高校生艦長と自衛艦の航海日誌   作:みたらし饅頭

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お久しぶりです・・・
陸自のお仕事は忙しくて更新できてませんでした・・・ごめんなさい
あ、あと活動報告の方でアンケート募集しているのでお願いします


第伍拾肆戦目「MI作戦 ! 発動 ! 上」

薄暗い海、その上を飛ぶのはエンジンから火を上げた零式艦上戦闘機。

機体に書かれている識別帯から赤城航空隊所属の戦闘機であることがわかる。

だがその機体もすぐに撃墜される。

数多くの深海棲艦の艦載機、それの餌食となっていく一航戦、二航戦の航空隊。

助けも無く、唯々撃墜される航空機を尻目に何とか逃れようと赤城と加賀は回避行動を続ける。

加賀は既に大破して自力での高校が不安定であり、赤城は加賀に肩を貸した状態で逃げ回っていた。

変わらない現実、変わらない運命。

三隈、蒼龍と次々に仲間が沈んでいく。

それに絶望している赤城に一発の爆弾が降りかかってきた。

 

「ごめんなさい・・・雷撃処分・・・してください・・・」

 

赤城の最後の願い、それをくみ取った僚艦が最後に手を添えることになった。

駆逐艦達が魚雷を赤城に向け、発射。

雷跡を描きながら一直線に魚雷は赤城へと向かっていった。

 

 

 

「・・・!」

 

魚雷が着弾する直前、赤城は目を覚ました。

息を荒げながら起き上がると、そこは一航戦の2人の部屋で、隣では加賀がまだ寝ていた。

時計を見ると、時刻はまだ0524、午前5時24分であり、総員起こしまで30分程時間があった。

 

(また・・・あの夢・・・作戦が決まってから毎晩のように・・・あれは・・・)

 

自分の過去にそっくりな悪夢に険悪感を覚えながらも、上着を羽織ってから立ち上がって窓辺へと近寄る。

カーテンを開けると、丁度運動場のトラックを吹雪が走り込んでいた。

 

「赤城せんぱーい!おはようございまーす!!」

 

大きな声で赤城への挨拶をする吹雪。

そんな彼女に赤城は笑顔で手を振りながら答えた。

だが内心、彼女は不安と心配の渦が入り乱れ、大きなうねりを作り上げていた。

この時、友成による「MI作戦」発動まで22時間を切っていた。

 

 

 

作戦指揮室では友成が頭を抱え、長門が手を組みながら肘をついて考え込んでいた。

 

「まだ決まらないの?いい加減決めないと、皆浮足立っているわよ?」

「分っているんだがな・・・どうも決め手に欠けるんだ。どんな編成にしてもこれで良いという確証が得られない」

「加えてこの鎮守府には100以上の艦娘が在籍してます。遠征、訓練、警備にどのように回すのかも問題になりますし、何より一番の問題は自衛隊の艦です」

「確か・・・大本営から作戦参加停止命令が出たのかしら?」

「ええ・・・」

 

陸奥の言葉に顔を歪めながら頭を抱える友成。

原因は先程も陸奥が言っていた大本営からの自衛隊の護衛艦の参戦停止命令だった。

大本営曰く「高度な技術力を持つ艦を激戦地に派遣した際の損害は大きい」ということだった。

これはあくまで表の意見だろうが、友成が推察するに、これによるMI作戦失敗とその責任追及を友成に負わせ、護衛艦を確保、研究する気ではないかということであった。

もし悪用を目的とした軍部の人間の手に渡れば日本が再び軍国主義に目覚めてしまう可能性があり、自衛隊としては断じてそんなことになってはならないのである。

無論、大本営の指示など防衛省所属の自衛隊には無効であるが故、抜け道はいくらでもある。

だが表だってやってしまえば、大本営の軍人たちが騒ぎ立てるため、友成と長門は切り札である自衛艦隊が使えず頭を悩ませていた。

友成と長門の二人が長い溜息をついて再び編成表に向き合おうとしたとき、部屋がノックされた。

 

「はい?」

 

陸奥が応えると扉が開かれ、普段の弓道着を着用した赤城が入室してきた。

 

「一航戦、赤城です!霧先提督代理及び長門秘書官に意見もうしたいことがあり、参りました」

「意見・・・ですか?」

「はい、MI作戦における私の第一機動部隊の編成について少し考えるところがありまして・・・今の編成案を窺ってもよろしいでしょうか?」

「ええ、構いませんよ」

 

友成は赤城の申し出を快諾すると、手元にあった編成案を手渡した。

 

「一応五航戦のお二人もいれる予定だったんですが・・・修復バケツが底をついている所為で修理が間に合わないんですよ。」

 

申し訳なさそうに言う友成だったが赤城の変化を見逃さなかった。編成案を見た赤城の目が微かに歪んでいたのだった。

赤城が見た編成表にはあの悪夢と同じ艦娘の名が載っていた。それだけで赤城の不安感は一気に増していた。

たまらず、赤城は言葉を口に出した。

 

「お願いがあります」

「お願い・・・ですか?」

 

唐突な赤城の言葉に友成と長門の頭は疑問符しか浮かばず、お互いの顔を見合った。

 

 

 

6時間後、昼前を迎えた食堂では第六駆逐隊の面々が集結してた。

その中でも雷は何故か牛乳を睨みつけていた。

 

「雷ちゃん。牛乳ちゃんと飲まないとダメなのです」

「立派なレディになれないわよ」

「分かってる!フルーツ牛乳なら飲めるのに・・・」

 

雷が牛乳を睨みつけていた理由、それは苦手で飲むのを躊躇しているという理由だった。

何の罪もない牛乳は睨み付けられた上、それに少し味を付けただけのフルーツ牛乳に敗北する始末。

一体どこで差がついたのか。一体牛乳が何をしたというのか。もはや牛乳に相談ではなく、牛乳が相談するレベルであった。

 

「高雄さんや愛宕さんはミルク好きっていうよね」

「それね!それが秘訣なのね!!」

 

響の発言によって謎の方程式からある答えを導き出す暁。

もはや日常茶飯事なので、電も雷も苦い顔をしながら特に気には留めず、止めようともしなかった。

 

「あと、もし私たちが明日の作戦に参加することになったら・・・」

「ミルクは栄養たっぷり!出撃前には体にいいのです!」

「そ、それもそうね・・・よーし!」

 

もしもの時に備えて栄養を補給するように、響きと電に勧められた雷は意を決して牛乳を飲んだ。

その横では吹雪がジョッキに目一杯注がれた牛乳を飲み干していた。

 

「プハー!」

「吹雪ちゃん凄い!」

「新記録っぽい?」

 

傍から見ればビールを一気飲みしている酔っ払いのような一連の動作に睦月は感嘆の声を上げ、夕立は新記録を超える勢いの吹雪に驚愕している。

 

「改になってから、前よりももーっとごはんがおいしくて、いくらでも入っちゃう感じなの!」

「流石、赤城先輩の護衛艦だね!」

「えへへ~」

 

理由を聞いた睦月は何故かすごいと吹雪をほめる。

ここに友成やその他常識人の人間がいれば「違う、そうじゃない」とツッコミが入るだろうが、あいにく現在、食堂にはツッコミ要員がいないという悲惨な状況である。

ときにはツッコミに回る夕立も、今回はボケのようである。

それを見ていた雷は意を決して牛乳を飲もうとする。しかし、丁度その時にブザーが鳴り、放送が入った。

「秘書官の長門だ、皆そのままで聞いて欲しい。これより、明日実施されるMI作戦の艦隊編成を発表する。まずは、本作戦の要となる第1機動部隊から。一航戦、赤城、加賀。二航戦飛龍、蒼龍。護衛として戦艦金剛、比叡。重巡利根、筑摩。雷巡北上、そして駆逐艦夕立、吹雪!」

 

編成が発表され、意気込む艦娘達。夕立と吹雪は顔を見合わせ、共に頑張ろうと視線を交わした。

尚、大井は北上と同じ艦隊に含まれておらず、この世の終わりのような顔をしていた。

 

「また、攻略の主力艦隊には本鎮守府から戦艦榛名、霧島、雷巡大井がトラック島から出撃する大和を旗艦とした艦隊と合流することになっている」

「大和さん、とうとう出撃するんだ!」

「さらに本作戦には、攻撃目標が駐屯地MIであることが敵に悟られぬよう、陽動部隊を駐屯地ALに向けて出撃させることも含まれている。AL作戦には、他の鎮守府から隼鷹と龍驤が参加する。この2艦の軽空母と共に重巡那智、軽巡球磨、多摩、駆逐艦暁、響、雷、電、以上が参加する。」

「他の艦娘達には鎮守府及び近海域の警備にあたって貰う。諸君の検討を期待する!」

 

唐突な任務と編成に艦娘たちは動揺するも、その殆どが息巻いていた。

無理もない。元々は軍艦、血気盛んなのは生まれながら必然な事象と言えよう。

そんな艦娘達の合間を縫って、とある艦娘達が吹雪達の元へ近づいた。

 

「改になったんだし、しっかりやるのよ!吹雪!」

「今回だけセンターは譲るから!」

「夕立ちゃんも頑張ってね!」

「はい!」

 

川内、那珂、神通からの激励を受け、夕立と吹雪は声を合わせて答える。

そんな二人を見て、睦月は笑顔を更に深まらせた。

 

 

 

賑やかな鎮守府内でも重い空気が流れる場所はある。作戦指揮室はその一つと言えよう。

発表してからも、霧先と長門は頭を抱えて悩んでいた。

 

「二人とも本当に良かったの?最初は舞風達第四駆逐隊を編成に・・・という案もあったのでしょう?」

「そうですか、あのように言われてしまっては・・・」

 

霧先たちが編成を変更した理由は、赤城からの意見具申があったからだ。

赤城が変えるように具申した理由、それは彼女が感じた違和感から来たものだった。

彼女はそれを【定めの頸木】と称し、長門にも感じたことがないかを問う。

頸木とは牛などに物を引かせる際の道具であり。それをつかって作り上げたこの例え言葉は言い得て妙といえよう。

少なからず感じていた長門も、この言葉には黙り込んでしまう。霧先も同じであった。

そして、赤城は「もしそんなものが存在するなら、それに抗いたい」と言ったのだった。

そこまで言われてしまった以上、二人とも赤城の意見に首を横に振るわけにもいかなかった。

こうして第四艦隊の参加は見送られたのだった。

 

「よかったの?」

「正直、色々思う点はある。他鎮守府でも報告されている前世通りの編成での敵艦隊撃破とその艦隊以外での撃破不可。極めつけは轟沈した艦娘のうち、少なからず前世と同じ海域で沈んでいる者もいる」

「奇妙な事ですが・・・確かに運命が働いているのかもしれません・・・有り得ない力・・・全く使う意味は違いますが、【見えざる神の手】とでも言いましょうか」

「【神】か・・・そんなものがいるなら聞きたいものだ。過去の大戦や、今の戦いで散っていった者たちの運命というものを」

 

誰に向けたものかわからない皮肉を飛ばす二人を見て、陸奥は心配になっていた。

二人ともすでにかなり疲弊している。長門は艦隊業務に補佐、霧先は提督業に艦長職務を行っている上に大本営から嫌味を含めた発破をかけられる。

そんな状況では疲弊しないのもおかしい話であった。

 

最も、そのすぐ後にそこに北上と別艦隊になったことで怒り心頭となった大井がカチコミに来ることになるのではあるが。

 

 

 

夕暮れの埠頭で、赤城は艦載機を格納していた。そこに丁度、吹雪が現れ声をかける。

2人は並んで埠頭に腰掛けて夕暮れに照らされた海を眺める。

 

「明日の準備は、出来ましたか?」

「はい、やっと先輩と一緒の艦隊で戦うことが出来ます!これもみんな、先輩のおかげです!ありがとうございます!」

「それは違いますよ。本当に誇るべきなのは諦めず努力し続けたあなた自身。私は少しだけ手を貸しただけです。全ては貴方の生き方や考え方が実ったものなのですよ」

「赤城先輩、私この鎮守府が大好きなんです!睦月ちゃんや夕立ちゃん、三水戦の川内さん達、金剛型のお姉さんたちや第五遊撃隊の皆さん・・・暁ちゃんたちや高雄さんや最上さん。間宮さんや利根さん、島風ちゃん、工廠長に海上自衛隊の皆さん。そして、赤城先輩。この鎮守府に来て、皆凄いなって!みんな素敵でかっこよくて・・・私もみんなの仲間に・・・この鎮守府の本当の中になりたいって、そう思ったんです。だからやっぱり、私が頑張れたのは皆のおかげで・・・だからやっぱり、ありがとうございます!」

 

吹雪の言葉を聞き届けた赤城は吹雪に向かって立つ。その真名時は真剣であった。

 

(提督が果たしてこのたった一隻の駆逐艦に何を見出したのかはわからない、けれども打てる手は打った、後は抗うだけ。今はこの子の信念、想い、眼差しには答えなくてはならない。それが先輩である私の務めだから・・・!)

 

「勝ましょう!吹雪さん!」

「はいっ!」

 

波止場で確かな意思を心に決めた二人。夕日が彼女たちの航路を静かに燃えるような光で灯す。

MI作戦開始まで残り9時間、運命は近づく。




始まるMI攻略作戦
太平洋で始まる大海戦の勝利はどちらの手に渡るのか!?
運命に抗う艦娘達の未来は・・・

次回「MI作戦 ! 発動 ! 下」

人は敷かれたレールしか歩けないのか?

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