W島攻略作戦が成功して友成達が行方不明になってから3日が経った。
鎮守府にはいつも通り朝が来ていた。
吹雪は少々うなされながら起床し、一欠伸。
すると三段ベットの上からカーテンを開ける音が聞こえた。
「睦月ちゃん?」
吹雪が見上げるが顔を出していたのは夕立だった。
夕立は黙って首を横に振る。
「そっか・・・睦月ちゃん、今日も・・・。」
夕立と吹雪は窓の外を眺めた。
外からは太陽が朝だということを知らしめるように辺りを照らし始めていた。
その照らされている中で睦月は一人、埠頭で未だ帰らぬ妹と上官達を待ち続けていた。
遡ること3日前の鎮守府の運動場では海自関係者と先代神通、ゆきなみ、蒼龍、翔鶴、赤城、天城、加賀、土佐、扶桑型の伊勢、日向、綾波、工廠関係妖精、明石、夕張、第三水雷戦隊が呼び出されていた。
海自関係者の一部と真相を知るもの以外は何があったのかと騒いでいる。
そこに提督と梅津一佐が現れ静まる。
「・・・総員敬礼!」
角松の声と共に全員が敬礼をする。
そして、提督が話し始めた。
「先日行われた作戦で、我々は無事、勝利できた。・・・・・・だが掛け替えの無いものも同時に失ってしまったかもしれない。」
提督の言葉に真相を知るもの以外の全員が驚いた。
「先日の作戦で・・・霧先三佐とみらい、如月と妖精たちを含めた『みらい』乗組員は未だ、帰還していない。」
「嘘・・・・。」
提督の声に誰かが言葉を漏らした。
ここで初めて聞かされた者は顔をどんどん青ざめさせる。
「半日しても戻って来なかった以上、霧先三佐以下総員は・・・・・・・戦死したものと判断する。尚、捜索は霧先三佐の意向で打ち切られる。これ以上、無駄な犠牲は出せない。」
提督が言うと先代神通が倒れる。
それを川内が支えた。
「ねぇ・・・・姉さん。冗談でしょ?友成が戦死だなんて・・・。」
先代神通は悲しみに満ちた顔で姉の川内に詰め寄った。
姉である川内は声を振り絞って言った。
「ごめん・・・神通・・・・本当にごめん・・・・・・・!」
「嘘・・・・嘘・・・・・。」
川内は泣きながら神通を抱きしめた。
「私だって助けたかった・・・・!自分の甥を見捨てたくなかった・・・・!でも、友成は・・・・・自分のせいで他の人を巻き込むのは嫌だって・・・!」
「なんで?どうして?・・・・・良二さんの事は受け入れられた・・・・・けど・・・・どうして友成までぇぇぇぇ・・・・。」
必死に涙ぐんで妹を抱きしめる川内と大声で泣く先代神通。
彼女の悲痛な叫び声は鎮守府内に木霊した。
彼女だけではない。
友成と親しかった艦娘も大声をあげて泣いた。
「本当に・・・・申し訳ない・・・。」
提督は深く制帽を被りそういった。
これが三日前の事である。
この速報は青葉が出している「青葉新聞」なる鎮守府内新聞で伝えられ全員が知ることとなる。
そして事実を知った艦娘達の中で重傷だったのは深雪、綾波、土佐、扶桑型の伊勢、先代神通だった。
この全員が何かしら大きいショックを受けてしまったのだ。
「ねぇ、深雪ちゃん?少しでも食べないと。」
「・・・・・・・いらない、白雪姉。」
「じゃあ何が欲しいの?」
「・・・・・・・工廠長。」
どうやら友成に惚れていた部分が抉られたせいか食事はほとんど食べず、特型駆逐艦の部屋で籠りっぱなしだった。
「綾波姉、少しは外に出なよ。」
「ほっといて敷波・・・。」
「あんな奴のどこがいいんだか。」
曙がそう言った瞬間、綾波は鬼の形相で曙に掴みかかった。
「訂正しなさい曙!今すぐ!」
「いやよ!大体あんな奴なんて!」
「もういいです、殴ってでも訂正させてやる!!!」
「落ち着きなって綾波姉!」
「そうですよ!漣も流血沙汰はマジ勘弁ですよ!」
曙が友成を諭したことが綾波の逆鱗に触れ、普段の彼女らしからぬ言葉を言った後殴りかかろうとした為、一緒にいた姉妹が止める。
途中、角松、尾栗、菊池が様子を見に来て止めるまで揉め事は続いた。
「土佐?」
「・・・・・・。」
一方土佐も重傷だった。
友成が戦死したとされたという事が伝えられた後、部屋に戻った彼女は真っ先に倒れ二日間意識不明だった。
「ふふっ、工廠長、カッコいいです・・・。」
「土佐・・・・。」
土佐は誰もいない壁に向かって話しかけていた。
恐らく彼女の精神防御行動なのだろう。
そこにいない友成を作り出すことで脳が精神の崩壊を防いでいるのだ。
「・・・・・友成、早く戻ってきなさい。神通さんの息子であるあなたが簡単に死ぬわけないでしょう・・・。」
加賀はただ、友成の帰りを待つことしかできなかった。
「神通・・・・・。」
川内は自分の妹である先代神通を見つめていた。
彼女は自分と友成の並んでとった写真を見つめていた。
その彼女の目には明らかに光が宿っていなかった。
「友成・・・・・。」
愛した夫にも先立たれ最愛の息子までも自分の元からいなくなってしまったことが相当応えたのか息子の名を譫言の様に呟きながら写真に映っている友成を指で撫でていた。
「伊勢?」
「扶桑姉さん・・・。」
「またその写真を見ていたの?」
伊勢が手に持っている写真立てに入っているのは伊勢と友成が写っている写真だ。
偶然近くを通っていた友成が写り込んでいて青葉から二枚買い取ったのだ。
一枚は飾るために、もう一枚はお守りとして何時も懐に入れている。
「うん・・・・これを見ていると、友成君が近くにいる気がして・・・・。」
「前向きね。」
「友成君が死ぬわけないもん。」
「前向き思考な妹をもって嬉しいわ、さぁ今日の演習は伊勢と日向よ。」
「ほいほーい。やっぱり同じ名前は慣れないなぁ・・・。」
そう言って部屋を出ていく伊勢はかなり軽傷に部類されるだろう。
当初はかなり落ち込んでいたが今ではかなり回復している。
伊勢だけではない。
蒼龍、翔鶴、天城、日向もショックを受けていたが今は回復して友成の生存を願っている。
これが現在の横須賀鎮守府の現状だ。
三日たった今は生存の見込みがないがそれでもほとんどが友成の生存を願っていた。
一方、提督は作戦指揮室で地図を広げていた。
前回の反省点を踏まえて次の作戦を練っている。
そこに長門が書類を持ってやって来た。
「夕張からの最終報告書です。隊から行方不明者を出したのを相当悔やんでいるようです。」
長門が提出した報告書は水滴が乾いた跡がいくつもあった。
恐らく夕張は泣きながら報告書を書いてたのだろう。
「W島海域解放と引き換えに特殊兵装艦一隻と海軍軍人一名、艦娘二名に
妖精多数・・・今後の事を考えれば少ない犠牲だ・・・。」
「提督、失礼ですが嘘をつくときは決まって蟀谷を掻きますよ?」
長門の言葉に提督は少し黙る。
「今度は南西海域だ。友成の前例がある以上、海上自衛隊に無理に協力を要請することはできない。それにこの作戦を・・・・止めることはできん。止めれば世界は終わりだ。」
一方教室では座学の時間の終了を告げる鐘が鳴っていた。
「ふぁぁぁぁぁ・・・・やっと授業終わったぽい~。」
授業に疲れた夕立は机に突っ伏した。
「みっともないわね!そんなんじゃ一人前のレディなんて程遠いわよ?」
「いや、これはかなり気持ちいいな。」
「響まで真似してるんじゃないわよ!」
暁は夕立を咎めるが妹の響も同じように突っ伏す始末。
「ん?ねえ電、そういえば今日の授業って何やったっけ?」
「んもう!雷お姉ちゃんはたるんでいるのです!今日は・・・何をしましたっけ?」
雷に至っては授業が頭に入っていないようで電に聞く。
電は雷にたるんでいると注意するが当の本人も思い出せなかった。
やはり仲間と上官の戦死が確定したことに慣れていないようだ。
「あれ?何かみんな元気ないね?」
全員が一気に唯一元気な睦月を見る。
「そうだ!皆で間宮さんの所にでも行かない?甘いあんみつでも食べたら、きっと元気出るよ!」
全員は隣に彼女の妹がいないのに元気に話す姿を不安そうに見た。
「む、睦月ちゃん!」
「なぁに?吹雪ちゃん。」
「あっ・・・・その・・・・・・・。」
普通に聞き返す睦月を見て吹雪は口ごもってしまった。
「私の言った通りでしょ?」
「あぁ、士気がかなり落ちている。あれでは誰も、授業など頭に入ってないだろうな。それに中には精神的に参っている艦娘もいる・・・。」
足柄と那智は話し合いながら廊下を進む。
先日の作戦以降、友成達は戦死と断定され、それで士気が下がっていることを話っている。
そこに一人の艦娘が走って来た。
「那智姉さん!足柄姉さん!」
「あら羽黒。何か用?」
走って来たのは足柄たちの妹、妙高型重巡洋艦 四番艦「羽黒」だった。
「あの・・・駆逐艦の子達の様子は・・・。」
「足柄とも話したが、こればかりは時間か奇跡が解決してくれるのを待つしかないな。」
「そう・・・ですか・・・・それだけに、心苦しいです。」
羽黒は改めて姿勢を正して言う。
「吹雪ちゃんと島風ちゃんを秘書艦の長門さんがお呼びです。特別任務だと・・・!」
その後、吹雪は執務室に呼び出されていた。
物凄い汗をかいた彼女は緊張のせいか少し震えている。
「おう!おう!」
隣でオットセイみたいな声をあげるのは駆逐艦「島風」。
今回の作戦で吹雪と共に作戦行動を行う仲間だ。
「う、うぅぅぅぅぅ・・・・。」
未だ緊張で震える吹雪に陸奥が話しかける。
「大丈夫よ。」
「ふぇえ!」
「どうせすぐにそんなに緊張しているのが馬鹿馬鹿しくなってくるから。」
「うえ?」
陸奥の言葉に吹雪は頭に「?」を浮かべる。
「はぁ・・・。」
秘書艦である長門は頭を抱える。
「ねぇねぇ!それより任務って?」
「少し待て、全員そろって提督が戻って来られてから説明する。」
「全員?」
「えぇ、今回二人は金剛を旗艦とする南西方面艦隊に一時的に配備されるの。」
「よかった~一時的にかぁ・・・。」
まさか自分が第三水雷戦隊から外されるのではなかったのかと肝を冷やしていた吹雪は安堵する。が・・・。
「って!金剛さん!?えぇぇぇぇ!?」
吹雪は驚愕した。
実際彼女が目にしている金剛は凛々しい戦士だった。
そのため吹雪の脳内イメージの金剛はかなり美化されていた。
「あの人もカッコよかったなぁ~♪」
吹雪が頬に手を当ててにやけていると外から大声が聞こえてきた。
「テェェェェ!トォォォォォ!クゥゥゥゥゥゥ!!」
その叫び声と共に振動は大きくなり執務室前に来たとたん扉が勢いよく開け放たれる。
叫び声と振動、扉をあけ放った張本人は金剛型戦艦 一番艦「金剛」だった。
「バーニング!ラーブ!!」
そう叫んだ金剛は飛んで回転しながら執務室で作業をしていた大淀に抱き着いた。
「んー!チュッチュッ!テ―トク!・・・・あれ!?これはテ―トクじゃなくて、Oh!淀デース!?」
「大淀です。」
変な呼ばれ方をした大淀のツッコミがすかさず入る。
飛びつかれたときに彼女の眼鏡は緊急脱出したため大淀は眼鏡をかけていない。
「生憎、提督は席をはずしている。」
「Shit!でも次は負けません!テ―トクのハートを掴むのは私デース!」
「うぇ・・・?こ、金剛さん・・・・?」
吹雪には金剛の後ろに炎が上がっているように見える。
そのためか吹雪はどう対応したら良いのか、わからない様子だ。
「・・・・Oh!Youが噂のNewfaceデスネー?」
「あっはい!特型駆逐艦の吹雪です!」
「元気のいいGirlネー!でも元気の良さなら、私だって負けないネー!」
何を思ったのかいきなり吹雪に張り合う金剛。
元気の良さを見せるというが何をするのかというと・・・。
「金剛型一番艦!英国で生まれた帰国子女!金剛デース!」
「同じく二番艦!恋も戦いも負けません!比叡です!」
「同じく三番艦!榛名!全力で参ります!」
「同じく四番艦!艦隊の頭脳!霧島!」
「「「我ら金剛型四姉妹!」」」
「デース!」
どこから現れたのかわからない比叡、榛名、霧島と共に金剛は決めポーズを取る。
吹雪はあっけにとられ、長門はより強く蟀谷を抑える。
その横で陸奥は必死に笑いをこらえていた。
吹雪の金剛に対するイメージに、ひび割れが入った瞬間である。
「全く・・・何のつもりだ?」
少々お怒りのご様子で長門が金剛たちに聞く。
「それが・・・・遠征から帰還後の初任務ということで・・・・。」
「提督にアピールしようと、金剛姉さまのテンションが上がりまくりまして。」
「そもそも比叡達はいつからここで準備をしていた?」
もし訳なさそうに言う榛名と霧島にため息をつきながら長門は再び聞く。
「それはもちろん!コッソリ迅速に忍び込んで!」
「はぁ・・・・・・そんなことをするための高速戦艦ではないだろうに・・・・・・。」
もう怒る気力も失せた長門はただ溜息をついて突っ込む。
陸奥は吹雪に再び耳打ちをする。
「ほら、緊張するだけ無駄でしょ?これでも一航戦に並ぶエースなんだけどね。」
「うぅ・・ぅぅ・・・・ぅぅ・・・・。」
吹雪の中での金剛のイメージが粉々に砕け散った瞬間である。
「はぁ・・・・・。」
「おっ?全員そろったようだな。」
「て、提督!」
長門がため息をついたとき丁度、提督が戻って来た。
それに気づいた全員が敬礼をする。
提督は敬礼をした後、執務机の上に地図を広げる。
「よし、全員いるようだから作戦の説明をする。南西海域に眠る豊富な資源。今後激化する作戦に備え、何としても押さえておきたい・・・・・が、敵も能無しじゃあない。」
「深海棲艦も狙いは同じようです。戦艦二隻を中核とした艦隊の接近を確認しました。」
「大淀の言う通り、敵もここに狙いを定めている。これを要撃するために編成されたのが、お前達だ。」
「理由は現在、南西海域に発生中のスコールですね?」
「そうだ霧島。」
「つまり・・・一航戦のような航空戦力が使えないから・・・。」
「そうだ。高速戦艦の機動力を持って敵を撃滅する。だが理由はもう一つある。」
全員が「?」を浮かべる。
これ以外の理由が分からないようだ。
提督は静かに言った。
「3日経ったが、帰投はおろか連絡すらない霧先三佐以下『みらい』乗組員。彼らは戦死と断定され、海上自衛隊への協力要請が実質不可能となった。本作戦における我が艦隊の絶対的優位は消え去ったというわけだ。」
「500㎞先の艦影や航空機を捉える電探や対艦、対空墳進弾を発射できないということですか。」
「そうだ霧島、その為、本作戦ではお前達の機動力がカギとなる。何か質問は?」
提督が聞くと金剛と比叡が首を傾げる。
「WHAT?」
「「お前ら・・・・・・・。」」
提督と長門が額に青筋を立てて震える。
「要するに、遠くから一方的に攻撃できないなら、すごい速さで近づいて。」
「一気にドカーンっとやってしまえばいいというわけです!」
「なるほど!分かりやすい!」
「全く!頼りになる妹たちデース!」
「あぁ!良いな良いなー!」
提督と長門は霧島と榛名の要約に助けられたことを良く思ったが金剛と比叡の自由気ままさに頭痛を患うのであった。
「島風ちゃん、この任務どうなっちゃうのかなぁ?」
吹雪が気負っていると金剛に島風共々抱き寄せられた。
「ヘーイ!ブッキー!ぜかまし!」
「えぇ!?ブ、ブッキー!?」
「むぅ~私ぜかましじゃなーい!」
妙なあだ名をつけられたことに不満な島風と驚く吹雪だが金剛本人は気にしていない様子だ。
「心配しなくても!私たちがついているのでNo problemデース!」
「えっ?」
「もぉー!ずるいーずるいー!」
一気に騒がしくなる執務室で陸奥は必死に笑いをこらえて壁をたたき、提督と長門は深いため息をついた。
「作戦決行は明日。以上だ。」
提督がそういうがほとんどの者は聞いていなかった。
「もう駄目・・・・疲れたぁ・・・・・・。」
「吹雪ちゃんお疲れさまっぽい。」
その日の夜、寮で吹雪は畳に倒れ込んだ。
夕立はその横で煎餅を食べている。
「まさか金剛さんがあんな人だったなんて思わなかった・・・・。」
「意地悪っぽい?」
「そういうんじゃなくてね・・・・。」
吹雪が説明しようとした時、部屋のドアが開かれた。
「ただいま。」
その声を聞いた吹雪は飛び起き、夕立は声のした方を見た。
部屋に入って来たのは睦月だった。
「お、おかえり~。睦月ちゃん今日も遅いっぽい。」
夕立と吹雪はそこか無理をしたような笑顔で迎える。
「えへへへ、御免ね。」
「睦月ちゃん・・・もしかしてずっと波止場にいたの?」
「・・・・えへ、すごいね。なんで分かったの?」
吹雪は今朝の事を思い出した。
「分かるよ。」
「えっ?」
「明日も・・・ずっと?」
「うん!だって、帰って来た時にだれもいなかったら如月ちゃんや工廠長さん達、寂しいでしょ?じゃあ、私もう寝るね?」
「睦月ちゃん!」
睦月が三段ベットのカーテンに手を掛けたとき吹雪が呼び止める。
「き、如月ちゃんと工廠長さんたちは!もう・・・・。」
泣きそうな声で言う吹雪に睦月は言う。
「吹雪ちゃんも早く寝た方がいいよ。明日、任務でしょ?」
「あっ!」
睦月はそう言ってベットに入った。
吹雪と夕立は心配そうに見つめ合った。
多分あと一話はみらい達の出番はありません。