高校生艦長と自衛艦の航海日誌   作:みたらし饅頭

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やっと書き終わりました・・・・アーケードと劇場版を糧に執筆頑張ってます。
正直つらいっす。
今回、アンケートありますので活動報告までどうぞ。
最近アンケートばっかですみません・・・。


第伍拾戦目「改二っぽい?! 上」

大和の発砲騒動から三日経った日の早朝。

大淀は作戦室に来ていた。

 

「失礼します。」

 

一言言ってから大淀はドアを開ける。

中には長門と陸奥がいた。

大淀は長門に歩み寄って、手に持っていた書類を差し出す。

 

「先日の作戦から推測される現在の敵深海棲艦の状況です。」

 

長門は、受け取った書類の一枚目をよく見た後、二枚目に目を通す。

 

「次は、先に到着した主力艦隊を加えた、我が現有戦力です。」

「すごいわねぇ・・・。」

 

長門の持っていた書類を見た陸奥は声を漏らす。

当然、書類には霧先指揮の「みらい」「ゆきなみ」そして先刻到着した梅津一佐指揮の「みらい」も記入されていた。

 

「圧倒的だな。」

「はい。この状態でMO攻略戦に入った場合。図上演習では、攻略の可能性は8割以上となっています。」

「流石、ここに主力艦隊を終結させただけはあるわね。」

 

図上とはいえ、それだけの結果が出ていることに陸奥は安堵する。

未来の護衛艦である「みらい」や「ゆきなみ」がいれば戦況は勝利へと傾くことはわかりきっていた。

 

「それもすべては、今度こそMOを攻略し、敵駐屯地を分断するFS作戦を遂行するためにある。提督もそれを想定してここに主力艦隊を終結させたのだろう。」

 

提督の考えを分析しつつ、長門は手元の資料の情報を組みなおしていく。

その長門に大淀が尋ねた。

 

「作戦実行はいつにされますか?」

「ここに集結したことで、他の戦線や鎮守府が手薄な状態が続くのもよくない。できるだけ早い方がいいだろう。本日中に霧先中佐と梅津一佐、角松二佐と相談した後、提督に上申し、決定する。」

「了解です。」

 

長門が大淀に今後の決定を説明した後、ドアがノックされた。

 

「誰だ?」

 

長門が聞くとドアが開けられ、羽黒が慌てて入ってきた。

 

「あ、あの!夕立ちゃんが!」

「どうした?」

 

慌てた様子で入ってきた羽黒に事の顛末を聞かされた長門は、すぐに夕立がいるといわれた海岸へと向かった。

海岸では吹雪、睦月、島風、暁、響、雷、電が夕立を囲むように眺めており、そこに海自の幹部作業服と識別帽を身に着けた角松、尾栗、菊池、そして霧先も混じって見ていた。

皆の視線の的となっている夕立は体が淡い光で発光していた。

 

「す、凄い!」

「ハラショー・・・。」

 

睦月と響が声を漏らす。

体が発光している艦娘なんて始めて見る以上、普通の反応だろう。

 

「ぽい~・・・。」

 

当の本人である夕立は自分に何が起こっているのかよく分かっていない様子だ。

 

「夕立ちゃん大丈夫?体、痛くない?」

「特に平気っぽいけど・・・なんかちょっと・・・熱っぽいっぽい・・・。」

「どうしたんだろ・・・。」

 

吹雪は心配して容態を聞くが夕立の大まかな状態を聞いてお手上げだった。

角松達も初めての事で頭が追い付かない状況だった。

 

「さてさてどうしたもんか・・・桃井一尉に見せるべきか?」

「それは無意味だろう。艦娘以前に人が発光していること自体、医学的に証明は難しい。」

 

尾栗と菊池がどう対処すべきか議論していると、睦月がこぼす様に呟いた。

 

「もしかして・・・恋!?」

「えぇぇぇ!!?」

「いやそれは違うな。そんなんだったら、独身の雅行はともかく俺や洋介も発光を経験してるぞ。」

「独身は余計だ。」

 

尾栗の冗談に菊池は少し怒気を含めた口調で応える。

そんな2人をほっておいて雷は意見を出した。

 

「それとも、質の悪い燃料をとったとか!」

「気をつけなさい!爆発するかもしれないわ!!」

「えぇぇっ!!?」

 

暁の言葉で全員が後ろに下がって距離を置く。

だが冷静になった角松と尾栗、菊池、霧先は爆発の原因がないことを思い出す。

 

「爆発の原因がなければ爆発はないだろう・・・。」

「そうだよな。艦娘が核融合で動いてない限りな。」

「そんなんだったら核爆発でこの島消し飛びますよ・・・。」

 

角松と尾栗、霧先が話し合っていると、電が姉の雷に頼み込んだ。

 

「雷お姉ちゃん、何とかしてほしいのです!」

「わ、私に任せなさい!えっと・・・はーっ!」

 

頼まれたら断れない性格の雷は、咄嗟に腕を突き出して大声を出した。

しかし、何も起こるわけがなく微妙な空気が流れだした。

 

「・・・・それだけ?」

「何というか・・・あっけないな。」

「なによもう!」

 

聞いてくる島風とあっけなさをそのまま口に出す角松に雷は怒る。

丁度、そこに長門がやってきた。

 

「どうした?」

「長門さん・・・。」

 

長門に吹雪が気づくとほかの皆も長門の方を見る。

振り向いた際に隙間から見えた夕立を見た長門はすぐに原因を察知した。

 

「これは・・・・・・夕立、霧先中佐。すぐに工廠へ。」

「えっ?はい・・・。」

「ぽい・・・・。」

 

原因が分からない霧先と夕立は疑問符を浮かべることしかできなかった。

気になった吹雪と睦月は工廠にやってきた。

角松と菊池、尾栗は興味はあるものの、職務があるために、駆逐艦娘を引き連れて一旦基地に戻った。

工廠ではせわしなく金属同士がぶつかる音が鳴り響き、機械が動く音がうなっている。

 

「夕立ちゃん・・・大丈夫かな?」

「特に苦しそうではなかったけどね。」

 

吹雪は不安から呟く。

睦月は、夕立に突出した異常がなかったことを思い出して言う。

 

「でも、工廠に入ったってことは、何かはあったってことだよね?・・・・あっ、足柄さん。」

 

吹雪が夕立に起こった事を推測していると、工廠の窓が開け放たれて、足柄が顔を覗かせた。

 

「あら、夕立ちゃんの事かしら?」

「はい。」

 

睦月が応えると足柄は少し室内に目線を移す。

状況を確認すると、吹雪と睦月の方を向いた。

 

「ちょうど今終わったから入ってもいいわよ。」

 

許可が下りた二人は、一目散に駆け出し工廠の中に入る。

工廠内部は薄暗く、電灯が灯っていない為、不気味であった。

木造の兵舎の様な工廠内はカーテンで仕切られているため、外からは見えないようになっている。

そのため、二人もどこに夕立がいるか把握できていなかった。

 

「どこだろう?夕立ちゃん・・・。」

 

吹雪と睦月が周囲を見渡していると一画から何かを充填するような音が聞こえた。

 

「夕立ちゃん?」

 

睦月は夕立と思い、その音がした方に向かう。

吹雪も後に続き、カーテンに手をかけて少し開けると、こっそりと覗いた。

 

「撃ってないから特に問題ないと思うけど・・・?」

「だからこそ、普段の整備が重要なんですよ?北上さん。さぁ、もう片方も・・・」

(いや・・・友成っちが、昨日の晩に整備してくれたばっかで、新品同様なんだけどなぁ・・・。それに私の足に触りたいのが本音だろうし。)

 

中では北上の魚雷発射管を大井が整備していた。

とはいえ、昨日の晩の時点ですでに、霧先がみらいを含めた全員の艤装の整備を行っていたため調整の必要はない。

つまりただ単に大井がボディタッチをしたいという欲望でやっているだけなのだ。

 

「北上さんの生足・・・・ん?なんですか?」

「あっ!いえ!」

 

大井に覗いていることを気づかれた吹雪と睦月は、即座にカーテンを閉めてその場から撤退した。

 

「あぁ・・・びっくりしたぁ・・・というより昨日、工廠長が艤装の一斉整備点検を実施してた様な・・・。」

「吹雪ちゃん、こっちかもしれないよ?」

 

大井が艤装を調整していることに疑問を覚える吹雪だったが、次に音がしている区画を睦月が発見して、その考えを置いておく。

二人がカーテンから覗くと、高く積まれたガラクタを夕張が溶接していた。

ブツブツと独り言を言いながら笑い、涎を垂らす夕張を見た二人はそっとカーテンを閉じた。

次の区画では金剛が就寝しており、夢を見ているようだった。

 

「ウェハハハッ!アハハハッ!テートク・・・耳はくすぐったいデース!ハァハハ!」

 

先代電が見ていたら提督と金剛にアームロックをかけていたに違いないだろう。

二人は幸せそうな金剛を起こさない様に、そっとカーテンを閉じた。

 

「ここ工廠だよね・・・?」

「暖かいから、皆ちょっと気持ちが大らかになってるんだよ、きっと!」

 

皆の行動に呆れている吹雪に睦月がフォローするように言うがそれはそれで墓穴をほっているようにも聞こえる。

二人が話していると工廠の奥から特徴的な声が聞こえてきた。

 

「ぽい~・・・ぽいぃ~!」

 

二人は声がした、最奥の区画のカーテンに近づくと、思いっきり開いた。

 

「夕立ちゃん!」

「あっ・・・。」

 

声をそろえて夕立を呼ぶ二人の目の前には、金色の長髪で頭頂部の一部がくせっ毛、赤い瞳で程よく成長した胸が特徴的な女性がいた

白の下着だけの女性は吹雪と睦月を見つめる。

 

「失礼しました!」

 

夕立とは全くの別人であることを確認した二人は、声をそろえて謝りながらカーテンを閉じた。

 

「吹雪ちゃん?睦月ちゃん?」

 

だが、聞きなれた夕立の声に呼ばれて、再び二人はカーテンを開けて覗き込む。

やはりそこにいるのは夕立ではなく別人の女性だ。

 

「あの・・・。」

「今、夕立ちゃんがここに・・・。」

「ぽい~!」

 

尋ねてくる二人に対して、女性は手を振りながら夕立の口癖を言う。

それを見て睦月と吹雪は何かをひらめいた。

 

「あっ、もしかして!」

「夕立のお姉さん?」

「違うよ、夕立ちゃんの姉妹艦は白露ちゃんだよ・・・。」

「違うっぽい!夕立は夕立っぽいよ~!」

 

議論する睦月と吹雪に、女性は自分が夕立であることを告げる。

 

「えっ?」

 

女性、否、夕立から告げられて衝撃の事実に二人はきょとんとしていた。

その時吹雪と睦月の後ろから人影が近づいて来た。

 

「夕立、新しい服と艤装を・・・・何してるの?」

「工廠長!」

 

吹雪が振り返ると、夕立の丁寧に磨かれた艤装と畳まれた服を持った霧先が立っていた。

 

「足柄さんに受け付け頼んでたけど・・・・許可したみたいだね。」

「気になっちゃって・・・。」

「まぁ、吹雪と睦月には怒ってないし。僕はこれを夕立に・・・・。」

 

霧先がカーテンの方に視線を移す。

しかしそのカーテンは開かれており、霧先の目には下着姿の夕立が映った。

 

「あっ。」

 

睦月と吹雪が、声を合わせて気づくも時すでに遅し。

顔を赤く染めた夕立が、霧先の顔面へ金属製のごみ箱を投射。

それが霧先の顔面に見事命中し、霧先はその場に倒れこんだ。

その後、職務が一段落ついた角松、尾栗、菊池の三人と、浜辺で集まっていた駆逐艦娘が、工廠に集まった。

 

「改装?夕立が?」

 

雷が聞くと、額にシップを張った上で包帯を巻いた霧先が頷いた。

それと同時に夕立が、木箱の上に乗って、皆に改装後の姿をお披露目する。

 

「おおぉぉぉ!!」

「より取り見取りっぽい!」

 

夕立の大幅に変化した外見を見て、皆が声を上げる。

 

「すごくかわいいのです!」

「レディよ!これぞまさしくレディだわ!!」

「装備は?」

「たしか・・・。」

 

電は率直な感想を述べ、暁はレディらしくなった夕立に見惚れる。

響が装備について聞くと、霧先が答えた。

 

「12.7cm連装砲B型改二と61cm四連装酸素魚雷だよ。」

「利根さんに聞いたら、彼女はもう駆逐艦の火力じゃないって。」

「そうらしいっぽいけど・・・まだ分からないわね。」

 

睦月の言葉に夕立が答えると、一瞬空気が静まった。

 

「わね?」

「なんだか・・・外見だけじゃなく性格も変わってないか?」

 

睦月と尾栗は突然の夕立の口調の変化に戸惑った。

一方で菊池と角松は冷静に解析していた。

 

「しかし・・・大規模改装が、こんなにも変化を出すものだったとはな。」

「駆逐艦『夕立』は、第三次ソロモン海戦で大暴れしたらしいからな。艦娘になっても反映されているんだろう。」

 

その二人の横で吹雪は夕立の改装にくぎ付けになっていた。

 

「大規模改装って凄いんだねぇ・・・前までと全然姿が違うもんねぇ・・・足モスラーッとしたし・・・背もすごい大きくなったし。」

 

成長した少女になった夕立をよく見ていると、吹雪はある部分に目が行った。

程よく主張してくる胸だ。

吹雪は自分の未発達な胸と見比べて少しへこむ。

 

「・・・・気になるのか?」

「ふえ?な、なにがです?」

 

尾栗に聞かれた吹雪は慌てながら聞き返した。

 

「改装だよ。俺ァてっきり、吹雪が先だったと思ってたがなぁ・・・。」

「私がですか?」

 

何故吹雪が先に改装するのかと、疑問に思う吹雪に尾栗が教えた。

 

「ああ、だって駆逐艦の中で一隻だけだろ?旗艦なのは。」

「あっ、そうですね・・・・。」

 

吹雪が自分が第五遊撃部隊の旗艦であることを思い出したと同時に、夕立に皆が質問攻めをする。

その時、吹雪の中に何とも言い難い靄がかったものが生まれた。

大和の時とは違った蟠りだった。

その蟠りを抱えたまま、昼食を迎えた吹雪は、先輩である赤城に思い切って聞くことにした。

 

「大規模改装ですか?」

「はい・・・どうやったらなれるんですかね?」

 

元気な下げに言う吹雪に、赤城は自分の経験に基づいて答えた。

 

「そうですね。私の時は、ひたすら鳳翔さんに扱かれてましたが・・・・一般的に言えばある一定の練度になれば可能ですね。」

「う~ん・・・練度か。」

「どうかしました?」

 

悩む吹雪に、隣で食事をとっていた大和が尋ねる。

 

「何でもないです・・・ただ・・・。」

「旗艦まで務めたのに、どうして吹雪さんはならないんだろう。」

「赤城先輩!?」

 

言葉の最期がしぼむように声を小さくしながら吹雪は大和に答えた。

そんな吹雪の言葉を言い当てた赤城は、吹雪の横に移動して再び箸を進めた。

吹雪は、それと自分の言葉が言い当てられたことに驚いて赤城を見た。

 

「そういわれたんですね?」

「いや・・・まぁ・・・。」

「成程。そういえば、第五遊撃部隊の旗艦ですものね、吹雪ちゃん。」

 

吹雪は言葉を小さくしながらうつむいた。

ご飯をよそうために立ち上がった大和は、ご飯をよそいながら赤城が言い立てた吹雪の想いを理解した。

 

「それはそうですけど・・・。」

「練度は練習の状況や、内容によって変化してきますし。大規模改装が可能になる条件も各艦によって様々。気にしてもしょうがありません。」

「ですよね。それに私たちの目的は、深海棲艦を倒し、海を奪回することですもんね!」

 

ご飯を山盛りによそった赤城は、席について再び箸を進め始める。

赤城に諭された吹雪は、本来の目的を思い出して自分の思っていたことを打ち捨てた。

 

「その通りです。『努力に憾み勿かりしか』、吹雪さん、貴女は頑張っていますよ。腐らず続けて行けば、必ず結果はついてくると思うわ。」

「赤城先輩・・・。」

「頑張りなさい。」

「はっ、はい!」

 

自分が進むべき進路を見出した吹雪に、赤城は五省の内の一つを言ってから期待の意味も込めて吹雪の頭を優しく撫でた。

吹雪は、自分のあこがれる赤城に撫でてもらったのが余程嬉しかったのか、すぐに椅子から起立し、指の先まで伸ばした状態で返事をした。

その後、満面の笑みで自室に戻った吹雪は、心の底から溢れてくる喜びから踊りだす。

 

「撫でられちゃった!撫でられちゃった!なーでらーれちゃったー!」

 

踊りながらも、吹雪は静かに本を読んでいた睦月に、横から顔をのぞかせて報告した。

 

「赤城先輩に撫でられたぁ!褒められたよぉ!ウフフ~。」

「えぇ、本当?」

「うん、頑張りなさいって!あはぁははは!どうしよぉ~!?特型駆逐艦吹雪、幸せであります!」

「よ、よかったね・・・。」

 

調子に乗ったのか、敬礼をしてウキウキな吹雪。

あまりの吹雪の変貌ぶりに睦月も苦笑いをするしかなかった。

 

「そうだ!今日はお風呂に入っても髪洗わないんだぁ~!ウフフ~。」

「ええっ!?ダメだよ、洗おうよ~!」

「せっかく撫でてもらったのに洗ったら落ちちゃうよ~。」

 

何が落ちてしまうのかいまいちできない睦月はあることを提案した。

しかしそれが吹雪の崩壊を加速させることとなる。

 

「また、撫でてもらったらいいんじゃないかなぁ?」

「また?つまり、もう一度!?」

「う、うん。頑張ればきっと、また撫でてもらえるよ!」

「よし!」

 

吹雪は何かを思いついたのか、立ち上がってドアへと向かう。

それを不思議に思った睦月は尋ねた。

 

「どこ行くの?」

「ランニングしてくる!努力に憾み勿かりしか~!!」

「・・・・・・・・・・・・いってらっしゃい。」

 

完全に吹雪に振り回された睦月はそう言うしかなかった。

そして吹雪を明石と霧先に診断させようと心に誓ったのであった。

月が照らすトラック諸島の夜。

虫の鳴き声が涼し気に聞こえるぐらいの暑さの夜、ランニングをすると決めた吹雪は急ぎ足で量を飛び出した。

すると偶然にも、霧先と煤汚れた夕立が反対側からやってきた。

 

「あっ!工廠長に夕立ちゃん、お散歩ですか?」

「いいや、火力や雷撃、艤装の動作チェックを今までやってたんだ。」

「疲れたよ~。」

「そっか・・・夕立ちゃん、ごくろうさま。じゃあ私、ちょっと走ってくるね。」

 

霧先から説明を受けて、疲労困憊の夕立を吹雪は労わった。

二人に走ってくると伝え駆け出そうとしたとき、足柄が本棟から出てきて声をかけた。

 

「吹雪、夕立!長門さんが呼んでるわ。」

 

二人は何かしたこともなく、身に覚えの無い呼び出しに疑問符を浮かべた。

霧先と別れた二人が呼び出されたのは作戦指揮室。

そこにはすでに長門が待機していた。

 

「こんな時間にすまないな。」

「いえ、まだトレーニングの最中だったので。」

「夕立はもう眠いっぽい。ふぁ~・・・。」

「ちょっ、ちょっと夕立ちゃん!」

 

謝る長門に吹雪は大丈夫であることを述べ、夕立はあくびをしながら寝たいと長門に言う。

吹雪は夕立に注意をしながら長門の顔色を窺った。

その様子を見ていた陸奥は長門に提案した。

 

「やっぱり明日にした方がいいんじゃないの?」

「いや、何かのはずみで耳に入るといけない。早めに伝えておくのが吉だろう。」

「早めに?」

 

吹雪は、早めにという単語に重要性を見出していた。

長門は二人に宇部きことを話し出した。

 

「実は先ほど提督から、二人に辞令が下った。まず、駆逐艦『夕立』。」

「はぁ~い・・・。」

「明日から第一機動部隊に転属を命ずる。」

「えっ?」

 

突然言い渡された辞令に、吹雪と夕立は声をそろって驚く。

赤城達精鋭の所属するエリート艦隊とも言われる第一機動部隊に所属されるということは、それ相応の実力を認められたということになる。

 

「ゆ、夕立が?」

「ああ、提督がお前に頼みたいとのことだ。明日の0600には、編成担当の霧先中佐にも通達する。」

「ぽい・・・でも、本当に夕立でいいの?」

「ああ、既に確定している。」

「どうしよう!?夕立、主力艦隊になっちゃった!」

「おめでとう・・・・。」

 

自分がエリート艦隊に抜擢されたことに喜ぶ夕立。

吹雪にはそんな夕立がとても羨ましく思えた。

 

「FS作戦成就に向けて、これから戦いはさらに激化していくことが想像される。常に準備は怠らないように。」

「ハッ!深海棲艦に悪夢見せてあげる!」

 

長門に注意されつつも、すでに好戦的な夕立。

彼女が前世で「ソロモンの悪夢」と称されただけの事はあるだろう。

そんな夕立は、吹雪にとって眩しい存在になっていた。

 

「続いて、駆逐艦『吹雪』。」

「はっ、はい!」

 

次は吹雪へと辞令が下る。

しかし、それは決していいものとは言えなかった。

吹雪と夕立に辞令が下された後、睦月は必死に吹雪の事を探していた。

睦月が吹雪を探すきっかけは夕立が自室に戻って呼び出しを受けた事と、二人に言い渡された辞令の内、吹雪への辞令だった。

 

「吹雪ちゃん、提督さんから鎮守府に戻って来いって言われたっぽい。第五遊撃部隊も解散になって、旗艦の任も解かれて・・・・。」

 

夕立から聞かされた言葉に睦月は突き動かされ、睦月は必死で探し回った。

 

「どうして!吹雪ちゃんが!」

 

睦月は必死に吹雪を探す。

寮を探しつくした睦月は中庭に出てみるが、吹雪はいなかった。

丁度そこに、夜間巡回をしていた霧先がやってくる。

 

「睦月、こんな時間にどうしたんだ?もう寮に戻ってないといけないはずだろ?」

「工廠長さん!吹雪ちゃんは!?」

「えっ?夕立と本館に入ったきり見てないけど・・・どうしたのさ?」

 

すがるように効いてくる睦月に、霧先は訳が分からず戸惑いながらも答えてから、理由を尋ねた。

睦月は端的な言葉で、霧先に吹雪を探している訳を教える。

 

「吹雪ちゃんが・・・鎮守府に帰還するように言われて・・・・私心配で!」

 

睦月の必死さから、事の重大性が分かった霧先はまじめな表情になる。

そして過ぎに行動を提案した。

 

「分かった。できるだけことを大きくしないようにはするが僕も探してみる。睦月は本棟の方を、僕は工廠をあたってみるから。」

「ありがとうございます!」

 

霧先は工廠方面へ駆けていき、睦月は本棟の方を捜索し始める。

別れてから数分後、睦月は屋上で手すりに持たれながら遠くを眺めている吹雪を見つけた。

それを見た睦月は、無我夢中で過疎と階段を駆け上がり、吹雪の元へとたどり着いた。

息も絶え絶えとなった睦月は吹雪に声をかける。

 

「吹雪ちゃん!」

「あぁ、睦月ちゃん。どうしたの?」

「鎮守府に戻るって聞いたから・・・。」

 

てっきり打ちひしがれていると思った睦月は、普通な対応をする吹雪に違和感を感じつつも、探していた理由を述べた。

 

「うん、なんか、気づかないうちに失敗しちゃってたみたい。フフッ・・・・。」

「そんなこと無いよ!だって、この前の戦いでも活躍したんだよ!?みんな、凄いって言ってたもん!尾栗三佐や菊池三佐、赤城先輩に、工廠長もみらいさんも!」

「ウフフ・・・ありがと。」

 

自分が失敗を犯したせいで左遷されたと思う吹雪は自嘲気味に笑う。

睦月は、そのようなことがないことを必死に訴えかけるが、吹雪の心境は変わらなかった。

 

「本当だよ!睦月、本当にすごいって思ったもん!吹雪ちゃんの努力と勇気、見習わなきゃって!!」

「でも、司令官が戻って来いって・・・ここに残ってみんなと出撃しなくて良いって、そういってるんだから。」

「それは・・・。」

 

睦月は自分は吹雪の事を尊敬していることを打ち明けたが、吹雪の心の溝は埋まらなかった。

 

「そうだ、私、ランニングの途中だったんだ・・・。」

「吹雪ちゃん・・・。」

 

吹雪は苦しまげれな言い訳を使って、その場から逃げ出す様に階段を駆け下りた。

睦月は、その後姿を見ると、追いかけようにも足が動かなかった。

睦月から逃れた吹雪は、浜辺を駆けていた。

今までの思い出を思い起こしつつ、努力が水の泡になってしまったことから、吹雪の頬を汗とは違う水滴がしたたり落ちる。

 

(司令官が・・・・・・!司令官が・・・・・・!)

 

脳裏に浮かぶのはお払い箱という言葉。

吹雪が最も恐れる言葉だった。

それから逃れようと走り続けた吹雪は、偶然何かにぶつかり、しりもちをつく。

 

「Wow・・・ブッキー、大丈夫デスカー?」

 

ぶつかった相手は金剛だった。

金剛は突然ぶつかった吹雪を気に掛けると、吹雪から涙がこぼれた。

 

「ひっぐ・・・うぅぅ・・・・・・。」

「No!ブッキー、そんなに痛かったデスカー!?」

「金剛さんッ!」

 

金剛は最初、吹雪が泣き出したのは自分のせいだと思ったが、抱き着いて泣き出した吹雪を見て何かを察した。

 

「何かあったのデスネ。」

 

金剛は静かに抱き寄せた。

吹雪はたまっていた涙がなくなるまで泣き続けた。

寄せては引いていく波がそれを誘うようにも見える。

丁度そこに、金剛を探しにやってきた比叡が現れた。

 

「金剛お姉さ・・・ひえーーー!」

「うるさい!」

「あいた!!」

「シー、quiet please ネ?」

 

金剛に吹雪が抱き着いているのを見た比叡は驚愕のあまり叫び声をあげる。

それを偶然、吹雪を捜索しに近くを歩いていた霧先が後頭部にチョップを食らわせて黙らせる。

金剛はできるだけ静かにするように頼むと、再び吹雪に目を移す。

泣き疲れた吹雪は寝てしまい、霧先によって自室まで運ばれた後、金剛と睦月に着替えさせられてからベッドに寝かされた。

部屋の前では、霧先と睦月が金剛と比叡に事の顛末を話した。

 

「そうだったのデスネー・・・そんなことが。ですが、テートクにもきっと考えがあっての事デス。テートクは、ブッキーが頑張っているのを知らないはず無いデスネ。」

「そうですよね。さっすがお姉様。」

「吹雪にも事情はあるでしょうが・・・・今は彼女自身の立ち直りを待つ他ありません。」

「頑張れ、吹雪ちゃん・・・・。」

 

金剛、比叡、霧先、睦月の四人は、寝ている吹雪を見守った。

そこに長門がやってくる。

 

「霧先、少々間が悪いが来てくれないか?」

「長門さん・・・分かりました。」

 

長門に言われるがまま、三人と別れた霧先は作戦指揮室へとやってきた。

室内には梅津、角松、尾栗、菊池の四人がすでに待機していた。

「みらい」幹部が集められるということは余程の事だと推察した霧先は、自然と表情がしまる。

 

「5人方には楽にして頂きたい。」

 

長門がそういうと、5人は安めの状態で長門の話に耳を傾ける準備をとる。

それを確認した長門は、5人を集めた理由を明かした。

 

「『みらい』指揮官以下、主要幹部の貴官らを集めたのは・・・提督からの指示があったからだ。」

「その指示とは?」

 

梅津が聞くと、長門は用意しておいた紙を取り出して読み上げる。

 

「・・・・『「みらい」以下、海上自衛隊の護衛艦は全艦、撤退を命じられた艦娘を乗艦させた上で即座に帰投せよ。尚、全指揮権は梅津三郎一等海佐に委ねるものとする。』これが指示だ。」

 

提督から下された指示に5人は驚く。

先日は攻めの大勢だった提督が、あっさりと撤退を指示してきたのだ。

 

「海上自衛隊の護衛艦は全艦帰投って・・・それじゃあ、どうやってMOを攻略するんだ!」

「尾栗の言う通り、安易な作戦変更は『みらい』引いては艦娘のサバイバリティを減少させます。それを考慮しての撤退なら話は別ですが・・・。」

 

「みらい」幹部として、この場にいる尾栗と菊池は長門に問う。

長門は静かに答えた。

 

「・・・提督にも何か考えはあるはずだ。現時点で撤退が決定しているのは戦艦と駆逐、重巡だ。それ以外には特に決定していない。」

「あくまで提督しか理由を把握していないというわけか・・・・艦長、どうします?」

 

長門の言い分を聞いた角松は、上官である梅津に指示を仰ぐ。

梅津は少し視線を落として考えた後、結論を述べた。

 

「まあ、よかろう。我々としても、艦娘を護衛することに異存はないと思っている。どうかね?副長、霧先艦長。」

「異存はありません。」

「自分も、梅津一佐の決定を支持します。」

 

梅津が自分の決定の是非を問うと、角松と霧先は賛同する。

尾栗と菊池も賛同している様子だ。

それを見た梅津は長門に答える。

 

「了解、『みらい』艦長、梅津三郎。指示に従い横須賀入港を目指します。」

「出港は明日の0900を予定している、言うべきことは以上だ。最後に霧先。」

「はっ?」

 

梅津の言葉を聞いた長門は出港予定時間を述べると、霧先に声をかける。

霧先が返事をすると、長門は別の二つ折りにされた紙を手渡した。

 

「通信参謀、草加拓海少佐からだ。」

 

長門から聞かされた名前を聞いて、霧先はすぐに紙を開く。

中に書かれた文面を読んだ霧先は、すぐに部屋を飛び出し、自室へと走った。

それを尾栗たちは不思議そうに見ていた。

 

「何事だ?友成があんなに慌てるってことは重大なのか?」

「さあな、ただ通信参謀ってのが引っ掛かるがな。長門、草加少佐はどんな人物だ?」

 

尾栗がドアから顔をのぞかせて、霧先の後姿を見送る後ろで角松は長門に聞いた。

すると長門も顔をしぶ目ながら答えた。

 

「はっきり言うと分からない男だ。術科学校を次席で卒業した提督の同期とは聞いているが・・・一度会った時は掴み所のない男だったな・・・・。」

「次席で少佐か・・・提督は主席なのか?」

「いや、草加少佐よりも下だそうだ。根気と艦隊指揮能力だけで上り詰めたからな。」

「まるで洋介だぜ。」

 

長門の草加に対する評価と聞いた角松は何かを考え込む。

提督の経歴を聞いた尾栗が提督と角松が似ていると笑いながら言うが角松は思案にふけっているため耳に入っていなかった。

 

(草加拓海・・・・妙な胸騒ぎがするな・・・・。)

 

角松は、とも言えない違和感に襲われるが、それの正体は分からなかった。

 

その頃、霧先は、指定された浜辺に第一種軍装を纏って訪れた。

そこにはすでに草加が、海を眺めて霧先を待っていた。

霧先は静かに草加に近寄った。

 

「・・・・ここは・・・静かだな。」

「でしょうね。ここは一応軍事地域ですから。」

 

草加の言葉に霧先が答えた。

その言葉を聞いた草加は、微笑みながら振り向いた。

 

「大規模作戦中申し訳ない、霧先二佐。」

「僕は海上自衛官ではないですよ・・・・あなたと同じ海軍軍人です。」

 

そう答える霧先に草加は笑った。

 

「フフ・・・あなたが角松二佐と違う身であっても未来・・・ひいては異世界から来たことに変わりはないでしょう?」

「あなたが敬語だとは気味が悪いですね。」

「なぁに、ただの上官への気遣いさ。」

 

霧先の言葉に草加は軍帽を深く頭ながら砕けた口調で話す。

霧先は早速、目的を尋ねた。

 

「ところで、わざわざ通信参謀軍人が二式大艇でこんなところへ?」

「あぁ・・・本題はそれだ二佐。少々厄介なことに発展した。恐らく横須賀が割れる。」

 

霧先に二式大艇を使ってまでトラック諸島へやってきた理由を聞かれた草加の表情は強張る。

草加の表情からよほどの事だと悟った霧先は、真剣な眼差しで静かに話を聞く。

 

「実はある通話記録を入手した。そこにはある海軍軍人と艦娘のやり取りが記録されていた。」

「ある海軍軍人と艦娘・・・?」

「そうだ。海軍軍人の名は人事参謀『悪田 広根』、艦娘の方は特徴が無く通信では難しかったが特定できた。」

「その参謀軍人と艦娘がどう関係してくるんです?」

「通話記録から見て艦娘の狙いは君の命と『みらい』だ。それに艦娘は横須賀鎮守府所属だ。」

 

霧先はその言葉を聞いて冷や汗をかいた。

今まで接してきた艦娘の誰かが、自分の命と『みらい』を狙っているというのだ。

 

「まさか!誰かが僕と『みらい』を!?」

「そうだ。さらに厄介な事に『みらい』の情報を手に入れた後、『みらい』を君たちの仕掛けた自爆装置で爆破させるという話だ。」

 

「自爆装置」という単語を聞いた霧先はある事を思い出した。

自爆装置の事を知っている艦娘はみらいと吹雪だ。

それ以外の艦娘は基本「みらい」に乗っても弾薬庫などにはいかない。

つまり、自爆装置を知る艦娘は1人に絞られる。

そこに草加が付け足すように言った。

 

「思案中の様だからヒントを与えよう。悪田はある鎮守府の提督も兼任している。一か月以内、そこから一人艦娘が横須賀に来たはずだ。」

 

その草加の言葉によって、霧先の脳裏にある艦娘が浮かび上がった。

艦娘の情報を管理する霧先が知る中で一か月以内に横須賀にやって来たのは一人だけだ。

いつも純粋な眼差しと赤城やみらい達、先輩を目標に健気に頑張る駆逐艦。

吹雪の姿が浮かび上がってしまった。

霧先は草加を見る。

草加は真剣な顔で霧先の事を見ていた。

 

「まさか・・・・!」

「分かったようだな。君の命を狙っているのは・・・・・特型駆逐艦一番艦『吹雪』で間違いない。」

 

霧先の考えは的中してしまった。

衝撃の事実に霧先の頭は混乱していた。

 

「霧先二佐。私的には早急に吹雪を処罰すべきだと確信している。貴官はどうだ?」

「・・・・吹雪が本当に裏切り者かどうかは、上官である僕が決める。例え吹雪が裏切り者でも命を奪うような真似はしない!」

 

霧先の鋭いまなざしを見た草加は笑った。

まるで予期していたような笑い方だ。

 

「やはりあなたは『前任者』によく似ている・・・・それは貴方達の愛すべき限界だな。」

「この限界は・・・誇りです。」

 

胸を張って言う霧先を見た草加は、水平線に目を移す。

月が反射した海は幻想的だった。

 

「これからはきつくなるぞ?」

「それを承知で『みらい』艦長と海軍中佐を兼任していますよ。」

 

草加の言葉に霧先は笑みを見せながら答えた。

草加も呆れたように微笑む。

 

「貴官はよく無茶をするな・・・・私はこれで失礼しよう。」

「・・・・・何かあったら頼みます。」

「もちろんだとも。」

 

草加はそういうと足早にその場を立ち去る。

霧先も明日の出港のため、草加とは反対の方へと足を進める。

月に照らされた海は、波を立て始めていた。

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