IS 空を翔る白き翼【更新停止】   作:カンチラ

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今回は完全にオリジナル展開です。


14 心の傷跡

 謎の無人機がIS学園を襲ってから数日後、一夏と翔はいつものようにISの模擬戦を行っていた。明と美香はとある都合で来られず、今はセシリアと鈴に見てもらっている。

 

「一夏お兄ちゃん、いくよー!」

 

「おう! どこからでも掛かって来い!」

 

 翔の元気な声がアリーナ内に響き、その声が開始の合図となった。一夏も言葉に応えて雪片弐型を持ち、構えた。

 

「行って! ウィング・フェザース!」

 

 翔は背中に新しく生成された新装備『ウィング・フェザース』を展開し一夏に対して攻撃を開始する。三つ種類がある中で最も威力の高い二機の『ガトリングウィング』が一夏に目掛けて飛んでいった。

 

「やっぱり、最初にガトリングを近づかせてきたか!」

 

 一夏は接近してきた『ガトリングウィング』二機を難なく雪片弐型で破壊する。『ガトリングウィング』は威力が高いが命中精度がかなり低い。その為、相手に近づければ近づけるほど命中力が増し、シールドエネルギーも大きく削ることが可能だ。だからこそ、一夏は最初に『ガトリングウィング』を接近させることを予想させる結果になった。

 

「行くぞっ!」

 

 一夏は翔に向かって瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使い、間合いを一気に詰める。

 

「やっぱり来ると思ってたよ。一夏お兄ちゃん!」

 

 だが、翔もまた一夏の行動を予測していた。一夏が向かった先に翔はおらず、翔は後方へと瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行い、一夏の握る雪片弐型による斬撃を回避した。

 

「いくよ!」

 

 翔は唯一の射撃武器『土神』を構え、一夏にロックオンをする。右手の人差し指に力をいれ引き金を引いた。一発、二発、三発と次々と一夏に向けて撃ったものの、その内当たったのは二発のみであった。

 

(やっぱり、『今の状態』じゃあ当たらないかぁ)

 

 心の中でぼやく。今の土神の状態は攻撃重視に設定されており命中精度が低い状態となっている。

 

(土神、威力重視から命中重視に設定変更!)

 

 翔は心の中で土神の状態を変更するように設定した。かちり、と音がして土神は威力重視から命中重視になったが、外見上は何も変わったりはしていない。

 

「今度はさっきみたいに外さないよっ!」

 

 土神を一夏に向けて発射すると、六発の弾丸を撃ち込み、発射して命中した弾は四発となり、大きな声で宣言した通りに命中精度は上がっている。

 

(っ…さっきよりは当ててきたな、だけど、この程度の威力なら食らっても問題ない…!)

 

 だが、命中重視にすると威力が足りなくなる欠点がある故にシールドエネルギーは減っておらず、このまま一夏のシールドを0まで削るとなると長期戦に持ち込む必要があった。

 

(参ったなぁ。近づいたら勝てないし…)

 

 翔の使える近接型の武器『白雪』があるものの、、一夏の攻撃を受けてしまえばそれで訓練は終了し、翔は負ける。

 

(やっぱり、白式相手には遠距離で削っていくしかないよね)

 

 白式を展開した一夏に勝利するには『ウィング・フェザース』等の遠距離攻撃を利用して勝利する他に方法は何一つ無いと考えている。

 

(…でも、ボクはまだ完全にウィング・フェザースを扱い慣れてないし…)

 

 肝心のその武装はここ最近新たに生成された武装であり、完全に使いこなせてはいない上、ブルー・ティアーズとは違い使用者と共に動けるものの精神力を使って動かしている為、下手をすればそのまま意識を失い数日は目を覚まさない危険な部分もある。

 

(新しく作られてた『アレ』を使おうかな)

 

 ここで翔は天翔が新たに生成した武装の存在を使おうと考えた。あの時の襲撃してきた時に天翔は『ウィング・フェザース』を戦闘中に生成していたが、その時の戦闘が終了したときに、天翔はまた新たに武装を生成していた。

 

(今まで使ったことないから、使い勝手はわからないけど…)

 

 鈴の使用する甲龍(シェンロン)の第三世代型兵器『衝撃砲』と美香の専用機である戦女・弐型のエネルギーミサイル『雨霰』をコピーし、無段階移行(シームレス・シフト)機能によって新たに生成された武装。

 

「それじゃ、新しい武器を試させてねっ」

 

「え? 新しい武装が作られてたのか?」

 

「うん! あの時の無人機の戦いで出来てたみたい! 『龍撃弾(りゅうげきだん)(フェオン)!」

 

 翔は新たに生成された新装備『龍撃弾(りゅうげきだん)(フェオン)』を展開した。白い球体で両肩にぷかぷかと浮いており、装飾品の類は一切無く、まん丸とした綺麗な球体そのものだった。

 

「行くよ、一夏お兄ちゃんっ!」

 

 白い球体である『龍撃弾(りゅうげきだん)(フェオン)』は緑色に光り、光った瞬間にエネルギーを作り出し、そして何の音も出さずに攻撃は『放たれた』。一夏は見えない攻撃に被弾し、そのシールドエネルギーを削った。

 

「なあっ…!?」

 

 新たに生成された武装『龍撃弾・風』は簡単に説明すると『見えないミサイル』であった。流石に雨霰同様の誘導性能は得られなかったが、見えない分厄介さが増している。発射されるミサイルは小型で複数発射できる為、どこにミサイルが発射されるか、それが見切れなければ回避するのはかなり難しい武装であった。

 だが、威力はさほど高くなく、多少なら当たっても大丈夫な程度であった。

 

(多少なら当たっても問題ないけど、撃ってくる量が多すぎる! なんとか回避できればいい、何か法則か撃ってくる場所の条件はないのか!?)

 

 一夏は初見でセシリアがブルー・ティアーズを扱う方法を見極めていたが、今回の見えないミサイルは見極めるのが難しく、防戦一方になっていた。

 

(こまま行けば勝てる。けど……)

 

 このまま『龍撃弾・風』を連射していれば勝てる試合だが、衝撃砲とは違い、エネルギーを消費して見えないミサイルを発射する武装であり、エネルギーが切れてしまえばミサイルを発射することはできずに、ただの白くて丸い球体をぷかぷかと浮いている飾りになってしまう。

 

(これじゃあ勝てない。ならウィング・フェザースを使うしかない)

 

 翔は既にそれを理解しているため、攻撃を止めて残っているウィング・フェザース、『ビームウィング』と『ミサイルウィング』を一夏に向け、攻撃する。

 

「…? どうした、翔。あれで攻撃しないのか?」

 

「あれね、もうすぐエネルギー切れちゃうから…」

 

「そうなのか。なら翔に近づくことができるな!」

 

 一夏はウィング・フェザースの攻撃を難なく回避して、一機破壊していく。まだ翔はウィング・フェザースを完全に扱いなれておらず、ましてやセシリアのように死角を狙うことはできなかった。BT兵器を扱うのに必要なのは『集中力』であり、例えるならば右手で丸を描いて左手で三角を描くような集中力が無ければ、動かすのは難しい。年齢の差もあり、まだ精神的にも未熟である翔が完全に扱うのには数年の歳月が必要となる。

 

(…? 天翔、もしかして新しい武装を造っているの?)

 

 だが、それも普通のISならではの話。翔が完全に扱えない理由はただ一つ、扱える程の集中力を持っていないからである。だが、その集中力をコンピューターで補助できたとしたら?天翔の最大の特徴である無段階移行(シームレス・シフト)が発動し、この問題を解決できる新たな装備を開発する機能を開始し、生成完了した。

 

「これは……」

 

 翔の頭上に黄金色に光る輪が現れる。『フェアリーリング(妖精の輪)』と名づけられたそれは天使の頭にある輪であった。フェアリーリングの機能は翔が完全に扱いきれないBT兵器を補佐する役割を持ち、翔の代わりとしてAIが自動的にウィング・フェザースを動かす装備であった。

 

「これでどうかな、一夏お兄ちゃん!」

 

 生成された瞬間にその武装の特徴と使い方は翔の頭に流れ込んでくるため、その使い方は生成された瞬間に解っていた。使い方は『命令するだけ』である。

 

「行って! ウィング・フェザース!」

 

 ウィング・フェザースへ命令をし、一夏へ向けて攻撃を仕掛けた。

 

「んなっ!?」

 

 先程とは比べ物にならない程に機敏な動きをした動きで一夏を翻弄する。

 

「……だけど!」

 

 だが、一夏は向かってくるウィング・フェザースの攻撃を紙一重で回避し、そして一機破壊していく。

 

「さっきよりも動きが機械的みたいだぞ、翔!」

 

 AIで動かしているのが瞬時にバレてしまい、それが仇になってしまったようだ。機械的な動きになったウィング・フェザースの攻撃を掻い潜って翔の目の前までに接近していた。一夏の扱う雪片弐型が翔の頭上にある『フェアリーリング』が破壊され、一夏を狙っていたウィング・フェザースの動きがぴたりと止まった。

 

(…今だ!)

 

 だが、翔は一夏が雪片弐型を振りかざした隙を逃さなかった。土神を威力重視に変更し、動きが止まったウィング・フェザースの照準を目の前の一夏に狙いを定めた。全ての攻撃が命中した白式のエネルギーは0まで削られ、今回の訓練は翔の勝利で決まった。

 

(やった……ッ!?)

 

 翔はふらり、とISに乗っているにも関わらずに身体が少し震えた。模擬戦とはいえ、戦闘が終わったから気が抜けたのだと、翔はそう思っていた。けれども実際にはそうではなく、土神の仕様変更とウィング・フェザースを同時に操ったが故に起こった立ちくらみであった。

 ――この無茶が、すぐ後に悲劇を起こす引き金になることは誰も想像していなかった。

 

 

 

 

 

 

 訓練が終わって、ボクと一夏お兄ちゃんは同じピットに戻った。一緒に戻った理由はこっちのピットの方が更衣室に近いからだ。戻ってくると早速、セシリアお姉さんと鈴お姉ちゃんが一夏お兄ちゃんに指摘を始める。

 

「一夏さん、先ほどの戦闘ですけれども……」

 

「瞬時加速も読まれてるじゃん? だから……」

 

「り、鈴さん! 今はわたくしが一夏さんに説明している最中なのですよ!」

 

「いいじゃん別に、それで瞬時加速のタイミングは……」

 

 こんな感じで、二人は喧嘩しちゃって結局一夏お兄ちゃんは無視されていた。一夏お兄ちゃんは二人をなだめようとする。

 

「二人とも、その辺に……」

 

「一夏は黙ってて!」

「一夏さんは黙っていてください!」

 

 と、こんな風に怒られてしまう。なんで二人は仲良くないんだろう?特に一夏お兄ちゃんのことに関すると凄く喧嘩しているように見える。

 

「…なぁ翔、時間かかりそうだし、先に着替えててくれないか」

 

「え? 一夏お兄ちゃんは?」

 

「…俺はな、多分」

 

 一夏お兄ちゃんが全てを言う前に二人が口を挟んだ。

 

「一夏! 元々アンタの為に見てあげてるんだからちゃんと聞きなさいよ!」

 

「そうですわ! きちんとわたくしのアドバイスをお聞きになってください!」

 

「だから、私が―――」

 

「な?」

 

「う、うん。わかった」

 

 今までの経験上、二人の会話内容からして長引くことはよくわかった。当然のことだけど一夏お兄ちゃんも簡単には帰れそうになかった。

 ピットを出て更衣室へ向かおうとした途端――

 

「あ、れ…?」

 

 突然、頭がクラクラとして真っ直ぐに歩くどころか、立つこともできなくなった。その場にしゃがみ込んで、クラクラとする頭を押さえ込む。

 

「だ、大丈夫か?」

 

 一夏お兄ちゃんは不安そうに心配してくれる。倒れそうになった身体を一夏お兄ちゃんが支えてくれて倒れることはなかった。

 

「うん…もう、大丈夫だよ。ちょっと疲れちゃったみたい」

 

 一夏お兄ちゃんに身体を抱きとめられると、さっきまでのフラフラとした感覚は消えていた。もう大丈夫だと、一夏お兄ちゃんに返事をする。この感覚は、前に無理矢理ウィング・フェザースを使ってしまった時と同じで、今日も無理に使っちゃったのか同じように頭がフラフラしてしまった。

 

「…そうか。でも無理はするなよ?」

 

「大丈夫だよ、ちょっと疲れただけだもん」

 

 事実、さっきまでフラフラだったのに今は問題ない。ボクはこのままピットから出て、更衣室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 あれから長々と説教され、挙句の果てには2対1で訓練することになってしまった。そんなにどっちつかずで曖昧な態度をとっていた俺が悪かったのか? かといって、どっちかに味方をすれば片方が怒るし、八方塞である。それが今やっと終わって更衣室で着替えるところだった。相変わらず男子二人が使うには広すぎて、逆に落ち着かない感じがしてならない。

 

「ふぅ…それにしても、相変わらず広いな」

 

 本来なら俺と翔の存在がなければ別の女子が使用してたであろう更衣室。その大きさは男二人で使うにはあまりにも大きすぎた。ISスーツを脱ぎ、制服に着替えながら、なんとなく翔のことを考えていた。初見の人には恥ずかしがって人見知りになる翔だけれども、翔は知り合った人と仲良くなると男でも女でも関係なく甘えてくる。実際、セシリアと鈴のことを姉と呼び始めた時から翔は二人に甘え始めた。…しかし、10歳とはいえ少し甘えすぎじゃないなんじゃないか?普通なら女子とのスキンシップをもう少し恥ずかしがるような気がするが……その割には着替えるときは俺に裸を見られるのが恥ずかしいのか、わざわざ離れて着替えていて、妙にシャイなところがあったりする。制服に着替え終え、このまま部屋へ戻ろうと出口へと歩いていく。この無駄に広い更衣室を出ようとした時、目の前に翔が現れた。

 

「あ…一夏お兄ちゃん」

 

「ん? どうしたんだ? 忘れ物でもしたのか?」

 

「あ、うん……ISスーツ置いてきちゃったし、シャツは着忘れちゃうし…」

 

 翔は何やらボーッとしてて、目もとろんとしてて眠たそうに見えた。……今はまだ八時だし、翔はいつも九時に寝てるから、寝る時間には少し早い。

 

「なぁ翔、どうしたんだ? 様子がおかしいぞ?」

 

「ふぁ…そう、かな? ……えっと、ちょっと眠い、かも…」

 

 どこか誤魔化すように言ったが、翔はこういう子だって事を既に知っている。甘えるときは男女構わずとことんスキンシップしたりするが、逆に困ったことや嫌な事については中々言わず、逆に気を遣っていた。どうせ俺たちに甘えるのなら、とことん甘えたっていいのに。そのまま翔はふらふらとしながら使っていたロッカーへと移動する。

 

「あれ、翔。制服の背中の部分、破けてるぞ」

 

「…え、本当?」

 

 翔の制服の背中部分は何かに引っかかって切れたのか、破けてしまっていた。随分と切れてしまっており、覗こうと思えば素肌が見えるほどだった。

 

「そのままじゃまずいから、縫っとくよ。丁度ソーイングセット持ってたし」

 

「……! い、いやっ。いいよ、大丈夫だから」

 

「気にするなって、ほら」

 

 制服の破れてしまったを縫おうと、針と糸を取り出して切れてしまった部分を見た。

 

「……!」

 

 俺は見てしまった。翔の身体についている不自然な傷跡を。翔の身体についている傷跡は自然についてしまうものじゃない。タバコを押し付けたような火傷の痕、殴られたかのような痣がそこにはあった。

 

「あ……や、嫌……!」

 

 俺がその傷跡を見てしまったからか、翔は涙目になって、俺を怯えた目で見てくる。次の瞬間、普段の翔からは想像できないほどの力で突き飛ばされた。そして涙目になりながら、更衣室を走って出て行ってしまった。早く翔を追いかけなければならない。だけどロッカーに頭をぶつけ、意識がグラグラするほどの衝撃を受けてしまい、追いかけられるようになった時には既に翔の姿は見失ってしまってしまった…

 

 


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