空機無し!深海棲艦隊に対し対水上戦闘用意!ハープーン発射管、一番から四番への諸元入力完了!ハープーン対艦ミサイル発射準備完了!右対水上戦闘、ハープーン発射!」

 

これも事前にパープーンに諸元を入力しないようにしているので発射はされない。

ミサイルの補給が確立されていない今では訓練で撃てるのは主砲だけなのだ。

 

「ハープーン着弾まで10秒・・・・・・5秒4、3、2、1、命中!敵艦の反応消失!探知圏内の対空、対水上目標無し。対空、対水上戦闘用具収め!」

 

あっという間にみらいの訓練は終了した。

吹雪はあっけにとられていた。

 

「(えぇ!?あれだけで終わり?!す、凄い!)」

「!?誰かいるのですか!」

「わぁあ!」

 

吹雪に気付いたみらいが怒鳴ると吹雪が物陰からこけて出てきた。

 

「吹雪ちゃん?どうしたのこんなところで?」

「み、みらい先輩・・・・すみませんでした!コッソリ覗いて!」

 

頭を下げる吹雪にみらいは少々テンパって対応した。

 

「べ、別に起こっているわけじゃないのよ?ただどうして隠れるように見ていたのかなぁ~って思って・・・。」

「それは・・・実はみらい先輩をお手本に訓練をしようとして声を掛けようと思ったら訓練中で・・・。」

 

みらいは吹雪から事情を聴いて手を顎に当てて少し考えた。

 

「う~ん・・・そうだったの・・・でも私は平成12年・・・・2000年生まれだから1940年代の艦艇だった吹雪ちゃんとは使用目的や目標が違うし、構造や技術も60年の差があるわ。だから本当に申し訳ないと思うけど私じゃ、お手本になれないわ・・・。」

「そ、そうですか・・・・済みませんでした。」

 

そういって再び頭を下げる吹雪にみらいは一言言った。

 

「でも立派な艦になるには経験値は相当いるはず。私が持っている知識が役に立つかもしれないからあなたの訓練を見てあげましょうか?」

「えっ?良いんですか!?」

「これでも『太平洋戦争の生き字引』と呼ばれた船員が乗艦していたし、私の艤装のデータにはびっしり戦時の記録があるから大丈夫!」

「あ、ありがとうございます!」

 

自信満々の顔でサムズアップをするみらいに吹雪は心底感謝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜、寮に戻った吹雪は寝間着姿で同じ寝間着姿の夕立と睦月に今日の出来事を話した。

 

「えぇ!?じゃあ赤城さんとご飯食べてきた上にみらいさん直々に訓練を見てもらったぽい?」

「うん!」

「噂だけど、みらいさんの訓練ってとても厳しいらしいとか。」

「あっ!私も聞いたことあるっぽい!どうなの?」

 

二人は噂の真偽を確かめるべく吹雪に聞いた。

しかし吹雪は。

 

「ふふっ、それは、秘密。」

「えぇ~・・・。」

 

秘密といって教えなかった。

夕立は少し残念そうにする。

 

「明日から頑張ろうっと。赤城先輩もみらい先輩も同じ艦娘なんだもん。私にもきっと出来ることがあるよ!じゃあおやすみ~。」

 

背伸びをしながら吹雪は立ち上がってベットに向かった。

 

「どういうこと?」

「さぁ・・・?」

 

夕立と睦月が首を傾げていると突然部屋の扉が勢いよく開け放たれた。

 

「「わぁ!」」

「特型駆逐艦!」

 

扉を乱暴に開けたのはオレンジ色の服に身を包んだ夜戦馬鹿こと川内だった。

川内は寝ようとしていた吹雪のところに近づく。

 

「ふぇ?」

「特訓だよ!ニヒッ!」

 

 

 

消灯時間前に吹雪は川内によって外へ連れ出された。

 

「特型駆逐艦は重装備だから・・・お世辞にもバランスがいいとは言えない。普通の艦娘より優れたバランス感覚と足腰が無いとダメなんだ。やってみて?」

 

吹雪の眼の前には野球ボールが2つ置かれていた。

恐らく「これに乗って足腰とバランス感覚を鍛えろ」ということなのだろう。

 

「え?でも・・・今夜中ですけど・・・。」

 

吹雪の言う通り現在は2215、午後10時15分だ。

消灯の指示があったばかりで少しはついているが、寮の電気も殆ど消えているし、

月が夜の一帯を照らしているという状況だ。

普通は寝るはずの時間帯・・・だが相手が悪かった。

 

「それが?」

「はぁ・・・。」

 

どうやらこの夜戦馬鹿は常識の「いま」が「何をする時間か」を理解できないようだ。

こういうタイプは言っても無駄だと悟った吹雪はボールに乗る。

 

「よっと・・・。」

「おぉ!いい感じ。バランスは足と腰で取るようにして。」

「は、はい!」

 

中々いい感じに取れていた吹雪だがちょっと重心がずれると・・・。

 

「うわあぁぁ!!」

 

思いっきり後ろにこける。

柔道の受け身を心得ていない者はかなり痛い目にあうだろう。

 

「いったぁ~・・・うぅ~・・・。」

 

そんな様子を睦月と夕立は寮の部屋から見ていた。

 

「まだ・・・掛かりそうだね。先、寝てよっか?」

「ぽい。」

 

二人は先に寝ることにしたようでベットに入る。

で、吹雪はというと。

 

「うわぁ゛ぁ゛!ったた・・・・・ぁぁ・・・・はぁ。」

 

結局お日様が「気合い!入れて!こんにちはー!!」するまで特訓をしていた。

 

「しっかし、うまくならないねぇ・・・。こんなに練習しているのに・・・。」

「すみません・・・。」

「でも、感心したよ。見事な水雷魂だ!」

「水雷魂?」

 

聞きなれない単語を耳にした吹雪は聞き返した。

川内は説明を始める。

 

「水雷戦隊に必要な心意気みたいなもんだよ。悖らず、恥じず、憾まず!ひひっ。」

「悖らず・・・恥じず・・・憾まず・・・・。」

「水雷魂を忘れず、明日からも頑張ろう!」

「は、はい!」

 

こうして吹雪の特訓は終わった。

吹雪は寮の部屋に戻り、少し寝ることにした。

 

「ふぁぁ・・・疲れたぁ・・・早く寝なきゃ。」

 

そういってベッドに入ろうとした時、部屋の扉が開かれる。

 

「あの・・・。」

「あっ、神通さん。おはようございます。」

 

開けたのは神通だった。

 

「丁度良かった。今起きたところね?」

「え?い、いえ・・・。」

「少し・・・練習してみない?」

 

哀れ、吹雪は休息をとることはできなくなった。

そして神通に連れ出されたのは訓練場。

海面に水上標的の的が浮かんでいる。

そこに吹雪は艤装を付けて立っていた。

神通は浮桟橋で見ている。

 

「特型駆逐艦は重装備だから砲撃もほかの艦娘よりバランス良く行わないといけないの。やってみて?」

「はぁ・・・。」

 

吹雪は言われた通り砲を構えて撃つ。

 

ドォオオン

 

砲弾は真っすぐ飛ぶかと思われたが的とは逆の方向に着弾した。

 

「基本は夾差よ。それが出来れば必ず当たる。」

「はい・・・。」

「とりあえず、今日は一度当たるまで頑張ってみましょうか。」

「えぇ!?」

 

笑顔でアドバイスする神通だったがかなりハードな内容を突き付けた。

例えるなら、野球部に入って来たばかりの新部員に「野球部のエースピッチャーの剛速球に当たるまでバットを振れ」と言っているようなものだ。

だが吹雪の目標を考えると仕方ないのかもしれない。

 

 

 

鐘の音がチーンと3回鳴る。

そんな中吹雪は教室で居眠りをしていた。

 

「それでこうなっちゃった訳ねぇ~・・・。」

 

睦月と夕立が事情を説明して第六駆逐隊と共に吹雪を取り囲んでいる。

雷は理由を聞いて納得したようだ。

 

「無理ないよ。昨日から一睡もしていないんだもん。」

「レディのする顔じゃないわね。」

「可愛そうなのですぅ。」

 

思い思いの事をそれぞれが言っていると声が響いてきた。

 

「吹雪ちゃぁ~ん?」

 

教室に入ってきたのは那珂だった。

ここまで来ればもうお約束。

 

「あっ!居たぁ!」

 

那珂は寝ている吹雪に駆け寄る。

 

「吹雪ちゃん、起きてぇ~起きてよぉ~!」

「ふぇ?」

 

那珂に連れ出された場所は鎮守府の運動場だ。

そこの朝礼台に吹雪は欠伸をしつつ立たされていた。

 

「みんな~!艦隊のアイドル、那珂ちゃんで~す!今日は新しい子が入ったから紹介するねえ~!特型駆逐艦の吹雪ちゃんで~す!」

 

そういうと那珂は吹雪の口元にマイクを近づける。

 

「え?あっ、吹雪です・・・。」

「そんなんじゃダメだよ~!アイドルはスマイル!ニコッ!」

「ニコッ?」

「アイドルはパワー!アイドルはキュート!」

「吹雪、です!」

 

またしても吹雪好きな提督諸君が喜びそうな場面である。

可愛いポーズを取って自己紹介とはどういう気分なのだろう。

 

「そう!できるじゃ~ん!」

「でも恥ずかしいです!」

「え?なんで?」

「というか!これがどうして特訓になるんですかぁ!!」

 

恐らく那珂を除く全員が思っているであろうことを吹雪は言い放つ。

こんな羞恥プレイがどう戦闘の特訓に役立つと言うのか・・・。

 

「だって、艦娘にとって一番大切なのは、いかにアイドルになれるのかだよ?並みいる無数の艦娘の中でいかに目立つ!いかに羽ばたく!いかにセンターを奪うか!

それが旗艦の、そして秘書艦になるために一番必要なことなんだよ?」

「そうなんですか・・・・?」

 

違う・・・違ぁぁぁぁう!と叫びたくなるような知識を語る那珂に吹雪は疑わしげだ。

 

「そうなんだよ!だから、吹雪ちゃんも頑張って歌って!」

「歌・・・?」

「そう!皆~聞いてねぇ~!初恋水雷戦隊!」

「えっ?えぇ!?」

 

突然、歌を歌う事になった吹雪はテンパる。

しかし那珂がポーズを取ったので吹雪もポーズを取る。

そして歌い始めようとした時・・・・。

 

「おっ!北上さ~ん!」

「うぇえ?えぇ!?」

 

那珂はマイクをほっぽり投げてそれを吹雪がキャッチする。

那珂は球磨型重雷装巡洋艦三番艦「北上」に駆け寄った。

近くには不機嫌そうな球磨型重雷装巡洋艦四番艦「大井」もいた。

 

「探してたんだ~ねぇねぇ!吹雪ちゃんに魚雷の撃ち方を教えて?」

「魚雷?」

「見ればわかるでしょ?今、忙しいのよ!あっち行きなさい、しっしっ。」

 

大井は不機嫌そうに言った。

 

「えぇ?いいでしょ?ちょっとだけ。」

「なっ!あなた!何してけつかる!んです!」

 

北上の手を握った那珂に対して大井は怒鳴る。

因みに~してけつかるとは近畿圏の方言で「~してやがる」と言う意味だ。

恐らく神戸生まれだから地の方言が出たのだろう。

 

「けつ・・・かる?」

 

決して尻を狩る訳ではない。

 

「何でもないです・・・。い、行きましょう北上さん。」

「あぁー痛いよ大井っちー。」

 

大井は北上を引き連れてその場を去った。

 

「もう!訳わかんない!」

「それは・・・・私のセリフです。」

 

誰もが吹雪と同じ事を思うだろう。

 

 

 

吹雪は夜、寮の部屋でちゃぶ台にうなだれていた。

 

「お疲れさま。」

 

睦月が吹雪にお茶を出す。

 

「三人で寄って集って特訓なんて、いじめっぽ~い。」

「そんなことないよ・・・みんな私のためなんだし・・・。」

 

そんなことを話していると部屋の扉が強く開かれた。

 

「特型駆逐艦!いる!?」

「川内さん・・・・?」

 

またしても川内だ。

やめて!吹雪のライフはもうゼロなんだ!

 

「さぁ!今日も特訓だよ!ん?」

 

川内の眼の前には睦月が立っていた。

顔は完全に怒っている。

 

「お話があります!」

 

 

 

川内達の部屋に川内、神通、那珂、睦月そして友成がいた。

 

「えぇ?じゃあ姉さんと那珂ちゃんも、吹雪ちゃんに特訓を?」

「だって神通が心配そうにしていたからさ・・・。」

「姉さんでしょ?心配していたのは・・・。」

「那珂ちゃんは心配してないよー?」

「那珂ちゃん(姉さん)には聞いていません(ないよ)。」

 

神通と友成のツッコミが決まった。

続けて友成は言葉を発した。

 

「睦月が巡回中に声を掛けてきたから何事かと思ったけどまさか不眠不休で特訓とは・・・。」

 

友成は頭を押さえて言った。

彼は「みらい」識別帽に藍色のTシャツに薄手の濃緑ジャージで腰のベルトに9㎜拳銃とライト、手錠が装備されている。

なぜ彼が巡回中なのかというと業務が増えたのだ。

今までの仕事に加えて鎮守府内の巡回と艦隊内の揉め事の仲介も増えた。

後にそれに特化した海自で言う「陸警隊」や「警務隊」に近い部隊を編成するまでの間とはいえ初の仕事がこの様では友成も幸先が悪い。

 

「軽巡の先輩方なので黙っていましたが、もう我慢できません!このままじゃ吹雪ちゃんが轟沈しちゃいます!」

「姉さん達。確かに赤城さんやみらいの護衛艦になるには並みの訓練では物足りない。だからと言っていきなり10をやれというと吹雪の身体が持たないよ。」

「でも・・・。」

「でももヘチマもない(です)!」

 

睦月と友成の怒鳴り声に川内はたじろぐ。

 

「ですが・・・。」

 

神通は友成と睦月に訳を説明した。

 

「長門さんがそんなことを?」

「それじゃあ結果的にあぁなるのも・・・。」

 

友成は納得したように言った。

 

「うん、近々出撃があるから、それまでに出撃可能か見極めたいと・・・。」

「もし無理そうだったら吹雪ちゃんを艦隊から外すように提督に進言すると・・・。」

「同じ艦隊に入ったんだから、メンバーは欠けることなく最後まで一緒にいたいもん!」

「でも・・・姉妹でちゃんと話し合ってからにすべきでした。いくら吹雪ちゃんを思ってのこととはいえ・・・。」

 

神通は深く反省したように言った。

吹雪のためにとやったことが裏目に出たのだから仕方ない。

丁度その時、扉がノックされた。

 

「夕立ちゃん?どうしたの?」

 

入ってきたのは夕立だ。

何か言いに来たのだろう。

 

「吹雪ちゃんが・・・。」

「夕立、吹雪がどうしたって?」

 

友成が聞くと夕立は話し出した。

 

 

 

「よっはっ・・・よっはっ・・・よっはっ・・・・。」

 

体操着姿の吹雪は外でスクワットをしていた。

全員は寮の入口でその様子を見ていた。

 

「吹雪ちゃん・・・。」

「本当に、根性だけはあるんだよなぁ・・・・。」

 

睦月は心配し、川内は吹雪の根性に感心していた。

 

「どうするっぽい?」

「吹雪のやっていることだ。なら僕たちにできるのは一つだ。」

「第三水雷戦隊の旗艦として艦隊にいてほしいです。あのような心がきちんとしている子には。」

「那珂ちゃんも賛成。」

「睦月ちゃんは?」

「そんなの決まってるでしょ?」

 

全員が吹雪に近寄った。

 

「みんな・・・・。」

「吹雪ちゃん、皆で協力します。頑張りましょう!」

「絶対できるようになるって!」

「アイドルに一番大切なのは、根性だよ!」

「夕立も手伝うっぽい!」

「次の戦いも、この6隻で出撃しよ!」

「上官としても個人としても手伝う。君が頑張れる環境を出来るだけ作ろう。」

 

神通、川内、那珂、夕立、睦月、友成は順に言った。

 

「皆ぁ・・・うん。」

 

全員が手を重ねた。

 

「睦月ちゃん。」

「はい。えっと、じゃあ皆!頑張っていきましょー!」

『『おー!』』

 

そしてその日から第三水雷戦隊全員と友成による特訓が始まった。

早朝からは川内による基礎体力作り。

神通とは砲撃訓練。

吹雪自身も早朝ランニングやバランス維持訓練を自主的に行った。

北上もそんな吹雪の様子を眺めていた。

そして那珂が更に頼み込んで何とか北上による酸素魚雷講座が吹雪のために行われた。

一緒にいた大井は終始不機嫌そうだったが。

吹雪自身もキラキラしながら講義を聞いていた。

一方友成も仕事や講義の合間に吹雪の艤装が滑らかに作動するように艤装を丹念に調整していた。

 

その甲斐があってか1週間後にはかなり上達していた。

ただ気を抜くとすぐにこけるのは変わらないが。

 

 

 

 

 

 

その頃、執務室では提督と秘書艦の長門が話していた。

 

「確か今日も吹雪は訓練か。」

「はい、確か本日演習が行われているはずです。」

「そろそろ決め時だな。頼むぞ長門。」

「分かりました、その場で最終判断をし、彼女たちに伝えます。」

 

そして長門は訓練場を尋ねた。

そこには川内型三姉妹と講習の合間に来た友成がいた

 

「どうだ?」

「長門さん!」

 

神通が長門の名を言った後に利根の声が響いた。

 

「では次!吹雪!」

「はい!」

 

返事をした吹雪は所々怪我をした後があった。

筑摩が心配そうに見ているが、それを見た利根は察したようだ。

 

「その傷・・・。」

「随分特訓してきた様じゃの!期待しておるぞ!」

「はい!お願いします!」

 

そういって構える吹雪は初日とは全く違っていた。

 

「吹雪、行きます!」

 

水上の的が全部起き上がると同時に吹雪は動き出した。

海上に出ている棒を次々躱している吹雪は立派に見えた。

 

「(出来る!信じなきゃ!)」

 

そう思って進んでいる吹雪だが。

 

「わぁ!きゃっ!」

 

体勢を崩して倒れた。

 

「身のこなしも砲撃も、まだまだ実践レベルとは言えません。」

「ふむ。」

「ですが・・・。」

「ん?」

 

川内が言い換えようとすると長門は耳を傾けた。

 

「ですが彼女には、それを補った水雷魂があります。直すべき所を教え、進むべき道を示し、経験を重ねていけば、彼女は飛躍的に成長するでしょう。」

「上官や先輩ならば、その道と教えるところを指摘して行くべきです。」

 

神通と友成は自分の見解を長門に言った。

吹雪は砲を構えて狙いをつけて砲撃。

初弾は夾差だった。

そして吹雪は砲を構え直して撃つ。

すると次は一発が命中した。

 

「悖らず。」

「恥じず!」

「憾まず。その心がある限り。」

「ふっ、水雷魂か。」

 

吹雪の訓練は無事終了した。

当の本人は肩で息をしていた。

 

「はぁ・・はぁ・・・・はぁ・・・。」

「吹雪ちゃん!」

「良し!良く立て直した!そこは認めてやろう!もう一度じゃ!」

「はい!」

 

利根に激励された吹雪は元気な声で返事をした。

 

「良いだろう。第三水雷戦隊、旗艦神通。」

「はい。」

「6杯の編成で、このまま出撃準備に入れ!今度の作戦は・・・・・お前達に掛かっている!」

 

長門の判断は「吹雪は出撃可能」だったようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、執務室では提督が電話をしていた。

 

「大佐、これはどういうことだ?」

『閣下、申し訳ございません。こちらの手違いだったようで・・・。』

 

話し相手は吹雪の元指揮官の提督のようだ。

 

「何が手違いだ!此方にも不備はあったが危うく沈めるところだった!霧先少佐が駆け付けたからいいものを!」

『このところ書類作業が多いものでして・・・間違えて演習経験ありと記載してしまったのです・・・・・彼には礼を言っておきたいのですが・・・・。』

「・・・・・私から言っておく・・・・次何かあったらただじゃ済まさないからな?」

『心得ました。それでは失礼いたします。』

 

そして電話は切られて提督は受話器を置いた。

 

「・・・・・すまん霧先、吹雪。俺の失態でお前たちに苦労を掛ける・・・・。」

 

そういって提督が目をやったのは机の上に置かれた紐で括られファイリングされてた書類の束だった。

その表紙には「AL作戦/MI作戦」と書かれていて「最重要」の印が押されていた。




11377文字まで書いちまったぜ・・・・(灰化)

次回「W島攻略作戦!」

運命は変える意思があるものが変えていく。
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