高校生艦長と自衛艦の航海日誌   作:みたらし饅頭

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どうも・・・・。
とある計画や手首をサッカーで打撲したりでかなり掛かりました。
次回も遅いかもしれませんね。


第肆拾伍戦目「一航戦なんて、大ッッキライ! 上」

早朝の横須賀鎮守府には、ある暗号が入電していた。

モールス信号で伝えられた暗号を大淀は紙に書いて解読していく。

暗号の解読が終わった大淀は、その内容を提督に伝えるため作戦指揮室を後にした。

そして執務室に入室してすぐに、暗号の内容を提督と秘書官の長門に伝えた。

 

「暗号の解読、終わりました。FS作戦の次なる目標と作戦詳細の通達です。」

「そうか・・・報告は?」

「はい、作戦目標は駐屯地MO。本鎮守府には空母機動部隊と攻略支援部隊への出撃命令が出ています。」

 

大淀の報告を聞いた提督は少し黙り込んだ後に口を開いた。

 

「分かった。すぐに霧先中佐と梅津一佐に通達してくれ。」

「了解しました。」

 

大淀はそう言った後、執務室を後にした。

そしてその頃、深海棲艦たちも動き出し始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海上では「特殊第一艦隊」と「第五遊撃部隊」が深海棲艦と遭遇し、戦闘を繰り広げていた。

 

「Burning Love!!」

 

金剛の掛け声の後「九一式徹甲弾」が敵艦に命中、これを撃沈した。

 

「Hit!イェーイ!」

 

機嫌を良くした金剛は吹雪にサムズアップをし、吹雪も答えるように親指を立てた。

一方「みらい」艦橋では、霧先がみらいからの報告を聞いていた。

 

「艦長、魚雷音聴知!左15度、計測44ノット、距離3500!接触まで2分30秒!」

 

みらいの報告を聞いた霧先は第五遊撃部隊用の無線を使う。

 

「魚雷音聴知!左15度、計測44ノット、距離3500!接触まで2分30秒!北上、大井は回避行動を取れ!」

 

霧先の無線が聞こえた後、全員が伝えられた方角を見ると、確かに魚雷の雷跡が確認できた。

 

「北上さん、左!」

「ほーい!」

 

大井と北上は互いの手を掴んで回転し、雷撃を回避する。

その動きは、フィギュアスケートかと思うくらいに決まっていた。

 

「あっ、お二人とも!あんまり無茶しないでくださいね?明日にはMO攻略に参加しないといけないんですから。」

『出来るだけ被害は軽減したい。僕からもお願いしますよ。』

「分かってるよぉ~。」

「そうそう、明日はも~っと素敵な北上さんを見せてあげるからね。」

 

少し無茶をした北上と大井に、吹雪と霧先が注意する。

それを聞いた北上と大井は理解していることを主張した。

 

「うぅ・・・楽しみです・・・。」

『・・・・損傷は勘弁してくださいよ?』

 

吹雪と霧先は苦笑いをしつつ戦闘に戻る。

 

(装備の調整に出てばったり遭遇戦になっちゃったときはどうしようかと思ったけど・・・よかった、これなら・・・・。)

 

吹雪が現在の状況を振り返っていると、言い争う声が後ろから聞こえてきた。

 

「じゃまよそこの元戦艦!!」

「え?」

 

吹雪が振り返ってみると、そこでは加賀と瑞鶴が喧嘩していた。

 

「五航戦如きに譲る進路はありません。」

「いいから退いて!!」

『貴方達は良く飽きずに喧嘩しますよねぇ・・・・。』

 

怒る気の起きない霧先の声がため息とともに無線で流れる。

吹雪も、二人の争いに何とも言えない微妙な呆れ顔をしていた。

 

「いっただき~!」

 

加賀から進路を奪った瑞鶴がご機嫌に弓を構えてから九七式艦攻を発艦する。

 

「よし!そのまま魚雷を!」

 

九七式艦攻は敵駆逐艦に向けて魚雷を投射。

魚雷は真っすぐ敵駆逐艦を捉える。

 

「よしきまった!・・・・えぇ!?」

 

瑞鶴は決まったと思ったが、突然九九式艦爆が爆撃し瑞鶴の手柄をかっさらった。

 

「あぁ!!」

 

瑞鶴は、空を飛ぶ九九式艦爆の識別帯を見て悲鳴を上げた。

その識別帯は加賀に所属していることを示していたのだ。

 

「私の獲物・・・・ぐぎぃ!」

 

瑞鶴は唸り声を上げながら加賀を睨みつける。

一方加賀は知らんぷり。

 

「わぁ・・・すごいですね!」

「皆、優秀な子達ですから。」

 

感嘆を漏らし感想を述べる吹雪に加賀は当然という様子で答えた。

だが瑞鶴は気に入らない様子だ。

 

「もう!あんたの言い方、すごく癇に障るのよね!いっつも!」

「事実だからでしょ?」

「うぎぃい!!」

 

加賀に対して嫌味を言う瑞鶴だが加賀に返された言葉にカチンと来てまた唸りながら加賀を睨んだ。

 

「というか空母のお二人は早く下がってください!こんな接近戦は・・・。」

『吹雪の言う通り、護衛のいない空母はただの標的艦ですよ!「みらい」と「ゆきなみ」のイージスシステムが完全とはいえ被弾の確率を0にしたわけではありません!』

「ふん!大丈夫よこのくらい・・・。」

 

加賀の艦載機に気を取られていた吹雪だったが、現在の状況を思い出し二人に注意した。

霧先も無線で二人に呼びかけるが、瑞鶴はそれを無視した。

吹雪と霧先の言葉を無視した瑞鶴は一人前に出て、艦載機の発艦の準備を進める。

 

「(見てなさい・・・私の艦載機だって・・・!)」

 

艦載機発艦に気を取られていた瑞鶴は周りが見えていなかった。

その時艦橋では警報が鳴った。

 

「艦長!魚雷音再び聴知!三本です!このままでは空母『瑞鶴』に被雷するルート!!」

「何っ!?回避は!?」

「間に合いません!距離5m!!」

 

みらいからの報告を聞いた霧先は、即座にマイクを手に取った。

 

「瑞鶴に向けて左から雷撃!総員衝撃に備え!!」

 

霧先の指示を聞いた吹雪は魚雷を発見する。

そして瑞鶴に向けて叫んだ。

 

「瑞鶴さん!魚雷!」

「えっ?」

 

艦載機発艦に気を集中させていた瑞鶴は、霧先の無線を聞いていなかった。

その為魚雷がすぐそこに来ていることに気づかなかった。

 

「チッ!」

 

誰もが絶望的だと思ったその時、加賀が舌打ちを打って最大戦速で瑞鶴と魚雷の間に割り込み被弾してしまった。

 

「加賀さぁん!」

 

吹雪の叫び声が響き渡る。

「みらい」艦橋も大騒ぎとなっていた。

航海長妖精を筆頭に、全妖精が情報を収集する。

 

「今すぐ雷撃元を判明させろ!」

「待ってください艦長・・・CICから雷撃元は潜水艦だと判明!」

 

みらいから伝えられたCICの報告で、雷撃元が潜水艦だと判明した霧先は即座に指示を出した。

 

「分かった!その潜水艦の撃沈を許可する。」

「了解!前甲板VLS 26番、アスロックへの諸元入力完了!アスロック発射!!」

 

みらいがアスロックに諸元を入力し、発射。

アスロックは数十メートル飛翔しパラシュートを開いて着水。

ソナーで敵潜水艦へと向かう。

 

「アスロック、目標追尾中!命中まで後10秒・・・5秒、4、3、2、1、0!」

 

みらいの0という言葉と同時に海面に水柱が上がる、つまり潜水艦に見事アスロックが命中した事を意味する。

それと同時にレーダーの光点が消え去る。

 

「目標、撃沈しました!」

「よし!至急ロクマルと内火挺の用意!ロクマルを哨戒に当たらせ内火挺で加賀を収容せよ!」

「了解!」

 

霧先はみらいと自衛官妖精に指示を下す。

そして自分も内火挺に乗り込むために装備を取りに艦橋を後にした。

 

 

 

 

 

その頃、横須賀鎮守府では提督と長門が話し合いをしていた。

表情からして良い話題ではないのは確実だ。

 

「本当にそうお思いなのですか提督?」

「あぁ、恐らく奴らに暗号がばれたかもしれない。」

「それならば確かにW島の奇襲が失敗したのも納得ですが・・・。」

「実はな・・・俺の同期に草加という男がいる。そいつは情報のプロでな。草加の情報だと・・・・裏切者がいる可能性がある。」

「裏っ!!」

 

声を上げようとした長門は即座に口を押えた。

今ここで叫べば問題に発展しかねないと即座に考えたのだ。

海軍内部に裏切者がいるとなれば疑心暗鬼になり大規模作戦への支障も考えられる。

 

「このことは内密にな。海軍の誰かが、この鎮守府の工廠長である霧先の暗殺を目的にしているらしい。それに、もう暗殺の準備は整っているという話だ。」

「ということは・・・。」

「近々何かが起こるかもしれん。その時には、お前に一任するぞ、長門。」

「了解です。しかし・・・・。」

 

長門が言葉を繋げようとした時、扉がノックされた。

長門は振り返って怒鳴る。

 

「なんだ!取り込み中だぞ!・・・!」

 

しかし長門は入って来た人物を見て表情を変える。

入って来たのは彼女の妹の陸奥だった。

陸奥は入ってくると手に持っていた紙に書かれた情報を提督に伝えた。

 

「鎮守府沖に出ていた『特殊第一艦隊』旗艦『みらい』艦長、霧先中佐から緊急の打電です!」

「なんだと!?」

 

提督は驚きの余り声をあげて陸奥の報告を聞いた。

 

「救護班!急げ!」

 

鎮守府港内では慌しさが溢れていた。

霧先が自衛官妖精に指示を出し担架を出し、その上に加賀を寝かせてゆっくりと自衛官妖精が運ぶ。

自衛官や所属艦娘たちはそれを驚きの表情で見ていた。

 

「加賀さん・・・・。」

「痛そうなのです・・・・。」

 

暁や電が声を漏らす中、提督たちが駆け付けた。

 

「加賀!」

「随分派手にやられちゃったわね・・・・。」

 

陸奥が言った通り加賀は大破していた。

むしろ意識を保てているのが不思議なくらいだ。

そこに吹雪が声を出した。

 

「私のミスです。旗艦なのにみんなに適切な指示を出せなくて・・・・本当にすみません!」

「自分も、『みらい』艦長、『特殊艦隊』指揮官でありながら事前に危険を察知できなかった・・・・自分も連帯責任です。申し訳ありません!!」

 

吹雪が頭を下げた後、霧先も識別帽を脱いで深々と頭を下げた。

だが加賀はそれを否定し、担架から起き上がった。

 

「いえ、遭遇戦になったのは事故のようなもの。そこで出過ぎて被弾したのは私の失態です。面目次第もありません。」

 

そう言って加賀は頭を下げた。

だが瑞鶴は異を唱える。

 

「格好・・・つけないでよ・・・・。」

 

全員が瑞鶴の方を見る。

彼女は微かに震えていた。

 

「あんたは私の代わりに被弾したんじゃない・・・一番悪いのは旗艦の吹雪でも『みらい』艦長の友成でもなくて油断して出過ぎた私なのに・・・・どうして責めないのよ!!」

 

瑞鶴はなぜ自分を責めないのか問う。

加賀はそれを諭した。

 

「勘違いしないで。あなたがあの無防備な体勢で被弾したら・・・恐らく轟沈していたわ。でも、私は被弾個所を選べたし、それで沈まずに堪える自信はあった。それが例え五航戦でも提督や工廠長の編成する艦隊の貴重な戦力を失うわけにはいきません。私はあの絶望的な瞬間に見えた僅かな希望にかけただけ。そして勝ったわ。」

 

そう言う加賀に瑞鶴は反抗した。

 

「なっ、なによ!そんなボロボロのくせに!なんでそんなに偉そうに!」

「落ち着いてください瑞鶴さん!」

 

食って掛かる瑞鶴を霧先が止めに入る。

そこに金剛が入って来た。

 

「Hey Hey Eveybody、落ち着きマショー。被弾したのはbad workダケドー・・・高速修復材を使えバお湯を沸かす前にTea timeは終わりネー!」

 

金剛の案は良いものだった。

しかし金剛の案は利根によって廃棄されることとなった。

 

「すまんが・・・それは無理じゃな。」

「どうして?Why?」

「それは工廠長に聞いてみるが好い。」

 

金剛の問いに利根が答えた。

すると全員が霧先を見る。

 

「・・・・実はFS作戦の発動以来、日本海軍の勢力範囲自体は拡大しています。ですが、それは同時に補給線が伸びていることを意味します。燃料や鋼材はまだ逼迫していませんが・・・出撃が増えているせいもあってか、高速修復材が底をついているんです。現に先日被弾した赤城さんも、おかげで未だドック内に入渠しているという有様です。」

「Supplyは大切ナノニ~・・・。」

 

霧先の現状の報告に金剛は落胆する。

高速修復材が無くなれば戦力の減少につながる。

そのため現在の状況はかなり危機的だ。

 

「加賀さんもこの様子ではMO攻略作戦には間に合わないでしょう。本作戦の要は航空戦力。『みらい』や『特殊艦隊』では代替は・・・。」

「どうしたものか・・・・。」

 

霧先と提督が頭を悩ませているとある人物が名乗りを上げた。

 

「私が行きます。」

「翔鶴姉!」

 

瑞鶴の姉である翔鶴だ。

翔鶴は加賀に対して礼を述べた。

 

「加賀さん、瑞鶴を守って下さったこと。本当に感謝しています。」

「さっきも言いましたが、別にお礼を言われるようなことではありません。」

 

だが加賀はそれを否定した。

翔鶴は提督と霧先の前に立ち具申した。

 

「提督。どうかお願いします。この翔鶴を加賀さんの代わりに出撃させて下さい。」

「ふむ・・・・。」

 

提督は顎に手を当てて考え込んだ。

そして少し考えた後、霧先に問いかける。

 

「霧先中佐。君はどうだ?」

 

問いかけられた霧先は自衛官たちの方を向き、言った。

 

「・・・柳一曹。どうでしょうか?」

「はっ!本作戦の概要から考えて加賀の損失は大きな損害です。本来の艦艇ならば加賀は60機、翔鶴は72機と加賀の代用には十分です。しかし艦娘である現在は加賀が98機、翔鶴は84機、戦力は多少劣りますが、持ち前の加賀以上の馬力を使えば『みらい』と共についてくることも可能。第五遊撃部隊の編成を考慮し本作戦の内容である一気に突入し援護したのちに即退却を遂行するには一番最適かと思われます。」

 

柳は持ち前の知識を活用し、代替が効くかどうか判断する。

結果、翔鶴は加賀の代わりに十分だという結論にたどり着いた。

 

「とのことです。柳一曹の言葉通り、数値上なら翔鶴さんに代わりは十分に務まるはず・・・・自分は賛成です。」

「・・・・了解だ、この件は一旦持ち帰る。総員解散!加賀は早急に入渠せよ!」

「「「「了解しました!」」」」

 

提督の言葉の後に全員がそれぞれの持ち場へと戻り、加賀は自衛官妖精によって担架で入渠ドックに運び込まれた。

その後、吹雪は友人である睦月、夕立と共に中庭の階段に座り込んでいた。

が、先程の出来事を嘆いているようだった。

 

「あうぅうあうううううぁぁあああううぅぅぅ・・・・。」

「吹雪ちゃん大丈夫?」

「うぅ・・・多分。」

「多分って・・・・。」

 

頭を抱えて嘆く吹雪に睦月が声を掛ける。

そして吹雪の答えに夕立が苦笑いをした。

 

「だってだって!旗艦やれって言われてすっごく悩んで・・・それでも最近ちょ~っと上手くいくようになったかなぁって思ってたら・・・・初めての作戦の直前にこれだもん・・・しかもみらい先輩と工廠長の前で・・・あぁ~ってなるよ・・・。」

 

吹雪自身、旗艦に任命され霧先や提督に応えるため必死に頑張っていた。

最近は調子よく事が進んでいたのにこうなってしまった以上、吹雪の心的負担はかなりのものになるだろう。

 

「なんかね?口喧嘩ばっかりしてるけど・・・加賀さんと瑞鶴さんっていつかすっごくいいコンビになるんじゃないかって勝手に思ってたんだけどな・・・はぁ・・・やっぱり無理だったのかなぁ・・・私に旗艦なんて・・・・・。」

 

吹雪は完全にネガティブな思考になってしまい溜息をつく。

それを聞いていた睦月と夕立はフォローを入れる。

 

「それは無いっぽい?」

「うん!私もそう思うよ?だって吹雪ちゃん頑張ってたもん!私も夕立ちゃんも知ってるし、きっと私たちなんかより第五の皆や工廠長たちの方がもっといっぱい気付いてるよ!」

「そうかなぁ・・?」

 

未だ不安そうな吹雪に夕立が一押しを掛ける。

 

「そうだよ!じゃなきゃあのすっごい曲者っぽい人達なんて速攻解散してるっぽい!」

「ゆ、夕立ちゃん・・・・・ともかく!吹雪ちゃんの力で第五遊撃部隊は成り立ってるんだよ!」

「・・・・ありがとう!睦月ちゃん、夕立ちゃん!やっぱり友達って嬉しいね!」

 

吹雪は睦月と夕立のフォローのおかげで立ち直り元の明るい表情になる。

元気を取り戻した吹雪は早速寮へ戻ることにした。

一方、寮では瑞鶴がタオルで作ったウサギを突いていた。

その時、ドアがノックされ、吹雪が入って来た。

 

「あのぉー。」

「うっ!な、なに!?」

 

突然吹雪が来たため、瑞鶴は慌てて立ち上がり左手でウサギを隠し、吹雪に何をしに来たのか尋ねる。

 

「いえ、どうしてるかなぁって。」

「私は誰かさんのおせっかいで無傷だもん。全っ然大丈夫よ!」

 

心配する吹雪とは違って瑞鶴の怒りはまだ収まっていないように見えるが吹雪は瑞鶴の手に隠されたウサギを見つけた。

 

「瑞鶴さん・・・。」

 

瑞鶴に言葉を掛けよ打ちした吹雪をブザー音が遮る。

そして、大淀の館内放送が流れた。

 

『通達です。「第五遊撃部隊」、駆逐艦「吹雪」並びに工廠長「霧先中佐」。執務室に出頭してください。』

「・・・・あっ!瑞鶴さんすみません!失礼します!」

「え?う、うん・・・。」

 

放送を聞いた吹雪は瑞鶴に言葉を掛けてから寮を後にした。

残された瑞鶴は、再び椅子に座り、ウサギを突き始めた。

途中、執務室に向かう吹雪は内心、不安でいっぱいだった。

 

(工廠長も呼ばれてたけど・・・・司令官と工廠長から怒られるのかなぁ?加賀さんの事・・・。)

 

そんな不安を抱えながら吹雪は歩みつつ、執務室前に到着した。

目の前にある扉が何時にも増して大きく感じるが吹雪は腹をくくった。

 

(でも、仕方ないよね!私が旗艦なんだから!)

 

そう考えた吹雪は息を吸い込み大声を出す。

 

「駆逐艦『吹雪』!入ります!」

『入ってくれ。』

 

中から提督の声が聞こえてから吹雪は扉を開けて中に入る。

既に霧先は、いつもの「腹を割って話そう」と白で書かれた黒地のTシャツにジャージズボンと識別帽のスタイルで中に待機していた。

そんな緩い服装の霧先とは違って、吹雪は緊張のあまりに、手と足が一緒に出ていたり古いブリキのおもちゃのようにぎこちない動きで歩く。

 

「手と脚が一緒に出ているぞ?」

「あぐっ!」

 

長門に指摘された吹雪はその場で止まった。

丁度、目の前には応接用のソファーと机が置かれている。

 

「そう緊張しなくてもいいよ、吹雪。僕も提督も、君を叱るつもりじゃないから。」

「その通りだ。逆に、提督も工廠長も、あの面子を良くまとめていると褒めておいでだ。」

「えっ?・・・本当ですか!?」

 

吹雪が驚き、聞き返すと長門は頷いた。

そして、言葉をつづける。

 

「だからこそ、お前に聞く。提督は明日の作戦、加賀の代わりに翔鶴を入れるか否かをお前の判断に任せるそうだ。」

「さっきの行動の一部始終と僕の経験から考えるに・・・いくらいがみ合っていても、仲間が目の前で死の危険にさらされたのを目の当たりにした瑞鶴さんのメンタルも気になる。姉である翔鶴さんを入れれば危険も・・・・やれるかどうかの判断は、旗艦である吹雪、君に任せる。」

「それは・・・・・。」

 

長門と霧先から課せられた選択肢に吹雪は考え込む。

瑞鶴も本気で加賀を嫌っているわけではない。

ただ単にお互いが素直になれないだけなのだ。

瑞鶴も本当は心配している。

そう考えた吹雪は練度の問題よりも瑞鶴の姉である翔鶴を心の負担の緩衝材として編入し、作戦を成功させ、その後に瑞鶴の心を整理する時間を作ろうと考えた。

そして、霧先達に答えた。

 

「やれます!」

「分かった。提督、自分は吹雪の考えに賛成です。よろしいですか?」

 

霧先は吹雪の眼差しを見た後、提督に問う。

 

「元よりそのつもりだ。現時刻を持って空母『加賀』を『第五遊撃部隊』から除隊させ、代わりに空母『翔鶴』を編入する。」

「了解です。・・・・吹雪。」

「はい、何でしょうか工廠長?」

 

吹雪の名を真剣な顔で呼ぶ霧先に吹雪は応答する。

そして霧先から、とんでもないことが告げられた。

 

「実は明日の作戦に関して・・・いや、昨今の深海棲艦との戦闘において、話しておくことがあるんだ。なんせ・・・提督が気付いたかなりまずい事態だからね。余計な混乱を避けるべく、各艦隊の旗艦にのみ、伝える事項だ・・・。」

 

そして霧先は吹雪に事を説明し始めた。

 

 

 

翌日、夕張ら「第三艦隊」がMO攻略本隊として出撃ドックにいた。

 

「『第三艦隊』旗艦、夕張。出撃します!」

 

夕張がプレートに乗り、艤装を装着した後、問題なく海に出た。

そして「第三艦隊」は無事、MOに向けて出港した。

それは作戦指揮室でも確認されていた。

 

「『MO攻略支援隊』が出撃しました。」

「他の鎮守府からはどうだ?」

 

提督に尋ねられた大淀は手元の書類を読み上げた。

 

「はい、予定通り、『MO攻略本隊』として軽空母『祥鳳』と重巡『青葉』、『古鷹』『加古』『衣笠』。また、援護部隊の軽巡『天龍』、『龍田』らも既に先行しているとのことです。」

「よし、ここまでは計画通りだな。続けて『第五遊撃部隊』と『特殊第一艦隊』に出撃命令を!」

 

提督は手元の駒を海図に置きつつ、大淀に指示を下す。

それと同時に、出撃ドック内に大淀の放送が響く。

 

『「第五遊撃部隊」は出撃位置へ!』

 

放送を聞いた吹雪は皆に声を掛けた。

 

「皆さん!頑張りましょう!」

 

吹雪の言葉に全員が頷いた。

そして瑞鶴は翔鶴に謝った。

 

「翔鶴姉、ごめんね?」

「もう、何言ってるの。私は瑞鶴と一緒に出撃出来て、本当に嬉しいのよ?一航戦のお二人が出撃できない今こそ、私たち五航戦が頑張らないと。」

 

瑞鶴に囁くように言った翔鶴は大きな声を出す。

 

「さぁ!行くわよ瑞鶴!」

「うん!翔鶴姉!」

 

そして、出撃ドックのエレベーターが降り、プレートが出てくる。

 

「『第五遊撃部隊』、出撃します!!」

 

旗艦である吹雪の言葉の後、全員が無事、艤装を装着し、鎮守府を出港した。

そしてそれを確認した「みらい」でも出港準備は進んでいた。

 

「艦長。『第五遊撃部隊』の出撃を確認しました。予定時刻通りです。」

「了解。」

 

みらいの報告に霧先は短くそういうとマイクを手に取った。

 

「こちら旗艦『みらい』艦長、霧先。『ゆきなみ』、『伊152』。応答せよ。」

『こちら「ゆきなみ」。感度良好なり、出港準備も完了です。』

『こちら「伊152」。「ゆきなみ」とのケーブル接続確認、いつでも行けます。』

 

僚艦の報告を聞いた霧先は指示を出した。

 

「了解。これから横須賀港を出港する。本作戦は戦闘が激化する可能性も視野に入れている。各艦、全力を持って作戦の遂行に当たれ!」

『「ゆきなみ」了解!』

『「伊152」了解!』

「全艦、機関全速!」

 

霧先の言葉の後、「みらい」と速度の関係上で「伊152」を曳航する「ゆきなみ」のガスタービンの特有の音が響き渡り、横須賀港を出港した。

 

丁度その頃、赤城と加賀は入渠ドックで入渠していた。

加賀は何かを心配している様子で赤城が声を掛けた。

 

「そろそろ出撃している頃ですよね?」

「そう?私は特に気にしていなかったのだけれど。」

 

少し早口で目線をそらす加賀に長年の付き合いである赤城は一瞬で嘘をついていることを見破った。

そのため赤城は指摘こそしないものの、心配を拭う言葉を投げかける。

 

「大丈夫、貴方が守った子達に、友成君たちですもの。きっと戦火←戦果を上げてくれるでしょう。」

「別に守ったつもりなど・・・。」

 

加賀は否定するが、赤城にとって、その様子は可愛い嘘を必死で隠そうとする子供と一緒であった。

その為、赤城は笑いだす。

 

「ウフフ・・・それよりも、あの子たちに感謝しないとね。」

「え?」

 

言葉の意味を理解できない加賀は間の抜けた声を出す。

赤城はその様子を楽しみながら教えた。

 

「久し振りですもの。貴方とのこういう時間は。」

「あっ!な、なにを言うの・・・・。」

 

辺りをキョロキョロと何度も見まわし、自分たち二人だけで言葉の意味合いを理解した加賀は顔を赤らめて俯いた。

その様子を楽しんでいた赤城だが途中から真剣な顔になる。

 

「ところで加賀さん。友成君の『素質』が分かるかしら?」

「『素質』?何のことです?」

 

またしても加賀は理解できない言葉を投げかけられ聞き返す。

赤城は説明し始めた。

 

「加賀さんも知っているでしょう?友成君の母、先代神通さんの別名。」

「確か・・・・『毒蛇の神通』でしたよね。」

 

毒蛇の神通とは霧先の母、先代神通のかつての呼び名であった。

どんな対象でも蛇のようにしつこく狙い。

どんな対象でも毒のように必ず仕留める。

その様子から「毒蛇の神通」と揶揄された。

それ故、深海棲艦の間でも、「決して出会ってはいけない海の魔物」とされてきた。

これは鎮守府内でも知る者は半分ほどしかおらず、後に着任した艦娘は噂程度でしか知らない。

 

「えぇ、そう。大和型と長門型、伊勢型の艦隊でも勝てることのできない軽巡洋艦。最凶で最悪の戦闘狂とも呼ばれた彼女。その息子の友成君は『素質』があると思われます。短期間での軍事世界、戦闘への順応、それが大きな要因です。それに彼は・・・・・かつて目の前で父親を殺されたそうです。」

「目の前で!?」

 

加賀は驚きのあまり口に手を当てた。

赤城はそのまま話を続ける。

 

「余りにも身勝手な人間による通り魔だったそうで・・・私や加賀さんも目の前で姉妹を無くしたことがあります。ですがそれは鉄の時。友成君は生身のまま自分の親の死を幼いころに経験している。もしその『爆弾』が爆発したとき・・・・神通さんの『素質』を持つ友成君がどうなるか・・・。」

 

赤城の言葉に加賀は唾を飲み顔を青ざめさせ冷や汗をかいた。

彼女の脳裏には血まみれで腕や脚を無くしても笑いながら64式小銃を持ちながら戦う霧先が浮かび上がった。

 

「もしそうなった際に止められる艦娘は限られます。なので彼の心的状況を、危惧しなければならないかもしれません。彼が本気で怒ったところを見たことが無い故、尚更ね。」

「分かりました。提督にも具申しましょう。」

「えぇ、加賀さんならそう言ってくれると思っていたわ。」

 

こうして赤城と加賀の友成への対処が進められる事となった。

そして同時刻。

作戦海域近くではヲ級を中心とする艦隊が展開していた・・・・。




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