高校生艦長と自衛艦の航海日誌   作:みたらし饅頭

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ちょっと前回の最期を修正しました。
ご覧になっていない方はご確認いただければ幸いです。


第肆拾玖戦目「ホテルじゃありません! 下」

吹雪たちがトラック諸島に到着した翌日。

中佐である霧先と最高指揮権を持つ長門からしばしの間、休暇を言い渡された艦娘たちは近くの浜辺で休息を楽しんでいた。

 

「おっおお~速いでしょ!」

「相変わらず速い速い煩いわねぇ・・・。」

 

フリフリのフリルが付いた可愛らしい水着を着た大井がサーフィンで最速を目指す島風を煙たがっていると北上がやってきた。

 

「お待たせぇ~。」

「北上さん!その水着わッ!!」

「ダメかな?可愛いかなって思ったんだけど。」

 

北上は北上で黄緑色の水着を着用していた。

大井ほど大きい胸ではないが健康体と思える身体が彼女の魅力を引き立たせている。

 

「凄く可愛いです!凄く凄く可愛いです!!ですが・・・。」

 

大井はいまにも鼻血を噴き出しそうな勢いで言う。

だが即座に冷たい目になり周囲を見回した。

 

「冷たいのです!」

「これくらい我慢しなきゃ!」

「さぁ、行くわよ~。」

「ちょっと待ちなさぁ~い!」

 

周りでは電や雷、愛宕、高雄といった艦娘たちが休息を楽しんでいた。

 

「こんなたくさんの人に北上さんの水着を晒すのはちょっと・・・向こうに行きません?二人っきりで・・・。」

「それはできませんよ大井さん。」

 

大井が北上と二人っきりになろうとしていると霧先が待ったをかけた。

霧先も半袖のカーゴパンツタイプの水着姿で水着についているベルト通しにベルトを通して腰に拳銃を装備していた。

持っている拳銃もホルスターも、普段とは違ってニューナンブM60とこの時代の警察で採用されているオープンタイプホルスターだ。

 

「チッ・・・・・邪魔しないでくれます?」

「どう言われようとも無理です。最悪の事態に備える為なので我慢をお願いします。」

「まぁまぁ大井っち、騒がしいのもいいじゃん?」

「北上さんがそう言うなら・・・。」

 

霧先がてこでも動かないとしていると北上が大井にここで我慢するように促す。

北上の言うとおりにしてしまう大井は素直に受け入れた。

 

「というより・・・すごいねあの胸。同じ感娘とは思えないね。」

「え、えぇ・・でも大きければいいというものでは・・・あっ!」

「オウフ・・・・。」

 

北上が愛宕と自分の胸を比較して少し気が滅入っていると大井がフォローしようとした。

だが大井は視線に入ったもので言葉を詰まらせた。

同時に霧先も驚愕した。

 

「すごい・・・。」

「上には上がいますね・・・・。」

 

北上と霧先がそういうのも仕方がない。

三人の視線の先には少々派手な水着を身に着け、その豊満な胸を見せつける大和がいた。

 

「さぁ、早く早く。」

「泳ぐっぽいよ~?」

 

吹雪と夕立は大和を催促し、睦月は見守っている。

これは三人で考えたことで親睦をより深めようとしているのだ。

だが、その瞬間、大井がカチンときた。

 

「ど、どうでしょう?あちらに行かれては・・・というかいって下さい。」

「全くこの人は・・・・。」

「じゃあ、あっちにしましょう・・・。」

 

大井が暗い笑みを浮かべる横で霧先は頭を抱えた。

吹雪は素直に受け入れることにし、大和と少し離れたところに行こうと大和の背中を押す。

 

「・・・吹雪って泳げたっけ?念のためについていこう。」

 

霧先も吹雪たちについていくことにし、二人の傍を離れた。

 

「さぁ、大和さんも泳ぎましょう。」

「でも私・・・お昼の会食もありますし・・・。」

 

少し離れたところに着いた吹雪は早速泳ごうと大和に働きかける。

だが大和は会食があるからと断ろうとする。

 

「あとで睦月たちが手伝います。」

「早くおいでよ!冷たくて気持ちいっぽいよ!」

「ね?」

「はぁ・・・じゃあ少しだけ。」

 

睦月と夕立も一緒に頼み込んだおかげで、大和も折れ、泳ぐことにした。

するとここぞとばかりに吹雪が提案した。

 

「それで!思い切って艤装をつけて海に出てみません?そっちの方が気持ちいいと思うんです。私たちも一緒に出ますから。」

「で、でも・・・。」

「それは許可できない!」

 

大和が吹雪に押され気味になっていると声が響いて来た。

四人は声が聞こえた方を振り向く。

 

「工廠長・・・さん。」

「長門さん・・・。」

 

声が聞こえた方向に立っていたのは霧先と長門だった。

 

「この前進基地から出ることは認められん。」

「それに、大和さんの艤装は現在オーバーホール中、組み立てが終わるのも夕方だから無理だよ。」

 

長門と霧先の二人から止められては吹雪も言い出せなかった。

 

「大和。」

「はい・・・ごめんなさい。」

 

長門が呼ぶと大和は謝ってからその場を去った。

 

「大和さん・・・。」

「吹雪、余計なことはするな。」

 

長門は吹雪にそう言い残して大和と同じく戻っていった。

霧先も少し申し訳なさそうな顔をしてその場を去る。

その晩、吹雪は浴場でふてくされていた。

 

「納得できない!」

「しょうがないよ。長門さんや工廠長さんがああ言ってるんだもん。」

「じゃあ、睦月ちゃんは長門さんがあのままでいいと思ってるの?大和さんは戦艦なんだよ?ホテルの支配人じゃないんだよ?」

 

吹雪は睦月に質問を投げかける。

吹雪自身、境遇が似ている大和に同乗しているのだろう。

 

「じゃあ、どうするっぽい?」

「それは・・・わからないけど・・・。」

 

髪を洗っている夕立に打開策を聞かれると考えていなかった吹雪は言葉を詰まらせた。

その頃工廠では、霧先がオーバーホールと調整が終わった大和の艤装を磨いていた。

 

「・・・・。」

 

大和の艤装を磨いている手を止めると、霧先は台の上に置いていた艤装を台車に乗せて運ぶ。

そして艤装を艤装保管庫に収納すると、服を着替えると油で汚れた手を洗ってから工廠を出た。

吹雪は入浴を済ませて部屋で窓の外を眺めていた。

 

「吹雪ちゃん。まだ寝ないの?」

「うん、すぐ寝るから。先、寝てて。」

「うん、じゃあお休み。」

「ぽい~。」

 

睦月と夕立は言葉をかけてから電気を消してベットに入った。

吹雪は暗くなった室内から外を見ていた。

月明かりに照らされて明かり無しでもよく見える。

 

(しょうがないことなのかな・・・でも・・・。)

 

吹雪が考え込んでいると、外で大和が浜辺に向かって歩いているのを見つけた。

気になった吹雪はすぐに着替えてから部屋を出て、大和の後を追った。

大和は一人で海を眺めていた。

その後ろから声を掛けられた。

 

「大和さん。」

「吹雪ちゃん!」

 

大和の後ろには吹雪がいた。

吹雪はゆっくりと大和に歩み寄った。

 

「やっぱり、出てみたいんですよね。海。」

「あっ・・・はい、でも・・・。」

 

大和は断ろうとしたが吹雪はその隙を出さなかった。

 

「ちょっとだけ、出てみませんか?」

「えっ?」

「海は素敵です。皆と一緒に海に出るのはいいことです。大丈夫です、今ならだれもいないし。」

 

大和は吹雪の誘惑に揺れていた。

だが二人は後ろからくる人影に気づいていなかった。

 

「誰もいないかどうかは確認してから言うべきだね。」

「あっ!工廠長!こ、これは・・・!」

 

突然現れた霧先に吹雪はなんとか言い訳しようとした。

だが霧先は起こった様子ではなくヤレヤレと呆れた様子だった。

霧先は吹雪に近づいて言った。

 

「吹雪、僕は別に何も怒ってないよ?ただ最終調整のためにテスト航海が必要だから大和さんの補助に君を呼んだんだから。」

 

吹雪は一瞬、霧先の言うことが理解できなかったがすぐに理解した。

霧先が自分の役職を利用して大和が海に出てみる手助けをしたのだ。

 

「さぁ、大和さん。早速テスト航海を始めましょう。すでに艤装は保管庫にあるので展開できますよ。」

「・・・・ありがとうございます、霧先二佐。」

 

大和は霧先に礼を言った。

その横で、吹雪は浜辺に近づくと意識を集中させて艤装を展開しようとした。

吹雪の周りに光の粒子が無数に出来上がると、それが艤装の形に集合していく。

そして光が消えるころには艤装が装着されていた。

大和も同じように艤装を展開した。

吹雪は現れた艤装に圧倒されていた。

 

「凄い・・・・本当にすごい装備ですね!これが46㎝砲・・・。」

「え、えぇ・・・でも、本当に大丈夫?」

「はい!さぁ、ゆっくり行きましょう。脚を水につけて、歩くように。」

 

吹雪は大和の手を取って海に出た。

少し離れたところまで、転ぶこと無く進めた二人は月明かりに照らされる海の上に確かに立っていた。

 

「どうですか?」

「吹雪ちゃん・・・。」

「はい?」

「あの・・・大変言い難いのですが・・・。」

「えっ?何です?」

 

吹雪は大和に感想を聞いた。

だが彼女も大和が言う言葉が出てくるとは考えもしなかっただろう。

 

「お腹が・・・空きました。」

「・・・・へっ?」

 

霧先と吹雪は共に大和の言葉と腹の虫の鳴き声に間の抜けた声を出すしかなかった。

とにかく大和の空腹をどうにかしなければならないと考えた霧先と吹雪。

基地の厨房と食堂を借りて料理を作ることにして、霧先は準備、吹雪は人手を補うために睦月と夕立を起こしに行った。

途中、匂いにつられた赤城も参加。

大和と赤城が食事するという状況が完成してしまった。

一心不乱に米を口に運ぶ赤城と大和。

2人の目の前にはそれぞれ山の様に盛られた肉じゃががあった。

しかもお椀にも山盛りの米がある。

 

「す、すごい量・・・。」

「赤城先輩よりも多いなんて・・・。」

「ぽい~。」

 

睦月と吹雪、夕立が、二人の食事の量に驚いていると二人から空の茶碗が差し出された。

 

「お代わりください。」

「私も頂けますか?」

 

なんとあれだけ山の様に盛った量の米が無くなったのである。

流石に三人も驚くしかない。

 

「え、えっと・・・。」

「もう無いっぽい~・・・。」

「えぇ!?30人分を一気に炊いたんだけど!?」

 

たじろぐ吹雪に夕立がもう白米がないことを知らせる。

調理していた霧先は30人分の米が無くなっているわけがないと思って窯を覗くが、窯の中は米粒一つ残っていない状況だった。

 

「うっそぉ・・・・。」

 

霧先が目の前の状況に愕然としていると、扉が強く開け放たれた。

 

「な、長門さん・・・。」

 

長門は鋭い目で周囲を見て状況を理解した。

そして吹雪らに視線を戻す。

 

「吹雪、霧先中佐!」

「はっ、はい!!」

 

霧先と吹雪は返事をした後、外に連れ出された。

そして人気のない建物の陰まで連れて来られると事情を説明する様に言われ、事情を説明した。

 

「やはりか・・・。」

「すみません・・・まさか、こんなことになるなんて。」

「自分も、管轄でありながら、部下の組み立てミスがあったことに気づけていませんでした。申し訳ありません。」

 

吹雪はうつむいたまま謝罪し、霧先は識別帽を脱いでから深々と頭を下げて謝罪をした。

実は今回の大和の空腹感の原因、それは艤装にもあった。

組み立ての際、担当の妖精が間違って組み立ててしまったため、余計に燃費が掛かるという高燃費になった。

そのため、艤装を動かす本人が必要以上の空腹になり、艤装を動かす燃料や弾薬も多くなってしまうという結果になってしまったのだ。

 

「整備班のミスもあったけど・・・大和は睦月型みたいな駆逐艦と違って低燃費とはいかないの。動かす燃料は多いし、弾薬も砲が大きい分、多くなるわ。それ故、運用には慎重性が求められるの。」

「最重要艦なだけに、ダメージを受けて大量の資材を消費することだけは避けたい。現に、みらいと対峙した武蔵が大量の資材を消費しているからな。」

「そういうことだったんですね・・・。」

 

長門が許可しなかった理由を聞いた吹雪は自分のしでかしたことの重要さに気づいて消沈する。

 

「霧先中佐に話さないように口止めしていたことは私のミスだ。だが箱入り娘となってしまっている事は私も分っている。問題が解決され次第、実践に投入されることになるだろう。」

「じゃあ、いずれ一緒に!」

「ああ、いつと約束できないがな。」

「ありがとうございます!」

 

長門の言葉に吹雪は嬉しくなりお礼を述べた後に頭を下げる。

だが軍に所属している以上、これでは終わらない。

 

「だが、規律を破ったのは事実だ。霧先中佐と共に罰を受けて貰う。」

「えっ?」

「ですよねー・・・分ってましたけど。」

 

二人の罰は翌日から施行されることとなった。

その罰とは、規定の量の貝類を収集してくる「潮干狩りの刑」だった。

翌日早朝、二人は作業を始めた。

霧先はいつもの動きやすいスタイルで拳銃などをつけたベルトは置いてきていて、吹雪は普段はランニングなどで使用する青い短パンと黄色のパーカー姿で潮干狩りに挑んだ。

そして時は進み、開始してから3時間が経ってもまだ規定の量まで達していなかった。

 

「はぁ、まだこれだけか・・・。」

「二人でもこの量はいい方だよ。さぁ、続けよう。」

 

ドラム缶の中に貝を放り込んだ二人は黙々と作業を続けた。

すると吹雪が不意に歌い始めた。

 

「あっさりー、しじみー、はーまぐーりさーん・・・。」

「ブフッ・・・何故にはまぐりだけ『さん』付け・・・。」

 

霧先は吹雪に聞こえないように突っ込みながら笑いを堪えていた。

そんな潮干狩りをしている二人に足音が近づく。

気になった二人が見てみるとそこにはバケツと熊手の所謂「潮干狩りセット」を持った大和が立っていた。

 

「大和さん!」

「どうしてここに?」

 

吹雪と霧先は突然現れた大和に驚いてやってきた理由を聞いた。

 

「私も手伝います。」

「えっ!?いいですよ、私が勝手にやったことだし・・・。」

「僕も自分の役職を応用して偽装したので・・・。」

 

吹雪と霧先が断るが大和は微笑んでいった。

 

「手伝いたいんです。霧先二佐は言いましたよね?自分のしたいことをしろと。」

「あれま、いいように使われちゃいましたか・・・。」

 

霧先はやらかしたといわんばかりに後頭部をガシガシと掻いた。

吹雪も大和の想いに応え、一緒に潮干狩りを始めた。

 

「私、この島に来た時から毎日一度はここにきて海を眺めていたんです。あの時と変わらない海を。」

「大和さん・・・。」

 

吹雪は静かに大和の話を聞いた。

 

「私だって艦娘です。皆を守るために存在しています。だから、ホテルみたいなんて言われると寂しくなります・・・。でも、今は仕方ありません。来るべき日までここで精いっぱい頑張ります。・・・だから、もう大丈夫です。ありがとう。」

 

大和の気持ちを聞いた吹雪は嬉しい気分になった。

自分が大和の支えになれたと思えたが、彼女にはどうしても引っかかることがあった。

所変わって、浴場では長門が疲れをとるため入浴施設にいた。

流石の彼女も、まさか1艦の艦長である霧先が行動を起こすとは予測していなかったため、さらに悩む羽目になった。

それ故疲れを大きく感じていた長門は肩までつかり、心をリラックスすることにしたのだ。

長門が入浴を楽しんでいるとリスが浴場に迷い込んできた。

周囲を注意深く確認すると長門はリスを捕まえて愛で始めた。

 

「フフフ・・・可愛いな~。・・・私だって好きであんなことを言ってるわけじゃないんだぞ~?本当はこんな風に吹雪や霧先に気軽に接し・・・。」

「朝風呂?」

「うっ!」

 

疲労からだろうか、普段とは違う女性らしい声色で長門はリスに頬ずりしながら言いたいことをぶちまけた。

そのため後ろにいる陸奥に気づかず、声をかけられて正気に戻った。

 

「・・・・・聞いてたか?」

「何を?」

「いや、何でもない。」

 

長門は陸奥に悟られぬように仏頂面で受け答えをした。

だが長門は気づかないかった。

陸奥は何かを知ったように微笑んでいたことに。

一方、食堂では霧先と吹雪、大和の3人が潮干狩りを終えて椅子に座っていた。

他の艦娘も集合し、皆の目の前には綺麗なオムライスが用意されていた。

 

「オムライス?」

「はい、吹雪ちゃんと霧先二佐がとってきてくれたシーフードで作ったオムライスです。」

 

全員が「いただきます。」と手を合わせて言ってからオムライスを口に運ぶ。

卵の甘みとホワイトソースのコク、貝のうまみがちょうどよく食欲をそそる味に仕上げてくれている。

 

「レディーにも合う上品な味付けね!」

「確かに上品な味だ。」

 

暁は口にものを含みながら言い、響はそんな姉をスルーして舌鼓を打つ。

皆も食べ進め、すぐに皿の上のオムライスは綺麗に無くなった。

 

「おかわりを頼みましょう。デザートもお願いします。」

 

大和がベルを鳴らすと妖精たちがせっせとデザートを運んできた。

ケーキやマカロンなど種類は豊富だ。

 

「凄い!パーティ始まっちゃう!」

 

夕立の言う通りパーティのようなラインナップ。

艦娘たちは好きなデザートに手を伸ばしていく。

 

「本当に大和 hotelネー!」

「はい、大和ホテルの特製デザートですね。」

 

金剛の言葉に大和も乗る。

怒っていないことはいいのだが、吹雪は自分の中に何かがつっかえている気分だった。

食後、艦娘たちは浜辺で駆けっこをしたり、砂遊びをしたりビーチバレーを楽しんだりしていた。

皆が楽しむ中、吹雪は木陰で体育座りをしていた。

何かが心に残っているのだ。

 

「大和さん・・・あれでいいのかな?本当に。」

 

吹雪は現状がいいのかが分からなかった。

今のままが大和にとっていいのかどうか彼女は悩む。

そこに海の上で丸太に乗った夕立が呼びかける。

 

「吹雪ちゃんもおいでっぽい!」

「一緒に乗ろうよー・・・うぉぁあ!!」

「何やってんの・・・。」

 

夕立と一緒に吹雪を呼ぶ睦月だったが、バランスを崩して盛大に水しぶきをあげながら丸太から海に落ちた。

水着姿で拳銃を装備して警戒していた霧先は、何とも言えない呆れた表情で見ていた。

 

「睦月ちゃん艤装つけてると思えばいいっぽいのに~。」

 

艤装をつけるときはバランス感覚が重要になるのでその感覚でやればいいと夕立が指摘する。

その言葉で吹雪にいい考えが思いついた。

 

「艤装・・・そうだ!そうすればいいんだ!」

 

吹雪はすぐに立ち上がると、走って浜辺を後にした。

 

「どうしたんだ?」

 

霧先と夕立、睦月はそれを不思議そうに見ていた。

 

「いっちばんシュート!」

「グボアァ!!」

 

そして偶然、傍でビーチバレーをやっていた白露の強烈なシュートが霧先の顔面を襲った。

浜辺を後にした吹雪は着替えた後、大和をある場所に案内していた。

 

「どこへ行くんです?」

「もうちょっとです。」

 

吹雪に押されて大和が穴にされた場所は、大和がよく訪れる浜辺だった。

そこには一隻のボートが用意されていた。

 

「これは・・?」

「乗ってください。」

「えっ?」

 

吹雪に指示をされ、大和は何をするのか疑問に思った。

吹雪はすぐにやることを説明した。

 

「これに乗ったら、私が沖まで引っ張っていきます。それなら、規律を守ったまま沖に出られるでしょ?」

「吹雪ちゃん・・・。」

 

吹雪の悪知恵が働いた瞬間だ。

長門は艤装をつけての航行は認めないと言ったが、艤装をつけないで航行してはいけないとは言っていない。

つまり、言葉の抜け目だ。

 

「大和さんの言ってること、立派だと思います。でもやっぱり私、我慢できないんです。私も、海に出られなかった時期があるから分かるんです。だから・・・・。」

「ありがとう。」

「大和さん・・・・。」

 

吹雪の想いを受けた大和はボートに乗ることを了承した。

用意された木箱の上に座って準備した大和を見た吹雪は準備を始めた。

 

「じゃあ行きますよ~!」

 

吹雪が前を向いて機関を始動させようとしたとき、彼女を呼び止める声が響いた。

 

「待て、吹雪!」

「へっ?」

 

吹雪と大和が振り返ると霧先が睦月と夕立を連れてきていた。

 

「えっと・・・これはですね、その・・・。」

 

吹雪はしまったと思いすぐにごまかそうとした。

 

「やっぱり一人でこんなことしてたっぽい。」

「黙っていなくなっちゃ駄目だよ。」

「全くだ。訓練の時には教官がいるだろう?」

「皆・・・。」

 

夕立と睦月、霧先も吹雪に加担しに来たのだ。

すでに着替えを済ませている睦月と夕立は艤装を展開し、ボートと艤装をつないだ。

霧先は大和とともにボートに乗り込んで、周辺に異常がないか目視で確認していた。

 

「皆で海を行くってやっぱりいいですね。」

「はい、試しに陣形を組んでみますね。」

 

吹雪がそういうと夕立と睦月がそれぞれ左と右につく。

 

「輪形陣ですね。でも、この陣形を組むのにはもう一隻必要なんじゃないですか?」

「おお、よく知ってますね。」

 

輪形陣を一発で見抜いたことに睦月は驚いた。

大和はその理由を説明した。

 

「はい!出撃に備えてちゃんと勉強していますから。」

「じゃあ出撃の許可が下りたらすぐ一緒に戦えますね。」

「はい。」

 

皆が会話を弾ませていると霧先が念のために持ってきた双眼鏡で何かを見つけた。

空の向こうから何かがやってくるのだ。

 

「・・・ん?・・・・あれは。」

 

霧先は目を凝らしてみる。

そこには数機の深海棲艦の艦載機がいた。

 

「そんな!吹雪、武鍾発動!対空戦闘用意!」

「えっ!?どこですか!?」

「12時の方向、敵艦載機数は4!トラック諸島へなおも進行中!」

 

霧先が指示した方向を吹雪たちが見ると、確かに敵艦載機が4機、トラック諸島へ向かっていた。

 

「そういえば今朝、『ゆきなみ』宛に入電があった。艦載機を撃ち漏らしたため対空警戒を強めよという内容だった。」

「攻撃しなきゃ!」

「でも今空母もなしに制空戦なんて無理っぽい!」

「対空射撃?」

 

霧先と夕立に言われて吹雪は焦った。

吹雪は対空射撃を行おうと主砲を構えるが、睦月はそれに待ったをかけた。

 

「私たちじゃ、とても届かないよ!」

「睦月の言う通り、君たちの主砲は対艦向けに製造されている!高角砲か護衛艦の速射砲でない限り対空攻撃は不可能だ!その上『みらい』は修復中、『ゆきなみ』も島の反対側にいる、シースパローやスタンダードでの迎撃は到底できない!!」

 

もう打つ手はないと思われたとき、大和が名乗りを上げた。

 

「私がやってみます。」

 

全員が振り返ると、大和はボートを降りて艤装をすでに展開していた。

 

「大和さん・・・でも。」

 

吹雪が止めようとするが、霧先が静止してから大和に言った。

 

「戦艦大和、対空戦闘を許可する。責任はすべて僕がとろう。」

「ありがとうございます、霧先二佐。」

 

大和は霧先に礼を言うと主砲を準備した。

 

「武鍾発動!対空戦闘用意!敵機補足、三式弾装填!!」

 

大和が声を出すと主砲が稼働し、敵艦載機を補足する。

準備が完了すると、大和は最後の指示を下した。

 

「全主砲!薙ぎ払え!!」

 

大和の声とともに三式弾が勢いよく発射され、空中を高速で飛んでいく。

そして敵艦載機の目の前で炸裂し、敵艦載機を全機撃墜した。

三人はあっけに取られていた。

 

「凄い・・・。」

「一撃っぽい・・・。」

「でも・・・こんなすごい音したら・・・みんな絶対、気づいたよね?」

「十中八九そうだろうね・・・。」

 

吹雪と夕立があけっけに取られている中、睦月と霧先はバレてしまったことを確信していた。

その予想は的中、大和を見かけない長門がおかしいと思い、大和の妹である武蔵と捜索していると、46㎝砲の砲撃音を聞きつけた。

 

「第二艦隊に伝えろ、撃ち漏らした艦載機は撃破したとな。」

「はぁい。」

 

陸奥はそういうと無線連絡のために基地に戻っていった。

 

「さて、彼女らはどうするつもりだ?長門。」

「私にも考えはある。」

 

長門は武蔵にそういってその場を後にした。

少ししてから全速力で戻ってきた吹雪らは適当な岩陰に隠れていた。

 

「ふぅ・・・着いた・・・。」

「あっ!」

「長門・・・さん。」

 

吹雪は膝に手をつきながらため息をつく。

その時、夕立が声を上げたため、視線の方に顔を向けた。

そこには長門が仁王立ちをしていた。

 

「待ってください!責任は発砲を許可した自分にあります!」

「そうなんです、吹雪ちゃんたちは悪くないんです!私が・・・。」

 

霧先と大和は必死に吹雪たちを擁護しようとする。

だがその努力は流されることとなった。

 

「何を言っている?私は何も聞いていないし見てもいない。もうすぐ夕食の時間だ。」

「へっ?」

「他の者も急げ、遅れたら夕食は無しだ。」

「長門さん・・・。」

 

長門は吹雪たちを見逃した。

今回は流石に攻撃の危険性があったためという名目ができたため報告には何ら支障がない上、これ以上彼女たちを責めるのも酷だと思ったのだ。

長門は遅れないように伝えるとその場を後にした。

そして入れ違いで武蔵やってきた。

 

「まさか貴様が規律を破るとはな。」

「武蔵さん!」

「私を中破に追い込んだだけあってやることも派手だな!」

「今回は反省しています・・・。」

 

大きな声で笑う武蔵に霧先は背をたたかれながらボートのロープを片付ける。

吹雪たちはその様子を不思議そうに見ていた。

武蔵のことが気になった吹雪は大和に尋ねた。

 

「大和さん・・・あの人は・・?」

「私の妹の武蔵です。」

「大和さんの妹!?」

「全然似てないっぽい・・・。」

 

皆の会話が浜辺から聞こえてくる中、長門は基地へと足を進めていた。

途中、陸奥がリスを抱えて待ち構えていた。

 

「なんだ?」

「別に?・・・・甘いわねぇ~秘書艦の長門も。」

「うっ!ちがっ!!」

 

陸奥が朝風呂で長門がやっていた様子をまねしながら言ったため、長門はテンパる。

その顔は恥ずかしさから真っ赤に染まっていた。

片づけを終えた霧先たちは食堂に向かい、夕食を待った。

机の上には豪勢な料理が置かれていて、いい匂いが食欲をそそる。

 

「今日のディナーは特別豪華です。たくさん食べてくださいね。」

 

皆が豪勢な量にに目を輝かせる。

 

「Oh!大和 hotelの夕食、病みつきになりそうネー!!」

「金剛さん。」

「What?」

 

大和ホテルといった金剛の言葉を大和は訂正した。

 

「大和ホテルではありません。私は大和型一番艦、『大和』です!」

 

自分はホテルではなく戦艦であると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、深海では姫や鬼といったクラスの深海棲艦による会議が行われていた。

装甲空母姫、装甲空母鬼、泊地棲姫、泊地棲鬼、南方棲姫、南方棲鬼、泊地棲戦姫、飛行場姫、戦艦棲姫、港湾棲姫、離島棲鬼といった面々が集結しているため、相当な威圧感があるだろう。

その中で戦艦棲姫が始めに発言した。

 

「それで?なぜ我々を招集したんだ南方棲姫?我々も忙しいんだ。」

 

少々怒気を込めた口調で戦艦棲姫が言うと南方棲姫はクスリと笑った。

 

「確かに大変でしょう。だけどこれを見てもそう言えるのかしら?」

 

南方棲姫はそう言いながら皆に写真を配る。

写真には一隻の艦が映されていた。

それは紛れも無く「みらい」だった。

 

「何かしらこの軍艦。」

「旭日旗を掲げているな、ということは艦娘のやつらか。」

 

離島棲鬼や泊地棲姫が考察していると戦艦棲姫は机を殴りつけた。

 

「南方棲姫!貴様この写真を見せる為だけに我々を招集したというのか!?こんなたかだか一門の砲などを備えた巡洋艦なぞすぐに沈められるわ!!」

 

すでに怒りが頂点に達している戦艦棲姫は怒鳴り散らした。

だが、南方棲姫はひるむことなく言葉を繋げる。

 

「あら、私はこの艦がたかが巡洋艦と言っていないわよ?」

「なんだと?」

「この艦はヲ級の艦載機相手に墳進弾の様な何かを発射した上にこの駆逐艦程度の単装砲を連射してきたのよ?しかも墳進弾は目がついているように追跡してくる上、主砲は寸分の狂い無く、航空機に当ててきた。更には30㎞以上離れたところから攻撃しているのよ?」

 

南方棲姫によってもたらされた情報を彼女らは信じることができなかった。

そんな夢幻のことがあるなど信じられなかったのだ。

 

「そんな夢物語が!」

「あるのよ。現に鎮守府付近にいた泊地棲姫はその軍艦に撃破されている。それにMOにも現れて私たちと交戦しているわ。その事実があっても認めないつもり?」

 

戦艦棲姫の言葉をさえぎって南方棲姫は言った。

含み笑いをする南方棲姫に戦艦棲姫は歯ぎしりをした。

 

「ッ!・・・何が狙いだ?」

「簡単よ。今後はこの軍艦を沈めることに重点を置いてほしい。そして特別対策部隊の設置を認めてほしいのよ。」

「・・・・・。」

「どうかしら?」

 

戦艦棲姫の耳には確かに情報は入っていた。

しかし、新手の戦場伝説だと思ってまともに取り合っていなかったのだ。

南方棲姫が確実な証拠を集め、提出した以上、戦艦棲姫は首を縦に振るしかなかった。

戦艦棲姫が首を縦に振ったことを確認した南方棲姫は、上手くいったことが嬉しく笑みをこぼす。

 

「それじゃあ決定ね。部隊名は・・・・セクションSとしましょうか。」

 

こうして「みらい」は、因縁深い名前の部隊と対立していくことが決まってしまったのだが・・・・。

霧先も、みらいも、大和も、そのことを知る由はなかった。




次回「改二っぽい?」

不安感は人を押し潰すこともある。
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