鎮守府は早朝から騒然としている。
海上自衛隊員たちは即座に起床し「みらい」へと向かう。
菊池がCICに着くとすでに夜間「みらい」監視員として居た妖精と自衛隊員がSPYレーダーを起動しスキャンを開始していた。
「砲雷長!スキャニング結果、深海棲艦の爆撃機と戦闘機が40機ずつの総勢80機の編隊です!距離50000!」
先に到着していた青梅一曹からの報告を聞いた菊池は歯を食いしばった。
そしてまだ対空レーダーに映る光点は接近してくる。
「LINK16起動!『ゆきなみ』と対空攻撃を行う!」
「了解!前甲板、後部VLSスタンダード、シースパロー、127㎜主砲への諸元入力完了!」
「CIWS迎撃開始!」
続々とやってくるCIC要員が対空攻撃の準備をしておく。
「砲雷長!敵空母と護衛艦隊は!?」
「まずは航空戦力が先だ!スタンダード発射!」
「前甲板VLS解放!スタンダード発射!!」
ミサイル発射要員の言葉と共に「みらい」前甲板VLSが解放、スタンダードが飛翔した。
吹雪たちは既に服を着替え廊下を走ってた。
「あっ!川内さん!」
吹雪は走っている途中川内を見つけた。
川内も妹たちと共に走っている。
「特型駆逐艦急いで!さっさと出撃するよ!」
「は、はい!」
第三水雷戦隊の面々は急いで出撃ドックへ向かった。
「あー!もう!ブンブンブンブン五月蠅いわね!!」
「ゆきなみ」艦橋ではゆきなみが艦を操作して対空射撃を行っていた。
「(いくら防空に特化した私や『みらい』でも残弾は無限じゃない。もしVLSや主砲が発射可能数に達したとき・・・・。)」
ゆきなみは艦橋からCIWSを覗く。
まだ射程内に敵航空機が来ていないためCIWSは動いていないが起動はしている。
「(残されるのはCIWSのみ。そのCIWSも装弾数は1550発・・・・・・連続発射じゃ20秒も持たない!)」
もともと艦隊単位で編成され運用されることを想定されたイージス艦。
たった二隻ではできる防衛行動も限られる。
「敵航空機未だ進行してきます!!!」
「緊急警報!127㎜主砲、連続発射可能数超過!」
「前甲板VLS、スタンダード残弾数ありません!」
「後部VLS、シースパロー残弾16発!」
敵は次々艦載機を発艦させる。
未だ艦載機が健在でありながら「みらい」に残された攻撃手段は無くなってきていた。
敵航空機35機はそのまま突っ込んでくる。
「(残るは前部と後部のCIWSと16発のシースパロー・・・・だがシースパローは同時に3発までしか誘導できない・・・・)」
菊池が解決策を考えていると続報が入る。
「『ゆきなみ』より入電!『我、対空兵器の残弾なし!これより主砲とCIWSによる迎撃攻撃に移行する!』」
ゆきなみも残弾がなくなり主砲とCIWSでの攻撃しかできない状況になった。
「敵航空機、本艦1,5㎞に接近!」
「CIWS迎撃開始!!!!」
菊池の怒声と共にCIWSが動き出す。
そして「みらい」を振動が襲う。
「ぐっ!一体何なんだ!?」
「本艦左舷に至近弾!敵戦艦の砲撃です!」
「敵空母二隻と戦艦に向けトマホーク発射用意!」
「前甲板VLS、トマホークへの諸元入力完了!」
「トマホーク、攻撃始め!」
「トマホーク、発射!」
菊池の指示の後トマホークも飛翔。
数秒後、敵艦隊のヲ級二隻を撃沈、戦艦ル級一隻を中破に追い込む。
しかしレーダー要員の顔は青ざめた。
「新たな敵勢力補足!艦隊数12!スキャニング結果・・・・・空母5、戦艦3、軽巡4!」
その報告に全員が恐怖した。
「終わった・・・・・勝てる訳がない・・・。」
菊池は眼鏡の位置を戻した後、無線を入れる。
「神通、聞こえるか?」
『はい、菊池三佐!今出撃しました!』
「俺たちの手には負えない。これ以上は援護などは無理だ。」
『そんな!』
「どうしたの神通!」
「菊池三佐から援護はできないと!」
「仕方ない!私たちでやるよ!」
「対空戦闘用意!」
神通の指示で全員が対空戦闘の体勢に入る。
「撃ち方はじめ!」
神通の声と共に砲撃が開始される。
いくつかは当たって落ちるが全然数は減らない。
「雷撃機一機逃したっぽい!」
夕立が叫ぶ。
睦月が見るとその方向には軍艦がいた。
「あのコースには『みらい』が!」
睦月が叫ぶがもう手遅れだった。
丁度CICでもレーダー要員から報告が入る。
「敵雷撃機、接近!雷撃されます!」
「総員衝撃に備え!」
菊池が言ったのはただ一言だった。
全員が衝撃に備えて体勢を取る。
そして報告が入る。
「敵雷撃機撃墜確認!続けて空母5、敵戦艦3、軽巡3へ向けてトマホーク、ハープーン飛翔中、更に軽巡1に向け短魚雷確認!!」
その報告から数秒後、敵艦隊の光点は消え去った。
「敵艦隊撃沈確認!対水上目標なし!!攻撃したのは・・・・・霧先三佐指揮の『みらい』です!!!!」
その報告の後CICでは歓声が響き渡った。
「帰って来たんだ!!」
「生きてたぞ!迎えに行こう!!」
「まだ敵航空機が残っている!気を抜くな!!」
「「「「は、はい!!」」」」
菊池の一喝で全員が落ち着きレーダーを睨んだ。
数分後、残存航空機は横須賀鎮守府所属艦娘によって根絶やしにされ上空の安全は確保された。
鎮守府前の洋上では第3水雷戦隊が並んで警戒していた。
「・・・・・・あっ!あれ!」
吹雪が指をさした先には水平線の上に艦影があった。
良く見なれた艦影だったが明らかに足りないものがあった。
「主砲が・・・・跡形もなく・・・・。」
神通が言った通り、特徴的な127㎜単装速射砲が跡形もなく消失していた。
「さぁ、『みらい』を誘導するよ!」
川内に続き全員が『みらい』を誘導するため動き出した。
「艦長、発光信号です。『我に続き入港せよ』との事。」
「よし、入港よーい!」
「入港よーい!」
「みらい」艦橋では戦死と思われていた二人、みらいと霧先友成が立っていた。
しかし友成の方は左目に包帯をまいて松葉杖をついている。
「艦長・・・・本当に休んだ方が。」
「大丈夫、入港してからゆっくり休むよ。」
そう言って友成は被っていた88式鉄棒を脱いで識別帽をかぶった。
「まずは重傷の如月が優先だ。機関、最大戦速。」
「了解!機関、最大戦速。ヨーソロー!」
「みらい」は艦首が海面を切り裂き、小さな波と航跡を出しながら横須賀へ入港していった。
投錨し、タラップを設置した「みらい」を自衛隊員と艦娘達は取り囲んでいた。
そこに松葉杖をついた友成がみらいに支えてもらいながら現れる。
「洋介、友成の奴・・・・・。」
「本当に戻って来たな尾栗。あいつはもう、ただの高校生じゃない。軍人だ。」
友成とみらいがタラップを降り切ると提督を筆頭に全員が敬礼をした。
友成も敬礼をして応えた。
「霧先少佐、只今「みらい」乗組員と共に帰還しました!!」
「よく戻ってくれた。すまん、私の不適切な判断のせいだ・・・・。」
「提督は悪くありません。全部正規な判断を下せなかった自分の・・・・せいで・・・・・。」
友成はそのまま力なく地面に倒れた。
「艦長!」
「工廠長!」
「友成君!!」
そこにいた全員が友成の安否を心配する。
みらいは即座に脈を測った。
「脈が弱くなってます!すぐに如月ちゃんと共に治療を!」
「如月は!?」
「艦内の医務室にいます、提督!」
「よし、神通、川内!お前達で友成を運べ!吹雪と夕立、睦月で如月もだ!」
「「「「「「了解しました!」」」」」」
現場は騒然となりながらも友成と如月を治すべく二人を運び始めた。
「・・・・・うっ・・・・。」
友成は目を覚ました。
彼の右目の視界には白い天井が広がっている。
「知らない天井・・・・・・じゃないよね、撃たれた時にもここ見たし。」
友成は周りを見る。
そこは彼が綾波に撃たれた時に運ばれた病室と同じだった。
「戻って・・・・・・来れたんだ・・・・。」
友成の頬を涙が伝う。
彼は生きて帰って来れた喜びを噛み締めていた。
明日生きている保証もなく、敵の陣地を航行している間張りつめた緊張の糸が切れたのだ。
1時間ほどたっただろうか。
ベットをリクライニングしてもたれながら体を起こした状態で窓の外を見ているとドアがノックされた。
「どうぞ。」
友成が言うとドアが開けられ明石と桃井が入って来た。
「明石さんに桃井一尉。」
「霧先三佐、相当無茶やったそうじゃないの。」
「うぐっ・・・・。」
「しかも左目を失明して右足を骨折、左手首は捻挫。さらには過度の疲労で体調を崩す始末・・・・。」
友成のカルテを読む明石は頭を押さえて桃井はヤレヤレといった表情で友成を見た。
「本当に申し訳ありませんでした・・・・。」
「謝るんなら私たちじゃなくこれから来る面会人に言いなさいよ。」
「面会人?」
「はい、理由は後で話しますけど・・・・気を付けてくださいね。」
「?」
桃井と明石の言葉をイマイチ理解できていない友成は頭に「?」を浮かべる。
「一応、高速修復材での治療は済ませてますので視力は回復しますが・・・。」
「1週間は最低でも安静にすること。いいわね?」
「はい、明石さん、桃井一尉。安静にします。」
「よろしい。じゃあ私たちはこれでお暇するわ。」
「あっ、工廠長の仕事は私と夕張さんでしておきますので。」
「本当に何もかもすみません。」
友成が頭を下げた後、二人は気を付けるように言って部屋を退出した。
それから10分後位後、ドアがノックされた。
「どうぞ?」
友成が言うとドアが開けられる。
入って来たのはくせっ毛のショートカットへアーに吹雪と同じ制服に身を包んだ深雪だった。
「よ、よう工廠長!ど、どうだ?」
「一時間前に起きたところだよ。まぁ、ちょっとだるい感じはするけどね。」
「そ、そっか・・・・。」
深雪は顔を俯かせながら友成の側に近づく。
「深雪?」
深雪は突然友成に抱き着いた。
「み、深雪!?ど、どうしたの!?」
「ウクッ・・・・よがっだ・・・・・いぎででぐれでぇ・・・・・!!」
「深雪・・・・・。」
友成は泣きじゃくる深雪を抱きしめて頭を撫でた。
そして30分程経ってから深雪が落ち着いたため話し始めた。
「落ち着いた?」
「・・・・・・うん。」
「心配かけてごめん。」
「・・・・・・今度一緒に寝る。それで許す。」
「ははは・・・・・治ったらね。」
「約束だからな!あと、白雪姉とかにばらすなよ?」
「分かったよ、ほかに用事は?」
「特にないかな?とりあえず、約束忘れんなよ。」
「分かったって。そんなに忘れん坊じゃないよ。」
友成の言葉を聞いた深雪は笑いながら。
「んじゃまたな!工廠長!」
そう言い残して病室を去っていった。
「結構心配させちゃったなぁ・・・・。」
友成はそう言って備え付けの水差しの水をコップに入れて2、3杯飲み干した。
そして少しゆっくりとしていると再びドアがノックされた。
「工廠長!綾波です!」
「いいよ。」
友成が応えてドアが開かれる。
ドアを開けた綾波はきちんと閉めてから敬礼をする。
「そんなにきっちりしなくてもいいよ。もっと気楽に。」
「は、はい分かりました。」
綾波は肩の力を抜いてから友成の近くの椅子に座る。
「工廠長、お体の具合はいかがですか?」
「気を失う前よりはいいよ。たぶん疲労が駄目だったんだろね・・・。」
「そうですか・・・・でも何とか鎮守府に損害は出ませんでした。」
「そっか・・・・よかったよ。」
友成が言った後、綾波は黙り込んでしまった。
突然前触れもなく黙った綾波を心配する。
「綾波?」
友成が声を掛けると綾波は顔をあげた。
その眼差しは凛としていて鋭かった。
「工廠長、私はあなたの事を艦娘としても個人としても尊敬しています。お力になれることがあったら何でもおっしゃってください。」
「え?う、うん。何かあったら頼むよ。」
突然の綾波の言葉に友成は驚くが特に気にしないことにした。
「それでは、綾波、失礼します!」
「うん、気を付けてね。」
立ち上がって退出する綾波に友成は気をつけるように言った。
綾波が出ていった後、友成は再び外を見る。
外では海鳥が呑気に飛んでいる。
「・・・・・何だか嫌な予感がする。」
その感は命中することとなった。
「ゆぅぅぅぅぅぅぅせぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「こ、この声は!!」
足音が響きドアの前まで来ると勢いよく開け放たれる。
その張本人は。
「やらせろーーー!!」
「わぁああああ!?」
「この痴愚姉!」
「ぶべら!!」
扶桑型の伊勢だった。
思いっきり友成にルパンダイブを仕掛けた。
しかし優秀な妹の回し蹴りが炸裂。
それを直に顔面に受けた伊勢は床に叩きつけられ鼻血を出しながら気絶した。
「全く・・・・すまないな。」
「いえ・・・・・伊勢さんは?」
「気を失っているだけだ。死んだわけじゃない。」
「それでも重傷だと思うんですが・・・・・。」
「まぁ、大丈夫だろう。」
友成が的確に指摘するが日向は特に気に留めていない様だ。
伊勢に姉の尊厳というものがないのがよくわかる場面である。
「ともかく君は傷を癒すことに専念してくれ。」
「あっはい。分かりました。」
「それじゃ。」と言って日向は伊勢の右足を掴んで引き摺りながら退出していった。
「伊勢さん大丈夫かな・・・?」
友成は伊勢の心配をした後、時計を眺める。
時間は既に1200になっていた。
「道理でおなかが空く訳だ。」
食堂に行きたいが絶対安静を義務付けられている以上動けないためどうしようかと首を捻って唸っているとドアが開けられた。
「工廠長!お昼ご飯をお持ちしました!」
入って来たのは食器を乗せたお盆を持った土佐だった。
お盆からはいい匂いが漂ってくる。
「あぁ、土佐さん。丁度良かったです、おなかが空いていたので。」
「少々お待ちください。」
土佐はそう言うと医療ベット用の机をもってきてその上にお盆を置く。
「はい、アーン。」
「えっ?」
突然の事で友成の脳は思考停止する。
お盆を土佐が置いたため自分の利き手の右手で箸を使おうとしたところ土佐がアーンをしてきたのだ。
まるで意味が分からんぞ!となっている友成はどう行動すべきか判断できない。
「・・・・・・・うぅ・・・。」
「!!」
土佐が涙目になった為友成は即座に食す。
「・・・・・うん、美味しいです。」
「あ、ありがとうございます!一生懸命作ったんです!」
「そうだったんですか。」
友成が食べてくれたので一気に表情が明るくなる土佐。
どうやらこの料理は彼女が作ったようだ。
「じゃ次はこの肉じゃがを・・・。」
「はい!アーン。」
「アーン・・・・。」
このやり取りは一時間ほど続いた。
そして一時間後、土佐は食器を片付けるために退出し、昼食を終えた友成は暇で仕方ないため呆けていた。
「・・・・・・。」
はたから見れば相当な阿保面をしているが本人は気にせず呆け続ける。
意外とそれがいいのだろう。
その時、ドアがノックされた。
「どちら様?」
「ゆきなみ型護衛艦一番艦『ゆきなみ』と『伊152』です!」
「どうぞ。」
ドアを開けて入って来たのはみらいの姉、ゆきなみと過去にみらいを助けた伊152だった。
「始めまして霧先艦長!改めましてゆきなみです!」
「伊152です。」
「みらい艦長兼横須賀鎮守府工廠長、霧先友成少佐です。」
敬礼をしてきたゆきなみと伊152に敬礼をした友成は自己紹介をする。
「お二人とも、どうかしましたか?」
「いえ、一言お礼を言いたくて。」
「お礼?」
「この度は私の妹を指導し生存させていただき、ありがとうございます!」
「私からも、ありがとうございます。」
「い、いえ!特段何かをしたといったということは無いのでお二人とも頭をあげてください!」
ゆきなみと伊152は頭を下げる。
友成は慌てて頭をあげるように言った。
「フフッ、やっぱりみらいの言う通りの方ですね。」
「え?みらいが?」
「はい、とても優しく気のいい魅力的な男性だとお聞きしています。」
「え、いや・・・・そんなことは無いですよ伊152さん・・・・。」
自分が煽てられ恥ずかしいのか赤面した友成は恥ずかしそうに言った。
「他にもですね・・・・・・。」
そのまま三人の会話は続き、結局日が暮れるころになるまで続いた。
「あっ、いけない。もうこんな時間。ゆきなみさん。」
「あっ、本当だ・・・。ではそろそろ失礼します。」
「うん、僕もいい暇つぶしが出来たよ。」
「「失礼します!」」
二人は敬礼した後一言言って退出していった。
数分後、誰かが病室のドアを開けた。
「友成?」
入って来たのは先代神通だ。
母の姿を見た友成はハッと元の顔に戻る。
「母さん、どうしたの?」
母に尋ねる友成だが彼女は黙ったまま近づく。
「母さん?」
先代神通は静かに友成を抱きしめた。
そして静かに泣いた。
「ただいま、母さん。」
そう声を掛ける友成に先代神通は泣きながら頷いて答えた。
そして泣きつかれ寝てしまった母と共に友成は一夜を過ごした。
次回「五航戦の子なんかと一緒にしないで」
思い付きが生んだ最悪の編成が最高の編成へと生まれ変わる事は出来るのか?