「はぁ・・・・・・・。」
友成はあの後工廠長室に戻り私服に着替えて溜息をついていた。
「あらぁ・・・溜息をつくと幸運が逃げるわよ?工廠長さん♪」
そう言って体を密着させて小悪魔な言葉を友成の耳元で囁くのは如月だ。
現在彼女は療養ということで予備戦力に回っている。
何故ここにいるのか?
答えは簡単、彼女は今日の秘書艦だ。
絶対安静が解けた途端友成のところに突撃し秘書官にしてほしいと懇願してきたのだ。
事実、みらい以外の秘書艦は扶桑型の伊勢、日向、翔鶴、土佐、天城、綾波、蒼龍、最近は深雪も加わりローテーションを組んでいる。
だが、みらい以外は全員自分から進んでやりたいと願い出てきたのだ。
如月もその一人でローテーションに組まれることになって現在に至る。
友成の溜息の原因はこれも含まれるかもしれない。
「幸運が逃げるならその原因を作らないでほしいかな・・・・。」
「こんなかわいい子に抱き着かれて嬉しくないなんて・・・まさか男色?」
「僕はちゃんと女の子が好きだけど?」
「あらよかった♪」
喜ぶ如月と未だ調子が良くない友成。
この対比はかなりシュールだろう。
「まぁ原因はこれなんだけどね。」
友成は一冊のノートを取り出し机の上に置いた。
そのノートには「編成案」と書かれていた。
「これは?」
「僕の考えた編成案。いろいろなものを参考にしたりしたんだ。」
友成はそう言いながら付箋が挟んであるところを開いた。
「あら、第四艦隊と第五遊撃部隊の編成・・・・。」
「そう。第四艦隊は輸送と遭遇戦を重視して五十鈴さんを旗艦に最上さんと睦月型二隻、吹雪型二隻で構成してみた。第五遊撃部隊はそれぞれの欠点を補う形で選んだんだけど・・・・。」
友成は言葉が詰まった。
事実、この編成はかなり良い。
吹雪のような駆逐艦は足が速く小回りが利き潜水艦や敵戦艦への雷撃も可能。
だが魚雷数が少ない上に装甲もない。
そこで重雷装艦の北上と大井の登場だ。
そこそこ速力もあり搭載数も多い。
しかしこの三隻は航空機に弱いうえ対水上レーダーやソナーが頼りになってしまい範囲が狭まる。
それを補うのが空母艦娘である瑞鶴と加賀だ。
瑞鶴は馬力が強い代わりに搭載数が少ないが加賀は馬力が劣る代わりに搭載数が多い。
互いの欠点を補うことでバランスが成り立つ。
更に金剛という戦艦の補助で砲撃戦もばっちりだ。
だがこれは感情を欠いた兵器としての話。
ノートにも注釈がある。
まず吹雪は実戦経験が少なくうまい戦闘は難しい。
加賀と瑞鶴はお互いを毛嫌いしているせいで連携などない。
北上は基本マイペースなうえに大井はこのシスコンぶりで他者を常に威嚇し暴力沙汰になりかけたこともある。
友成は揉め事仲介人をしているため特にこのことを知っている。
そして極めつけはどこかズレている金剛。
特に問題は無いのだが戦闘以外では何となくその場の雰囲気と違うことをしそうで怖い。
更には明後日までに旗艦を決めなければならないのだ。
友成は今回第五遊撃部隊の顧問的役割を担っている。
早い話、彼が直属の上官となり部隊を提督の次にまとめなければならないのだ。
そんな役割がある友成は幸先が思いやられていた。
「どうなるのかなぁ・・・・。」
友成はそうつぶやきながら座学の時間が終わるのを待った。
「ダメだぁ~~!!」
一方吹雪も第五遊撃部隊の面々のせいで机に突っ伏していた。
その近くには夕立と睦月がおり、心配そうに見ていた。
「そんなことがあったんだ。大変だったね。」
「う~ん、何だか部屋にいても落ち着かないし、皆なんかピリピリしてるし・・・。
「金剛さんと工廠長さんはなんて?」
吹雪は聞かれた後、二人の言葉を言った。
『何とかなるネー!!暑さ寒さも彼岸までネー!』
『とりあえず座学の後、少ししてからもう一度集まって。それから今後の事を考える。座学の間に心の準備もしておいて。』
「金剛さんの言葉意味わかんないよー!!工廠長も仕事に戻っちゃったし・・・・。」
「それで睦月ちゃんの艦隊はどんな感じっぽい?」
夕立は話題を変えて空気を良くしようとした。
「うん!睦月の艦隊には最上さんがいて・・・・。」
『僕でよければいつでも教えるよ。」
「いいないいな!いいなぁ~~!!」
「夕立ちゃんは?」
睦月は羨ましがる吹雪を脇目に夕立に尋ねる。
「夕立は那珂ちゃんと一緒だったぽくって・・・・。」
『『ぽいぽいぽいぽい♪』』
「いいないいな!いいなぁ~~!!」
「楽しそうでよかったね。」
吹雪はまるで駄々っ子の様に机を叩いて羨ましがっていた。
あの顔ぶれでこの差なのだから仕方ない。
睦月は夕立が良い艦隊で過ごせそうで喜んでいる。
「それに比べて私は・・・はぁ~・・・。」
座学の後、吹雪は甘いものが食べたくなり甘味処「間宮」に向かった。
「はい、お待たせ。いつもの二人は?」
「新しい艦隊の親睦会があるとか言って・・・。」
「そっかぁ・・・まぁ元気出しなさいよ。」
元気がなさそうに言う吹雪に間宮が励ました時、誰かが店にやって来た。
「いらっしゃい!」
「あぁ!赤城先輩!」
入って来たのは赤城だった。
それを見た吹雪は一気にキラキラし始める。
「いつものをお願いします。」
「はーい!」
赤城の注文を聞いた間宮は早々に厨房へと向かった。
赤城は注文をした後、キラキラしている吹雪に話しかけた。
「吹雪さん!聞きましたよ。加賀さんと同じ艦隊になったんですって?」
「あ、あっはい!そうなんです!正規空母の先輩と同じ艦隊なんて私光栄です!」
吹雪は即座に起立し、強張った表情になった。
「大丈夫?加賀さん、五好戦の子と一緒になって『心外だ。』なんて言ってましたけど・・・・。」
「あはは・・・・。」
しかしその表情も赤城の質問で苦笑いとなった。
「そうですか・・・そんなことがあったんですね。」
吹雪の説明を聞いているうちに特盛あんみつを平らげた赤城は手を合わせながら言った。
「私、あの艦隊が上手くいくなんてとても思えないんです。司令官、どうしてあんな編成にしたんだろう・・・。」
「分からないんですけど・・・恐らくFS作戦と友成君が関係しているんじゃないかと。」
赤城は今は確定してはいない、憶測の段階である情報を言った。
「工廠長と・・・FS?」
「えぇ、この前開始された反抗作戦の正式な名前よ。南方に確認されている二つの巨大な深海棲艦の駐屯地。その二つの駐屯地を繋ぐ航路を分断し無効化する。そうすれば、謎に包まれている深海棲艦がどこから現れ、何を目的としているのか、分かるかもしれないってそう言われているんです。ただ、作戦を成功させるには私たちの練度を高め、あらゆる事態に対応する力を身につけなければならない。そう、友成君が具申したのかもしれません。」
「だから司令官は・・・・。」
「あくまで推測ですけど。提督や立派な軍人の友成君が何の意図もなく艦隊を編成したりすることは無いんだと思います。何か意味があるのよ。」
赤城の言葉に納得がいった吹雪は見る見るうちに元気な顔になっていった。
「はぁ・・・・そうか!そうですよね!」
吹雪はアイスを頬張り食べ終わった後、赤城に別れを言って走り出した。
目的地は寮だ。
「(そうだよ!きっと何か意味があるんだ!)」
吹雪はそう考え一生懸命に走った。
「(周りを羨ましがって落ち込んでいる場合じゃない!頑張らなきゃ!赤城先輩やみらい先輩の護衛艦になるために!)」
そう決意した吹雪は勢いよくドアを開けた。
だがそこにいたのは加賀と瑞鶴、そして腹部と頭を押さえる友成と気まずい空気だった。
「それはどういう意味!?」
「フン。」
「ぐぎぎぎいいいいいいうぐぐぐぐんぎぎぎぎぎいいいいい!!」
「はぁ・・・・明石さんに胃薬と頭痛薬貰おう。」
「が、頑張らなきゃ・・・・・。」
吹雪と友成の未来は明るくなるのだろうか?
「んぎぎいいいいいい!!」
「・・・・・。」
犬のように唸る瑞鶴に対して加賀は気にせず書類を眺めていた。
友成は頭と腹部を押さえて吹雪は汗をダラダラかいていた。
「早く決めてくれる?」
「あの・・・これは何を・・・・。」
尋ねる吹雪に金剛と友成が答える。
「Oh!ブッキー!Flag shipを決めていたのデース!」
「フラ・・・旗艦ですか?」
「あぁ・・・加賀さんの売り言葉に瑞鶴さんの買い言葉でこの様だよ。」
金剛は頷き友成はやっと体の不調が治った様子で吹雪に説明した。
「そうなの。この艦隊で一番旗艦に向いているのは誰か・・・貴方はどう思う?」
「うぇ!?えぇっと・・・えっと・・・・えっと・・・・・・。」
全員の視線が注がれる中吹雪は考える。
だが誰も向いていないとはきっぱり言えなかった。
「あはは・・・難しいですねぇ・・・・。」
「何よそれ!」
瑞鶴の突っ込みが炸裂する中、金剛が口を開いた。
「やはり!戦艦であるMeが努めますネー!」
「金剛さんが?」
「Yes!」
吹雪の言葉に自信満々で答える金剛。
それに異を唱えるのは瑞鶴だ。
「英国帰りの帰国子女がいきなり務まるの?」
「(けど金剛さんって南西方面攻撃隊の旗艦だった気が・・・・。)」
友成の考えが正しい気がしなくもないがそれは別として。
加賀も意見を言いだした。
「私は辞退します。皆のレベルに合わせた指示を出す自信がないです。」
「ふっ、分かったわ!じゃあ私がやるわ。」
「それは反対。」
「どうしてよ!」
やはり犬猿の仲である二人はそりが合わないのか喧嘩に発展する。
延々と決まらないためにしびれを切らした大井が言いだす。
「戦艦と空母の先輩たちがちゃんとしないと安心して戦えないわ!北上さんに何かあったらどうするんです!?」
「軽巡だからって私たちに任せてちゃダメよ?」
「重雷装巡洋艦です!そんなこともわからないの?甲板胸が!」
「か、甲板・・・。」
「(あっ、これはまずいかも。)」
友成が思った時にはすでに遅く瑞鶴の逆鱗に触れてしまっていた。
「今なんて!」
「貴方のような未発達な艦に旗艦は務まらないわ。私がやった方がましよ!」
「えっ?大井っちが?嫌だな・・・・旗艦だと標的にされることも多いだろうし・・・。」
「北上さん!私の事をそこまで・・・・!いいわ、ならこの甲板胸に任せましょ!」
「待て!今なんてった!!!」
最早秩序や協力なんて言葉は無かった。
お互いがお互いに火に火薬とガソリンをぶち込む行為を行うため手が付けられない状況に落ちいっていた。
「あ、あのぉ・・・。」
「皆さん落ち着いて・・・・・。」
吹雪と友成が何とか落ち着かせようとするが金剛が声をあげた。
「分かったネー!では試しに一人ずつ旗艦をやってみてMVPがFlag shipになるデース!」
「うぇ?」
「・・・・それでいいんじゃない?一航戦と五航戦、どれほどの差があるかもわかるだろうし。」
「えぇ!?」
「そうね、今後の為にも自分の実力は知っておいた方がいい。」
「ええ!?」
「では決まりデスネ?ブッキー!友成!準備ヲ!」
「うぇえええ!?」
「トホホ・・・・また書類書かなきゃ・・・・。」
金剛の提案を効いた全員が納得した。
おかげで吹雪も流れで参加することになり友成は消費資材を報告する書類を書く羽目になり頭を抱える。
友成が提督に具申したところ、許可され正式に第五遊撃部隊は出撃することになった。
まずは金剛が旗艦で出撃だ。
「さぁ!ではまず私からデスネー!行くデスヨ!Follow me!」
と、意気揚々と出撃したはいいものの・・・・・。
「艦長、爆発炎確認。SH60から全艦損傷の報告です。」
「はぁ・・・・ハープーン発射。敵艦隊を撃沈せよ。」
ここまで綺麗に失敗したことに呆れる友成は撃沈の指示を出す。
「了解、ハープーン諸元入力完了!ハープーン発射!」
みらいの言葉の後、ハープーンが飛翔し敵艦隊に向かう。
そしてハープーンは命中し敵艦隊は撃沈された。
「対水上目標ありません。」
「よし。伊152とゆきなみに通達。『敵艦隊に注意しながら護衛せよ』」
「了解です。」
そして第五遊撃部隊は第一特殊艦隊の「みらい」「ゆきなみ」「伊152」に護衛されつつ帰還した。
「うぅ・・・失敗したデスネー・・・。」
入渠ドック内の浴槽で金剛は腕枕をしながら突っ伏す。
全員仲良く入渠の様だ。
「作戦が強引すぎます。」
加賀の辛烈な言葉が飛ぶが仕方ないだろう。
一方北上は大井を気にする。
「大井っち、大丈夫?」
「うぅ・・・。」
どうやら大井も酷くやられたようである。
「だから言ったでしょ?次は私よ!」
瑞鶴の言葉の後、友成が許可した高速修復材が運ばれ全員が修復された。
そして今度は瑞鶴を旗艦として出撃することとなった。
「空母瑞鶴、抜錨します!アウトレンジで決めたいわね!」
結果は・・・・・。
「爆発炎視認。全艦損傷です。」
「・・・・・・ハープーン発射。」
「はぁ・・・・。」
全員仲良く入渠である。
「結果は同じだったねぇ・・・・。」
「うううぅぅぅ・・・・・・。」
北上が言うと大井も肯定するように唸る。
また手酷くやられた様子。
ある意味で普段の罰が当たっているのかもしれない。
「アンタが指示に従わないからこうなったのよ!」
「明らかに間違った指示に従うわけにはいかない。」
「ほう?」
瑞鶴の指示が間違っていたにしろ、だからといって加賀の指示違反もどうなのかと思われる。
「やはり五好戦の子に任せておいたのが間違い。私がやる。」
そして高速修復材を使用し加賀を旗艦として再び出撃するが・・・・。
「爆発炎視認。全艦損傷です。」
「・・・・・。」
「・・・・ハープーン諸元入力完了。」
「やっぱりこのレベルに合わせるのは難しかったようね。
「初戦でいきなり中破したのはどこの誰よ!」
みんな仲良く入渠タイムと相成った。
そしてまた高速修復材が使用され出撃となる。
「じゃあ!次の方行くデスネー!」
「爆発炎確認。」
「書類・・・資材・・・・浪費・・・・始末書・・・・・・あばばばばばばば」
「か、艦長!しっかりしてください!」
「アー、次デスネー!」
「ば、爆発炎確認・・・・。」
「・・・・・。」
「か、艦長ーー!!!!」
みらいがゆっくり振り向くと友成は白目をむいて立った状態から後ろにぶっ倒れた。
「どうして上手くいかなかったんだろう・・・・。」
「指示がNothingデシタネー。」
北上の問いに金剛が答えた。
「私と北上さんは完璧だったはずなのに・・・・。」
「北上中心の輪形陣に一体何の意味があったんでしょう?」
あまりにもひどい陣形だ。
本来なら空母や輸送艦などが来る位置に重雷装艦を連れてきたも何の意味もない。
「はぁ・・・・・。ん?」
吹雪はただ溜息をつくしかなかった。
その時、加賀がタオルで何かしているのを見た。
「可愛い!ウサギですか?」
「・・・・赤城さんに教わったの。入渠している時間が長いから。いる?」
「あっ・・・・。」
加賀は説明した後、吹雪にタオルで作ったウサギを渡した。
吹雪は差し出されたウサギを手に乗せてよく見てみた。
「赤城先輩が・・・・。」
ウサギは小さく丸っこい可愛い形をしていた。
入渠後、第五遊撃部隊と何とか回復した友成は寮の部屋に集合した。
「こうなったら、提督に話してくる。」
瑞鶴は椅子から立ち上がりそう言う。
友成以外は全員瑞鶴の方を向いた。
「こんな状況で本格的な反抗作戦になったら、他の艦隊の足を引っ張るだけよ。編成を変えてもらうしかないわ。」
「funnyな艦隊デスケドネー。」
「ファニーかどうかじゃないでしょ?」
「そもそも、構成されているメンバーのバランスも悪いし、編成の再編成を提督に進言した方がいいかもしれない。」
「賛成です。」
瑞鶴が言いだすと加賀、大井、北上も賛成した。
「ま、待ってください!」
「なによ?反対なの?」
「反対っていうか・・・でも、せっかく新しい艦隊になったばかりなのに・・・・。」
「だからこそ早い方がいいのよ。どうしたって分かり合えない関係ってものは存在するの。そんなもの同士が近くにいても、互いにつらいだけでしょ?」
「・・・・・・でも。」
吹雪が机に手を伸ばした時にあるものに手が当たった。
それは加賀が作ったタオルのウサギだった。
「なにそれ?」
「えっ?」
瑞鶴はそれを手に取ってみる。
「可愛いわね。」
そう言ってよく見た後そのウサギを吹雪に返した。
「今度作り方教えてよ。」
そう言うと瑞鶴は提督へ具申するために外へ出ていった。
吹雪は加賀へ視線を向けた。
加賀は何ともない表情で座っている。
吹雪は手に乗ったウサギを見つめた後に友成を見る。
友成は小さく頷いた。
それを見た吹雪は瑞鶴を追いかけ部屋を出た。
「それで?貴方はなぜここにいるのかしら?」
吹雪が出ていった後、加賀は友成に聞く。
友成は静かに答えた。
「・・・・・僕がこの編成にするように提督へ具申しました。そしてこの艦隊の顧問になることを条件にそれは許可されたんです。」
「Oh!友成がMakeしたんデスカー?」
「はい。僕が編成しました。」
友成の言葉の後、大井が言葉を発した。
「ならなんでわざわざこんな編成にしたんです?もっとほかの編成があったでしょう?」
大井の質問に友成は溜息をつきながら識別帽を脱ぎ答えた。
「考えたらわかりませんか?それでは艦娘としてどうかと思いますが。」
「喧嘩売ってるのかしら?だったら買うわよ?」
その言葉の後、友成の何かが切れた。
「その好戦的な態度は良いです。ですがここは戦場!もしかしたら近くない未来に子の面々しか出撃できないかもしれない!その時あなた方が出撃できなければ終わりです!もしかしたら僕たちが帰った後かもしれない!いつ起こり得るかわからないんです!その時に・・・・貴方達が出なければ日本国民や提督、あなた方の姉妹の死を見るんですよ!!貴方達はそんなものを見たいんですか!!!」
「何を知った口で・・・・。」
大井のその言葉が友成の逆鱗に触れた。
彼女からしたら何となく出た言葉だが友成にとっては過去を掘り返す起爆材となった。
「貴方こそ・・・何を知った口で・・・・僕は目の前で父さんを殺された!犯人は捕まっても精神異常で減刑!刑が終わった後に妹も犯人に殺されかけた!・・・・・もう、誰も死なせたくないんです!僕は・・・・・・・。」
友成は感情に任せて言いたい放題行ってしまったことを悔やんだ様子で部屋を退出した。
吹雪は部屋を出た後、瑞鶴を追いかけた。
幸いそんなに離れていなかった。
「瑞鶴さん!」
吹雪は瑞鶴を呼び止める。
呼ばれた瑞鶴は疑問符を浮かべながら吹雪の方を向いた。
「何?」
「私・・・・私やっぱり。この艦隊で頑張りたいです!始まる前にあきらめるなんて、やっぱり嫌です!!」
「吹雪・・・でも・・・・。」
瑞鶴は否定しようとしたが吹雪の怒りとも揺るがない意思とも見える表情を見て考え直した。
「あの・・・・・。」
瑞鶴が言いだそうとした時、怒鳴り声が聞こえ、少しした後に友成が部屋から出てきてドアを強く閉めた。
「友成?」
「工廠長?」
二人がどうかしたのかという表情で見ると友成は微笑んでいった。
「あぁ、何でもないよ。少し意見衝突しちゃってね。それより・・・。」
友成の言葉は鳴り響くサイレンの音で止められた。
深海棲艦が現れたのだ。
緊急招集がかかった第五遊撃部隊と第一特殊艦隊は出撃準備のために出撃ドックと埠頭に向かった。
「吹雪、少し出撃には時間がかかる。その間にできれば迎撃してくれ!」
「わ、分かりました工廠長!」
そう言った後友成は第五遊撃部隊と別れて走っていった。
吹雪も仲間にはぐれないように走って付いていき出撃ドックへ向かった。
『偵察機より入電。鎮守府近海に敵深海棲艦雷巡チ級を旗艦とする艦隊を発見。鎮守府目指して北上中です。』
大淀のアナウンスを聞き全員が気を引き締める。
『第五遊撃部隊は直ちに出撃しこれを速やかに駆逐せよ!援護には霧先二佐以下第一特殊艦隊が回る!』
提督の言葉の後、全身が艤装を装着し出撃した。
その20㎞後に友成ら第一特殊艦隊がついていく。
「enemyは何処デスカー?」
「雷巡数隻って言ってたわよね?楽勝じゃないの?」
「北上さん、一気に片付けてきましょ。」
「うん。」
「えっ?待ってよ!私も行く!」
恐らく顧問である友成が見ていたら目元を叩いていただろう。
慢心する上に勝手に各々が行動する・・・・部隊としての統制が取れていないどころか軍関係者なのかも怪しい。
そこに吹雪が言った。
「待ってください!」
その言葉を聞いた瑞鶴は動きを止める。
「敵の戦力に関わらず、艦隊として規律を持って戦うことが大切だっていつも演習で教わってきませんでしたか?」
「じゃあどうしろというの?」
大井が吹雪に聞くと吹雪はある作戦を立て上げた。
「瑞鶴さんと加賀さんはまず索敵を。」
「索敵?たった数隻の敵に?」
「私まで?」
「だからこそ、ちゃんとした方がいいと思うんです。」
瑞鶴と加賀は疑問に思うが吹雪は意見を押す。
吹雪の目を見た加賀はその意思を汲み取った。
「分かったわ。」
加賀は一言そう言って前を向いて矢筒から矢を一本取り出し発艦した。
「大井さんと北上さんは左舷雷撃戦の用意を。」
「そうだね。分かった。」
「北上さん!?でも、誰が前に出るの?」
北上は了解し大井も理解はしたが誰が前に出るか疑問に思い吹雪に聞く。
「私が行きます!」
吹雪はそう力強く言った。
「「え?」」
大井と北上はハトが豆鉄砲を食らったような顔になる。
吹雪は続けて言う。
「私が引き付けますから、みんなで攻撃を!」
吹雪が作戦を言い終わった後、加賀と瑞鶴の放った偵察機が敵艦隊を発見した。
そしてその情報は加賀にモールス信号で伝えられた。
「敵艦見ゆ!」
その言葉を合図に吹雪は体勢を取る。
「行きます!!」
機関を最大戦速で稼働させた吹雪は全速力で敵に向かう。
吹雪が敵を視認すると敵も砲雷撃戦を開始した。
吹雪は何とか当たらないようにジグザグに動き回り砲弾と魚雷を回避する。
これも駆逐艦だからこそできる芸当だ。
しかし敵の魚雷と砲弾によってできた波で吹雪の動きが一旦止まる。
敵はこれを見逃さなかった。
旗艦の雷巡チ級は吹雪に向けて砲を撃とうとするが艦載機が攻撃を仕掛け阻止する。
吹雪に集中しすぎたあまり航空機に気づかなかったのだ。
敵が気付き対空戦闘を行おうとした時には既に雷撃機が雷撃を行っていた。
そしてそれはチ級に命中。
その後には金剛が待ち構えていた。
「撃ちマス!Fire!」
しかし金剛の放った砲弾は躱されてしまう。
「Shit!!」
チ級が再び攻撃しようとしたが吹雪の作戦にまんまと引っかかった。
「大井っち。」
「北上さん!」
雷巡二人の雷撃をモロに食らったチ級は吹き飛び轟沈した。
「「やったぁ!!」」
大井と北上は成功したことを喜びハイタッチをする。
吹雪は一連の光景を見ていた。
始めて第五遊撃部隊が機能した瞬間だ。
「艦長!敵艦隊旗艦の反応消滅!」
「敵残存艦は?」
「急速に撤退していきます。どうします?」
「自衛隊である以上無駄な攻撃はしない。対水上戦闘用具収め!」
「対水上戦闘用具収め!」
みらいに指示を下した友成はウイングに出て双眼鏡を覗く。」
「やったな、吹雪。」
友成は笑みを浮かべながらそう言った。
「き、旗艦!?」
吹雪は驚きの声をあげた。
吹雪が正式に第五遊撃部隊の旗艦に任命されることになったのだ。
「そうデース!ブッキーで決まりデスネー!」
「ちょっと待ってください!聞いたことないですよ駆逐艦の旗艦なんて!」
吹雪が言うと瑞鶴達が返した。
「私も思ったんだけどさ。」
「空母、雷巡が二杯ずつに戦艦と駆逐艦が一杯。本来なら絶対にありえない編成にありえない顧問。」
「ならむしろ『旗艦もあり得ない方がいいんじゃない?』って話になったの。」
瑞鶴、加賀、北上に言われたが吹雪は未だ不安だった。
「で、でも・・・。」
「ゴチャゴチャ言わないでやってみるデスネー!One thousandの道もOne stepからデース!」
「訳、分かりませんけど・・・・。」
「『千里の道も一歩から』の意味はどんなに大きな事業でも、まず手近なところから着実に努力を重ねていけば成功するという教えなんですが・・・・。」
金剛の間違ったことわざの使用に吹雪は困惑し、友成が突っ込んだ。
そしてそんなこんなで第五遊撃部隊は無事、旗艦も決まり部隊として機能し始めた。
その夜、部屋割りは結局「吹雪、加賀、瑞鶴」と「金剛、大井、北上」に分けられ吹雪は部屋で机に座り頬杖をつきながらタオルのウサギを見ていた。
「本当にこれでよかったのかなぁ?」
吹雪が疑問に思って言うと隣から声が聞こえてきた。
『Tea timeはマダデスカー!?』
『静かにして!とっとと寝てください!』
『ブ―!』
『うるさいですよ!静かにして!』
どうやら金剛が駄々をこねて大井と友成に叱られているようだ。
それを聞いた吹雪は笑う。
「良かったんだよね。」
「吹雪。」
吹雪は疑問が解けたところで瑞鶴に声を掛けられた。
瑞鶴は椅子に座り話し始めた。
「さっきのこれ、作り方教えてよ。」
「えっ?じゃあ加賀さんに聞いてください。これ、加賀さんが作ったんです。」
「えっ?」
吹雪が向いた方では加賀がベットに座ってアイスを食べていた。
「教えて貰ってもいいですか?」
「うぇ!?ちょっと、まっ!」
瑞鶴は止めようとするが遅かった。
「別にいいけど・・・。」
「うぇ!?」
まさかのOKだ。
当然、瑞鶴も驚く。
「行きましょう。」
「えぇ?」
吹雪は加賀の近くに座った。
「よいしょ!」
「・・・狭い。」
「良いんです!瑞鶴さんも早く来てください。」
「えぇぇぇぇぇ?」
「ほら速くぅ!」
「ちょ、ちょっと待ってよぉ!!」
「狭い。」
「瑞鶴さん、もうちょっとこっちに・・・・。」
「近い。」
「うぅぅぅぅ・・・・。」
青白い月明かりが照らす寮の一室ではこんなやり取りがあったそうだ。
第五遊撃部隊も今後親睦が深まることであろう。
友成は見回りを終えた後工廠長室で書類をまとめていた。
その時、彼の体に異常が現れる。
「うっ!ゴホッ!ゲハッ!」
友成は突然咳込み椅子から落ちた。
その後何度か咳込んでから机に掴まりながら立ち上がった。
口元を押さえていた右手は赤い液体・・・・彼の血液で染められていた。
「ハァ・・・ハァ・・・・負荷は酷いな・・・・。」
友成の言う「負荷」。
それは彼が絶対安静が解かれた直後の事だ。
「え?副作用?」
「えぇ。提督にはまだ言っていないけど・・・友成君の身体は半分は艦娘、もう半分は人間。人間は普通、高速修復材が効かないけれど友成君は特殊だから効果があるの。だけど友成君の身体にも限度がある。」
「その限度を超えたと?」
「その通り。」
「負荷」とは副作用の事だ。
本来、高速修復材は艦娘のみに効き、人間には唯の入浴剤のようなものだ。
これは艦娘の驚異的な治癒能力を大幅に促進させる作用があるためだ。
そのため治癒能力が艦娘に比べて低い人間には効果がない。
だが本来驚異的な治癒能力を持たないはずの友成は母親が艦娘の為これが効く。
しかし、友成は半分は人間だ。
当然作用には限度がある。
それを重傷を負うたびに使用し、無理やり治しているのだ。
簡単言うと一本だけで支えている棒の上に重心を傾くように物を置くようなものだ。
それだけ無理をすれば体のバランスを崩し体に不調をきたす。
それが判明したのだ。
「工廠長、部下の工作艦『明石』として意見具申します。これ以上の負傷による高速修復材を使用を避けるために前線に出るのはやめてください。」
「それは出来ません。どうせここにいても空爆を仕掛けられれば同じです。それに副作用を無くすことを調べた方がいいでしょう。」
「ありますよ。」
「何ですって?その方法は?」
明石の言葉に友成は食いついた。
「副作用を無くすには定期的に高速修復材を接種する・・・・・ですが体に不調が出ますよ?」
だが友成は出された選択肢に即座に答えた。
「高速修復材を摂取します。」
「いいんですか?最悪、皆の前で心肺停止なんてことも・・・・。」
「備えあれば憂いなし。いざというときに高速修復材が使えないのは困るでしょう?」
友成の眼差しを見た明石は少し笑った後に答えた。
「工廠長の自分を蔑ろにする性格にはホトホト困り果てますよ・・・・。」
「すみません・・・でも、もう後悔したくないんです。誰かの死を目の前で見て。」
「・・・・・・分かりました、明日から一日一回、接種してもらいます。覚悟してくださいね。」
「ありがとうございます、明石さん。」
友成はそう言って明石に頭を下げた。
これが友成の「負荷」なのだ。
明石の見立てではあと一か月から二か月はかかるという。
「ハァ・・・・・ハァ・・・・・・・・だいぶ落ち着いたかな。」
友成はトイレの流しで手を洗いつつ呼吸を整えた。
手はすっかり綺麗になっていた。
友成は鏡で自分の顔をじっと見た。
「・・・・・覚悟はもう決めたんだ。」
友成は近くに置いていた識別帽を被りトイレを後にした。
今回はアンケート(というより質問?)をとるので皆さま活動報告までご足労頂ければと思います。
次回「第六駆逐隊、カレー洋作戦!(なのです!)」
戦場にも休息は必要なのです!