「全員揃ってますねー。それじゃあ
教壇に立っておっとりとした声で教室にいる全員に伝える。
このクラスの担任の先生、おっとりした雰囲気の
日本人なのに髪の毛が緑色なのはワカメでもたくさん食べたからなのだろうか?
ボクは小学生でIS学園に入学した。左右を見ればその事実を実感することができる。
座っている席は一番右側の廊下側で、左に視線を向けるとお姉さんたちが沢山いる。
そのお姉さんたちの視線はなぜか一人の男性、織斑一夏さんの方にいってるけれども。
これから少しずつでいいから織斑一夏さんと仲良くなれるといいなぁ。
なにせ、世界でたった二人だけの男性IS適合者なのだから……
「はい、それじゃあ天野翔くん。自己紹介をお願いします」
「は、はいっ」
ボクは山田先生に急に名前で呼ばれて驚いたような声で返事をしてしまった。
ガタッと勢いで席を立ち、ボクはクラス中に見えるように右を向く。
当然、クラスの中にいるいるお姉さんたちの視線はボクに集中した。
「あ、
自己紹介の言葉は事前に色々と考えておいたけれども、
ボクは思っていた以上に緊張していて考えていた言葉が出せなかった。
「その…皆さんとは年齢も性別も違いますけど、
一生懸命に頑張っていきたいので、よろしくお願いします…」
途中で恥ずかしくなって少しずつ声が小さくなっていたけど、最後までなんとか言い終えた。
お姉さんたちはボクの自己紹介が終わると拍手をしてくれた。
ホッと安心してボクは席に座り、クラスのお姉さんの自己紹介が終わっていく。
そして、今注目されている男の人、織斑一夏さんの番がやってきた。
……でも、先生が何度も名前を言っても返事をせず、無視をしていた。
「織斑一夏くん。織斑一夏くんっ」
先生は全く反応しない織斑さんに大きな声で名前を呼ぶ。
「は、はいっ!?」
その大きな声に織斑さんは驚いたようで、裏声で返事をした。
周りにいるお姉さんたちはクスクスと笑っていて、
織斑さんはその声を気にしてるのか、そわそわとしていた。
「あっ、あの、お、大声だしちゃってごめんなさい。
お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね!
でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。
だからね、ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな?だ、ダメかな?」
ぺこぺこと何度も頭を下げて、眼鏡が落ちそうになるくらい謝る先生。
ボクはなんとなーく、あの先生が今謝っている気持ちは分かる。
たしかに、自分のせいで相手が不快な感じになってしてしまうのはボクも嫌だ。
「いや、あの、そんなに謝らなくても……
っていうか自己紹介しますから、先生は落ち着いてください」
「ほ、本当? 本当ですか? 本当ですね? や、約束ですよ。絶対ですよ!」
山田先生は織斑さんの手をぐっと握り締める。
それに対して織斑さんは顔を赤くしていた。
「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
自己紹介をした後、織斑さんは頭を下げる。
だけど、周囲にいるお姉さんたちをチラッと見てて、なぜかそのまま立ち続けていた。
もしかするとまだ何かを言い続ける気なのかな?
「…………」
織斑さんはしばらく黙り続け、教室はしんと静かになった。
そして、深呼吸をした後に言った言葉は……
「以上です」
何も無いのかよっ!
がたがたっとクラスの全員のほとんどずっこけた、ボクもずっこけた、誰だってずっこける。
「あ、あのー……」
先生は涙目で『もっと無いんですか?』と訴えている。
しかし、織斑さんの側にもう一人の先生……
あの人は家に来てた人、織斑さんだったかな?
織斑さんは織斑さんの…この言い方だと紛らわしいなぁ。
学校の先生だから織斑先生ってことだ。
言い直すと、織斑先生が織斑さんの頭をゴツンッと殴った。
「げぇっ、関羽!?」
「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」
この女の人にしてはちょっと低い声、
そして喋り方と言い、間違いないだろう。
織斑先生と担当の先生、どうやら担当だと思ってた先生は副担当だったみたいだ。
それで、織斑先生は教壇の上に立ち、全員に向けて言い放った。
「諸君、私が織斑千冬だ。君たちを一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。
私の言う事はよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。
私の仕事は弱冠十五才を十六才まで鍛えぬくことだ。
別に逆らってもいいが、私の言う事には聞け。いいな」
すると織斑先生のファン?と思う人たちが騒ぎ始めた。
ファンの人がいるくらい、織斑先生は有名な人なんだろうか?
「キャ―――――ッ! 千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっとファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」
高い声で騒いでるからちょっとうるさくて、ボクは耳を塞いだ。
織斑先生は鬱陶しそうに、ため息をつくように言った。
「……毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。関心させられる。
それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」
先生がクラスの中にいる先生のファン?の人にため息をついた。
けれどもファン?の人たちはそれでもキャーって騒いでいた。
「きゃあああああっ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」
「でも時には優しくして!」
「そして付け上がらないように躾をして!」
この人たちの言っていることはよくわからないけど、
とりあえず何か変な人たちなんだなーって事は分かった。
「で? 挨拶も満足にできんのか、お前は」
「いや、千冬姉、俺は―――」
織斑さんは織斑先生にバンッと殴られる。
あの発言からして、やっぱり織斑さんは織斑先生の弟だったみたい。
「織斑先生と呼べ」
「……はい、織斑先生」
そして織斑先生の先ほどの発言で、織斑先生と織斑さんが姉弟だって事が決定付けられた。
ファンの人たちはその事実を今知ったらしく、その事でこっそりと話しをていた。
「え……? 織斑くんって、あの千冬様の弟……?」
「それじゃあ、彼が『IS』を使えるっていうのも……」
「ああっ、いいなぁっ。代わってほしいなぁっ」
中には代わってほしい人もいるみたいだ。
そこまで織斑先生が有名だなんて全く知らなかった。
スバはISのことに詳しいから、後で聞いてみようかな。
教室がざわざわとしたまま学校のチャイムが鳴った。
とりあえず織斑先生がこの場を静めるように言う。
「さあ、ショートホームルームは終わりだ。
諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。
その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。
いいか、いいなら返事をしろ。よくなくても返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」
分かっても分からなくても聞いてなくてもとにかく返事をしろと言う先生。
それじゃあ、問題が分からなかった時に聞けないんじゃないかな?
「席に着け、馬鹿者」
そういえば、織斑さんはその場に立ったままだった。
織斑先生はそれに突っ込みを入れるかのように織斑さんの頭を容赦なく叩いた。
バシィッ! と鋭い音がこのクラスのチャイム代わりになった。
◇
「あうぅー……」
やっと一時間目が終わり、10分休みが始まった。
授業の内容もちょっとくらいなら分かるんじゃないかなと思ってたけど、
わけもわからず、何を言っているのかさっぱり分からなくて、、
まるで魔法の言葉で話してるんじゃないかなと思うほどだった。
ボクが机に顔をおいてダラーっとしてると、
偶然にも同じクラスになった明お姉ちゃんと美香お姉さんがボクの辺りに来た。
「おいっす! 翔くん、初の授業はどうだった?」
「翔くん、どこか解らないところでもあった?」
「うー…何も解らなかった…明お姉ちゃんと美香お姉さんはわかるの?」
「当たり前よぉ!」
明お姉ちゃんは胸を張って自信満々に答えた。
これだけ自信満々に言い張れるのだから、きっと授業内容は本当に解るんだろう。
それからちょっとして、織斑さんは誰かと一緒に教室から出て行く。
すると、ざわざわっと周囲の人たちが騒がしくなる。
ただでさえ騒がしかったのに、何故か急にもっと大きな声で話し始めた。
「…どうしたんだろ?」
ボクは明お姉ちゃんと美香お姉さんに聞いた。
すると、美香お姉さんが納得したような声を出す。
「……あぁ、なるほどね」
「どういうことなの?」
「あぁ、コレはアレだ。話題になってる人物に既に接触した勇者がいるって感じだ」
「……?」
明お姉ちゃんは結構な確率でボクに説明してくれることはある、
けれどもその説明が何を言っているかボクには理解できない時がある。
今、まさに明お姉ちゃんが何を言っているのかボクには理解できなかった。
「ほら…IS学園はISの特性上、普通なら女の子しか使えないでしょう?
でも、今年は男の子が二人動かすことができてIS学園に入学したの。
ほとんどいるのは女の子でしょう?だから男の子が珍しいの。
その男の子が初日から女の子とお話してたらどうなるかな?」
「…えっと、珍しいから話しかけようとしたけど、
先を越されちゃった……って感じでいいの?」
「そうそう、大体そんな感じよ」
美香お姉さんの説明はとても分かりやすい。
ボクの友達で美香お姉さんの妹の美奈ちゃんは、
ちょっと勉強するのが苦手で、テストとかの成績も悪かった。
それで美香お姉さんは美奈ちゃんに教えている内に教え方が良くなり、
最終的にはものすごく説明が分かりやすくなってたりしていた。
「チクショー、私の説明も上手くなったと思うんだがな」
「う……ご、ごめんなさい…でも、ちょっと分からなくて……」
明お姉ちゃんの説明を理解できず、謝るボク。
もしかして今ので明お姉ちゃんが怒っちゃったかも…
そう考えると、ボクは明お姉ちゃんにすぐに謝った。
「い、いやいや、翔くんは悪くないよ~、なんつーか、私の方こそゴメンね!」
明お姉ちゃんは逆にボクに謝ってくる。
むしろ、明お姉ちゃんが怒ってなくてよかった。
明お姉ちゃんはボクの頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。
「えへへ……」
頭を撫でられて、すごく気持ちがいい。
明お姉ちゃんは昔からボクのことを知ってるから、
撫でられるのも慣れてるからか、すごく気持ちがいい。
そのままもうちょっとだけ頭を撫でてほしかったのに、
学校のチャイムが鳴ってしまったので、明お姉ちゃんの手が離れた。
「それじゃ、また後でねー」
「うん、それじゃあねー」
明お姉ちゃんと美香お姉さんは自分の席に戻っていく。
…そしてまたワケわからない授業を受けなきゃいけない。
ボク、本当にやっていけるのかなぁ……