霧先と出会う可能性が多い彼女の気持ちとは?
サウスダコタが建造されてから1週間が経った頃、夜の工廠の中にある工廠長室では霧先が書類の分別作業を行っていた。
時計の針は既に真夜中を少し過ぎている。
本日の秘書艦である扶桑型の方の日向を帰した今、一人だけで黙々と仕事を続けた彼ももう少しで仕事が終わる。
「これでよしっと!あ~疲れたなぁ~!」
そう言いつつ霧先は伸びをして首を傾けて解す。
同じ体制で長時間居た為かかなり凝っている様子で関節がゴキゴキと鳴った。
少し身体を動かして楽になった霧先は席を立ってからベルトを腰に巻いた。
これから夜の見回り作業に入るのだ。
その為、ベルトには9㎜拳銃と警棒、ライト、手錠が付いている。
「さて、見回り見回り~・・・・ってまたですか。」
工廠長室の電気を消してから戸締りをして見回りに出ようとして振り返った霧先の目に入ったのは疲れ果てて寝てしまった明石だった。
近くにサウスダコタの艤装があるところから整備中に寝てしまったのだろう。
「仕方ないか・・・。」
霧先は少し溜息をついた後、工廠長室の鍵を開けて隣の休憩室のベットへと明石を運んだ。
勿論、お姫様抱っこで。
そして顔に着いた煤や油を濡れティッシュで拭き取ってから彼女のつけていた作業手袋と髪を纏めているリボンを外して小さな机の上に置いてその横に棚から取り出したカップうどんとメモを置いて静かに電気を消してから退出し見回りへと向かった。
翌日、明石は朝日の眩しい光と総員起こしによって目覚めた。
欠伸をしながら上半身を起こして目を擦る。
そしてある程度視界がクリアになってから周りを見回す。
「あぁ・・・・・今日もか・・・・・・。」
ボサボサ髪の明石はただそう一言言った。
ここ最近彼女は何度も霧先に運ばれているのだ。
原因は彼女の寝落ち。
霧先も以前から数回は注意していたものの次第に注意することなく最近は部屋に運ぶことが多くなった。
起き上がった明石は欠伸をしながら霧先のメモを読んだ後電気ケトルの電源を入れてお湯を沸かす。
そして寝癖を直すべく洗面台へと向かう。
ここまでが最近の明石の朝となっている。
明石自身も最近の生活は駄目だと思ってはいるものの基本的に妖精以外の工廠勤務の者は霧先、夕張、明石の三人だ。
中でも霧先は例のごとく朝から昼まで執務や艦娘との交流、騒ぎの鎮圧や仲介、第五遊撃部隊の顧問、艦娘のカウンセリングや相談役、特殊艦隊の最高指揮官、自衛艦の艦長、最近では演習の監督や教官も担っている上、自主的に小銃や拳銃の射撃訓練なども行っている。
更に提督不在時には実質副官的立場である為、提督の執務もこなす。
更に夜間の警備任務も彼が担っており、2200以降は霧先が全ての区画の施錠チェックと哨戒を行っている。
中佐とはいえ本当に17歳なのか明石自身も疑わしく思えてくる時がある。
夕張は早めに自室に戻るために最後まで工廠にいるのは明石以外には霧先しかいない。
明石も艤装の修繕などで睡魔と戦うが睡魔に負けて寝てしまうことが多い。
結果、それを見つけるのは必然的に霧先になってしまう。
ただでさえ普段の激務に身を削っている霧先の負担を余計に増やすだけの自分を鑑みた明石は洗面所の鏡に映るピンク色のボサボサ髪で機械系オタク女の自分に嫌気がさしてきた。
「はぁ~結果的に友成君に甘えてるだけだよねこれじゃ・・・・。」
とりあえず髪を整える明石。
彼女自身、普段激務の霧先に申し訳ないとは思っていても甘えているようにしか思えなくなっている。
「何か友成君に出来ること・・・・・慰安?」
霧先に対して何か出来ないかと明石は考えたが真っ先に出たのが霧先への慰安だった。
しかしある人物たちを思い浮かべた明石はブンブンと首を振ってその考えを振り払った。
「まだ死にたくないし・・・・私なんて友成君の好みじゃないだろうし・・・・。」
明石が考えた人物。
それは先代神通、みらい、蒼龍、天城、土佐、翔鶴、如月、扶桑型の伊勢、綾波、深雪達だ。
天城と日向は現在不明だが青葉によるとその他全員が霧先に対して好意を抱いている。
そんなところに明石が慰安などすれば塵さえ残らずじわじわとなぶり殺しにされることであろう。
明石もそれだけは避けたかった。
それに霧先は別の女性の方が好みという可能性も否定できない。
「はぁ・・・・頂きます。」
寝癖を直した明石は電気ケトルのお湯をカップ麺へ注いで五分待った後、蓋を開けて麺を啜り始めた。
そして食べ終わった後容器をゴミ箱へ入れた時に初めて昨晩入浴していないことに気づいた。
「・・・・・汗の臭いもあるし入って来よう・・・・。」
そう言うが早いか明石はタオルと桶、着替えの服の「お風呂セット」を片手に風呂場へと向かった。
歩くこと数分。
何人の艦娘と出会い挨拶を交わしながらたどり着いたのは風呂場、通称「入渠ドック」だ。
基本的に艦娘しか出入りしないため明石も普通に入って脱衣所へと向かう。
しかしこの時彼女は大きなミスを犯していた。
入り口の脇には札を掛ける場所があり現在誰が入渠しているのかを判別するために名前入りの札を下げることとなっているのだ。
そこには「工廠長 霧先友成」と書かれた札が下がっているのだが明石は知らない。
その為さっさと服を脱いでタオルを持って浴場へと入った。
「はぁ・・・・早く入って出よう。」
この日何度目になるか分からない溜息をつきながら明石は浴場を歩く。
しかしその時予想だにしていなかったことが起こった。
「うぇえぇ!?明石さん!??」
「へ?」
間の抜けた声を出しながら明石は聞きなれた声が聞こえた方を向く。
そこにいたのは自分の上司である霧先だ。
明石はしばし石化してしまい動けなくなった。
しかし目は霧先の身体に集中している。
「(普段は服を着てるから分からなかったけど・・・・引き締まっていてがっちりとした体だし・・・・結構好みかも・・・・・。)」
遂に頭の思考回路がショートしたのか仕事を放棄した為、明石は場違いな考察をする。
だが霧先の言葉によって明石は現実へと戻された。
「あの・・・まじまじと見られると恥ずかしいんですが・・・・それと明石さんも隠してくださいお願いします。」
「え?」
現実に引き戻された明石は自分の姿を見る。
タオル一枚を片手に持っているだけで隠してすらいないのだ。
霧先はちゃんとタオルを巻いて隠すところは隠しているし目線も逸らしている。
これでは自分が痴女の様に見えて来る。
羞恥心によって顔を一気に赤らめた明石は即座に脱衣所へと走り出す。
けれどもここは浴場、当然濡れているため摩擦の力も弱くなり滑りやすい。
「きゃぁ!?」
「明石さん!!」
そのため唐突に走り出した明石は盛大に足を滑らせる。
それを見ていた霧先はすぐに明石を引き寄せて自分が下になる体勢で地面に倒れた。
「あいたたた・・・・・明石さん大丈夫ですか?」
「え?う、うん。大丈夫ですよ・・・・。」
「良かった。・・・・出来たら早めに起き上がってくれると嬉しいです。」
「へ?」
顔を赤らめながら視線を逸らす霧先に明石は再び変な声を出す。
そしてよく自分の体勢を見るとまるで霧先を押し倒した様な体勢になっているのだ。
ご丁寧に胸を彼に押し付けながら。
「ッ!!!」
「アッーーーー!!」
そのことに再び顔を赤くした明石は霧先の頬に綺麗な紅葉を作って顔を押さえながら脱衣所へと逃げた。
霧先は浴場の天井を見つめながら大の字で倒れたまま放置されてしまった。
そして一言言った。
「この息子はどうにかならないかな・・・・。」
それは霧先のタオルを巻いた中からこんにちはー!しているモノだった。
「・・・・・・はぁ、どうして男に生まれたんだろう・・・・。」
そんなことをぼやく霧先は下のモノを収めるため水風呂へと向かった。
その日の夜、明石は仲が良い同僚の大淀と共に彼女の部屋で酒盛りをしていた。
酒の力によって程よく酔った明石は顔をほんのり赤らめながら酒の入ったグラスを見つめていた。
「それで?なんでいきなり酒盛りなんて提案したの?普段の明石ならこの時間は整備が主でしょ?」
「う゛っ・・・・。」
大淀に痛いところを疲れた明石は少し黙り込んだ後、ぽつぽつと話し始めた。
「実は・・・・・。」
明石は今まで思っていた事や出来事を大淀にさらけ出した。
自分が部下として役に立っていないと思っていることや霧先にどういったらいいのかということだ。
「・・・・・まさかとは思うけど・・・霧先中佐の事が好きなんじゃ?」
大淀のカミングアウトに明石は酒を噴き出した。
「ぶふっ!?ちょっと大淀!?私が友成君の事がすすすすす好きだなんて!!」
「だって好みなんでしょ?」
「う゛っ・・・・。」
またしても重要区画を狙い撃ちされた明石は黙ってしまう。
だが降参したようだ。
「・・・・そりゃ好みだよ。顔立ち良い、気が利く、優しい、家事全般が上手い、身体も引き締まってる、艦艇についての理解もある・・・・・これほどまでに優良な物件は無いよ・・・・。」
明石はそう言いつつ酒を飲む。
だがすでに味の事など考えられなくなっていた。
「じゃあ告白すれば?」
「・・・・友成君1997年生まれだよ?私なんか1938年進水だし・・・・友成君から見れば76歳のおばあちゃん・・・今の年代に当てはめたら24歳だけど7歳差だし友成君も同年代の子か赤城さんたちみたいな綺麗な人とか吹雪ちゃんみたいな可愛い子が良いはずだし・・・・機械系の私なんか。」
明石は再び酒を飲む。
そして空になったグラスに再び酒を注ぎまた飲む。
それを繰り返していくうちに明石は目に見えて顔を赤く照らし酔っていた。
大淀の気の所為ではなく明らかに酒を飲むペースが増している。
そのことを危惧した大淀は明石を止めようとした。
「あ、明石?そんなに飲むと二日酔いになるわよ?」
しかし時すでに遅し。
明石は飲み干したグラスを乱暴に机に叩きつけると大淀を睨んだ。
「なによ!自分は友成君とカレー大会に出てちゃっかり手料理も食べて頬を緩ませちゃって!!相当いい気でしょうね!!」
大淀は頭を抱えた。
明石は何かを貯め込みやすい傾向にあり大淀は昔から酒に酔った明石の噴火を経験していた。
しかし明石も本気で大淀に対して怒っているわけではなくガス抜きをしているだけだということを知っている彼女は普通に対処する。
「確かに美味しかったけど明石も食べたでしょ?」
「私も友成君と料理作りたいー!」
相当不満だったのだろう、明石は駄々っ子の様になってしまった。
しかし大淀も長年の付き合い。
そんなことに動揺はしない。
「だったら誘えばいいじゃない。」
「それが出来たら苦労しないわよ~!!」
最早めんどくさい酔っ払いと化した明石に大淀はこめかみを押さえた。
今までの明石なら「○○がでないー!」だの「○○が△△でー。」だの機械系や提督への不満などの物が多かったが今回は色恋沙汰である。
大淀は過去に一度そういう話題についての相談を受けたことがあるが耐性が無いため今回もどう対処したらいいのか分からなくなった。
明石の戯言を右から左へ受け流していると明石は勝手に酒を浴びるように飲みながら終いには酔いつぶれ眠ってしまった。
「はぁ・・・・昔から貯め込み型なのよね・・・・・。」
大淀は明石が散らかした酒瓶を片付けながら溜息をついた。
何と明石は一升瓶を丸々一本空けていた。
大淀が酒瓶を片付けつつ明石をどうするか考えていると、丁度ある人物が部屋に入って来た。
「大淀さん?まだ起きていたんですか?」
「中佐、どうしたんですか?」
「いや、軽巡寮から無線で騒いでるのがいるって通報を受けて来てみたんですが・・・・明石さんですか・・・・。」
ラフな服装に拳銃などを装備したベルトを付けた姿から見て夜の巡回中だったのだろう。
顔を赤らめながら酔いつぶれて寝ている明石を見た霧先は識別帽を脱いで頭をポリポリと掻いた。
識別帽を被り直した霧先は明石をゆっくりと起こしてから呼びかけた。
「明石さん?こんなところで寝てたらダメですよ?」
「ん~?んぅ・・・・。」
「はい、起きてください。部屋まで運びますので。」
完全に酔っ払いと保護に来た警察官の図である。
霧先が何度か身体を揺すると明石はようやく目を覚ました。
「あ~友成君だ~・・・。」
「はいはい、起き上がって下さい。」
「ん~?ちゅ~。」
「わわっ!明石さん!?」
アルコールのせいで正常な判断を出来ない明石は頬を赤く染めていて呂律も回っていない。
そんな状態の明石は微睡んだ目で霧先を見つめる。
そして突然霧先の頬に熱いキスをした。
霧先は突然の事に驚き、明石と共に後ろに倒れてしまった。
「えへへへへ・・・・友成君大好き~~。」
そう言うと明石はそのまま霧先に抱き着いて胸板に顔を埋めて眠りについてしまった。
霧先と大淀の間に微妙な空気が流れる。
「えっと・・・・僕は明石さんを連れていきますので。」
「あっはい。お願いします。」
霧先は微妙な空気から脱するために明石をおぶって大淀の部屋を後にした。
その後、霧先が明石を連れてやって来たのは軽巡寮に一応完備されている彼の部屋だ。隣には川内型の三人と彼の母、先代神通の部屋がある。
「よいしょ、さてと・・・・一番下でいいかな?」
ポケットから部屋の鍵を取り出しドアを開けた霧先は明石を部屋に置かれた三段ベットの一番下に寝かせた。
そして部屋を出ようとした時に寝ている明石が腕に抱き着いてきた。
「いや・・・・・・。」
「明石さん・・・・。」
恐らく夢でも見ているのだろう、寝言を言う明石を振りほどく気になれなくなった霧先は装備を空いている方の手で外して識別帽を深くかぶると三段ベットにもたれ掛ったまま眠りについた。
そして当然のごとく青葉に現場を撮影されすぐに鎮守府の全員が知ることとなり霧先は尋問を受けることとなった。
その中でもサウスダコタは笑いながらその光景を楽しみながらコーラを飲んでいたそうな。
青葉は当然ボロ雑巾の刑に処された。
後日、明石は比較的積極に霧先と話すようになったとか。
その頃、遠く離れたマリアナ沖海域の水底にはある艦影があった。
旧日本軍の高雄型に近いようだがさっぱりしたその艦影は軍艦とは到底思えなかった。
しかし、艦尾に掲げられた旭日旗がその真っ二つに折れた艦が軍艦であることを証明していた。
現在は魚たちの絶好の住みかとなっているその沈没艦は今はまだ、海底に静かに眠っている。
というわけで明石回でした。
明石さんも可愛いと思います。
次回「一航戦なんて、大ッッキライ!」
霧先と吹雪は第五遊撃部隊を成長させることが出来るのか。