こんにちは。トラブルメーカーの野々原明です。自覚してます。もう五月という月に入り、入学式から一ヶ月がたったんですね。翔くんがIS学園に入学するという事実を知ったときはどうなるかと思ったけど…まぁ何にせよ、翔くんは愛されキャラだし、翔くん自身も馴染んできたようだ。人気はクラスの中には納まらず、学校中にその愛くるしさは広まっている。邪険に感じる人は少なく、それらの人物も何かしらの嫌がらせをする気配は無い。今のところIS学園のマスコットとして可愛がられているのが翔くんの現状だ。
それに翔くんは専用機である天翔を成長させようと躍起になっている。強くなるように努力するのはいいコトだな。間違いない。私たちは翔くんと美香と一緒に訓練しようとしたらまた織斑くん達とまたバッタリ出会った。翔くんと織斑くんは羨ましいくらい仲が良い。男同士ってそんなに良いものなのか…許せん。箒とセシリアは織斑くんの訓練方法で言い争っている、お前ら少しは譲り合えよ。
「一夏お兄ちゃんも訓練するの?」
「あぁ、クラス代表戦は負けられないしな」
織斑くんは翔くんの頭を撫でた。畜生、それは私の役目だ、役割を奪うんじゃねぇ。翔くんはえへへ…と嬉しそうな表情をしてぽっと頬を赤らめた。マジ可愛い。
「…どうしてまたあなた方がいらっしゃいますの?」
セシリアさんがマジ切れる五秒前だ、理由は織斑くん関連なのだろうけど。ぶっちゃけ翔くんはアンタら程べっとりじゃないし、第一抱いてる感情が違うし…
「そうだ。翔も一緒に訓練するか?」
「いいの? でも……」
「ん? 別に遠慮しなくたっていいんだぞ? なぁ 箒、セシリア」
そこで二人に聞くのかよ木偶の坊。もうコイツ女に刺されて死ぬ未来しか見えないんだけど。
「う、ぐぐぐ…だ、大丈夫だ、問題無い」
「べ、別に問題はありませんわよ…」
「そっか、それじゃあ一緒にやるか」
そっかじゃないだろ、バカかコイツは。
どう考えても大丈夫じゃないだろ、もうちょっとは配慮してやれよ! 織斑くんはそのままビットの扉を開け、中に入っていく。
「待っていたわよ、一夏!」
ピットに入ると、誰か知らない空気の読めそうにない声が聞こえた。そこには噂の転校生、凰鈴音がいた。最初文字見るとふーりんねって読むのかと思ったよ。つまり風鈴、日本の夏に定番のアレかと思ったよ。冗談抜きのガチでね。
「貴様、どうやってここに―――」
「ここは関係者以外立ち入り禁止ですわよ!」
「あたしは関係者よ、一夏関係者。だから問題無しね」
それを言ったら私はともかく翔くんも関係者のような気がするけど…翔くんは織斑くんの側で風鈴の出す雰囲気に怯えている。当の本人である風鈴はなぜかドヤ顔、少しは自重しやがれ。
「ほほう、どういう関係かじっくり聞きたいものだな」
「盗人猛々しいとはまさにこのことですわ!」
箒とセシリアは突拍子も無く現れた風鈴にブチ切れる。勝手に切れるのはいいけど、翔くんを怯えさせたら私がお前らを脅かすからな。
「で、一夏。反省した?」
「へ? なにが?」
「だ、か、らっ! あたしを怒らせておいて、申し訳なかったなー、とか仲直りしたいなー、とかあるでしょうが!」
「いや、そう言われても……鈴が避けてたんじゃねえか」
「あんたねぇ……じゃあなに、女の子が放っておいてって言ったら放っておくわけ?」
「おう」
「…なんか変か?」
「変かって……ああ、もう! 謝りなさいよ!」
「だから、なんでだよ! 約束覚えていただろうが!」
「あっきれた。まだそんな寝言いってんの!? 約束の意味が違うのよ! 意味が! あったまきた。どうあっても謝らないというわけね!?」
「だから、説明してくれりゃ謝るっつーの!」
「せ、説明したくないからこうして来てるんでしょうが! それじゃあこうしましょう! 来週のクラス対抗戦で、勝ったら負けたほうに何でも一つ言うことを聞かせられるってことでいいわね!?」
「おう、いいぜ。俺が勝ったら説明してもらうか」
「せ、説明は、その……」
「なんだ? やめるならやめてもいいぞ?」
「誰がやめるのよ! あんたこそ、あたしに謝る練習をしときなさいよ!」
「なんでだよ、馬鹿」
「馬鹿とは何よ馬鹿とは! この朴念仁! 間抜け! アホ! 馬鹿はアンタよ!」
風鈴と織斑くんの痴話喧嘩なげーよ、説明するこっちの身にもなってくれよ。ここで織斑くん、マジ切れしたのか全人類の女性を敵に回す。っつーか朴念仁って言葉を知らんのか織斑くんは。気になる単語が出たら辞書を引けよ。
「うるさい、貧乳」
織斑のバカが言った瞬間に風鈴はISを部分展開し、バカの顔の隣を殴った。ほんの少しだけグラグラと、ピットの中が揺れる程の破壊力で殴ってた。
「言ったわね……言ってはならない事を言ったわね!!」
風鈴はバカの顔の隣に出来たクレーターから腕を引っ張る。
「い、いや、悪い。今のは俺が悪かった。すまん」
バカは自分が言い過ぎたと自覚してるのか風鈴に謝る。しかし風鈴は聞こうともしない。
「今の『は』!? 今の『も』よ! いつだってアンタが悪いのよ!」
風鈴小娘のトンデモ理論である。バカは焦ってるのか何も言わない。
「ちょっとは手加減してあげようかと思ったけど、どうやら死にたいらしいわね……いいわよ、希望通りにしてあげる。――全力で叩きのめしてあげる」
風鈴は明らかにブチ切れてる表情を作ってバカを睨み、ピットから出て行った。バカは明らかに言いすぎたって感じを出してるし、翔くんはオドオドしてる。うむ、風鈴がブチ切れて翔くんがビクビクしてるみたい。心のケアは任せろーバリバリ。
「い、一夏兄ちゃん…あの、えっと、仲直りできるよ……」
翔くんはバカを励ましている、健気で可愛い。
「ありがとな、翔……」
バカは翔くんの頭を撫でる。私が八つ当たりするとしたら貴様の存在を滅ぼしていた所だ。翔くんの尊大な心に感謝するがいい、バカめ。思う存分翔くんで癒されるがいい。……ただ、バカに頭を撫でられる翔くんを睨む箒さんとセシリアさん。風鈴の一件で怯えているのにこれ以上ビビらせるような真似はしないで、マジで。
◇
今日は鈴さんが一夏お兄ちゃんに怒ったりしたハプニングがあったけど、一夏お兄ちゃんたちはあのままアリーナ内で篠ノ之さんとセシリアお姉さんと訓練してた。ボクたちは結局、別のアリーナを使って訓練をするつもりなんだけれども……
「ねぇ、明お姉ちゃん……」
「どした? 翔くん」
明お姉ちゃんはボクの頭をやたらとナデナデしながら聞いてくる。聞きたいことがあるけれども、もしかしたら物凄く怒られてしまうかもしれない。
「そ、その……もしかしたら、凄く怒っちゃうかもしれないし、とっても失礼な意味なのかもしれないけれども……」
「ん、別に怒らないよ? 何でも言ってみ?」
「あの、あの時一夏兄ちゃんが言ってた…ひにゅうん? って、なぁに…?」
その一言で鈴さんが思いっきり怒るんだから、皆怒っちゃうかもしれない。でも、その言葉を言っても明お姉ちゃんも美香お姉さんも怒らなかった。
「翔くん、貧乳っていうのはね……明の事を言うのよ」
美香お姉さんが言った瞬間に明お姉ちゃんはISを展開して美香お姉さんを殴った。けれども美香お姉さんもISを展開し、明お姉ちゃんの攻撃を受け止める。そのまま続けて明お姉ちゃんはパンチを連続して出し、それを美香お姉さんは受け止めた。ISを展開しているせいなのか、殴っている腕と受け止めている腕の残像がいくつも見えた。
「フン。
これから絶対女の子の前では貧乳とは言わない、言ったら命は無い。心からそう思った。
◇
試合当日、ボク達は篠ノ之さんとセシリアさんと先生と一緒の場所で、ピットにあるリアルタイムモニターで試合を見る事になった。
「凰さんの専用機……こうりゅう?」
「こうりゅうじゃなくって…シェンロンって読むみたいよ?」
「ドラ○ンボールで出るあれ?」
「それじゃないのよ? ……まぁ私も思ったけど」
「ボクも……」
「私としては文字の最初に鉄を付ければ最強に……」
「……まぁ、それもあるかもね」
「漫才はそこまでにしておけ、試合が始まるぞ」
織斑先生の厳しそうな言葉でボク達はパッと会話を止めて、アリーナ内部を映すリアルタイムモニターに視線を移動させた。鈴さんのIS『
『それでは両者、規定の位置まで移動してください』
二人はアナウンス通りに規定された位置まで移動する。そして……試合開始のブザーが鳴り響き、その音が終えると同時に一夏お兄ちゃんは鈴さんに襲い掛かる。鈴さんはそれを大きい青竜刀…とはとても言えない。斬馬刀を魔改造したようなモノを出して二本をくっ付け、それを軽々と扱って一夏お兄ちゃんの攻撃を防いだ。バトンのように青龍刀を振り回し、一夏お兄ちゃんはそれを防ぐのに精一杯みたいだ。
一旦距離を取ろうとしたのか、一夏お兄ちゃんは鈴さんから離れようとした。けれども鈴さんの浮いている両肩の部分の装甲が開き、その姿を露出させた球体は光を放つと同時に一夏お兄ちゃんは『吹き飛ばされた』。一夏お兄ちゃんは体勢を立て直した瞬間、もう一度吹き飛ばされた。
「なんだあれは……?」
篠ノ之さんは鈴さんの放つ正体不明の攻撃に疑問を抱いていた。その疑問に答えたのは同じ代表候補生であるセシリアお姉さんだった。
「『衝撃砲』ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃それ自体を砲弾で打ち出す――――」
篠ノ之さんは一夏お兄ちゃんが心配なのか、不安そうな感じが漂っている。衝撃砲を喰らった後、一夏お兄ちゃんは白式の唯一の武器、雪片弐型をグッと握り締める。
覚悟を決めたのか、キッと鈴さんを真剣に睨みつけた。普段見せない表情に鈴さんは驚いたのか少し動作がぎこちない気がしたが、
青龍刀をクルクルと振り体勢を立て直した。その一瞬の隙を見て、一夏お兄ちゃんが瞬時加速を使って鈴さんの倒そうとした……けれどもその刃は当たらず、鈴さんの寸前で止まる事になった。突然の爆発音、それと同時にアリーナ内に土煙が舞う。
「え……?」
突然の出来事にボクの頭は処理が追いついていなかった。アリーナ内の煙が晴れると、そこには……
黒に限りなく近い灰色をした『
美香お姉さんがいうには、全身を装甲で包まれたISはありえない、と言っていた。ISは防御にシールドエネルギーがあるし、
防御特化になっているISも大きなシールドはあるけれども、全身を装甲にしてまで防御特化にする必要はないと言っていた。だから、目の前に現れた''異型''の存在がとても恐ろしく感じた。
―――そうだ、一夏お兄ちゃんを助けないと……!
そう思った瞬間に、再び爆発音が鳴り響いた。パラパラと天井だった部分が細かく降り注ぎ、何かが『落ちてきた』所を見る。
「―――え?」
何かが天井から『降ってきた』。それだけで普通じゃないと言うのに、振ってきたのは
それも一夏お兄ちゃんたちを襲ってるのとは全く違う別の形をしていた。
アリーナの中で一夏お兄ちゃんたちを襲っているのは全身装甲という部分を除けば普通に見える。だけど、目の前にいる敵は胴体や顔の部分は普通なんだけれども、両手と両足が非常に大きく、まるで殴るために造られたかのような姿形をしていた。
その降ってきた全身装甲は顔に光を溜めてレーザーを放つかのような行動に移った。もし、その行動が攻撃をする前の予兆だとして、その攻撃の射線上には―――!
「ダメッ!!」
ボクはとっさに天翔を展開し、美香お姉さんを庇うように抱きしめる。美香お姉さんはISをとっさに展開していたけれど、回避するような仕草は無かった。さっきまで美香お姉さんがいた場所に大きなレーザーが放たれ、アリーナの内部まで大きな穴が開き、そのシールドまで貫通していた。
全身装甲のISはボクたちが回避した先へ先回りして、その大きな腕でボクと、抱きしめたままの美香お姉さんをアリーナ内部へと吹き飛ばした――