あれから一週間、ボクは明お姉ちゃんと美香お姉さんの二人から
ISの勉強と操縦訓練を手伝ってもらい、ついに決闘の日を迎えた。
「ねぇ、明お姉ちゃん…ボク、セシリアさんと戦えるかなぁ…?」
「決して諦めるな、自分の感覚を信じろ。翔くん。
……ま、宙に浮いたりとか移動するのはできるでしょう?
とにかく、とことんやってみるしかあるまい!」
「う、うん…とにかく、やってみるよ」
「そういえば、明お姉ちゃんはボクと一夏お兄ちゃんと一緒に戦おうって言ったの?」
「あー、アレね。私たちは織斑くんと翔くんに専用機を与えられるってことは知ってたし、
まぁ一石二鳥ってヤツだ。まぁぶっちゃけると織斑くん一人で勝てるとは思えないからね」
「お、織斑くん天野くん織斑くん天野くん織斑くん天野くん!」
ぱたぱたと山田先生がこっちに走ってきて…
…転んだ、なんだかおっちょこちょいで、美奈ちゃんを見ているみたいだった。
「山田先生、大丈夫ですか?」
一夏お兄ちゃんは山田先生に手を差し伸べる。
それを見た篠ノ之さんはなぜかムッとしていたりする。
山田先生は転んだにも関わらず、慌てていた。
「山田先生、とりあえず落ち着いてください。はい、深呼吸」
「は、はいっ。す~~は~~っ、す~~は~~っ」
「はい、そこで止めて」
「うっ」
一夏お兄ちゃんは山田先生に息を止めるように言った。
すると山田先生は息を本当に止めた。
酸欠で顔を真っ赤にしてぷるぷるしている。
「……ぷはぁっ! ま、まだですかぁ?」
「目上の人間には敬意を払え、馬鹿者」
織斑先生はガツンッと一夏お兄ちゃんの頭を殴った。
もはやこの光景はIS学園の日常と化していた。
「千冬姉……」
バアンッ! と再び一夏お兄ちゃんの頭を叩く織斑先生。
一夏お兄ちゃんは何回叩かれれば許されるのだろうか?
「そ、それでですね! 来ました! 二人の専用機が!」
……おぉ、ついにきたんだ。ボクと一夏お兄ちゃんの専用ISが。
自分だけの翼。明お姉ちゃんとお母さんはそうやって説明していた。
ずっと昔から空を自由に飛びたいと思っていた、翼を持ちたいと考えていた。
そして自由な空へと羽ばたきたいと、いつか思っていた。
今、ボクは自分だけの翼を得ようとしているんだ。
「織斑、天野、すぐに準備をしろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。
アリーナを使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番でものにしろ」
「……え?」
「この程度の障害、男子たるもの乗り越えてみろ、一夏」
「翔くん。キミも幼いながらにして一匹の狼だ!乗りこなせ、困難をモノにしろ!」
「とりあえず、早くアリーナへ行ったらいいんじゃないかしら?
セシリアさんも結構待たせているようですからねっ」
「え? え? なん……」
「あ、あのぅ…いきなりは、ちょっと……」
「「「「「「早く!」」」」」
この場にいるお姉さんたちの声が同時に重なった。
ゴゴゴ…と地面から鈍い音がして、ピットの搬入口が開いた。
そこからゆっくりと出てくる二つの『白』があった。
白、それ以外にはなにも無い真っ白な白がそこに二つ、存在感を放っていた。
「これが……!」
「ボクたちの、専用機……!」
一夏兄ちゃんは自分の専用ISに驚くような声をだした。
「はい!織斑くんの専用IS『白式』です!
天野くんの専用ISの名前は『
ボクの専用機、天翔……!
一夏お兄ちゃんの白式と同じ真っ白のISで、ボクの専用機。
機体名がボクの名前と似ているのがちょっと恥ずかしい。
ボクはいつもISに乗るように背を任せるように座り…装着した。
一夏兄ちゃんは織斑先生から乗り方を教わってISを装着した。
「翔くん。大丈夫? 気分とか悪くなったりしない?」
「うん、大丈夫。いつでも行けるよ」
ボクは一夏お兄ちゃんと一緒にアリーナへと飛び出そうとしていた。
しかし、篠ノ之さんは不安そうな顔をしていて何かを言いたそうにしていた。
「箒」
「な、なんだ?」
「行ってくる」
「あ……あぁ。勝ってこい」
一夏お兄ちゃんは篠ノ之さんとカッコいいやりとりをしていた。
ISを使って後ろを見ると明お姉ちゃんが何かに期待してそうな顔をしていた。
「翔くん…鳥になってこい!」
「…うん!」
ボクは親指をグッと立てて、アリーナの中へと飛び出して行った。
◇
「あら、逃げずにきましたのね」
セシリアさんは相変わらず偉そうな態度で話しかけてくる。
どうも腰に手を当てるのがセシリアさんの固定されたポーズらしい。
ボクのISはセシリアさんの専用機であるIS、
『ブルー・ティアーズ』の詳細なスペックデータが表示された。
……正直、何がなんだか分からないんだけど……
とりあえず、背中にある翼のようなものは特殊な武器だってことは分かった。
「最後のチャンスをあげますわ」
「チャンスって?」
「チャンス……ですか?」
「そう。わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。
ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、
今ここで謝るというのなら、許してあげないこともなくってよ」
「え……ゴメンなさ―――」
「そういうのはチャンスとは言わないな」
ボクは謝ろうとしてたけど、一夏お兄ちゃんの声でかき消された。
「そう? 残念ですわ。それなら――」
――警告! 敵IS射撃体制に移行。トリガー確認、初弾エネルギー装填。
「お別れですわね!」
キーン、という高い音がセシリアさんの持つライフルから出される。
それと同時に最初は一夏お兄ちゃんに、そして次にボクに撃ってきた。
「うわっ!?」
最初に一夏お兄ちゃんを狙ったのがボクに対しては幸運だった。
だから、ボクはかろうじてセシリアさんの攻撃を回避することができた。
明お姉ちゃんと訓練したときに、散々銃で狙われていた。
だから、射撃に対してはある程度対策をとることができた。
最も、接近戦にはほとんど何もできなかったけれども……
「さぁ、踊りなさい! わたくし、
セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」
セシリアさんはエネルギーを発射するライフルを使って、
ボクと一夏お兄ちゃんを狙ってくる。狙い方が凄く上手いのがわかる。
「そ、そうだ! 武器、武器出さないと…!」
ボクは天翔から武器を取り出そうとする。……でも。
「…ない」
武器が、無い。
量産型の打鉄やラファール・リヴァイブに乗ったとき、武器の出し方は覚えてる。
でも、この天翔には武装の類のものが一切無かった。
「い、一夏お兄ちゃん。ボク、武器が無いんだけど……」
「そ、そうなのか!? 俺もブレード一本しか無いんだが……」
「…えぇー?」
「中距離射撃型のわたしに、近距離格闘装備で挑むだなんて……笑止ですわ!」
普通に考えると、ボクたちには勝てる見込みは無い。
けれども、一夏お兄ちゃんはニヤッと笑いながらこう言った。
「やってやるさ!」
◇
「―――二十七分。二人同時とはいえ、持ったほうですわね。褒めて差し上げますわ」
「そりゃどうも……」
セシリアさんはボクたちに対して挑発してるとしかいえないセリフを言う。
シールドエネルギーもほとんど無いし、外見もほとんどボロボロになっていた。
「このブルー・ティアーズを前にして、
複数かつ初見でこうまで耐えたのはあなた方が初めてですわね」
セシリアさんは周りに浮いていた四つの自立起動兵器を撫でる。
その自立起動兵器はフィン状の部分に直接特殊なレーザーを発射する銃口が開いていた。
自立起動兵器の名前もブルー・ティアーズと言うのですごく紛らわしい。
「では、閉幕と参りましょう」
セシリアさんは笑いながら、右腕を横にかざした。
すると自立起動兵器のブイルー・ティアーズ……以降ビットが四機、
ボクと一夏お兄ちゃんに向けて二機づつ襲い掛かってくる。
「ひぃっ……!」
ボクはそのビットから放たれるレーザーを辛うじて避ける。
けど、今のボクにはセシリアさんの攻撃を回避することしかできない。
「左足、いただきますわ」
セシリアさんは一夏お兄ちゃんに向けて銃口を向ける。
今の一夏お兄ちゃんなら一撃くらい耐えるくらいのエネルギーは残ってるけど、
ここで攻撃を受けてしまえば、ビットとの連携攻撃であっという間に負けちゃうだろう。
「ぜああああっ!」
一夏お兄ちゃんは一気に加速し、セシリアさんと思いっきりぶつかった。
その衝撃でセシリアさんのスナイパーライフルの照準は逸れて、攻撃を免れた。
「なっ…!? 無茶苦茶をしますわね。けれど、無駄な足掻きですわっ!」
セシリアさんは一夏お兄ちゃんと距離をとり、空いていた左手を横に振った。
すると、さっきまで動いてなかったビットがボクと一夏お兄ちゃんに襲い掛かってきた。
ボクは二機のビットの攻撃を辛うじて避ける。
そうすると、一夏お兄ちゃんが周囲を回っていたビット一機を切り裂いた。
バコンッ! と機械の爆発する音が聞こえ、ビットは空中で爆発した。
「なんですって!?」
セシリアさんはビットが攻撃されたことに驚く。
その隙を狙って一夏お兄ちゃんはセシリアさんに向けて斬りかかったが、
後方に回避したが、追撃するように右手に持っていた剣を振りかざした。
その攻撃もセシリアさんは回避したが、ボクからビットが遠ざかり、
一夏お兄ちゃんに向かって一機のビットが向かっていった。
今、ボクの相手をするのは事実上ビット一機のみ。
「この兵器は毎回お前が命令を送らないと動かない! しかも―――」
一夏お兄ちゃんはまるでそこにビットが移動するのを知ってたかのように、
付近を飛んでいたビットを右手に持っている剣で切り裂いた。
「その時、お前はそれ以外の攻撃をできない。
制御に意識を集中させているからだ。そうだろ?」
「………ッ!!」
セシリアさんは右目尻がピクピクッと動く。
一夏お兄ちゃんの言ったことを肯定しているようだった。
…それにしても、一夏お兄ちゃんは戦いながら相手のクセを理解したんだ。
ボクも何度か攻撃を回避してたけど、そんなことには一切気づかなかった。
そんなところに気がつく一夏お兄ちゃんは凄い…
(もしかしたら…勝てるかもしれない!)
初めてISを使った戦闘で勝てるかもしれない。
そんな期待が、ボクの中で膨らんでいった。
「行くぞ、翔っ!」
「う、うん!」
ボクは一夏お兄ちゃんと一緒にセシリアさんに向けて突撃した。
少なくとも、殴っても蹴ってもIS同士なら少しくらいダメージが入るはずだ。
「―――かかりましたわね」
にやり、とセシリアさんの口元が上がるのが見えた。
……その表情と言葉に凄い不安を覚え、後退しようと思ったが、
セシリアさんの腰部から広がっているスカート状のアーマーの突起が外れ、動いた。
「おあいにく様、ブルー・ティアーズは六機あってよ!」
セシリアさんのブルー・ティアーズに直接装備されたビットの銃口は
こちらに狙いを定めている。それの攻撃はレーザーではなく、火力の高いミサイルだった。
そして、ボクと一夏お兄ちゃんの前で大きな爆発を起こした。
視界は爆発の衝撃を視覚化した色を超えて白く光り、その光にボクは包まれた。
◇
システム、オールグリーン・・・・・・
所有者:天野 翔
付近にISの存在を確認、解析を開始します。
敵IS解析中・・・・・・完了、機体名『ブルー・ティアーズ』
味方IS解析中・・・・・・完了、機体名『白式』
現時点の天翔の特殊武装・・・・・・無し。特殊武装の生成を要求。
ブルー・ティアーズよりスターライトMkⅢをコピー・・・・・完了。データを保存します。
ブルー・ティアーズよりブルー・ティアーズをコピー・・・・・完了。データを保存します。
白式より雪片弐型をコピー・・・・・・・・・エラー、
雪片弐型のデータを収集中・・・・・・完了、複製を開始します。
雪片弐型を複製中・・・・・・・・完了。
天翔専用特殊装備『
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