「おはよー、一夏お兄ちゃん」
「おはよう、翔」
すぐそこで一夏兄ちゃんと出会って一緒に歩いていた。
道中ですれ違うお姉さん達が少し顔を赤くしてたけど、何かあったのだろうか?
「なぁ翔。まだあの時の…えーっと」
「美香お姉さんのこと?」
「そう、その事だけど…まだ怒ってた?」
授業中に一夏お兄ちゃんが落下しちゃったとき、
運悪く明お姉ちゃんと美香お姉さんがいる場所に墜落してしまい、
明お姉ちゃんはどうしてか上半身が地面に埋まって、美香お姉さんは胸を揉まれてしまっていた。
Hなことが苦手な美香お姉さんは暴走して全力で一夏お兄ちゃんを攻撃した後、
表情には出さなかったけれども内心は物凄く怒ってるように感じた。
「う~ん、詳しい事は何も言ってなかったけれども…多分、もう怒ってないと思うよ?」
「そうなのか?」
「…多分」
ボクが言った言葉に確実な自信は無い。
ただ、美香お姉さんなら頑張って謝ったら許してくれると思う。
それからちょっと歩いて教室にたどり着き、教室の扉を一夏お兄ちゃんが開く。
クラスの中の皆は扉の音に気づいてこっちを向く、この瞬間がどうも慣れそうにない。
次々とクラスのお姉さん達がボク達に朝の挨拶を交わし、
その中で一人のお姉さんがボク達に話しかけてきた。
「おはよー織斑くん、天野くん。ねぇねぇ、転校生の噂聞いた?」
「え? 聞いてませんけれども……」
「転校生? 今の時期に?」
一夏お兄ちゃんはちょっと不思議そうに言った。
今の時期って転校生が来るには変な時期なのかな?
「そう、何でも中国の代表候補生なんですって」
「ふーん」
「あら、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入かしら?」
クラス唯一の代表候補生、セシリアお姉さんはいつも通りの態度で接してくる。
相変わらず腰に手を当てていて、どこか偉そうな感じなのがいつも通りだ。
「このクラスに転入してくるわけではないのだろう? 騒ぐほどのことでもあるまい」
ふと気づけば側に篠ノ之さんが立っていて、一夏お兄ちゃんに話しかけてきた。
クールで侍のような感じで、可愛いよりもカッコいいという珍しいお姉さんだ。
「どんなやつなんだろうな?」
一夏お兄ちゃんは転校生がどんな人なのかと興味を出してくる。
確かに、どんな人が転校してくるのかは興味ある。もしかすると代表候補生なのかもしれない。
「む…気になるのか?」
篠ノ之さんが一夏お兄ちゃんに聞いてくる。
けれど、その言葉はどこか不満そうな感じだった。
「ん?あぁ、少しは」
「ふん……」
すると篠ノ之さんはなんだか機嫌が悪くなったように見えた。
「今のお前に女子を気にしている余裕があるのか? 来月にはクラス対抗戦があるというのに」
「そう!そうですわ、お二人とも。クラス代表戦に向けて実戦的な訓練をしましょう。
なにせ、このクラスの中で『代表候補生』なのはわたくしだけなのですから」
セシリアさんはやけに代表候補生という事をかなり主張するように言った。
と、今のセシリアさんの発言で気になるところがあったから、聞いてみることにした。
「あれ、そういえば…ボクと一夏お兄ちゃんって同じクラス代表なんだよね……?
そうしたら、クラス代表戦はボクと一夏お兄ちゃんのどっちが出るの?」
「当然、一夏だろう」
「一夏さんに決まってますわ」
篠ノ之さんとセシリアお姉さんはボクの質問に即答で答える。それも同じ内容だった。
「な、何で!? 別に翔でも問題ないと思うんだが…」
二人が同じ意見だったからか、一夏お兄ちゃんは反射的に答える。
「まさか貴様、小学生に戦わせるつもりか?」
「そうですわ! ここは確実に勝つよう一夏さんに出てもらわないと!」
「うん、ボクも一夏お兄ちゃんに出てほしいの…ダメかな?」
一夏お兄ちゃんの服の袖を少しだけ引っ張って顔を見上げる。
なぜか顔を赤くしてたけれども、どうやら納得してくれたみたいだ。
「まぁ、やれるだけやってみるか」
「やれるだけでは困りますわ! 一夏さんには勝っていただきませんと!」
「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」
「うん、ボクも一夏お兄ちゃんにはぜひとも優勝してほしいなっ」
このクラス代表戦で優勝したクラスには、学食デザートの半年フリーパスが配られる。
…ここの学食はとても美味しくて甘いものも凄くおいしい。
でも普通に頼むと高いから、半年も無料になるのはとても嬉しい。
だからぜひとも一夏お兄ちゃんに優勝してもらいたい。
「今のところ専用機を持っているのは1組と4組。勝機なら十分あるわよ、織斑くん!」
と、クラスのお姉さんが解説してくれた。説明ありがとうございます。
「――その情報、古いよ」
と、今の空気を壊すかのように誰かが教室の入り口から誰かが話しかけてきた。
「二組は代表候補生がクラス代表になったの。そう簡単には優勝できないから」
腕を組んで片膝を立ててドアに立っていた人は…
ツインテールで……身長がちょっと小さい人だった。
「鈴……?お前、鈴か?」
「そうよ。中国代表候補生、
「何格好付けてるんだ? すげえ似合わないぞ」
「んなっ……!? なんてことを言うのよ、アンタは!」
この口調からして、一夏お兄ちゃんはこの人の事を知ってるのかな?
昔友達だったのが、偶然ここで出会ったとかだろうかな?
「時に翔くん。リーダーにあるべきに能力とは何か知ってるかい?」
「ひゃあっ!?」
明お姉ちゃんがいきなり現れて声を出したからビックリしてしまった。
「人の上に立つのに必要なのは人を纏めるカリスマ性、
野生ではそれ以上に危険を察知する事も重要になるんだよ」
と、明お姉ちゃんはあの小さいツインテールの人の後ろを指差した。
明お姉ちゃんが指していた人物とは……このクラスの担当の織斑先生だった。
「おい」
「なによ!?」
あの小さい人は織斑先生の手に持っていた出席簿で思いっきり殴られた。
バシンッ! とかなり痛そうな音が教室に響いた。
「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」
「ち、千冬さん……」
「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口をふさぐな。邪魔だ」
「す、すみません……」
小さい人はすごすごとドアから離れていく。
「さて、何か言われる前に自分の席に座りますかね」
と、明お姉ちゃんは自分の席に座っていく。
多分、このまま突っ立っていると織斑先生に叩かれてしまうからだろう。
「またあとで来るからね! 逃げないでよ、一夏!」
「さっさと戻れ」
「は、はいっ!」
小さい人は二組へ凄い勢いで走って帰って行った。
わたわたと逃げるように感じたけど、そんなに織斑先生が怖かったのかな?
その後は当然の如く、普通に授業が行われたけれども、
セシリアお姉さんと篠ノ之さんが授業中に織斑先生に頭を叩かれていた。
何か考え事をしてて、上の空のような感じはしたけれども……
流石に織斑先生がいる授業でその行為は自殺行為だと思う。
◇
「お前のせいだ!」
「あなたのせいですわ!」
「なんでだよ……」
午前中の授業が終わってお昼休みになった。
一夏お兄ちゃんとお昼ごはんを食べようとしたけれども、
なぜか篠ノ之さんとセシリアお姉さんが一夏お兄ちゃんのせいだと言っていた。
それが何のせいなのかはと一夏お兄ちゃんが聞くと黙っちゃうし……
「まあ、話ならメシ食いながら聞くから。
とりあえず学食に行こうぜ。翔、一緒に来るか?」
「う、うん……」
篠ノ之さんに睨まれながらも、一夏お兄ちゃんの隣に行って一緒に歩く。
その後をクラスメートのお姉さんがゾロゾロついてくる。まるでピ○ミンみたいだ。
券売機の前でちょっと悩んで、とりあえず親子丼を選んだ。
食堂に来るたびにどれを頼もうか悩んじゃうくらいの種類があって、
一日の食事がとても楽しみになってきている。
「待ってたわよ、一夏!」
とある漫画ならドンッ☆って感じの効果音が出そうな感じで立っていた転校生。
その人の名前は忘れちゃったけど……中国とかその辺りの代表候補生だった気がする。
「まあ、とりあえずそこをどいてくれ。食券だせないし、普通に通行の邪魔だぞ」
「う、うるさいわね。わかってるわよ」
小さい転校生の人は立ってた場所から邪魔にならない場所に移動した。
その人はラーメンを頼んでいて、お盆の上に乗っけたままだった。
「のびるぞ」
「わ、わかってるわよ! 大体、アンタを待ってたんでしょうが! なんで早く来ないのよ!」
なんだか理不尽な発言をする。
まるで怒りっぽくなった明お姉ちゃんみたいだった。
「それにしても久しぶりだな。ちょうど丸一年前になるのか。元気にしてたか?」
「げ、元気にしてたわよ。アンタこそ、たまには怪我病気しなさいよ」
「どういう希望だよ、そりゃ……」
転校生の人と一夏お兄ちゃんは仲が良さそうに話している。
実際に仲がいいから楽しそうに話してるんだけれども……
それを良しとしなかったのか、篠ノ之さんとセシリアお姉さんは怒りを我慢してるように見える。
「あー、ゴホンゴホン!」
「んんんっ! 一夏さん? 注文の品、出来ましてよ?」
篠ノ之さんとセシリアお姉さんはわざとらしくセキをした。
それで一夏お兄ちゃんは頼んだご飯を受け取って、どこか空いてる席を探していた。
「向こうのテーブルが空いてるな。行こうぜ」
一夏お兄ちゃんは空いているテーブルを見つけ、
そこに座って食べるようにボクと周りにいるお姉さんたちに言った。
ボクは適当な席に座って、頼んだ親子丼を食べ始める。
ここが高校ということもあるから、量もそれなりに多くて食べるのに時間がかかる。
……ただ、ボクが何かを食べてるときにお姉さんたちが顔を赤くするのはなぜだろう?
「鈴、いつ日本に帰ってきたんだ? おばさん元気か? いつ代表候補生になったんだ?」
「質問ばっかりしないでよ。アンタこそ、
なにIS使ってんのよ。ニュースで見たときびっくりしたじゃない」
再び二人は仲が良さそうに話している。
なぜかそれを良く思ってない篠ノ之さんとセシリアお姉さん。
「一夏、そろそろどういう関係か説明してほしいのだが」
「そうですわ! 一夏さん、まさかこちらの方と付き合っていらっしゃるの!?」
二人はテーブルをバンッと叩きそうになるような勢いで聞いた。
周りのお姉さんもそれは気になるみたいで、聞き耳を立てていた。
「べ、べべ、別に私は付き合ってるわけじゃ……」
「そうだぞ。なんでそんな話になるんだ。ただの幼馴染だよ」
「………」
「…? 何睨んでるんだ?」
「なんでもないわよっ!」
顔を赤くして一夏お兄ちゃんへ怒る転校生の人。
よくわからないけど、なんだかよく怒る人みたい。
「幼馴染……?」
篠ノ之さんは変な言葉を聞いたって感じで不思議に思っていた。
そういえば話で聞いたけど、篠ノ之さんも一夏お兄ちゃんとは幼馴染なんだっけか。
「あー、えっとだな。箒が引っ越していったのが小四の終わりだっただろ?
鈴が転校してきたのが小五の頭だよ。
で、中二の終わりに国に帰ったから、会うのはちょうど一年ぶりだな」
幼馴染と言っても、二人は今日の今まであったことがなかったようだ。
「で、こっちが箒。ほら、前に話したろ?
小学校からの幼馴染で、俺の通ってた剣術道場の娘」
「ふぅん、そうなんだ」
転校生の人はジロジロと篠ノ之さんを見る。
篠ノ之さんもギラッと転校生の人を睨みつけた。
「初めまして。これからよろしくね」
「あぁ。こちらこそ」
二人は挨拶をするが、その視線はバチバチと火花が散っているように見える。
どうして一夏お兄ちゃんの周りにいるお姉さんは仲良くできないのかな?
「んんんっ! わたくしのことを忘れてもらっては困りますわ!
中国代表候補生、凰鈴音さん?」
「……誰?」
「なっ!? わ、わたくしはイギリス代表、
セシリア・オルコットでしてよ!? まさかご存知ないんですの!?」
「うん。あたし他の国とか興味ないし」
「な、な、なっ……!?」
セシリアお姉さんは自分自身のことを知らないというのが、
なんだか凄くショックだったらしくって顔を真っ赤にした。
「い、い、言っておきますけど、わたくしはあなたのような方には負けませんわよ!」
「そ。でも戦ったらあたしが勝つよ。悪いけど強いもん」
ふふん。と得意げに転校生の人は自信満々に言う。
それにしても、代表候補生っていうのは戦闘訓練もかなりしているらしく、
かなり自信満々に勝つ、と宣言してようだった。
「………」
「い、言ってくれますわね……」
篠ノ之さんは黙ってご飯を食べている。
セシリアお姉さんはぷるぷると震え、手をぐっと握り締めていた。
「一夏」
転校生の人は一夏お兄ちゃんを呼んだ。
すると一夏お兄ちゃんはドキッとしてたような気がした。
「アンタ、クラス代表になったんだって?」
「お、おう。成り行きでな。ここにいる翔も一応そうだけどな」
「翔って誰?」
「いいや。そこで親子丼食べてるのが翔。世界で二番目にISを動かせたっていう小学生」
一夏お兄ちゃんはボクを指し、転校生の人は目を丸くして驚くように質問した。
「…え? もしかしてアンタ男なの?」
「は、はい…男ですけれども…」
やっぱり、この人も最初はボクを男として見られていなかったみたい。
どうして女の子として見られちゃうのかな?
「ふーん、そうなんだ……」
「え、えっと……あの、その……」
「鈴でいいわよ。苗字だけで呼ばれるのは逆に嫌だから」
「は、はい……えっと、初めまして、鈴さん…」
「う……よ、よろしくね、翔」
鈴さんはなぜか顔を赤くしていた。
……もしかして、怒らせちゃったのかな?
でも、怒るならさっきみたいに大声で怒鳴るから怒ってはいないのかもしれない。
「あ、あのさぁ。その調子だとISにも慣れてないんでしょ?
暇なときにでも、ISの操縦を見てあげてもいいけど?」
鈴さんは一夏お兄ちゃんから顔をずらして視線だけで一夏お兄ちゃんを見つめる。
なぜか先ほどの態度とは違って、なんだか歯切れが悪いように見えた。
「そりゃ助か――」
一夏お兄ちゃんが鈴さんに対して助かる、と言おうとした瞬間にテーブルがバンッと叩かれる。
「一夏に教えるのは私の役目だ。頼まれたのは『私』だ」
「あなたは二組でしょう? 敵の施しはうけませんわ!」
ギロリ、と二人は鈴さんを思いっきり睨みつける。
その表情がかなり怖くて、ボクは関係ないのだけれども思わずびくりと身体を震わせた。
「あたしは一夏に言ってんの。関係ない人は引っ込んでよ」
「か、関係ならあるぞ。私が一夏に『どうしても』と頼まれているからだ」
なぜか篠ノ之さんは『どうしても』の部分をやたらと強調した。
『どうしても』頼まれたことに何か意味があるんだろうか?
「一組の代表ですから、一組の人間が教えるのは当然ですわ。
あなたこそ、後から出てきてなにを図々しいことを―――」
「後からじゃないけどね。あたしの方が付き合いが長いんだし」
「そ、それを言うなら私のほうが早いぞ!
それに一夏は何度も家で食事をしている間柄だ。付き合いはそれなりに深い」
それになぜか反論する篠ノ之さん。
先ほどから二人がなぜこうして必死になっているのかがよくわからない。
大きくなったら理解できたりするんだろうか?
「家で食事? それならあたしもそうだけど?」
「いっ、一夏っ! どういうことだ!? 聞いていないぞ私は!」
「わたくしもですわ! 一夏さん、納得のいく説明を要求します!」
どうして二人は怒ったのか? 家で食事をすることくらい普通のことだと思うけれども。
一夏お兄ちゃんは二人の変な態度で聞いてきた質問を普通に答える。
「説明も何も……幼馴染でよく鈴の実家の中華料理屋に行ってた関係だ」
「な、何? 店なのか?」
「あら、そうでしたの。お店なら別に不自然なことは何一つありませんわね」
むしろ、なんでお店だったら不自然じゃないんだろうか?
聞き耳を立ててたお姉さんたちもホッとした雰囲気を出している。
「親父さん、元気にしてるか? まあ、あの人こそ病気と無縁だよな」
「あ……。うん、元気…だと思う」
一夏お兄ちゃんが鈴さんのお父さんのことを聞くと、
鈴さんの表情は曇り、浮かない顔をして曖昧な返事をする。
「そ、それよりさ、今日の放課後って時間ある? あるよね。
久しぶりだし、どこか行こうよ。ほら、駅前のファミレスとかさ」
「あー、あそこ去年つぶれたぞ」
「そ、そう……なんだ。じゃ、じゃあさ、学食でもいいから。つもる話もあるでしょ?」
「――あいにくだが、一夏は私とISの特訓をするのだ。放課後は埋まっている」
「そうですわ。クラス対抗戦に向けて特訓が必要ですもの。
特にわたくしは専用機持ちですから? ええ、一夏さんの特訓には欠かせない存在なのです」
さきほどから二人は一夏お兄ちゃんと特訓することをやけに強調して、
まるで一夏お兄ちゃんと鈴さんを二人っきりにするのが嫌みたいだった。
「じゃあそれが終わったら行くから、空けといてね。 じゃあね、一夏!」
鈴さんは食べていたラーメンのスープを飲み干して、
一夏お兄ちゃんの返事も待たずにさっさと片付けに行った。
「一夏、当然特訓が優先だぞ」
「一夏さん、わたくしたちの有意義な時間も使っているという事実をお忘れなく」
二人はとにかく一夏お兄ちゃんと特訓したいらしく、かなり強く言った。
さっきから一夏お兄ちゃんに何も聞かずに勝手に予定を決めてるみたいだけれども…