「ん……?」
目が覚めると、そこはいつもの見慣れた天井ではなかった。
ここはIS学園の寮内で、ボクはこれからこの部屋で暮らしていくことになるんだ。
「おはよう、翔くん」
寮は基本的に二人部屋らしく、ボクの同居人は美香お姉さん。
部屋を見渡すと、荷物…と言っても少ない荷物が入った旅行ケースは片付けられていた。
ふと、着ている服に違和感を感じて、服の袖を見る。
見慣れた青いチェック柄のパジャマで、ボクがよく着てたパジャマだ。
当然、持ってきた荷物の中に入ってた服の一つだった。
「あ…美香お姉さん、おはよ~……」
起きたばっかりであまり頭が回らず、
とりあえずボクはおはようと返した。
「さ、翔くん。早く着替えて朝ごはん食べましょう?」
うふふ、と上品に笑う美香お姉さん。
とりあえずパジャマのままでは恥ずかしくって学食にはいけない。
最低でもジャージには着替えておきたいけれども、
ジャージに着替えるよりは、そのまま教室に行ける制服の方がいい。
でも、どっちにしても……
「あの、美香お姉さん。その……見られてると、着替えられないよ?」
「あっ…ご、ゴメンね! それじゃ、外で待ってるから!」
美香お姉さんが部屋にいたら、恥ずかしくてパジャマを脱ぐこともできない。
そのことに気づいた美香お姉さんは顔を真っ赤にして部屋から出て行った。
パジャマから制服に着替えようとする、制服は綺麗に畳まれてあった。
制服に着替えた後にパジャマを畳み、ちゃんと鍵を持って部屋を出た。
美香お姉さんと途中で会った明お姉ちゃんと一緒に食堂へ向かった。
IS学園の食堂はとても大きくて、メニューが物凄くある。
様々な国の人もいるから、それぞれの国の人にあった人のご飯もある。
つまりは、大きくて多国籍なメニューのある豪華な食堂だってこと。
ボクは和食セットを頼んで、食堂にある場所に座った。
右に美香お姉さんが座って、左に明お姉ちゃんが座ってボクがはさまれるような形になった。
なぜかボクに話しかけようとしていたお姉さんたちがガッカリしていた。
理由はよくわからないけれど、多分欲しかったデザートが無かったとかそんな感じだろう。
明お姉ちゃん曰く、落ち込んでいるのはそういうことらしい。…多分。
◇
二日目の授業の三時間目、相変わらず授業の内容が分からないまま進んでいった。
とりあえず先生が黒板に書き込んでいる内容をノートに書き写してはいるけれども、
書いてあることが全く理解してないからノートに書いても無駄なんじゃないかと思ってきた。
「というわけで、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、
操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます。
また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に
操縦者の肉体を安定した状態へ保ちます。
これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどがあげられ―――」
「先生、それって大丈夫なんですか? なんか、
体の中をいじられているみたいでちょっと怖いんですけれども……」
クラスの中のお姉さんが心配そうに先生に質問した。
確かに、あのISの中に入り込んじゃうような感覚はなれないし、
もしかすると自分がISに取り込まれちゃったんじゃないかと感じたりもする。
「そんなに難しく考える必要はありませんよ。
そうですね、例えば皆さんはブラジャーをしてますよね?
あれはサポートこそすれ、それで人体に影響は出るということはないわけです。
もちろん、自分にあったサイズのものを選ばないと、形崩れしてしまいますが――」
そこで、山田先生は一夏お兄ちゃんと目が合って、それでボクを見た。
一回きょとんとして、すぐに顔を真っ赤にして慌てて一夏お兄ちゃんに説明した。
「え、えっと、いや、その、お、織斑くんと天野くんはしませんよね。
わ、わからないですよね、この例え。あは、あははは……」
山田先生はごまかすように笑っていた。
それで、なぜか周りにいるお姉さんたちは胸を隠すような仕草をしている。
「んんっ! 山田先生、授業の続きを」
「は、はいっ」
織斑先生は咳払いをして山田先生に授業を進めるように注意した。
それでさっきまであった変な空気も元通りの普通の授業の空気になった。
「そ、それともう一つ大事なことは、ISにも意識に似たようなものがあり、
お互いの対話――つ、つまり一緒に過ごした時間で分かり合うといいますか、
ええと、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします」
この事を後で美香お姉さんに聞いたら、
ISは操縦者にぴったりと動くように成長するみたいなんだって。
「それによって相互的に理解し、よい性能を引き出すことになるわけです。
ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」
「先生ー、それって彼氏彼女のような感じですかー?」
山田先生が説明をし終えると、すぐにクラスのお姉さんが挙手して質問した。
「そっ、それは、その……どうでしょう。私には経験が無いのでわかりませんが……」
山田先生は顔を赤くしてもじもじしながらうつむいた。
お姉さんたちはきゃっきゃと男の人と女の人についてを話し始めた。
途中で山田先生が一夏お兄ちゃんをジーッと見ていた。
それに一夏お兄ちゃんが気づいて質問するけど、
なぜか山田先生は慌ててなんでもないと言っていた。
そんなことをしている内に、授業を終えるチャイムが鳴った。
「あっ。えっと、次の時間では空中におけるISの基本制動をやりますからね」
山田先生は次の授業の内容を予告して教室から出て行った。
するとドッと一夏お兄ちゃんのところにお姉さんたちが群がった。
ざわざわと聞こえる声の中で、『もう出遅れるわけには行かないわ!』
なんて声もあった。何を出遅れるのかは分からないけれども。
ちなみにボクの周りに明お姉ちゃんと美香お姉さんがいて、
なぜかそれでお姉さんたちはボクの周りに来てなかった。
「休み時間は終わりだ、散れ」
一夏お兄ちゃんの頭を織斑先生が叩いた。
その音にクラスのお姉さんは過剰に反応して、席に座った。
「ところで織斑、天野。お前らのISだが準備まで時間がかかる」
「へ?」
「…はい?」
「予備機がない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」
「…??」
「あの、専用機って、もしかして……?」
一夏お兄ちゃんは何を言っているかわからないといった様子だったけど、
織斑先生はボクと一夏お兄ちゃんに専用機を与えられるという感じみたいだ。
「せ、専用機!? 一年の、しかもこの時期に!?」
「つまりそれって政府からの支援が出るってことで……」
「ああ~。いいなぁ……私も専用機欲しいなぁ…」
クラスのお姉さんたちは専用機について羨ましがっている様子だった。
一夏お兄ちゃんは何がなにやらといった様子であった。
すると見かねた織斑先生がため息をつくように一夏お兄ちゃんに対して言った。
「教科書の六ページ。音読しろ」
「え、えーと……『現在、幅広く……」
一夏お兄ちゃんは教科書に書いてある内容を皆に聞こえるように言った。
ボクは何を言っているかわからなくって、後で美香お姉さんに聞いてみた。
1、ISのコアは世界に467機しかないこと。
2、コアは篠ノ之博士にしか製造できないけれども、もう博士はコアを作っていない。
簡単にまとめると、こんな風になった。
「あの、先生。篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか…?」
一人のクラスのお姉さんが織斑先生に質問した。
すると、織斑先生は答えちゃあいけないような質問に答える。
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」
織斑先生はあっさりと言っちゃあいけないようなことを言う。
すると、クラスのお姉さんたちは授業中にも関わらず篠ノ之さんの周りに集まった。
「えええええーっ! す、すごい! このクラス有名人の身内が二人もいる!」
「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!? やっぱり天才なの!?」
「篠ノ之さんも天才だったりする!? 今度ISの操縦教えてよっ」
クラスのお姉さんは篠ノ之さんの周りに集まって色々なことを聞き始めた。
篠ノ之さんは最初は無表情のような感じだったが、次第に怒っているような……
「あの人は関係ないっ!」
大声でクラス中に怒鳴るように叫んだ篠ノ之さん。
突然の大声でボクはちょっと驚いて小さく声をあげた。
周りにいた人たちも目をぱちくりとしていて、困惑したような表情をしていた。
「…大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何も無い」
篠ノ之さんは謝ったあとで、顔を窓の方へと向ける。
周りにいたお姉さんたちも散り散りになって自身の席へと座った。
「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令を」
「は、はいっ!」
山田先生も篠ノ之さんのことが気になるようだったけれども、
あんな態度でも一応先生なのだから、授業を始めていた。
ボクも授業をするような態度に切り替えて授業を受けた。
◇
授業が終わってお昼休み、これからお昼ご飯を食べようとした時間にセシリアさんが来た。
「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」
相変わらず、セシリアさんは偉そうなポーズをとって話しかけてくる。
イギリスの紳士(後で聞いたけど淑女っていうらしい)は全員こんな感じなんだろうか?
「まぁ? 一応勝負は見えてますけど? 流石にフェアではありませんものね」
「…なんで?」
「あら、ご存知ないのね。いいですわ、庶民のあなた方に教えて差し上げましょう。
このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……
つまり、現時点で専用機を持っているのですわ!」
ビシッ!という効果音が流れるようなかんじでボクたちに人差し指を向けた。
「へー」
「…馬鹿にしていますの?」
「ご、ごめんなさい……」
セシリアさんが怒ったような声をしているから、つい謝ってしまった。
「いや、すげーなと思ってだけだけど。どうすげーのかはわからないが」
「それを一般的に馬鹿にしてると言うのでしょう!?」
セシリアさんはバンッ! と机を思いっきり叩いた。
「あ、あわわわ……け、喧嘩しないでください……」
ボクはこのままだと一夏お兄ちゃんとセシリアさんが喧嘩をしてしまいそうで怖かった。
だから、やめてほしいと思って言ってみた。
セシリアさんははっとして冷静になったような感じになった。
「…こほん。わたくしは喧嘩してるのではなくってよ。
話を戻しますけど、さっきも授業で仰っておったでしょう。
世界でISは467機しかありませんわ、つまり、
その中でも専用機を持つものは全人類六十億超の中でも、
エリート中のエリートなのですわっ!」
「そ、そうなのか……」
「そうですわ」
「人類って今六十億越えてたのか……」
「そこは重要ではないでしょう!?」
バンッとまた机を叩くセシリアさん。
一夏お兄ちゃんって、もしかしてワザとやってるんじゃないかな?
「あなた! 本当に馬鹿にしてますの!?」
「イヤソンナコトハナイ」
「だったらなぜ棒読みなのかしら…?」
一夏お兄ちゃんは本当になんでだろうというような風であった。
素でこれなんだったら、一夏お兄ちゃん凄いです。
「なんでだろうな、箒」
ここでなぜか篠ノ之さんに話題を振った。
篠ノ之さんはギラッというような効果音を出して睨んできた。怖い。
「そういえばあなた、篠ノ之博士の妹なんですってね」
セシリアさんは篠ノ之さんに矛先を向けた。
篠ノ之さんもセシリアさんに向けて思いっきり睨んだ。
「妹というだけだ」
「う……」
セシリアさんは篠ノ之さんの眼力に怯み気味だった。
ボクはあの目で睨まれたら多分泣いちゃうかもしれない。凄く怖いし。
「ま、まぁ。どちらにしてもこのクラスで代表にふさわしいのは
わたくし、セシリア・オルコットであるということをお忘れなく」
…なら、セシリアさんがクラス代表になったらいいんじゃないかな?
一夏お兄ちゃんは推薦されてクラス代表になりそうなんだし、
ボクはクラス代表をやっても……はっきり言うと自信が無い。
セシリアさんは腰に手を当てながら去っていった。
なんていうか、ポーズをとりながら歩くなんてモデルさんみたいだった。
一夏お兄ちゃんは篠ノ之さんと一緒に食堂へ行こうとしていた。
その前にクラスメイトが一夏お兄ちゃんを誘おうとしていたけれども、
篠ノ之さんが一夏お兄ちゃんを投げた。それはもう見事に投げた。
さっきまで一緒に行こうとしていたクラスの人たちはそそくさと退散し、
恥ずかしながら、ボクもそそくさと退散して明お姉ちゃんと美香お姉さんと一緒に行った。
◇
IS学園には戦闘を行うための大きなアリーナがある。
学校の案内する本を見ると、全部で七つくらいあるらしい。
最も、アリーナの部分とかは今も作られているらしいので、増えてくみたいだけど。
ボクは今、第二アリーナを借りていて明お姉ちゃんと美香お姉さんに教えてもらうことにした。
一夏お兄ちゃんと一緒に練習できないのが残念かなぁ……
「じゃあ、量産型のISも借りたし、訓練しよっかー!」
目の前にあるのは日本の量産型IS『打鉄』だった。
江戸時代とかの昔に日本の使っていた鎧、甲冑を模したようなその姿。
灰色をした現在の甲冑は目の前でボクが乗るのを待つように座っていた。
「…でも、借りたのは一機しかないよ?」
「あー、大丈夫、大丈夫!」
そう言って明お姉ちゃんは耳に付けていた藍色のイヤリングを、
美香お姉さんは左手の小指につけた指輪をボクに見せてきた。
「…それは?」
ボクは二人に聞いてみた。
そうしたら、二人はお互いの顔を見ながらにししっと笑った。
「じゃあ、翔くんが驚くようなことをしてあげる」
「展…開ッ!」
二人の見せたアクセサリーが一瞬輝き、光が二人の姿を包んだ。
1秒もかからないうちに、二人はISを身にまとっていた。
「…それって、もしかして専用機…!?」
「そう! 私たちは何を隠そう、代表候補生だったのだぁぁ!」
「な、なんだってー」
明お姉ちゃんが嘘をついているのはボクでもわかった。
棒読みみたく言っちゃったけど、特に問題はないと思う。
「違うわよ。私の叔父さんがIS研究の会社をしているのは知ってるでしょ?
私はISにちょっと詳しいからIS関連の仕事を手伝っているんだけれども、
IS学園に入学するならついでにデータ採集しようって事で専用機を渡されたの」
そうなんだ。今始めて知った。
だから明お姉ちゃんはあの時、ISの研究所にいたんだ。
そこにボク達がついていって、そこでボクはISを起動させた。
「とりあえずさ、翔くん。まず打鉄を装着してみようよ」
「そうね。時間も限られてるし、早くやりましょう」
ボクは打鉄に入るように装着した。
当然だが、ボクは普通のお姉さんたちより体が小さい。
けれども打鉄はボクの体にピッタリとくっつく様に調節された。
「おぉ~…すごいなぁー」
ボクはISにピッタリと装着された感想を正直に言った。
「ま、翔くんにも専用機が用意されるっていうしね。
次期に私たちの仲間入りってワケだね!」
「さ、翔くん。これからISの操縦方法を教えるよ」
「はいっ!」
ボクは打鉄を使って明お姉ちゃんと美香お姉さんと一緒にISの操縦訓練をした。
それ以外にも射撃の方法とか、接近戦の方法なども教えてもらった。
これでセシリアさんとある程度は戦えるようになれればいいんだけど…