IS 空を翔る白き翼【更新停止】   作:カンチラ

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02 一夏お兄ちゃん

「――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、

 枠内を逸脱したISを運用した場合は、刑法によって罰せられ――」

 

山田先生はすらすらと教科書の内容を読んでいく。

けいほうとかこっかのにんしょうとか、言っていることがよくわからない。

やっぱり普通の小学生のボクが高校に飛び級しちゃうのは早すぎたんだ。

果たしてボクはIS学園を無事に卒業できるんだろうか?

今更になって、ボクは将来に対して不安を感じるようになった。

 

「織斑くん、何かわからないことがありますか?」

 

山田先生は織斑さんに質問している。

織斑さんは何やらごにょごにょと何かを言っている。

 

「わからないところがあったら訊いてくださいね。なにせ私は先生ですから」

 

山田先生はえっへんと言いそうな感じになっている。

ここで織斑さんはとてつもない爆弾を投下した。

 

「先生! ほとんど全部わかりません!」

 

…織斑さんは本当に高校生なんだろうか?

確かに、ボクもほとんどどころか、全部分からないけど……

 

「え……ぜ、全部、ですか……?」

 

山田先生は先ほどまで頼れそうな雰囲気を出していたけれど、

今はそんな雰囲気は無く、また泣きそうな表情をしている。

 

「え、えっと……織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はいますか?」

 

ボクは黙って手を挙げる。

横にいるお姉さんがボクが手を挙げたのに気づいて次々とボクの腕に視線が集中してる

……そんな気がしてならない、体から嫌な汗が沢山でてくる、もう帰りたい。

織斑さんの表情は、なんだか変に例えると世界で自分が一人になったと思ったら、

もう一人いて人間の有り難味を感じているって感じの顔をしているかもしれない。

 

「…織斑、入学前の参考書は読んだか?」

 

教室の端っこで授業の様子を見ていた織斑先生が織斑さんの前へ立った。

 

「古い電話帳と思って捨てました」

 

バアンッ!織斑先生は手に持っていた黒い板のようなもの織斑さんの頭を思いっきり殴る。

 

「必読と書いてあったろうが、馬鹿者。

 あとで再発行してやるから一週間以内に全部覚えろ。いいな?」

 

「い、いや、一週間以内であの分厚さはちょっと……」

 

「やれと言っている」

 

「……はい。やります」

 

織斑は最後に織斑先生の眼光に負けちゃったみたいに見える。

…そして織斑先生が僕の前に歩いて来た。

 

「天野、まさかお前まで捨てたなんて言わないよな?」

 

その織斑先生の放つ鋭い眼光にボクはちょっと泣きそうになる。

 

「捨ててないです、中は…その、ちょっとしか……」

 

かなり小声で先生に言った、全部は覚えられていないって知られたくなかった。

頭を叩かれると思って、ボクはすかさず目を閉じて両手を頭の上に乗せて、

織斑先生の攻撃に耐えようとしてみた。けれども、いつまでたっても頭を叩かれない。

目を開けて織斑先生を見てみると、呆れた様子でボクにこう言った。

 

「私はお前が重要な資料を捨てる馬鹿者かどうか知りたかっただけだ」

 

と言って織斑先生はボクに言った。

 

「天野は特別な事情があってこの年齢でIS学園に入学した。

 だがこれだけは覚えておけ。ISはその機動性、攻撃力、制圧力と、

 過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば

 必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。

 理解ができなくても覚えろ。そして守れ。

 お前がこの学園に入学している以上、この学校の規則には従ってもらおう」

 

「は、はい……」

 

織斑先生の声は威圧的で怖かった。けれどもどこか優しい感じも同時に感じた。

 

「………」

 

織斑さんはそれを黙って聞いている。

 

「え、えっと。織斑くんに天野くん。わからないところは授業が終わってから

 放課後に教えてあげますから、頑張って? ね? ねっ?」

 

山田先生は涙目になりそうな声で、ボクと織斑さんに言った。

 

「はい。それじゃあ、また放課後によろしくお願いします」

 

「あっ…ぼ、ボクも放課後に……お願いします」

 

ボクは山田先生にペコリとお辞儀をした。

山田先生もボクの行動に続いてお辞儀をした。

そして織斑先生はさっきまでいた教室の端っこへと移動していった。

 

 

 

 

 

 

二時間目の授業が終わり、ボクは織斑さんと話しかけようとしてみた。

IS学園の中では唯一の男同士だし、仲良くなって見たかった。

自己紹介とか聞いてると怖そうな人じゃなさそうだし、話かけても大丈夫かな?

織斑さんは授業で疲れちゃったのか、机の上でぐったりとしている。

 

「…あのー……」

 

消えそうな声でボクは織斑さんにに話しかけてみる。

織斑さんはボクが何か言ったのに気づいて、視線をボクの方に向けた。

けれども、ボクの身長が小さかったからか、髪の毛の先っちょしか見ていなかった。

織斑さんは目線を下に向けて、やっとボクの存在を確認できたようだ。

 

「……?」

 

でも、ボクの顔を見ても今一パッとしない表情をする織斑さん。

…もしかして、またボクは女の子として間違われているのかもしれない。

 

「あの、えっと、実はボクも男なんですけど、その……」

 

「も、もしかして…二人目の男性IS適合者で小学生って噂の…?」

 

「はい…ボクはちゃんとした男です」

 

織斑さんはボクのことを女の子だと思っていたようだった。

ボクは周りの人たちから『男の顔に見えない』って言われることがよくある。

……できればきちんと男として見てほしいんだけどな。

 

織斑さんはボクを男だと知った瞬間、

さっきまでやや暗かった顔がぱぁっと明るくなったような気がした。

 

「そっか、同じクラスだったんだな。

 俺は織斑一夏、同じ男同士だし、仲良くやっていこうぜ」

 

「はい。よろしくお願いします、織斑さん」

 

ボクは丁寧に織斑さんに返事をした。

織斑さんは優しそうな人でよかったなぁ……

 

「そんなに硬くならなくてもいいよ。

 数少ない男同士なんだからさ、一夏って呼んでくれよ」

 

「う、うん……い、一夏……お兄ちゃん」

 

一夏さんは優しそうだし、一夏さんの言ったとおりに男同士だし、

これからお世話になるかもしれないのだから、もっと仲良くなってみたい。

それに、ボクは孤児院にいて年上の人にはよくお兄ちゃんとか言ってたし、

お兄ちゃんって呼んだほうがボクにとっては呼びやすかったから。

 

「お、お兄……?」

 

「い、嫌なら言わないから。いや、言わないですから……」

 

「いや、別に嫌じゃないぞ?それじゃ、よろしくな、翔」

 

「あっ……よ、よろしく。一夏お兄ちゃん!」

 

一夏お兄ちゃんはボクにお兄ちゃんと言うことを嫌いじゃないと言ってくれた。

それがボクにとっては嬉しかった。IS学園でお兄ちゃんができるなんて思ってなかった。

 

「おう! これからは一緒に頑張ろうぜ!」

 

「うんっ!」

 

一夏お兄ちゃんは右手を差し出して、握手を求めてきた。

ボクは両手でそれを握って、一夏お兄ちゃんに応えた。

 

「ま、まさかこれが男同士の友情…!」

 

「イイねぇ、実にイイよ」

 

「薄い本が厚くなるわね……」

 

握手をした時、周囲がなぜかざわついた。

男同士で握手をすることがそんなに変なことなんだろうか?

 

「…あ、一夏お兄ちゃん。そういえば……」

 

そういえば、これから家に帰るの?

と言おうとした途端に、近くにいた金髪のお姉さんが話しかけてきた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

でも、IS学園に入学する前、お母さんから色々なことを聞いた。

今の社会は女尊男卑って風潮で、男より女が偉くなったみたい。

だから、女の人が偉そうでも怒っちゃいけないってお母さんから聞いた。

 

この金髪のお姉さんも、その女尊男卑の人なのかもしれないって……

もしかしたら、ちょっと違うかな?とも思ったけれども……

でも、この人がちょっとだけ偉そうにしただけであんなことになるなんて…

今のボクには、知る由も無かった。


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