高校生艦長と自衛艦の航海日誌   作:みたらし饅頭

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今回胸糞悪いシーンあるので注意。
あっ、大本営なら陸自に解体を頼んでおきましたぜ。


第伍拾弐戦目「頑張っていきましょー! 上」

鎮守府が空爆を受けてから数日後。

復旧が進み、朝靄が立ち込める早朝の鎮守府内を走る人影があった。

その人影の正体は、動きやすい黄色のパーカーと青色のハーフズボンを着た吹雪だった。

テンポ良いリズムで走る吹雪が甘味処「間宮」の前に差し掛かると、丁度開店作業をしていた間宮に出会った。

早朝からランニングをしている吹雪に気づくと、間宮は声をかけた。

 

「おはようございます!今日も頑張ってますね!」

「はい!うわっとっとっと!」

「大丈夫?」

「はい!もう一周行ってきまーす!」

「行ってらっしゃい!」

 

間宮の言葉に答える吹雪は躓いてこけかけたが、何とか体勢を立て直してランニングを続ける。

心配する間宮に大丈夫であることと、もう一周走ってくることを伝えると、吹雪は甘味処「間宮」から離れていった。

 

「あと一息、私もがんばろっかな。」

 

そんな吹雪の頑張る姿を見た間宮も、開店準備を終えるために店内へと入っていった。

鎮守府内を走り続ける吹雪の脳裏には、霧先が臨時提督に任命されてから下された最初の命令がこびりついていた。

霧先が下した命令、それは未改造艦の徹底訓練と改装を終了させることだった。

吹雪を含め、複数名の艦娘が改装を修了していない。

横須賀には多くの歴戦艦娘がいるが、毎回出撃する艦娘は高練度がほとんどであった。

大きな要因は横須賀に回される任務の難易度。

大本営から告げられる任務や命令は、鎮守府ごとの成績によって難しいものから簡単なものを振り分けている。

当然、歴戦の艦娘が集っている上に成績も上位を確保している横須賀には難易度が高い任務が多く出される。

よって、新規に着任した艦娘達の出撃の機会は無くなり、演習や遠征に回される。

そして古参の艦娘が任務達成の為に出撃するという構図が完成する。

長らく夕立や睦月達駆逐艦が実戦に出ていなかったり、経験が少なかったのもこれが原因だった。

以上の事を提督から聞かされていた霧先は、まず手始めに艦娘の練度を底上げしなければ領海、ひいては本土防衛は現在の体制では成しえないと判断した。

その為、今回の計画を実行に移したのだった。

その事を告げられた吹雪は一刻も早く練度を上げなければならないと思い、早朝からのランニングをしていたのだった。

 

「もう一周!」

 

改に必ずなるという意思を固めた吹雪は、大きな声で意気込みながら鎮守府内を駆け抜けた。

 

 

 

 

一方、鎮守府本館にある執務室では霧先が多くの仕事を捌いていた。

復旧に数日を費やした結果、多くの仕事がたまりこんでしまったのだった。

それ故、霧先は普段の業務に加えて、普段提督が行っている報告書の作成や書類の確認、電話から流れてくる上官からの怒号に対応しなければならなかった。

 

「えっと・・・みらい!資材関連の書類どこ!?」

「天城さんの近くの所です!」

「綾波ちゃん!復興のための建材の品目書できてる!?」

「此方に準備してあります!」

「ゆきなみ、すまないがこれを工廠へ届けてくれ!」

「了解です日向さん!」

 

当然それだけの仕事を捌こうとすれば執務室は地獄絵図となる。

扶桑型の伊勢とみらいが資材関連の書類を、部屋の中でに山のように積み上げられている書類の束から探し出し、土佐が大急ぎで綾波から出来立ての書類を受け取り、伊勢型の日向が寄り分けた工廠宛の書類をゆきなみへと引き渡す。

そんな惨状が広がる中、霧先は執務机に向かったまま必死にサインや報告書を書いていた。

すると脇に置いた電話がけたたましくなった。

今日何度目になるか分からない電話にうんざりしつつも霧先は受話器に手をかけた。

 

「はい、横須賀鎮守府臨時提督の霧先友成中佐です。」

『私は大本営の作戦立案部の中将なのだがね。最近は横須賀の勤務態度がよろしくないように思えるんだよ。さっさと深海の奴らを倒してもらわないとこちらも困るんだよ。』

「申し訳ありません中将閣下。現状は鎮守府の被害が大きく、修復に時間がかかっておりまして・・・・敵艦隊の動向の調査と焼け落ちた宿舎や設備の再建、無くなった資材の確保、艦娘たちの練度向上を並行しているので多少の遅れは・・・・。」

 

相変わらず催促をしてくる大本営の人間の言葉に多少の苛立ちを覚えながらも、霧先は丁寧に現状を説明した上で、遅れていることに対して理解を求める。

だが相手はそんな霧先に対して声を荒げながら霧先を怒鳴りつける。

 

『私が言っているのはそう言う事ではないんだよ!調査なら駆逐共を深部に向かわせればいいだろう!?宿舎も艦娘どもには必要ないし、資材も潜水艦や駆逐共を休ませずに使えばいい!敵艦隊に爆弾でも抱えさせて突入させたらどうかね?わざわざ練度を上げる事など無意味なのだよ!艦娘は所詮兵器。いくらでも代替は効くんだからな!』

 

中将の言葉に霧先の理性はプッツリと切れそうになるが、手から血がにじみださんばかりに握りしめて耐え抜く。

艦娘、ひいては軍を率いる者として常軌を逸した発言に大きな怒りを覚えていた。

ここまで己惚れや過信でさらりと自爆攻撃すら命令しようとしてくる人間がいる事さえ信じられなかったのだ。

それでも霧先は海軍軍人、そして艦娘たちの指揮官としての面子を守るために自らの怒りを必死に抑え込んだ。

 

「それは分かっております。ですが目先の戦果ばかりでは足元をすくわれる可能性がある。その危険性がない方が作戦立案部にとってもいいのではないでしょうか?危険性がないことを確認すれば作戦立案部の信用は維持されますよ。」

『それもそうだな。ただ停滞自体は見過ごせないのだよ。』

「それに関しては今週中に敵艦隊の動向を確認した上で出撃する計画であります。」

『そうかね。精々頑張り給えよ、親の七光りやコネで中佐になった若造君。』

 

何とか言いくるめることに成功した霧先は、嫌味たらしく捨て台詞を吐いた中将が乱暴に受話器を叩きつける音を聞いた後で、受話器を戻した。

そして再び書類と向かい合って作業を再開し始めた。

 

 

 

 

霧先たちが書類や大本営からの嫌がらせと戦っている頃。

作戦指揮室では長門が霧先の代わりに、梅津指揮の「みらい」と共に偵察に出ていた蒼龍と飛龍の二名からの報告を聞いていた。

 

「そうか、見失ったと・・・・。」

「はい。」

「その内、一隻は隻眼のヲ級であることを確認しました。」

「鎮守府を爆撃した機動部隊のはずなんですが・・・・・同伴していた『みらい』を見たとたんに逃げ出してしまい・・・・申し訳ありません。」

「気にする必要はない。むしろ、敵艦隊の編成が確認出来ただけでも大きな収穫だ。」

「・・・どう?」

 

自分たちが逃したことを悔しそうに述べる二人に長門は気にしないよう告げる。

蒼龍と飛龍の報告を長門の傍で聞いていた陸奥は、部屋に完備された機器を操作している大淀に敵艦隊がやってきた場所が特定できるかどうかを尋ねた。

 

「残念ですが・・・情報が不十分で特定は不可能です。」

「そうか。」

 

流石に情報が少なすぎたため、敵機動部隊の本拠地を特定することは不可能であった。

それを聞いた長門は短く応答し、手元の書類に目を通し始めた。

その書類は提督の残した作戦指示書と、霧先がそれを熟読した上で加筆修正を行った作戦実行書だった。

 

「『我が連合艦隊の総力をもって駐屯地AFを攻略、敵の機動部隊を誘因し、これを撃滅せよ』か・・・。」

「それが提督の残した作戦・・・・。」

「駐屯地AF・・・・聞きなれない単語ですね。」

 

長門の読み上げた作戦を聞いた蒼龍と飛龍は聞きなれない駐屯地AFという単語が引っ掛かった。

その反応を見た陸奥は自分の仮説を二人に述べる。

 

「恐らく情報の漏洩に備えて、提督が暗号で書いたと思うの。何かわかる?」

「・・・分かる?」

「そんな急に聞かれても分かるわけないじゃん。そもそも聞いたの始めだし・・・。」

「だよね~・・・。」

 

陸奥に聞かれて咄嗟に1940年代からの記憶を引っ張り出してみるが、二人の頭の中にある記憶にはAFという単語に関係することは一切なかった。

長門は視線を外の水平線に向けて、いまだ見つからない駐屯地AFに関して頭を使い続けた。

 

 

 

 

時は過ぎて午前10時ごろ、艦娘達は一時限目の授業や演習を終えたところだった。

吹雪達も例外ではなく、先ほどサウスダコタによる初心者英会話の授業が終了したところだった。

休憩時間を迎えた教室では夕立が自分の机で苦痛に耐えた表情を表していた。

 

「うぅ・・・机がちょっと低いっぽい・・・・。」

「わ、私も低いかもしれないわね!」

「暁お姉ちゃんはぴったりなのです。」

 

夕立は改二になったことで身長が大幅に伸びて机のサイズが合わなくなっていた。

例えるなら高校一年生が小学六年生用の机で授業を受けるようなもので、彼女にとっては終始体が痛くなる体勢で授業を受けなければならない拷問でもあった。

そんな夕立が羨ましいのか、暁も机が小さいなどと言い始めるが、電にあっさり「丁度良い」と言われてしまった。

夕立が机に対して不満を示す中、吹雪がノートと鉛筆を持ちながら尋ねてくる。

 

「それより、後は?後は?」

「えっ?う~ん・・・特にはないわね。」

「うぇえ?これやったときに練度がドーンっと上がったなぁみたいなの・・・。」

「また聞いてるの?」

 

吹雪が夕立に聞いているのは練度に関する事だった。

理由は練度を効率よく、且つ早く上げたかったからだ。

それを繰り返し聞いていた為、丁度やってきた睦月は半分呆れた様子で吹雪に聞いた。

 

「だって、まだまだ足りないんだもん。もっとやる事色々増やさなきゃって。」

「えぇ・・・?まだ増やすの?」

「しょうがないよ。改になるには練度を上げるしかないって赤城先輩にも言われたし・・・ふぁぁ・・・。」

 

まだやることを増やすと言いながらも、明らかに眠そうに欠伸をする吹雪を見て睦月は不安になった。

今の吹雪は完全に練度を上げる事を優先していて自分の事ですら二の次にしているのは明白だった。

このままではいつか間違いや問題を起こすのではないかと、睦月は心配していた。

これが提督がいて、霧先の仕事が少ないときであれば、気軽な気持ちで彼に相談出来たものの、今は当の本人が執務室に引きこもっていて相談できるような状況ではなかった。

不安を胸の内に秘めたまま、睦月は改になることに夢中な吹雪を見ていた。

 

 

 

 

やがて演習の時間になると、教官の利根と尾栗の監督の元、吹雪の訓練が行われた。

今回の種目は移動しつつの砲撃。

吹雪が最も苦手な種目ではあったが、今ではすっかり克服している。

 

「次!行くぞ!」

「気合い入れてやれよ!」

「はい!」

 

利根と尾栗の言葉に応えた吹雪は射撃体勢に入る。

直後、水上に設置された的が起き上がり始め、吹雪はそれらを的確に砲撃で破壊していった。

行動しつつの射撃であっても外すことなく、すべての的を破壊した吹雪は一旦停止してから二人にもう一度的を用意してほしいと頼む。

それを聞いた利根と尾栗は念のために置いてあった的を立てさせ、訓練を続行した。

的が起き上がったのを確認した吹雪は、再び機関を始動させ、移動しながらの砲撃訓練を再開した。

 

「すごく上手になったのです!」

「うん・・・。」

 

それを遠巻きに見ていた電は吹雪の上達を喜んでいたが、睦月はそういう気持ちに離れていなかった。

 

 

 

 

「じゃあ、行くわね。」

「うん、また明日。」

「演習頑張ってね!」

 

夕方になると夕刻を告げる鐘が鳴り、艦娘たちは各々の行動場所へと散っていく。

その中でも夕立は第一艦隊配属になった為、吹雪達とは違った訓練が用意されていた。

その為、夕立は二人に別れの言葉を告げてから演習場所へと向かう。

演習場へと向かう夕立を見送った二人は、宿舎へと足を進めていった。

 

「そうそう。今日から間宮さんの所、正式に営業するらしいよ。」

「本当?よかったぁ~。」

「うん、寄ってかない?」

 

睦月は試しに二人っきりで話し合ってみようと思い、甘味処「間宮」に誘ってみた。

だが、吹雪からは思ってもいなかった言葉を言われた。

 

「あっ、今日はいいや。」

「えっ?」

「トレーニングのメニュー、残ってるし。あんまり食べると眠くなっちゃうし。間宮さんによろしく伝えといてよ。」

「・・・・うん。」

「じゃあね!」

 

睦月の誘いを断った吹雪は、そう言い残すと駆け出していった。

途中、曲がり角で赤城と加賀に出会うも、「失礼します」と言い残して走り去っていってしまった。

 

「珍しい。あの子が赤城さんを見つけて、そのまま行ってしまうなんて。」

 

普段とは違う吹雪の行動に赤城も加賀も違和感を感じていた。

その時赤城の目にはさみしそうな目で吹雪の背中を見つめる親友の睦月の姿が映りこんだ。

 

 

 

 

その翌日、川内、神通、那珂、吹雪、夕立、睦月の第三水雷戦隊の6人は作戦指揮室へ呼び出されていた。

理由は偵察、いくつもの艦隊が北方海域や南西海域に繰り出しているが有力な情報がないため、唯一偵察をしていないMI方面へ第三水雷戦隊を向かわせることが決定したのだった。

そして今回、海上自衛隊も参加することになっており、角松、尾栗、菊池が作戦指揮室で長門、陸奥と共に第三水雷戦隊との事前説明に参加していた。

 

「確認のために言っておくが、任務は駐屯地AFの特定だ。北方海域や南西海域には既に別艦隊が出ているがこれといった収穫は無し。残るのはこのMI・・・ハワイ方面だ。鎮守府に爆撃を行った機動部隊が敵の主力部隊であることは間違いないだろう。近づけば必ず動くはずだ。」

「つまり、近づいて動きがあった駐屯地の付近に機動部隊がいる。」

「そういうことだ。今回は俺たち海上自衛隊も参加する。」

「角松二佐たちも参加するっぽい?」

 

長門の説明を理解した吹雪に角松が付け加えるように言う。

それを聞いた夕立を含めた全員が驚いた表情を見せた。

 

「あぁ、本来なら霧先たちが参加する予定だったがな。」

「あれじゃまともに出れやしないってことで、俺たちがお前たちの護衛につくってわけだ。」

 

角松と尾栗が書類漬けになっている霧先を思い浮かべながら、気の毒そうに説明した。

その横にいた菊池は二人が説明し終えると、補足を付け加えた。

 

「そこで問題がある、俺たちは海上自衛隊だ。梅津艦長もそのことは変えないつもりでいる。緊急を要する場合や敵の攻撃があった場合は攻撃できるが・・・・。」

「攻撃を受けていない状態での先制攻撃は認められない・・・・ということですね。」

「そうだ神通。だから、俺たちの役割は戦闘の回避になる。」

「指示には従ってもらうからそのつもりで頼むぞ。」

「了解しました。」

 

菊池の言葉を聞いた神通は全てを把握し、尾栗と角松は念押しをしておく。

それを確認した長門は一呼吸おいてから声を発した。

 

「以上をもって事前説明を終了する。第三水雷戦隊、及びイージス艦『みらい』、出撃せよ!」

 

長門の言葉に応えるように、全員が敬礼をしてから作戦指揮室を後にした。

陸奥と二人っきりになった長門は、何かを考えていた。

見かねた陸奥は単刀直入に聞いた。

 

「何か気になることでも?」

「いや、最近霧先の奴が妙に怪しい気がする。まるで何かを確かめているような行動をとるんだ。」

「そうかしら?あなたの気の所為かも。」

「そう・・・・・だといいのだがな。」

 

どこか引っかかるような気持ちになった長門は、謎の不安感を拭いきれていなかった。

気のせいで済まされないような気がしたのだ。

 

 

 

 

第三水雷戦隊と「みらい」が出港してから数日後。

予定通りMI海域・・・ミッドウェー海域へと接近した一行は特に襲撃を受けることなく進んでいた。

それ故か、那珂は鼻歌を歌いながら航海していた。

気づいた神通が中に注意を呼びかける。

 

「那珂ちゃん駄目よ。ちゃんと警戒して。」

『だがノリがいいぞ神通。今時のアイドルみたいだぜ。』

「那珂ちゃんはアイドルだよ!」

『ハッハッハッ!そうだったな!』

『尾栗、ふざけてる暇があったら真面目にしてろ!』

「そうですよ尾栗三佐。ちゃんと警戒しないと。」

『へいへい・・・・。』

 

角松と神通の二人からとがめられた尾栗は渋々といった様子で職務へ復帰する。

そのやり取りを聞いていて苦笑いになる夕立だったが、すぐに川内に尋ねた。

 

「偵察機の方は?」

「・・・・駄目みたい。」

『此方もロクマルと連絡を取ってみる。シーホーク、フォーチュンインスペクター。現状を報告せよ。』

『此方シーホーク、艦影は発見できません。敵航空機もなし!』

「海は静かだね・・・。」

 

川内や角松が偵察に出た水偵とSH60Jに連絡を取るが、艦影はおろか航空機すら見つからなかった。

上空を飛んでいく水偵やSH60Jでも何も発見できない以上は何もないと思われ、ここでもないかという落胆感が皆を覆った。

「みらい」艦橋も例外ではない。

 

「ふむ・・・・ミッドウェーでもなかったか・・・・。」

「艦長、そうと分かれば撤退を具申します。今からなら深海棲艦隊が多数確認されている海域を夜の内に抜けることができます。」

 

何もいない以上、燃料や時間を空費するのは無駄だと考えた角松は梅津に意見を具申する。

角松の案を聞いた梅津は、今すぐ行動した方がいいと判断し、尾栗に声をかける。

 

「だな。航海長、進路270。」

「了解、進路270。面舵いっぱーい。」

「面舵いっ・・・・。」

『フォーチュンインスペクター、シーホーク!深海棲艦の戦闘機発見!こちらに接近中!』

 

操舵手が尾栗の指示を復唱し、面舵を取ろうとした瞬間にSH60Jから通信が艦内に響いた。

声からもどれだけ逼迫した状況なのかが良く分かる。

 

「シーホーク、フォーチュンインスペクター!引きはなせるか!?」

『無理です!後ろについて照準を合わせようとしてきます!今必死に機体を揺らして避けてるところです!』

「わかった。もし発砲してきたのなら機関銃で威嚇射撃を行え!こちらが発見されてもいい。今すぐ戻ってこい!」

『了解しました!』

 

角松とSH60J機長の柿崎との会話は第三水雷戦隊にもばっちり聞こえていた。

だがしかし、念を入れて、角松は第三水雷戦隊にも連絡を入れる。

 

『今の会話は聞こえたか神通!?』

「はい、間違いなく!」

『総員対空、対水上警戒を厳となせ!』

「分かりました!総員、戦闘用意!」

 

全員が、これから来る戦闘に備えて用意を進める。

「みらい」でも武鐘が鳴り響き、CICではレーダーに表示されたSH60Jと深海棲艦の戦闘機が徐々に近づいていた。

 

「対空戦闘用意!」

「対空戦闘用意、スタンダード、シースパロー発射用意よし!」

 

もしもの攻撃に備えて、CICでは砲雷長の菊池指示の元、対空戦闘の準備が整えられた。

だが敵戦闘機は「みらい」上空を飛び越えると、SH60Jから離れていった。

それと同時に対水上レーダーに艦影が表示された。

 

「まずいな・・・・。」

 

菊池は艦内電話を手に取ると、艦長の梅津に連絡を取った。

 

「艦橋、CIC!艦長、本艦の情報を近海の深海棲艦に報告されました!敵艦隊が本艦左104度から接近中!」

『了解だ、この海域から離脱する。非常時に備え、対水上戦闘用意!』

「了解!総員対水上戦闘用意!」

「対水上戦闘用意!主砲、トマホーク、ハープーン、Mk46魚雷、発射用意よし!」

 

対水上戦闘に切り替えたCICでは光点が徐々に近づく。

当然、第三水雷戦隊も戦闘準備は整えていた。

航空機から一を知らされている以上、最大戦速でも追いつかれる可能性が高い。

それを理解した梅津と神通は、このまま同航戦に持ち込むことにした。

最悪の場合は威嚇射撃でひるんだところを見て逃げることも視野に入れていた。

全員が神経を研ぎ澄ませている時、吹雪が「みらい」から知らされた方角の水平線上にある物を発見した。

 

「敵艦発見!」

「回り込まれたみたいだね。」

「もう!しつこいんだから!」

「こうなったら素敵なパーティー始めるしかないわね。」

「だめです!」

 

吹雪の報告に回り込まれたことを確信した川内。

その横で那珂は敵のしつこさに嫌気がさしているようだった。

そんな中で、回り込まれた以上は交戦する気満々の夕立に神通がくぎを刺した。

 

『敵弾来る!総員衝撃に備え!』

 

「みらい」から飛ぶ角松の声に全員が衝撃に備えた体勢を取る。

程なくして敵弾が艦隊の付近に着弾し、水柱をいくつも上げた。

 

「敵の数は!?」

『駆逐4、軽巡2だ!どうする?こちらの最大戦速に届くかもしれんぞ!』

「そのくらいなら・・・・やるしかない!」

「仕方ありません・・・三水戦戦闘用意!」

 

本格的に戦闘が決定し、艦娘たちは戦闘態勢に移行する。

「みらい」も彼女たちを援護すべく、予備弾が潤沢な主砲を準備する。

そんな中、吹雪にある考えが浮かぶ。

 

(ここで私が倒せれば・・・練度が!)

「吹雪ちゃん・・・・。」

 

睦月はいやな予感しかしなかった。

吹雪は目先の練度という欲望に取りつかれて正常な判断を失っていた。

そして普段なら言わないことを言い始めたのだ。

 

「私!前に行きます!」

「えっ!?」

 

突然の事に神通も止めることができず、吹雪は前に進んでいく。

それを「みらい」艦橋から見ていた自衛官達は騒然としていた。

よもや吹雪が単身で敵に突撃していくことなど夢にも思っていなかったからだ。

 

「あの馬鹿野郎!洋介!」

「分かってる!吹雪!何をやっている!今すぐ戻れ!」

『大丈夫です角松二佐!』

「副長、シーホークを向かわせてくれ!」

「了解しました!シーホーク、フォーチュンインスペクター!吹雪の馬鹿が単身突撃した!援護と最悪の場合に備えてくれ!」

『フォーチュンインスペクター、シーホーク!了解しました!』

 

角松らが対応に追われている間、吹雪は敵艦への砲撃を行っていた。

砲弾は初弾から夾差をたたき出し、吹雪の技術が上がっていることを示していた。

味を占めた吹雪はそのまま前に出た状態で砲撃を敢行、軽巡に砲弾が命中して喜ぶ。

だが駆逐艦の艦砲程度で軽巡に有効なダメージが出るわけもなく、あっさりと反撃を受けて中破にまで追い込まれてしまった。

 

「吹雪ちゃん!」

「下がりな吹雪!」

「平気です!川内さんたちは敵駆逐を!・・・向こうも損傷しています。あと一撃、当てることができれば!」

 

川内が吹雪に下がることを指示しても吹雪は平気だと言い張り、完全に勝率がないに等しい博打に出た。

敵軽巡に一発でも当たれば撃沈させることは可能だろう、だが同時に吹雪が轟沈する恐れもある。

しかも確率的に言えば後者の方が高いのだ。

そんな博打に躊躇無く突っ込んでいく吹雪。

しかしほかの敵艦から砲撃を受け、余計にダメージを負う。

最早博打ではなく死にに行くようなものであった。

それは「みらい」艦橋からお良く見えており、梅津はCICに怒号を飛ばした。

 

「主砲撃ちぃ方ぁ始め!」

 

「トラックナンバー1452!軽巡ホ級!主砲、撃ちぃ方ぁ始め!」

「撃ちぃ方ぁ始め!」

 

「みらい」の127㎜主砲から砲撃音が鳴り響いた後、海上に黒煙が上がった。

 

 

 

 

吹雪が目を覚ますと、そこは入渠施設の大浴場だった。

湿気によってできた露がポタポタと落ちる音が響き渡る浴場で、最初はぼんやりしていたものの、意識がはっきりとした吹雪は自分が湯船に浸かっていることに気づく。

 

「あれ?・・・・夢?」

 

さっきまでのは入浴中に寝てしまっていた自分が見た光景だと思った吹雪は取り合えず起き上がる。

すると後ろから聞きなれた声が聞こえてきた。

 

「おっ、気づいた?」

 

川内の声が響くと同時に睦月が駆け込み、湯船に飛び込んで吹雪を抱きしめた。

突然のことに完全にに脳がついていっていない状態吹雪だったが、睦月は服が濡れることも気にせずにただ吹雪を抱きしめながら泣いていた。

 

「吹雪ちゃん!よかったよぉお!!」

「あの・・・私?」

「敵の最後の一発が奇跡的にも逸れてね、当たってたら轟沈だったよ。」

 

自分がどの様な状況だったかを川内から説明された吹雪はあることを睦月に尋ねた。

 

「睦月ちゃん!あの深海棲艦、私倒せた!?」

「吹雪ちゃん・・・・。」

「残念だけど、そっちも外れ。結局『みらい』の艦砲射撃で撃沈だよ。」

「そうですか・・・はぁ、もう少しかと思ったのになぁ。」

 

自分が倒せなかったことに溜息をつく吹雪に睦月も限界が来た。

普段の睦月が出すことがないような声で絞り出す様に呟いた。

 

「そんなの・・・どうでもいいよ。」

「え?」

「吹雪ちゃん、轟沈するところだったんだよ!」

「睦月ちゃん・・・・。」

 

普段怒こることがない睦月でもこの時ばかりは激怒していた。

目の前の改という欲望にばかりに目がくらみ、自分の命を軽々しく扱う吹雪が許せなかった。

 

「駄目だよあんな事しちゃ・・・轟沈したら、もう戻ってこれないんだよ!?戦うことも歩くことも!みんなとお話しすることも!出来なくなっちゃうんだよ!後悔もできないまま・・・・海の中に消えちゃうんだよ!」

「でも・・・・。」

「私もうやなの・・・もしも吹雪ちゃんがいなくなったらって思ったら!」

「睦月ちゃん・・・!」

 

過去に「W島攻略作戦」で一時の間行方不明になった妹の如月。

睦月にとってあの時の時間はトラウマとなっており、奇跡的に如月は帰還出来たものの、吹雪の場合は本当に死んでしまいそうだった。

耐えきれなくなった睦月は泣きながら、そのまま浴場から出て行った。

 

「少しは気持ち、考えてあげないとね。」

 

川内の言葉に自分のしでかしたことに気づいた吹雪は落ち込んだ。

だがそれで終わったわけではなかった。

睦月が出ていくと同時に漣が血相を変えて大慌てで転がり込んできた。

 

「せっせせせ川内さん!やべえですぜ!」

「どうしたの漣。アンタらしくもない。」

「こっこここ工廠長殿がブチ切れてますぜ!あの武蔵さんが震える位に怖いです!」

「うわぁ・・・・・なんでまた。」

「実は・・・・。」

 

漣によると、今回の出撃の報告を聞いた霧先は、武蔵でも震え上がるほどの怒気を溢れ出させながら聞いたこともないような低い声で吹雪を呼ぶように言ったという。

もし来なかった場合にはそれ相応の罰を与えるとも言っていた。

話していくうちに青ざめていく漣の表情からは嘘が感じられず恐怖しか感じられなかった。

その事を聞いた吹雪は大急ぎで浴場から飛び出し、着替えの服を着用して入渠施設から執務室へと向かった。

川内もそのあとをついていくと、執務室の前には海上自衛官、艦娘、妖精がごった返していた。

中でも戦艦組を含めほとんどの物が青ざめていた。

 

「これはさっさと行った方がいいかも。」

「・・・・分かりました。」

 

既に扉越しにも溢れ出てくる怒気によって川内と吹雪も体の震えが止まらなかった。

それでも行かなければ自分が酷い目にあうことが分かりきっているため、意を決した吹雪はドアをノックした。

 

「・・・・入れ。」

 

確かに霧先の声だが、普段からは予想できない低い声で応答してきた。

吹雪はノブを回してドアを開いて中へ入る。

流石に吹雪だけは酷だと思ったのか、川内は丁度近くにいた神通と那珂、先代神通も連れて一緒に入った。

部屋の中はカーテンが閉じられており、廊下からの明かりで照らされているところ以外は全くの暗闇だった。

吹雪以外にも川内たちが入ったことに気づいてはいたが、霧先は特に止めることはしなかった。

吹雪は霧先の前に立ち、敬礼をした。

 

「と、特型駆逐艦吹雪、参上しました。」

「・・・・今回の作戦で起こった事態の確認をする。報告は既に受けている。嘘はつくな。」

「は、はい・・・・。」

 

霧先は手元の資料を読むために電気スタンドのスイッチを入れる。

明かりのおかげで霧先の顔も照らされるが、普段の笑顔などどこにもなかった。

 

「特型駆逐艦吹雪、君は本作戦において旗艦である神通、さらには川内の指示や注意を無視した上で軽巡洋艦に突貫した。間違いないな?」

「ま、間違いありません・・・。」

「なぜそんなことをした?」

「・・・・・・練度が。」

「ふざけてるのか貴様は!」

「ヒッ!」

 

作戦について間違いがないことを確認した霧先は吹雪になぜこんな行動を取ったのかを聞く。

そして吹雪の答えを聞くと机を殴りつけた上に彼女を怒鳴りつけた。

脇で見ていた川内たちも怖くなり、ガタガタと震え始める。

あの先代神通ですら震えて冷や汗を掻いていた。

 

「そんなもので築き上げた練度など意味はない!そもそも『みらい』の護衛艦にも選考は無理だ

!練度は確かに身を削って積み上げるもの。だが死にかけていては元も子もないだろうが!『みらい』乗組員にも死者が出るところだったんだぞ!!お前は家族や友達を平気で見捨てる気なのか!!?」

「あ・・・・あ・・・。」

 

口をパクパクさせながら涙を目じりに浮かべる吹雪。

だが霧先はそれで止めることは無く、吹雪に対して言うべきことを言った。

 

「僕が言うことは以上だ。分かったらさっさとすべきことをして来い!」

「・・・・・すみませんでした工廠長!」

 

吹雪は礼をしてから執務室を飛び出した。

その際に泣いていることを見てしまった川内は霧先に突っかかった。

 

「ちょっと友成!あんなに怒鳴りつけることないでしょ!」

 

机を両手で叩きつけながら身を乗り出して抗議する川内に対して、霧先はイスに深く座りながら一息をついてから話し始めた。

 

「ふー・・・川内姉さん、僕だって心苦しいよ。部下にあんなことを言うのは。でも今回の事はそれだけの危険があった。彼女はそれに気づかなければならないし、上官に怒鳴られなければ重大さに気づかないかもしれない。今後の事を考えれば、僕が恨まれようとも今回の事は実行しないとね。」

 

普段ののんびりした口調に戻った霧先は「お菓子食べる?」と菓子を取り出して皆に差し出す。

その豹変ぶりに川内は目を丸くして固まった。

 

「・・・・え?じゃあ今までのは演技?」

「怒ってたのは事実だよ?怒ったのは久しぶりだけど・・・・・。」

「・・・・なにそれ。」

 

笑いながら菓子と茶をつまむ霧先に対して、川内は呆れかえっていた。

そして霧先は立ち上がり、外にいる者たちを払った。

 

「さて、川内姉さんたちも明日に備えて宿舎に帰った方がいいね。はいお菓子。」

「何故にお菓子・・・もらうけど。」

 

菓子をもらった川内たちは霧先に背を押されるようにして執務室から退散することになった。

そして宿舎へと向かうことになったのだが、川内はあることを思い出して先代神通に尋ねた。

 

「あれ?そういえば神通も震えてたけどさ、なんで?」

「那珂ちゃんも知りたーい!あれだけ強い神通おねえちゃんが何で震えてたの?」

「だって・・・・・あの友成が怒ったんですから!お母さん怖いよぉ・・・・。」

「えぇ・・・・・?」

 

先代神通の言葉に川内型の三人は微妙な顔をしたまま、泣き出す元戦闘中毒者を眺めるしかなかったのだった。

 

 

 

 

元戦闘中毒者が泣き出す光景をどうしていいかわからない表情の川内型三人が困り果てているとき、作戦指揮室では陸奥と長門が作戦を講じていた。

横では大淀が出撃中の艦隊と連絡を取っている。

 

「三水戦と『みらい』が一番激しい攻撃を受けたとなると・・・駐屯地MIが本命か。」

「でもそれだけで特定するのは早計じゃない?」

「分かっている。何か決め手となるものさえあれば・・・・。」

 

ある程度まで絞り込めることはできたものの、確定的でない状態で艦隊を出撃することはできない。

たとえ派遣したとしても、そこが駐屯地AFでなければ対策を取られるうえに、最悪の場合は艦隊の全滅というシナリオが待ち構えている。

長門も、それを避けるべく慎重な姿勢でいた。

その時、普段は声を上げない大淀が声を上げた。

 

「何なんですかさっきから・・・・後で明石か工廠長に修理してもらわないと・・・・。」

「どうしたの?」

 

通信機を叩いた後、ブツブツとつぶやく大淀に陸奥が問いかける。

 

「いえ、さっきから千歳さんに連絡を試みてるのですが・・・通信機の不調らしく、混線してるんです・・・・古いからかなぁ?」

「・・・!大淀!」

「はい?」

 

通信機の以上で混戦しているものと考えた大淀はブツブツと言いながら再び操作する。

その以上にあることを感じた長門は大淀に声をかけた。

 

 

 

 

その頃、吹雪に怒鳴って浴場を飛び出した睦月は一人で桟橋にいた。

この夜の時間帯には誰も来ない倉庫区画の桟橋で、睦月は一人で体育座りをしていた。

ふと、後ろに気配を感じて振り返ってみると、そこには吹雪が立っていた。

 

「睦月ちゃん。お話があるの・・・・。」

 

吹雪はただ、そうつぶやいた。




さて・・・・三か月ぶりに書くから霧先のキャラが崩壊しているような気が・・・・。
ま、キャラなんてあってないようなものなんだけどね!
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